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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第四章 超大国
613/930

0571 悪魔たちは突然に

「なぜ、いつもいつも突然に……」

涼が愚痴(ぐち)る。


反転した理由は分かっている。

『封廊』に取り込まれたからだ。


封廊に取り込まれたということは、悪魔が関わっている。


「うん、目論見(もくろみ)通り取り込んだ、さすがオレ」

そう言うと、オレと言った人物……いや悪魔が姿を現した。


その女性は、薄い水色の髪を肩までで切りそろえ、眼鏡のようなものをかけ、遠目には白衣に見える白い服を着ている。

そして、オレという一人称を使う悪魔。


「確か、パストラさんでしたよね」

「覚えていてくれたか! やはり興味深い。解剖(かいぼう)しよう!」

「それはやめてください」


涼を解剖したがっている悪魔、パストラ。

死竜退治の時に戦った記憶がある。

魔法制御を奪われたのは、悲しい思い出だ。



だが涼は気付いていた。

この封廊には、涼とパストラ以外に、もう一人いることに。


その人物が姿を現す。


銀色の髪を二つに束ね、目の色も同じ銀色の女性。

身長は高くない。

『赤き剣』の魔法使いリンよりは高いが……160センチはないだろう。


「これが、そのリョウなのか」

銀色女性は、涼を頭の先から足の先までジロジロと見ている。

値踏みでもしているかのように。



「言っただろう? リョウなら封廊に取り込みやすいと」

「確かに」

パストラが胸を反らして言い、銀色女性が頷く。


「すいません、こちらにも事情というものがありまして。すぐに戻してほしいのですが」

「ああ、大丈夫大丈夫。封廊が解けたら、さっきと同じ時間に戻るから。正確には〇・一秒後くらいだけど、それくらい短い時間なら、人間は気にしないでしょ」

「そういう問題ではないんですが……」


涼の提案は退けられた。


地面は、みんなで歩いていた地面だ。

涼はアンダルシアの背に揺られていたはずなのだが、今は地面に立っている。

もちろん、アンダルシアはいない。

目の前にいたはずのルヤオ隊長やアベルもいない。



「実は封廊の、戦闘耐久値を計測していてね。リョウに協力してほしいのだよ」

「なぜ僕が……」

「だって、リョウなら協力してくれるさって、ジャン・ジャックが……」

「ジャン・ジャック! 今度会ったらギッタンギッタンにしてやるです」


西方諸国で涼と戦った悪魔が、ジャン・ジャックだ。


そういえば、この前、同じ悪魔レオノールと船に乗り込んできた覚えがある。


「まったく……相手の都合を考えずに行動するのは、人としてどうかと思うんですよね」

「我々は悪魔だからな」

「ああ、それなら仕方ありませんね」



はたしてそうだろうか?



「で、いちおうそちらの銀髪の女性の方のお名前は……」

「私の名はアルジェンタ・アルダ・モランティーノス。よろしくな、リョウ」

「はい、よろしくお願いします」


涼はそこで、一度言葉を切る。


そして、パストラの方を見た。

「封廊の戦闘耐久値を測りたいということでしたけど、悪魔同士で戦えばいいんじゃないですか? 例えば、そちらのアルジェンタさんとレオノールとかで」

「悪魔同士のは計測済み。悪魔とエルフでも計測済み。悪魔とドラゴンは、さすがにちょっと……パス。ということで、ほら、残りは悪魔と人間だ」

パストラが、どうだと言わんばかりに、眼鏡をクイッと上げて答える。


「いや、人間以外にも、戦う種はいっぱいいるでしょう? デビルとかヴァンパイアとか」

「デビルはたいした数値にはならない。やらなくとも一緒さ。ヴァンパイアは、多分この封廊に入れない」

「入れない? 種によってそんなのがあるんですか」

「そう、あるのだよ。本来は、人間も数十秒いれば消滅するんだ」

「……はい?」


今、何か不穏(ふおん)な言葉が聞こえた。


「すいません、人間も、なんですって?」

「人間も、数十秒いれば消滅する」

「それなら僕は……」

「リョウは消滅していないだろう? だからリョウを選んだんだ」

「なぜ僕は大丈夫なのでしょう……」

「さあ? 多分、その溢れ出る(しずく)のせいじゃないか?」


魔法や魔力の研究者にしては、驚くほど適当で投げやりなパストラの答え。


「妖精の雫とか、妖精の因子とか言うあれですか。本当に、謎単語です。誰かしっかり研究をして欲しいのですが」

「オレが請け負おう! だからリョウの体を解剖して……」

「却下です!」


悪魔は変わっている。

涼のその確信は揺るがない。



「そう、レオノールはいいんですか? もし、そちらのアルジェンタさんが僕を殺してしまったら、レオノールは怒りませんか?」

涼のその言葉はいわば苦し紛れ。

戦闘回避したいという心の表れ。


だが、想像以上の効果をあげた。


アルジェンタが大きく目を見開き、パストラを見て言う。


「レオノールが怒るのは困る」

「うん、オレも困る」

「どうすれば怒らないかな?」

「言わなければばれないだろ。ばれなければ怒らないだろ」

「なら大丈夫だね」

「いや、何でですか!」


パストラとアルジェンタの会話に、思わずつっこむ涼。

そして、大きくため息をつく。


「なぜか悪魔さんたちとの会話だと、僕がつっこみ役になってしまいます。僕はボケ役なのに……なんという理不尽」

世の不条理を嘆く涼。



「本当に、リョウを殺さなければ怒らないかな?」

「そうかも」

「手を抜いていい?」

「それはダメ。正確なデータが取れないから」

アルジェンタとパストラが会話をしている。


涼を殺すとか物騒な単語が聞こえた気もするが、気のせいに違いない。


「全力でやったら……人間でしょ? 心臓貫いちゃうかも……」

「ああ、それは大丈夫。リョウって、心臓を貫かれても死ななかったらしいから」

「うそ! 凄いね。そんな人間初めて聞いたよ」


やはり物騒な単語が聞こえるが……。


ちょっと聞いておきたい。


「心臓を貫かれるって?」

「ほら、この前、スペルノ……人間だと魔人って言うんだっけ。魔人と戦った時に、心臓貫かれたけど普通に戦い続けたんでしょ」

「なぜ知っているのですか」

「レオノールとジャン・ジャックがそれを見てて、後で教えてくれた」


パストラが何度も頷きながら答える。


「二人が見てた?」

「そうそう。レオノールとか、その後、怒り狂ったらしいよ。リョウと戦いたい! リョウを殺すのは我じゃ! とか言って」


涼の戦いは見られているらしい。



「リョウ、愛されているんだね」

アルジェンタが何か間違っている。


(ゆが)んだ愛情だな」

パストラも何か間違っている。



「心臓を貫いても死ななくても……さすがに、首を斬り飛ばせば死ぬよな? 人間だし」

「されたことないので分かりません。されたくもありませんが」

アルジェンタの問いに、顔をしかめて答える涼。


「もし首を斬り飛ばして死なせてしまったら……」

「大丈夫大丈夫、オレが首と胴を繋いでおくから。レオノールにはばれないよ」

「そうか。それなら安心だな」

「そんなわけないでしょ!」

再びつっこむ涼。


ボケの座を奪還するのは難しそうだ。


「とにかく、全力で頼む」

「心得た」

突然、真面目な会話になるパストラとアルジェンタ。


やはり戦闘回避は無理らしい。


「では、リョウ、参る」

「仕方ありません」


こうして、封廊における、アルジェンタ対涼の戦闘が始まった。



ガキンッ。



大きく響く剣と剣の音。


風のような飛び込みから、一気の打ち下ろしを仕掛けるアルジェンタ。

それを、村雨で受ける涼。


アルジェンタの剣は、緑色の淡い光を放っている。


これまで対峙(たいじ)してきた悪魔たち、レオノール、ジャン・ジャックそしてパストラ、いずれも光る剣など使っていなかった。


涼が知る光る剣と言えば、アベルが使う魔剣、ヒュー・マクグラスらが使う聖剣……聖剣は基本的に光っていないが。

だがそれらの中に、緑色の光を放つ剣などない。


緑色と言えばセーラが思い浮かぶが、彼女の剣も光っていない。

一目で、業物(わざもの)と分かる逸品だが、あれは魔剣の類ではないようだ。



そうなると、目の前のアルジェンタの緑に光る剣が気になる。



だが、気になったのはほんのわずか。


気になる余裕すら与えられない連撃が始まった。


(何ですか、この連撃は)

アルジェンタの超高速の連撃をしのぐ涼。

だが、内心穏やかではない。


彼女の連撃が、速いだけではないからだ。


(一撃一撃が重いうえに速い。しかもレオノールのような力任せというか、能力だけで圧倒してくるのではなく、剣の動きが丁寧。それは、体が覚えるほどに剣を振り、洗練された結果。洗練の極致。この相手は厄介すぎる)



だが、その感想は、涼だけではなかった。



「私の連撃をしのぐなんて、リョウは人間じゃないんだよ」

「いいえ、人間です」

アルジェンタの言葉に、明確に反論する涼。


「褒めたんだよ? 私の連撃をしのぐなんて、悪魔の中でも数人。直感だけでなんとかしてしまうレオノールは別として、他は、まさに剣を極めた連中ばかり。それに匹敵するね」

「やっぱり、レオノールは直感だけなんだ……」


アルジェンタの言葉を、素直に受け入れてしまえるこの不可思議さ。


「あれは化物だからね。うん、正真正銘(しょうしんしょうめい)の化物」

「悪魔に化物呼ばわりされる悪魔……なんか、ものすごい世界観です」


そんな軽口をたたいているが、涼の心の中は焦りまくっている。


(セーラ並の強さ……いやもしかしたら、セーラより強い?)



「うん、いいねいいね。良いデータが集まってきてるよ」


手に持つ錬金道具を見ながら、嬉しそうな声を出すパストラ。

それ以外に興味はないかのようだったが……。


ふと顔をあげた。


そして、二人の剣戟を見る。


「おぉ……」

その視線は、剣戟にくぎ付けとなる。

それほどに激しく、美しい……。



戦っている二人には、美しいなどと言う感覚は全くない。

特に涼には、全くない。

心の中は焦ったままだ。


魔法戦を省いて、いきなり剣戟から始まったことからも、アルジェンタが剣戟主体の悪魔である事は分かる。

その証拠に、圧倒的に強い。


力、速さ、技、そしておそらく持久力でも、涼を上回っている。

しかも、早く決着をつけようなどともせず、かなり冷静なようだ。


そんな相手にどうやって勝つ?


分からない。

分からないが……守って守って(ほころ)びを待つしかない。


元々、涼は守りに絶対の自信がある。


だが、その絶対の自信をも突き崩すアルジェンタ。


それは、彼女の片手突きだ。

フェンシングのように、右手一本で剣を持ち、右半身を前に半身の姿勢になって襲ってくる、連続突き。

しかも、滑らかな曲線軌道を描く。


これが、驚くほどよけにくい。



本来、この手の連続攻撃は軽い。


片手で、一撃一撃の重さもその片手の力のみであるからだ。

いわゆる、腰が入っていない……つまり重心の移動がないのだ。

そのため、例えば肩に突き刺さったとしても、肩の筋肉を貫く事はできない。



だが、目の前の女性は悪魔。

そして、涼は人間。


『力』そのものの基準が全く違う。


おそらく、この高速の片手突き、一撃でも涼の肩を簡単に貫く。


なんという理不尽(りふじん)

だが、本来、戦いとは理不尽なものだ。

「すべての条件を合わせて戦いましょう」などというのはスポーツの中だけ。



その圧倒的な突きの前に、涼の自信はなくなる。

それは守りの揺らぎとなる。


「しまっ……」


もう遅い。


手首をしなやかに動かし、剣の軌跡を変えた突きの一撃が、涼の左脇腹に突き刺さった。



妖精王のローブを貫いて。


「どうして……」

思わず呟く涼。


「妖精王のローブが、属性を帯びた攻撃を弾くことは知っている。だから、当たる瞬間に、属性を消した」

事も無げに言うアルジェンタ。



剣を引き抜き、少し距離をとる。



「僕が馬鹿でした」

小さな呟き。


()ず勝つべからざる()して、(もっ)て敵の勝つべきを待つ」

涼が呟くのは『孫子』の一節。


「いつか崩されるかもしれないと心が揺らぎ、相手の隙を突こうとしてしまいました。こちらが完璧に防御すれば、隙など窺わずとも、相手はいずれ崩れていくのに」


涼は小さくため息をついた。


「手傷を負って気付くとは。でもやるべき事ははっきりしました」

「えっと……リョウ、<ヒール>かポーションをかけようか?」

「必要ありません」

アルジェンタの提案を拒否する涼。


氷の膜を張って、強制的に出血を止める。

もちろん、出血を止めただけなので、傷は治っていないが、とりあえずはそれでいい。


「おかげで頭の中がすっきりしましたから」



涼が口を開いたのはここまでだった。



ほんの少しだけ右足を前に。

(かかと)を浮かす。

剣は正眼に。

視線はアルジェンタを見る。


ただ、それだけで落ち着く呼吸。

同時に、感じなくなる痛み。



剣を防ぐ。


やるべき事はただそれだけ。



涼の変化は、対峙するアルジェンタも感じ取った。

目の前の相手から、わずかに感じられた迷いが完全になくなった。


「面白い」

小さくそう呟くと飛び込んだ。


半身からの連続右手突き。



だが、その全てが届かない。


避けられる。

防がれる。

弾かれる。


最小限の剣の動き、完璧な足のさばき、不動の胆力。


攻撃をしていても、破れる気がしない。



「一瞬でこれほどに変わるか」

アルジェンタは感嘆の言葉を漏らす。


腹に剣を突き刺した後からだ。

開き直り、雰囲気が変わった。

その後、こうなった。



攻防は一方的だ。

アルジェンタが攻め、涼が守る。

百パーセントその構図。


だが、アルジェンタは分かっている。

一瞬でもぬるい攻撃をすれば、たちまち反撃され、一気に勝負が決してしまうと。

目の前の相手が(まと)う雰囲気は、そういうものだ。



アルジェンタは、一度大きく後方に跳ぶ。


「まさかこれほどとは」

そして感嘆を含んだ声で呟いた。


さらに、確認する。


「パストラ。この封廊はどれくらいもつ?」

「え? 最大補強してあるから……二時間くらい?」

「よし!」

「え? まさか、そんなにかかるの?」

「二時間で決着が付けば運がいいかもね」

「なにそれ……」


アルジェンタの言葉に、小さく首を振るパストラ。



そんな会話の間も、涼は揺るがない。

正眼の構えのまま。

だが目はむしろ半眼に近い。


完全に冷静。

落ち着いている。



「レオノールやジャン・ジャックが執心するのがよく分かる」

「うん、傍から見てても分かるわ」

「もしかしたら、この人間が、私たちがずっと待ちわびていた存在なのかもね」

「え? アルジェンタ?」

「全力で、揺るがせてみせる!」


パストラが問うが、アルジェンタは無視する。

そして、再び飛び込んだ。



再度始まる剣戟。



アルジェンタの攻め。

涼の守り。


アルジェンタは焦らない。

二時間かけて倒せばいいと割り切ったからだ。


そもそも戦っている相手は人間だ。

先ほど、腹に剣を突き刺した。

血は止めたようだが、それまでにかなり流れている。

持久戦は難しいだろう。


となれば、いずれ揺らぐ。崩れる。


だから焦らない。




パストラが、耐久値を測る錬金道具を確認する。

戦闘が始まって、二時間が経過しようとしていた。


「本当に、こんなに長引くなんて」

驚いてはいるが、同時に笑顔でもある。

それは二つの理由から。


一つは、滅多にないデータが取れているから。

もう一つは、目の前の戦いが、見ているだけでも純粋に楽しいから。


構図はずっと同じだ。


アルジェンタの攻撃。

涼の防御。


だが、双方、その動きの全てに工夫がみられる。

受けられたら、次はそれを超える攻撃に昇華(しょうか)して繰り出す。

強力な攻撃になれば、さらにそれを上回る防御でしのいで揺るがない。



封廊が二時間もつと聞いて喜んだアルジェンタであったが、まさか本当に二時間かかっても決着がつかないとは思っていなかった。

「これだけの高密度な連続戦闘を二時間とは」

その呟きは、目の前で自分の連撃を受け続けている男にも聞こえているはずだ。


だが、答えない。

ずっと半眼のまま受け続けている。



本当に揺るがない。



しかもこの十分ほどは、霧すら纏い始めた。

しかし、アルジェンタは理解している。

実は纏っているのではない。


『水で押している』のだと。


何を押しているのか?


「剣と腕を水で押して、力と速さを増している」

アルジェンタがそう指摘した瞬間、涼の口角が少し上がった。


それを揺らいだと捉えることは、アルジェンタにはできない。

そうではなく、涼の凄絶(せいぜつ)さが増したと感じたからだ。



自分の全ての剣をかわされ、剣術を吸収されたように感じる。


もちろん、剣術とはそんな簡単なものではないし、アルジェンタの気のせいだ。



気のせいなのだが……。




涼が意識するのはただ一つ。


防御。


それだけ。



剣を受けるか。

剣を流すか。

剣をかわすか。

それは、考えない。


体に任せる。



頭を振るか。

腕を出すか。

足でさばくか。

それも、考えない。


体に任せる。



細かなことは考えない。


それはある種のゾーンに入った状態。



だから、意識した動きではなかった。


「二時間経過!」

パストラの声が響いた瞬間。


涼は前方に一歩踏み出す。

それは、無拍子の一歩。

それは、アルジェンタが横薙ぎから突きに入った瞬間。


自分の喉元への突きを紙一重でかわし、両手突きを相手の喉へ。


ブスリ。


村雨がアルジェンタの喉を貫く。

さすがに動きの止まるアルジェンタ。


引き面の要領でわずかに後方に跳び、村雨が喉から引き抜かれる。

一拍子で、再び前方に跳び、横薙ぎ。


アルジェンタの首は斬り飛ばされた。



斬り飛ばした残身のまま、動かない涼。



アルジェンタは首を斬り落とされ、体も後方に倒れた。



「すごっ……」

思わずパストラの口から漏れる声。


だが、すぐに我に返る。

手許の錬金道具を見て言った。


「封廊が崩れる。じゃあね、リョウ」



そうして、再び涼の世界は反転した。




魔法砲撃隊のルヤオ隊長もアベルも、何が起きたのか理解できなかった。

目の前で話していた涼が、突然傷だらけになったからだ。


「え?」

「は?」

()頓狂(とんきょう)な声を出すルヤオ隊長とアベル。


その瞬間、村雨の刃が消え、涼の上半身がアンダルシアの上に崩れ落ちる。


「リョウ!」

アベルの声が聞こえる。


「ああ、アベル。良かった、僕は戻ってこれたみたいですね」

「何があった」

「ほら、あの『あ』で始まって『ま』で終わる人たちに、ちょっとお呼ばれしていましてね。二時間ほど戦ってきましたよ」

「『あ』と『ま』は分かるが、後の意味は分からん。とりあえず、ポーションを飲め」


アベルはポケットからポーションを取り出すと、涼に渡した。

涼特製の品で、効果はかなり高い。


涼は、左脇腹に半分振りかけ、残りを飲み干す。


アベルは、涼の脇腹の傷を見て顔をしかめる。

それが剣の傷である事はすぐに分かった。

同時に、涼にこれほどの傷を負わせることができるというのが信じられない。

涼の防御は鉄壁。

その防御を抜いたということだからだ。



「あ、あの、ロンド公爵……」

未だに、事態を全く理解できていないルヤオ隊長が声をかける。


「ああ、すいません、ルヤオ隊長。ちょっといろいろとありまして……。しばらく休めば大丈夫ですので、また後でお願いします」



こうして、涼は封廊から、無事に帰還したのだった。

ちょっとしたじゃれ合いです。

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