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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第四章 超大国
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0545 南河

「いやあ、それにしても危なかったですね」

「確かにな」

「アンダルシアを戦闘に巻き込みたくはありません。平和こそ、人の営みの中で最高のものです」

涼とアベルは、アンダルシアとフェイワンに乗って南河沿いの道を歩いている。


「アベルが身分証明を持ってきていなかったのが全ての始まり……」

「悪かったな! 何度も言っているが……リョウも、包囲されるまで気づかなかっただろう?」

「ぼ、僕のせいにするんですか! アベルだって本を読んでて、全然気づかなかったじゃないですか」


お互いに非難し合う剣士と魔法使い。


二人とも小さくため息をついて言った。

「馬に乗っている時は、本を読むのはやめましょう」

「油断してはいかんな」


二人は固く決意した。



十分後。

「この饅頭(まんじゅう)は美味しいですね!」

「ひき肉なんだが、肉汁も凄いな」


途中で買った肉まんらしきものを頬張る二人。


本を読んではいない!

油断してもいない!


でも、どうせだから、旅は楽しまないと。

そして、旅の楽しみは買い食いなのです!




ノモンの街からフェンムーへの道は、本当に何もなかったが、フェンムーからボルヘンへの道沿いには、店がある。

この道が、南河沿いの道だからというのが大きいだろう。


南河は、大河というだけあって、どこでも川幅は一キロ以上あるようだ。

そのため、大小行き交う船も多く、それを目当てにした店が多く軒を連ねている。


二人が恩恵を受けているのは、それらのお店のおかげ……。



「ノモンからの道では、近付いただけで死罪とか言われたのに……」

「こっちの道だって、店が出てきたのはフェンムーから一時間以上経ってからだ。やはりこの道も、フェンムー付近には、一般人は近付けないんじゃないか?」

「お墓参りもできないなんて、大変ですね」

アベルの推論に、涼が一般人的思考で答える。


「王家の墓もそうだが、埋葬(まいそう)品がいくつもあるからな。盗掘者を近づけるわけにはいかん」

「ああ、なるほど」



古今東西、王や皇帝の墓には高価な埋葬品が入れられる。

それは、死者が死後の世界でも不自由なく生きていけるように……という思いからの場合もあるが、盗掘者たちからすれば、ただもったいないということなのだろう。

「死んだやつらはどうせ使わないんだ。俺たちが有効活用してやるぜ」というやつだ。


盗人猛々(ぬすっとたけだけ)しいとはこのことですね!」

「まあ、そうだな……」

涼が(いきどお)り、アベルが苦笑する。


そう、アベルは国王陛下であり、いずれはそうやって埋葬品と共に墓に埋められる立場だ。


「アベルのお墓は、僕のゴーレムがずっと守り続けますからね!」

「お、おう……頼むわ」

もちろん、墓守をできるようなゴーレムを、涼はまだ製作できていない。


でき上がったら……人類が滅んでも、墓を守り続けるゴーレム……悲しい物語が生まれそうな気がする……。



「もっといい方法を思いつきました!」

「……なんとなく、聞かない方がいい気がするのは、なぜだろう」

「アベルの体を改造して、死なないようにしてしまえばいいんです!」

「うん、やっぱり聞くんじゃなかった……」

もちろん、アベルを不死にするような技術を、涼は持っていない。


「方法は、いろいろあると思うんです。アベルをヴァンパイアにするとか、アベルの魂を抜き出してゴーレムに貼り付けるとか。大丈夫です、技術の進歩は日進月歩(にっしんげっぽ)。アベルが死ぬまでにはいろいろと開発されるに違いありません!」

「うん、ちょっと考えさせてくれ……」


マッドサイエンティスト涼、ここに誕生!



「そういえば、リョウの圧力を初めて感じたが……凄いんだな」

「圧力? ああ! 先王のロベルト・ピルロ陛下にも褒められましたけど、そうなんですかね。ロンドの森で、お隣の竜王さんから教えてもらったんですよ。やはり、『本物』な方からの直接指導ですから抜群ということでしょうか」

涼は嬉しそうに答える。


先王ロベルト・ピルロはハンダルー諸国連合を構成する国の先代王であり、西方諸国に一緒に行った際に圧の出し方を褒められたのだ。


竜王ルウィンは、涼の領地であるロンド公爵領に住んでいるドラゴンの王であり、時々味付けしたお肉やご飯を持っていっていた。

涼からすれば、お歳暮やお供え物の感覚だ。

それでいろいろ教えてもらえるのだから、お得だなと感じている。


「でも、アベルとか日常的に圧を出しているじゃないですか?」

「日常的? そうか?」

「なんというか……閲兵式とかそういうので」

「ああ……まあ、式典だからな。それは国王の仕事の一つだ。だがそれと比べても、リョウの圧力は半端なかったぞ」

「いやあ、それほどでも」


国王たるアベルに圧を褒められて、涼は照れている。

フェンムーでは、国王の名代(みょうだい)として筆頭公爵の立場であったため、本人である国王に圧が認められたのはかなり嬉しいらしい。




その日の夕方、二人はボルヘンの街に到着した。


「リーチュウ隊長が、ボルヘンの街は南河の水運を担っていると言っていましたけど、けっこう大きいですね!」

「ああ。川が広いとこうなるのかもな」


川幅が最低でも一キロもあると、海用の船すら、そのまま上がって来られるのかもしれない。


「ここなら期待できますね!」

「いい船が見つかるだろう」

「違いますよ! そんなことではありません」

「そんなことって……そのためにここに来たんだろう?」

「このボルヘンの街で見つけるのは、美味しい食べ物です!」

「いや……うん……まあ……食べ過ぎないようにな」



二人は、いい感じの宿に入り、晩御飯を食べた。



そして、翌朝。

「だ、大丈夫です、移動できますから……」

「アンダルシアに乗っているからな」

「全然食べ過ぎてなんていませんから……」

「説得力、皆無(かいむ)だな」


涼は、見るからに大変そうだ。

もちろん、満腹のせいである。


晩御飯を食べ過ぎたからではない。

もちろん、晩御飯もかなり食べたのだが、そんなものは一晩寝れば大丈夫。

何も食べていないも同然だ。

今、問題になっているのは、朝食を食べ過ぎたことで……。


「まさか、あんなに美味しい白米があるなんて……」

「ああ、ライスか。ロンドの森でもそうだったが、リョウはライスが好きだよな」


そう、宿の朝食には、美味しい白米があったのだ!

大陸南部で食べた、少しパサついた感じのお米ではなく、『白米』と言われて日本人が思い描くのとまったく同じ、お米!



涼はパンももちろん嫌いではないが、白ご飯が大好きだ。

フェンムーを経由している間は、宿に泊まっていなかったので久しぶりのご飯だったし……。


「油断し過ぎました……」

「朝から食べ過ぎとか……」

「これは、アベルとアンダルシアへの信頼ゆえです。あとは任せました……」

「おい……」



使えない水属性の魔法使いを抱えながらも、アベルは船を手配することに成功した。

それは、貨物船のような形状だが、雨天時のために可動式の屋根はついているようだ。

もちろん、二頭の馬もいっしょに乗れる。


「帝都まで四日、飯付き二人と二頭で金貨四枚だ」

「安いですね。その程度でいいんですか?」

「一週間前までは、帝都行きの客はかなり多かったそうだ。公主の輿入れでお祭り騒ぎになるから、向こうに行って稼ぐ人が多かったそうだ。今からだと、輿入れギリギリのタイミングになるから、客がもういないらしいぞ」

「ああ、行きたい人は、もうみんな行った後ですか。僕らは気にしないので、逆にラッキーでしたね!」



二人は、銀行にそれなりの金額を預けてある。

そこから、手持ちに必要そうなお金を引き出してきているが、一人当たり、金貨二十枚は持ってきている。

それから考えると、全員で金貨四枚は安いと言っていいだろう。


「僕たち以外にも、お客さんはいますね」

「そうだな。あれは……兵士か?」

涼が、先に乗っている十人ほどの男女を見つけ、アベルが同意する。


貨物船であり、甲板はかなり広い。

単層甲板であり、甲板の下は船倉があるだけだ。

船倉には貨物が入っているため、客は甲板で過ごすらしい。


「狭くて暗い所よりも、陽の光の下の方が気持ちがいいです」

「夏や冬だったら大変だったろうがな」



二人は、甲板から川岸の景色を見ながら、船旅に身を委ねるのであった。


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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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