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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第四章 超大国
581/933

0539 馬

「リョウが疲れた姿、初めて見たな」

「べ、別に疲れてなんていませんよ! 慣れていない速さの騎乗で、驚くほど体力を使ったとかそんなことは全くありませんから! 今からでも、連続戦闘二十時間とか、余裕でこなせますから!」

「うん……そこで、なぜ強がる。普通、万全の状態でも戦闘を二十時間連続とか無理だろう」

涼が強がり、アベルは呆れた。



二人は、ボアゴー中央港にいる。

ここで代官が亡くなったために、フー・テン副代官は代官所に入る前に、直接この中央港に来たのだ。


フー・テン副代官は、いろんな人から話を聞いている。



「あ、そうだ、いい事を思いつきました」

涼が突然そう言うと、アベルが胡乱(うろん)げな目で見た。

こういう場合、たいていろくでもない事を言うと知っているからだ。

そう、経験から知っている。


だが……。


「帝都まで陸路を行くんだったら、馬で行きましょう」

「馬?」

「ええ、馬を二頭買って、乗っていくのです。帝都に着いたら売ればいいでしょう。途中、騎乗の練習にもなります」


涼も、たまにはいい提案をするのだ。


「リョウにしては、いい提案だな」

正直すぎるアベルの感想。

「涼にしてはとはなんですか、涼にしてはとは。僕は、いつもいい提案しかしませんよ」

「うん、すぐにばれる嘘をつくなよな」



二人の耳にも、フー・テン副代官らの会話が聞こえてきた。


「まとめると、公主の船団が出航してすぐに、壇上の錬金道具が暴発した。その時刻は、本来なら公主が壇上にいる時間だったが、早朝に日程が早まったために、もういなかった。逆に、壇上から船を見送った代官が巻き込まれたと」

「はい、そうなります」


フー・テンの確認に、守備兵が答えている。

どうやら、捜査の責任者らしい。



「錬金道具って、暴発したら人が死ぬくらいやばいものなのか?」

アベルが、とても小さな声で涼に問う。


「僕がケネスから習った時に言われたのですけど、錬金道具に魔法陣や魔法式を記す場合は、必ず暴発防止の回路を組み込むように言われました。ちなみに、お店で売ってるレベルの魔法陣には、必ず組み込まれているらしいです」

「つまり、普通は暴発はしないようになっていると」

「そうですね。よほどの欠陥道具じゃない限りは。でも、こんな大舞台で使うやつなら、ちゃんとした道具でしょうから……」

「破壊工作か」

涼の説明から、アベルは結論付けた。



「公主を狙った破壊工作の可能性が高いか」

フー・テンが呟く。

守備兵と話したフー・テンも、同じ結論に至ったようだ。


「捜査を続けてくれ」

そう言うと、フー・テンは二人の元にやってきた。


「待たせたな。代官所に行こう」




ボアゴー代官所は、混乱していた。


だがフー・テン副代官が姿を見せると、それは急速に収束していく。


フー・テンの口から、矢継ぎ早に出される指示。

それは、傍目から見ても非常に的確に映った。


「何か、副代官さん凄いですね」

「そうだな。混乱した場を掌握して、すぐに収束させたな。出される指示も的確だ……なぜ、副代官なんだ?」

「ああ、やっぱりアベルもそう思いました?」

アベルの疑問に、涼も同調する。


フー・テンの動き、雰囲気は、組織を率いることに慣れた人物の動きなのだ。

代官ならまだ分かる。

だが、副代官というのは全く解せなかった。


「あんな優秀な人が副代官というのは、もったいないです」

「その通りだが、俺たちがどうにかできる事じゃないからな。それに、代官が亡くなった今は、彼がこの街のトップだ」

「まさか……公主暗殺に見せかけて、本命は代官殺害! それも、フー・テンさんをトップに据えるために街の有志が行った……」

「いや、ないだろ」

涼の大胆で想像力溢れるシナリオは、アベルによって却下された。



そんな二人を、フー・テンがおいでおいでをして呼んだ。

「すまんな、二人とも。さすがに今日は、領主様の所には行けそうにない。明日、連れて行けるようにするから、そうだな……明日の朝九時に、また来てくれ」

「承知した」

フー・テンの言葉に、アベルが答える。

後ろで、涼も頷いている。


「冒険者互助会には、この後、ちゃんと知らせておくから、夕方には七級に上がっているはずだ」

「おぉ」

「あと特別報酬だが……まだ正確には、私は副代官のままなので、代官所資産からは与えられん。ただ……ああ、馬にするか」

「馬?」

「この代官所の馬は、副代官の直轄なんだ。ボアゴーの西には、南部馬の伝統的な産地が広がっててな。ボアゴーは南部馬の中心地のひとつで、多くの馬が集まる。ここから、帝都に送られる馬も多いから、副代官が責任をもって直接管理することになっている。明日、私と一緒に、二人にもまた馬に乗って領主様のところに行ってもらうから、それぞれ乗っていく馬を選んでくれ」


フー・テンの言葉に、アベルが首を傾げる。

「今日乗ってきたやつじゃなくて?」

「ああ。あれは、馬車用だからな。兵士を送る時に、一緒に春村に戻す。明日乗って行くやつは、代官所厩舎から選んでくれ。選んだやつは、そのまま二人にやる」

「え!」

フー・テンの気前のいい言葉に、涼が驚きの声をあげる。


「互助会を通しての特別報酬だと、代官所の正式な手続きが必要になるから、まだ今は無理だが、馬なら大丈夫だ。どうせ明日の報告に必要だし、そのまま二人に渡しても法的に問題ない」

フー・テンは笑いながら言う。


自分の権限の及ぶ中で、いろいろと考えてくれたらしい。


「厩舎に話を通しておくから、午後には、選べるようになっているはずだ。それまで昼飯でもどっかで食べてきてくれ」

「はい!」

フー・テンの言葉に、元気よく答えたのはもちろん涼だ。

それはそれは嬉しそうに。



昼食後、午後一時。

二人は、代官所厩舎に来ていた。

そこは、代官所に隣接しているが、かなり広い訓練施設もある。


「こんなのがあるなんて、気付きませんでした」

「表からは見えにくくなっているな。慎重な設計だ」

涼が驚き、アベルが設計に感心する。


確かに、代官所として兵を抱える以上、指揮官や隊長クラスは騎乗することが多いだろう。

厩舎があるのも納得だ。



フー・テンが言った通り、話が通してあったのだろう。

二人は、丁寧に迎え入れられた。

責任者である厩舎長が二人を案内してくれる。


「副代官様からは、お二人が望む好きな馬をと言われております。人と馬には、やはり相性がありますので、見て回って、実際にふれあうのが一番です」

「はい!」

厩舎長が笑顔で言い、涼も笑顔で返事をした。


アベルは、小さく首を振っている。


「なんですか、アベル。アベルはどんな馬でも乗りこなせるから、相性なんてどうでもいいって言うんですか!」

「いや、そんな事は言ってないだろう。ただ、リョウが乗れる馬があるのかなと」

「失敬な! ちゃんと春村から駆けてきましたから!」

「苦戦しながらな」

「ぐぬぬ……」


二人の会話を、何も言わずに笑顔を浮かべたまま厩舎長は聞き流した。



そして二人は、厩舎長に連れられて、厩舎の中を一通り回った。


だが……。


「う~ん……」

涼が腕を組んで考え込んでいる。


「ピンとくる馬がいなかったか」

「候補はいるんです。候補はいるんですけど……」

アベルが笑いながら言い、涼が目を瞑り何度も首を傾げて考えている。



涼は、ふと目を開けた。

その視線の先には、広い芝生(ターフ)が……。


そのターフを駆ける一頭の馬が目に入る。


「あれは!」

思わず声が出る。


「ああ、今走らせている馬も何頭かいます。もちろんあちらでもよろしいですよ」

厩舎長がそう答えるや否や、涼は駆けだした。


そして、柵に到達。

その目の前には、先ほどターフを駆ける姿を見た馬がいる。


「白馬? いや、葦毛(あしげ)……」

涼が呟くと、その葦毛は涼の方を向いて、寄ってきた。


葦毛の馬は、いわば灰色に近い。

肌は黒っぽく、生えている毛が白いため、そう見えるのだ。


「ああ……光の当たり方によっては、青白くすら見えます」

その葦毛の姿に、涼は見惚(みと)れた。


近付いてきた葦毛は、一度、涼の目を見た後、頭を涼の胸にこすりつける。

「おぉ……」

驚きながらも、葦毛の頭をなでる涼。

葦毛も嬉しそうだ。



決断は、すぐに下された。



「この子にします」

涼は、近付いてきていたアベルと厩舎長に告げる。


「リョウ、その馬は……」

アベルが何か言いかける。


「アベル、この子は僕が選んだんです! アベルは別の子にしてください!」

「いや、俺は別に……」

涼は、アベルから葦毛を守るように、アベルと葦毛の間に体を入れる。


その時、厩舎長の少し困ったような表情が見えた。


「厩舎長さん? まさかこの子はダメとか?」

とても不安げな表情で問う涼。

心なしか、葦毛も不安そうだ。


「ああ、いえいえ、そんなことはありません」

厩舎長のその一言で、世界に平和が戻った。


「ただ、その子は、昨日こちらに来たばかりの組だと思います。我々も、まだ特徴などを把握していないのですよ」

「来たばかり? こう言っては何だが、リョウの騎乗はそれほど上手くない。大丈夫か?」

「失敬な! この子となら地獄にだってたどり着けます!」

厩舎長が説明し、アベルが不安の指摘し、涼が無謀なことを言う。


「その点は大丈夫です。調教地からこちらの厩舎に送られてくる時点で、問題なく騎乗できると判断された馬だけが来ますので」

厩舎長の説明に、涼は笑顔になり、再び葦毛の頭をなでる。

葦毛も、とても気持ちよさそうだ。



そして、涼は再びの決断をくだした。


「よし、君の名はアンダルシアです」

涼は、葦毛に名前を付けた。

アンダルシアは、さらに嬉しそうに頭をこすりつける。


「おぉ、喜んでくれましたか。アンダルシアはいい子ですね~」

「元々付けられている名前があるんじゃ……」

涼が嬉しそうに言い、アベルが懸念を表明する。


「この子の名前は、アンダルシアです。ねえ、アンダルシア」

涼が頑固にこだわる。

アンダルシアは嬉しそうに顔をすりよせる。


こうして、アンダルシアは涼の馬となった。



涼とアンダルシアの近くに、一頭の黒馬が寄ってきた。


「ほぉ、これは立派だな」

アベルが褒める。

国王として、それこそ何百、何千頭もの馬を見てきたアベルだが、その審美眼(しんびがん)にかなう馬だ。


「そうでしょう? ただ気位の高い子でして……。もちろん、怒って人を乗せないとかそういうことはないのですが……この代官所の人間では、誰が乗っても全力を出してくれません」

厩舎長は苦笑しながら言う。


時々いるのだ。そういう馬が。

認めた相手でなければ……。



「ふむ」

アベルはそう呟くと、ひらりと柵を乗り越え、黒馬の元に歩く。

黒馬は、近付いてくるアベルをじっと見ている。

アベルも、近付いていく間、黒馬から視線を外さない。


そして、近付くと……。


黒馬は頭を下げ、アベルの胸にこすりつけた。


「おぉ……」

驚きの声をあげたのは厩舎長だ。


アベルは無言のまま、黒馬の頭をなでた。



「その子の名前は、黒々(くろぐろ)号ですね」

どこかの水属性魔法使いが茶々(ちゃちゃ)を入れる。


「もう少し何とかならんかったのか」

アベルが呆れたように答える。


「厩舎の者は、フェイワンと呼んでおります」

厩舎長は苦笑しながら告げた。


「ああ、いい響きだな。フェイワンでどうだ?」

アベルが、黒馬に問いかけながら頭をなでる。

黒馬は、アベルの胸に頭をつけた後、その顔をべろりと舐めた。


「ははは、気に入ったか。よし、ではお前のことは、フェイワンと呼ぼう」

アベルが言うと、再びフェイワンはぺろりと舐めた。



こうして、明日、二人が乗る馬が決定した。


この後、馬が人化したりというようなことはありません。

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