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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第三章 ボスンター国
568/935

0527 始末

御史台(ぎょしだい)から、取り締まり専門の兵士が来て、ヴォーグとデザイを連れていった。


特にデザイは、呪法使いということで、いくつかの魔力封じの装具が着けられて、移送されたのだが、涼がそれ等に関して、兵士たちに根掘り葉掘り聞いていたのがアベルには印象的であった。


「絶対あれ、今度、御史台の知り合いに聞くつもりだろ」

そんなアベルの呟きは、隣にいたミーファにだけ聞こえた。


ミーファは賢明にも、苦笑しただけで何も言わなかったが……。



「アベル先生、リョウ様、そしてミーファ、ありがとうございました」

四人でシオ・フェン公主の部屋に戻った後、公主は感謝した。


「当然の事をしたまでだ」

「最後の美味しいところだけです」

「もったいなきお言葉……」


三人が答えた時、扉が開き侍従(じじゅう)が入ってきた。


「公主様、スー・クー様がお見えになられました」

「スー・クー様が? こちらにお通しして」

シオ・フェン公主は、首を傾げながら答える。


今日は、訪問の予定は無かったはずなので、首を傾げたのだ。



「公主様、突然お邪魔して申し訳ございません」

「スー・クー様、お気になさらずに」

スー・クーは部屋に入ってくると、突然の来訪を謝罪した。


彼女や公主ほどの地位になると、事前に来訪予定を入れておくのが、ボスンター国では慣習となっている。

それは、無用なトラブルを避けたり、部下たちの混乱を防ぐためでもある。


「まずは、公主様がご無事で何よりでした」

「ありがとうございます。ミーファや、アベル先生、リョウ様のおかげです。皆さん、スー・クー様のお屋敷に滞在されておられるとか」

「はい。我が屋敷は、現在、人材の宝庫です」

スー・クーはそう言うと笑った。


だが、ひとしきり笑うと、悲しげな表情になった。



「実は、今回の襲撃に関連して、こちらを訪問させていただいたのです」


そう言うと、スー・クーは、カン公邸で見た、カン公の状況を全て話した。

シオ・フェン公主はもちろん、他の三人も、その内容に驚く。


傀儡(くぐつ)……」

「胸への星形の魔法陣は一度見たことがありますけど、それは、刻まれた人が人間を大きく上回る戦闘力を得るやつでした。いろいろ種類があるんですね」

「リョウ、見たことがあるのか?」

「何を言ってるんですか。アベルも見たじゃないですか」


アベルが驚いて問うと、涼が呆れたように言う。

この辺りは、剣士と魔法使いという、『魔法陣』への潜在的興味をどれほど持っているかの違いなのかもしれない。



「ほら、大使館を襲撃(しゅうげき)した時に、ヘルブ公が部下の人に刻んだでしょう?」

「ああ、思い出した!」

涼の説明に、思い出すアベル。


だが、すぐに、他の三人の表情の驚きに気付く。


「あ、いや、大使館を襲撃というのは、リョウの過剰表現だ」

「あ、はい、扉が無くなったので入っていって、ちょっとお話し合いをしただけです」

アベルと涼が、事態の鎮静化を図る。


「……そうか。そこはまあ、聞かなかったことにしよう。ヘルブ公といえば、アティンジョ大公の弟、大陸南部の強力な呪法使いだな。そういえば、お二人は、ヘルブ公直筆の紹介状を持っておったか」

「はい。ヘルブ公は確かに、強力な呪法使いです。彼に比べれば、今回こちらを襲撃した呪法使いは、それほど強くはなかったですね」

「何もさせなかったからだろうが……」


スー・クーが確認し、涼が頷き、アベルの呟きは誰にも聞こえなかった。



「今回の呪法使い……デザイが死ぬしか、カン公に刻まれた傀儡は解呪されないとのことですが……。デザイ自身に解呪させる事はできないのですか? 自らかけた呪法であれば、解くこともできるのでは?」

ミーファが、当然の事を問う。


「傀儡は、対象の魂に深く刻まれるため、かけた本人にも解く事はできぬ」

スー・クーが、首を振りながら答えた。


「氷漬けにせずに、殺してしまうべきでしたか……」

涼が顔をしかめて呟く。


「だが、そうなると、背後関係を明らかにできなくなるだろう。いくらカン公の(ふところ)に潜り込んだとはいっても、一人でこれだけの事をできるようになるか? 例えばヴォーグを雇うにしても、あいつは金が全てとか言っていたが、デザイが動かせる金だけでいろいろ足りるか?」

「カン公のお金を動かしたんじゃ?」

「多少はそうだろうが……」

涼とアベルが、そんな会話をしている。



大きな事件が起きた場合、背後関係の調査は大切である。



「御史台は、国王陛下直属の組織だ。そこに入ったのであれば、厳しい取り調べが行われるであろう」

スー・クーが言うと、アベルと涼は顔を見合わせた。


『厳しい取り調べ』といえば、二人の間では拷問が思い浮かぶのだ。


実際に、拷問したことも、拷問されたこともないのだが……。



「これだけの事を起こしたのですから、デザイが死刑になるのは間違いないが……」

「執行されるのは数カ月先になるでしょう」

「うむ。つまり、カン公が傀儡から解放されるのは、数カ月先……」

シオ・フェン公主もスー・クーも、顔をしかめている。


国の法とはいえ、なかなかに辛いものがある。



その後、いくつか話を行い、その日は解散となった。


もちろん、スー・クー、ミーファ、アベルと涼は、全員スー・クー邸で寝泊まりしているのだが。




二日後。

御史台による、四人への聴取が行われた。


場所はスー・クー邸で、御史台の聴取官がやってきて、聴取が行われたのだ。

前日、四人の聴取に先立ってシオ・フェン公主の聴取が行われたため、四人への聴取はほとんど形式的なものであった。


四人の内、一人だけ、積極的に多くの質問をしていた人物がいたらしい……。

その人物は、ローブを着て、水属性の魔法を使うらしい……。



「リョウ、絶対、山のような質問をして、聴取官を困らせただろう」

「何を言うのですか、アベル。言いがかりも(はなは)だしいです! ボッフォさんには、ちょっとだけ、魔力封じの装具について質問しただけです」


ボッフォさんというのが、涼の聴取を担当した人物だ。

前回の聴取も担当していたことを考えると、御史台の中でも『涼の担当』と認識されているのかもしれない。


「後日、それらの装具の資料を見せて欲しいとか言ったんだろう?」

「うっ……そ、それは言いましたけど……。仕方ないじゃないですか! 知的好奇心というのは、人に許された特権です。知らない事を知りたいと思うその心が、この社会の発展を生み出したのです」

あえて壮大な話にして論点をずらす。


涼の得意技だ。


「社会の発展など知らん。あまり人を困らせるなよ」

アベルには通用しなかった。



「まあ、でも、詳しい仕組みに関しては、教えてもらえないということでした」

「悪用を防ぐためか?」

「ええ。呪法系じゃなくて、錬金道具らしいので、全部興味があるんですが……」

「そういえば、王国にも似たような錬金道具があったな。確かに、悪用されたらいかんな」


アベルの何気ない一言に涼は驚いた。


「王国にあるんですか! なぜ僕に教えてくれなかったんですか」

「そう言われてもな……。ケネスから聞いていないのか?」

「聞いていません」

「リョウに教えたら、大変なことになると思ったんだろう……」

「王国に戻ったら、筆頭公爵の権限を濫用(らんよう)して取り寄せて調べます!」

「おい、やめろ……」


筆頭公爵が悪行を宣言し、国王がそれを止める。


「アベルだって気になるでしょう?」

「何がだ? 別に気にならんぞ、俺は剣士だし……」

「魔封じ系の装具を着けていても、闘技とか剣技が発動できるのか」

「ああ……。確かにそれは気になるな」


筆頭公爵のそそのかしに、国王がのってしまう。


国の乱れ、ここに極まれり!



「とはいえ、ナイトレイ王国に戻れるのがいつになるか分かりませんからね。今度、御史台に行く時に、アベルもついてきます? お試しに、魔封じ系の装具を着けて、闘技や剣技が発動するか試してはどうですか?」

「……ちょっと考えておく」

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