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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第三章 ボスンター国
563/930

0522 それぞれの動き

二日後、カン公からスー・クー宛に、謝罪文が届いた。


「誤解があった、申し訳ないだと。誤解で供回りを死なせるなどあり得んわ」

「明日、来てほしいと書いてありますね」

スー・クーから渡された文を見て、ミーファは確認する。


「うむ。ちと行ってくる。ミーファも、確か明日はシオ・フェン公主の離宮(りきゅう)に行くのであったな?」

「はい。前回、公主様もおっしゃっていましたので、アベル先生と一緒に伺います」

「そうだな、それなら安心だ。一個小隊くらい連れて行くといい。私も、大隊規模、全員完全武装で行く」

「……何があっても大丈夫なようにですか」

「ああ。その場で戦争になっても大丈夫なようにな」


ミーファが驚きながら言い、スー・クーは、完全に冗談とも言えない表情で言い切った。


実際、スー・クーの心の中では、武力衝突が起きる可能性も考えているのだ。

そして、そんな衝突が起きても勝てるだけの戦力を連れて行こうと。



王都でそんな武力を動かせば、後日、国王から叱責(しっせき)されるのは間違いないが……手を抜いて、死ぬよりはましだ。




翌日。

「よし、行くかミーファ」

「はい、師匠」


二人が屋敷の扉を出ると、そこには整列した部隊が揃っていた。


ソロン隊長の第一巡視隊を中心とした護衛二十人と、王都でスー・クーが動員できる最大戦力、二百人である。


「戦争にでも行くのか……」

「スー様は、戦争になってもいい戦力を整えるとおっしゃっていました……」

思わずアベルは呟き、ミーファは昨日の会話を思い出して答えた。


整列した部隊は、全員が完全武装。


本拠地であるミファソシの街であれば、この数十倍の戦力を動員できるのだろうが……。

それでもこの王都で、国王以外が動員できる戦力としてはかなり大きなものなのだ。

スー・クーの力の大きさが表れている。



アベルとミーファがその前を通ると、横から八人の護衛が出てきた。

「アベル様、ミーファ様の護衛を仰せつかりました。第七護衛小隊、隊長のミランです」

「俺とリョウの騎乗訓練、手伝ってくれたよな。今日もよろしく頼む」


ミラン隊長が挨拶し、アベルが応じた。

ミーファは、アベルの横で頭を下げた。


アベル、ミーファ、第七護衛小隊の合計十人は、全員騎乗して、シオ・フェン公主の離宮に向かった。

歩きでなく馬に乗っての移動の理由は、もしもの場合の撤退速度が、馬の場合は圧倒的に速いからだ。


屋敷に戻るにも、離宮に駆け込むにも、速い方がいいに決まっている。


「屋敷の馬小屋以外にも、スー・クー殿の馬がいるということか」

「はい。スー様は、王都郊外に牧場をお持ちです。もちろん、ミファソシにもありますが……。おそらく、王室を除けば、最も多くの馬を飼っていらっしゃるのではないかと」

「凄いな」

アベルは、素直に驚いた。



「そういえば、今日は、リョウさんは?」

御史台(ぎょしだい)に呼ばれていった」

「え? 何か面倒ごとに巻き込まれたのですか?」

ミーファは心配そうに問う。


御史台は、王都内での問題を取り締まったり、巡察を行ったりという、警察機構的な役割を多く担っている。

同時に、検察機構的な側面も持っているなど、普通の人はあまり近寄らない場所というイメージを持たれていた。


そのため、「御史台が来たぞ!」という声が上がると、悪い事をしている自覚のある者たちは、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げていくらしい。


現代地球における、「警察だ!」に匹敵する言葉なのかもしれない。



「いや……先日の、御史台の聴取の際に、いくつか見たい資料の請求をしていたらしいんだが、その一つが見つかったそうだ……」

「え~っと……?」

「そうだよな、意味が分からんよな。俺も意味が分からん」

ミーファが首を傾げているのを見て、アベルも大きく頷いて同感である事を告げる。


「まあ、それがリョウだ。リョウだから仕方ない」


とはいえ、涼だから、という言葉一つで解決してしまうあたり、アベルとしてはもうある程度は慣れてしまった。

涼は、そういうものだと。




「ああ、よく来てくださいました。アベル先生ですね。私、フェン公主の地位を賜っております、シオと申します。どうぞ、お見知りおきを」

「ミーファより伺っております、シオ・フェン公主。ナイトレイ王国のアベルです。よろしくお願いします」

シオ・フェン公主とアベルは挨拶を交わした。



そして、和やかに三人のお茶会は進んだ。



ある瞬間まで。



明らかに、この優美な離宮では聞こえる事のない、慌てた足音が響いた。

そして、守備兵らしき人物が飛び込んできて叫ぶ。

「大変です、公主様! 離宮が襲撃されました!」

「え……」


絶句するシオ・フェン公主。

ミーファも言葉が出ない。


アベルは、耳を澄ます。

かすかに、本当にかすかに剣戟の音が聞こえる。

門から、この公主の部屋まではかなりの距離がある。

まだ、門を破られていないのであれば、かすかな音であることは理解できる。


「襲撃者は誰ですか? 紋章はありますか?」

「紋章は、『山より昇る朝日』! カン公の手勢です」

「……そうですか」

守備兵の答えに、顔をしかめるシオ・フェン公主。


「シオ様、どうかお逃げください」

ミーファが提案する。


だが、それに対して首を振るシオ・フェン公主。


「無理よ、ミーファ」

「なぜですか」

「この離宮には、三本の地下通路があります。秘密の脱出路。でも、おそらく全て押さえられているでしょう。出口には、兵が伏せてあるはず」

シオ・フェン公主は、確信があるのだろう。

はっきりと、そう言い切った。


「なぜ、そう言い切れる?」

アベルが問う。


「この離宮は、先代国王陛下の時代、カン公が入っていらっしゃいました。当時の王弟でしたから。この離宮の構造は、地下通路も含めて、全て知っているはずです」

「その地下通路を通って、今回の襲撃者がやって来ることは?」

「それはないでしょう。私がここに入ることになった時に、地下通路の『錬金鍵』は、私の体で開くように変更されましたので」

シオ・フェン公主は答えた。



そんなことを話していると、新たな守備兵が飛び込んできて報告を始めた。

「正門、裏門とも襲撃されております! 裏門は、道も狭く大軍を展開しにくいですが、正門が破られるのは時間の問題です!」

「分かりました」

シオ・フェン公主はそう答えると、少しだけ考えて口を開いた。


「申し訳ありません、アベル先生、ミーファ。どうか、お手伝いいただけないでしょうか」

「もちろんだ。何でも言ってくれ」

アベルは力強く頷いた。


「正門にご加勢ください」

「承知した。ミーファは、ここで公主を守れ」

「え? 私も正門に……」

「ダメだ。公主を一人にするな」

アベルは、反論を許さない厳然たる口調で言う。


「ミーファは、公主を守るために剣を鍛えているのだろう? 今がその時だ」

「ですが……」

「俺が敵の指揮官なら、何らかの方法で一気に本陣を叩く。この場合、本陣はシオ・フェン公主自身だ」

「では……正門への攻撃は陽動だと?」

「ああ。もちろん、破れれば一気に趨勢(すうせい)が決するため、放置はできん。だから俺が向かう。だが、奴らの狙いは公主の命だろう。誰かが、ここで守らねばならない。それは誰だ?」

「……私です。私がシオ様の命をお守りします」


アベルの問いに、ミーファははっきりと言い切った。


その表情に迷いはない。

断固たる決意。

その意思が、みなぎっていた。


「そういうわけで公主、ミーファがお守りします」

「はい。ミーファ、お願いします」

「お任せください、シオ様。師匠、ご武運を!」

「ああ、行ってくる」



こうして、離宮防衛戦の幕が切って落とされた。


怒涛の展開!


様々な理由は、後の方で解説される書き方……に違いありません。

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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