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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第三部 第二章 自由都市
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0503 島にいたのは

「リョウ殿が、強力な魔法使いであることは分かっていましたが、先ほどの氷の槍といい、この氷の橋といい、たいしたものですな」

「参加する力があることは証明できましたか?」

「ええ、もちろんです」

心の底から称賛するヘルブ公。


実際、強力な戦力なら、多いに越したことはないのだ。



「先ほどの、黒いワイバーンについて教えて欲しいのだが」

アベルはさっそく問うた。


「あれは、死竜の能力ではありません」

「何?」

「以前言った通り、死竜は、あらゆるものを腐らせます。人を腐らせ、大地を腐らせ、海すらも腐らせる。ゾンビのように、腐らせたうえで使役することはありますが……先ほどのワイバーンは、腐っていませんでした」

「なるほど。だが、俺たちが知るワイバーンより小さかったのだが、あれが東方諸国のワイバーンなのか?」

「いいえ。ワイバーンは、世界中にいる魔物です。場所によって、色や形が変わるという話は聞いたことはありません」


アベルの問いに、よどみなく答えるヘルブ公。


「つまり……」

「あれは、自然のワイバーンではありません」



さすがに、その言葉はアベルを驚かせた。



「誰か、あるいは何者かが……作り上げたと言うのか? あのワイバーンを? <ソニックブレード>を放ったぞ?」

「ええ、そうです。魔法を放つ魔物を作り上げた者がいる。それも、千を超えるワイバーンを」

アベルの問いに、ヘルブ公は顔をしかめて頷く。


死竜だけでも厄介だが、同じくらい厄介な存在がいると思われるのだ。

さすがに顔をしかめるだろう。



「魔人ガーウィンですら、生み出した眷属(けんぞく)は魔法を使えなかった……」

「ああ……。そう言われると、今回の事がとんでもない事なんだというのがよく分かりますね」

アベルの言葉に、涼は大きく頷いた。


だが、涼は、ふと思ったのだ。


魔法を使えるのは、それほど特別な事なのかと。


普通の魔物でも、『グレーター』であれば魔法を使うのが普通だ。

石礫を飛ばしてくるグレーターボアは、何度も狩ったことがある。



『魔法の肝はイメージ』と、涼に教えてくれたのはミカエル(仮名)だ。


だが、中央諸国においては、イメージを描かなくとも、『詠唱』することによって、多くの人間が魔法を行使できる。

威力は、驚くほど弱いが……それを発見したのは、多分、ヴァンパイアの真祖様。

おそらく真祖様は、この『ファイ』における『魔法』というものを、かなり詳しく研究したのだろう。

その結果が、詠唱なのだろうと思う。



魔人ガーウィンの眷属が魔法を使わなかったのは……。

「あのガーウィンは、あんまり真面目に魔法を研究しなかった気がします」

「リョウ?」

「いえ、ガーウィンはいろいろ適当な感じがするので、魔法の研究に真摯(しんし)に取り組まなかったに違いありません」


涼の独断と偏見であることは、ここに付記しておく。




アベルとヘルブ公の会話は、続く。


「小さめとはいえ、千体を超えるワイバーンを生み出す……。似たような事例で思いつくのは、眷属を生み出す魔人だ」

「魔人?」

「東方諸国には、魔人の伝承とかはないのか?」

「私は、魔人という言葉を聞いたことがないな」

アベルの問いに、ヘルブ公は首を傾げた。


「魔人自身は、かつて自分たちの事を、スペルノと言っていたそうです」

涼が、赤い魔人マーリンが言っていた言葉から補足する。


「ああ、スペルノ。スペルノなら分かります。しかし……東方諸国のスペルノが、眷属を生み出したという話は聞いたことがありませんね」


「中央諸国でも、南の魔人は眷属を生み出しませんでしたし、西方諸国の魔人マーリンさんも、眷属を生み出すのは苦手だそうです。人間でも、人を使うのが得意な人、苦手な人がいるように、魔人でも眷属の使い勝手が違うんですかね」

「そのたとえは合っているのか?」

「マーリンさんが言うには、ガーウィンは特に眷属を生み出すのが得意だそうです。普通は、魔人でもあんな風には無理だそうですよ」

「ワイバーンを生んだ奴は、魔人……スペルノじゃない可能性が高いか」


涼の説明に、アベルはそう言うと考え込んだ。



「先ほどの黒いワイバーンは、実体がありましたからね。呪術で生み出す『式神(しきがみ)』系のものとは違います」

「式神! ちょっと気になりますけど……そういえば、霊符では怖いものを生み出してませんでしたっけ?」

「ええ、よくご存じで。ですがあれは、別の場所で作っておいた者たちを、霊符を通じて召喚しているだけです。それに、作っておいた者たちも魔法は使えません」

「そうですか」


どうも、三人が持つ知識では、先ほどの黒いワイバーンの謎は解けないらしい。


「出たとこ勝負だな」

「アベルの得意なやつですね」

アベルの呟きに、涼が反応する。


「俺、得意か?」

「昔から、剣士は出たとこ勝負が得意と相場が決まっています。緻密(ちみつ)な戦略なんてどうせ練れないんですから……」

「うん、馬鹿にしているだけだな」

「そんなつもりはなかったのですけどね!」

涼がわざとらしく驚いてみせる。


アベルは何か言おうとしたが、視線が船首の方を向いたまま止まった。

涼とヘルブ公も、その視線を追う。



島が青く光り輝き、止まったのだ。

船からの距離は百メートルほどだろうか。


そんな青い島の中央に、巨大な何かがいるのが見える。



「あれが?」

「ええ、死竜です」

アベルの問いに、ヘルブ公が頷いて答える。


「私の周囲、半径二十メートル以内なら、死竜のブレスも弾かれます。呪符の効果で」

「承知した」

「ブレス……カッコいい」

ヘルブ公の説明に、頷くアベル。もう一人の水属性魔法使いは……まあそういうものだ。



「船はここまでです。彼らも、船に設置した呪符が守ります。私はここから跳びますが……お二人もついてきてください」

ヘルブ公はそう言うと、跳んだ。

正確には、空中に『置かれた』呪符の上を、飛び石のように跳ねながら島に向かう。


「僕らも行きますよ。アベル、しっかりつかまってください」

涼はそう言うと、左手でむんずとアベルのベルトを掴んだ。

「……大丈夫か?」

アベルも、両手で涼の腰にしがみつく。


「行きます! <ウォータージェットスラスタ>」



二人は飛んだ。


そう、()()()のではない、()()()のだ。


島まで、ゆるやかな弾道を描いて。



ヘルブ公と二人が島に着いたのは、ほぼ同時だった。

「氷の橋で来るかと思いましたが、空を飛べるとは……」

「水属性の魔法使いですから」

ヘルブ公の感心した言葉に、得意げに答える涼。

だが、アベルはつっこまない。


島の中央に巨大な黒いドラゴンがいる。おそらく死竜であろう。


片方の翼はもがれ、右前足もないようだ。

朽ちた、という表現が最も適切に見える。


血も流れ出ていないようだし。



だが、三人は、死竜の足下に、二足歩行の何かがいることに気付いていた。


死竜が巨大であるために、二足歩行の何かの大きさが正確には分からない。

パッと見、人に見えるが……。



島に降り立った三人が見たのは、死竜とその足下にいる女性。


「お前たち、何しに来た」


それは女性の声であった。

おそらくは、死竜の足下にいる……。



ヘルブ公がゆっくりと歩きだす。

右後ろにアベル、左後ろに涼がつく。


「死竜を退治に来ました」

歩きながら、ヘルブ公が、いつも通りの落ち着いた声で答える。


「それは困る」

先ほどの女性の声だ。


「なぜ困るのですか?」

「まだ実験の途中だからだ」

「実験?」

「魔法の真理に……」

そこで、女性の声は止まった。


近付いてくる三人をはっきりと認識し、それで言葉が途切れたようだ。


その女性は、薄い水色の髪を肩までで切りそろえ、眼鏡のようなものをかけ、白い服を着ている。

遠目には、白衣に見えるかもしれない。


だが、その顔は目が大きく見開かれたまま、驚きに固まっている。



涼は、既視感に襲われた。



もちろん会ったことはないし、初めてのはずなのだが……。


雰囲気を感じたことがあるのだろうか。


ああ、そうかもしれない。

知り合いが纏う雰囲気に似ている。


涼の知り合いに二人いる。

特にその片方は、涼を見るたびに戦おうとする……。


だが目の前の女性は、角もないし黒い尻尾もないが……。


涼は、男性版の知り合いは、角も尻尾もない事を思い出した。



「実験は中止だ。そんなことよりもいい事を思いついた」

眼鏡の女性は、禍々しく笑った。


それは……悪魔的な笑いだった。




その瞬間、世界が反転した。


ふふふ……明日は戦いです!

今回の涼の相手は……まあ、あの方々はいつも強敵ですよね。

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