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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
477/930

番外 <<幕間>> コミックス第1巻発売記念 教皇襲撃 後編

「教皇襲撃 後編」です。


明日2022年3月15日は、コミックス第1巻発売日です!

https://twitter.com/gon_take/status/1503310297821777924?cxt=HHwWiMDUjYiw6twpAAAA

https://twitter.com/TOBOOKS/status/1503306664497545218?cxt=HHwWhIDU3cnc6NwpAAAA

教皇選挙の結果、グラハムが次期教皇に即位すると発表されてから二週間後。

円形集会場において、教皇即位の儀が()り行われようとしていた。


即位の儀は、本来は教皇選挙終了の翌日、教皇庁内で執り行われる。

そして、選挙終了後三日目に、新たに教皇に選出された者が、教皇の衣と冠をかぶって、信徒たちの前に姿を現す。


だが、今回は、即位の儀は円形集会場にて行われることとなった。

前例が無いわけではない。

だが、極めて珍しい。

ここ三百年の間に、二回あっただけだ。



しかも今回、来賓として中央諸国使節団一行が見守っている。



彼ら使節団は、教皇就任式の時同様に、正面の観客席に座っていた。

前回との違いは、今回、文官たちは出席しておらず、団長ならびに護衛たちだけだ。

なぜなら、この後、集会場は戦場になると告げられているので……。


「本当にヴァンパイアたちが来るのかね」

王国使節団団長ヒュー・マクグラスがぼやく。


「俺ら、ヴァンパイアを見たことはありますけど、戦ったことないんですよね」

小さな声で言ったのは、『十号室』の剣士ニルスだ。


「今回、この観客席に通じる通路は完全封鎖。外から来た人たちは、直接中央に入っていくんだよね?」

「はい。みんな、わざわざ階段をかけて、この観客席に上がってきましたもんね」

『十号室』の神官エトと、剣士アモンが会話している。



円形集会場は、徹底した改修が行われた。


以前は、階段から観客席に行けたのだが、今回は行けないようになっている。

だから、基本的に観客席は安全なはずだが……。



三年前、『十号室』の三人は、ヒュー、勇者パーティー、それとどこかの水属性の魔法使いと、ヴァンパイアやその眷属(けんぞく)たちと戦ったことがある。

闇属性魔法を操る『伯爵』であった。


「俺は精神支配されたからな」

ヒューはその記憶を思い出して顔をしかめ、忌々(いまいま)しげに呟く。


正直、あんなのが大量に来るのは勘弁してほしいと思っている……。


だが、王国使節団の中では、ヒューが中心にならざるを得ない。

なぜなら、彼が持つ聖剣ガラハットは、再生能力を封じる剣だから。

ヴァンパイアの最も厄介な点は、普通の剣で斬ってもすぐに再生されてしまう点であろう。

だが、ヒューのガラハットなら、それを防ぐ事ができるから。


となれば、最前線で、ヴァンパイアを斬らざるを得ない……。


「なんてめんどうな……」

その呟きは、誰にも聞こえないほど小さいものであった。




即位の儀は、就任式に比べて非常に短い。


次期教皇が、教皇用の白い衣を纏い、三輪の冠をかぶる。

そして、白い宝玉のついた一メートルほどの『教皇杖』を持つ。


その姿を、聖職者たちに見せる。


それだけだ。


教皇の指針表明も、お言葉もない。

それらは全て、後日の信徒へのお披露目の席でとなる。



そんな短い即位の儀であるため、襲撃する側には、時間的余裕があまりない。



グラハムが、三輪の冠をかぶった時であった。

「来たか」

グラハムはそう呟き、アリーナ入口を見る。


ステファニア新枢機卿(すうききょう)も感じ取ったのだろう。

後ろに控えたシュロッター大司教から、剣を受け取る。

今回のために準備した、聖別された業物(わざもの)だ。



十秒後。


アリーナ入口の扉が吹き飛んだ。



吹き飛ばした勢いのまま、対面に立つグラハム新教皇に、多数の何かが迫る。


「何だ、あの数は……」

観客席からそう呟いたのは、ヒュー・マクグラス。


百人を超える者たちが襲いかかったのだ。


「百人以上のヴァンパイア?」

「あの時は、一人相手にあれだけ苦戦したのにか?」

エトが呟き、ニルスも啞然とした表情だ。


そう、ざっと百人を超えるヴァンパイア。



だが、聖職者たちは誰も動けない。いや、動かない。


ただ一人、グラハムだけが右手を挙げる。

そして、勢いよく振り下ろした。


それを確認したのは、アドルフィト枢機卿を中心とした枢機卿団と、大司教たち。

一斉に、手に持った魔石に魔力を流した。



ブウォン!



鈍く低い音がアリーナ全体から響く。

同時に、何かが地面に描かれる。


「魔法陣?」

「普通、魔法陣って、丸くない?」

「あれは……星形ですかね?」

少し高くなっている観客席からは、はっきり見えた。

だがニルスも、エトも、そしてアモンも自信を持てない。


彼らが見慣れた、円を基本とした一般的な魔法陣とは違い、直線を基調とした星形と言うべき魔法陣が、地面に描かれたのだ。



実は、魔力を流して魔法陣を起動させたアドルフィト枢機卿らも、何のための魔法陣かは知らされていない。

だが、言われた通りに魔力を流し、起動させた。


なぜなら、魔法陣を作ったのも、指示を出したのも、新教皇グラハムだから。



アリーナに侵入した、全てのヴァンパイアが、雷に打たれたかのように震えて、気を失って倒れた。



全滅?


いいや。



再び、正面入り口から、同じ数ほどのヴァンパイアがアリーナに侵入してきた。


「合計二百のヴァンパイアだと? あり得るかそんな事が」

ヒューの呟きは、周りにも聞こえたが誰も答える事はできない。


ヴァンパイアの数は激減している。


それは、西方諸国だけではなく、中央諸国の人間の間でも通説となっている。

それなのに、この場に二百人もの戦力を投入できるというのは……この集団は、総数で千人以上のヴァンパイアが所属している計算になる。



だが、まずは目の前の問題だ。

とりあえず、最初の百人は罠によって倒したが、この第二陣の百人のヴァンパイアはどうするのか……。



ヒューらが見ている前で、不思議なことが起こった。



初めに、魔法陣によって打ち倒された百人が起き上がったのだ。

そして、新たに侵入してきた百人のヴァンパイアに打ちかかった。


壮絶な同士討ち。



「どういうことだ?」

ニルスの言葉に答える者はいない。


実は使節団だけでなく、聖職者たちですら理解できない光景だったからだ。


聖職者の内で理解できたのは、グラハムを除けばただ一人。

「さっきの魔法陣は、傀儡(くぐつ)の……」

剣を持ち、グラハムの隣に並ぶステファニアが呟く。


「半分正解だ。対ヴァンパイア専用の集団傀儡だ。だが、やはり変だな」

「はい?」

「男爵級ヴァンパイアに対してでも、成功率は五十パーセントほどだ。そう高くはない。だが、目の前にいる奴らは全員が傀儡に落ちた。静寂の棟で戦った時も思ったが、半端者のヴァンパイアか?」

「ですが……動きと言いますか、能力は男爵級と言っていいかと……」

グラハムの言葉に、ステファニアが答える。


ステファニアは異端審問庁長官だ。

それはつまり、グラハムを除けば、教会の中で最もヴァンパイアと対峙してきた聖職者という意味でもある。


その目から見ても、決して動きが劣っているわけではない。


「そう……動きは劣っていないのだが……。促成栽培でもしたか?」

「ヴァンパイアの促成栽培……。理解できかねます」

「ああ、私も自分で言っておいて意味が分からんよ」


思わずグラハムの口から出た促成栽培という言葉だが、そんな事が可能かどうか分からない。


壮絶な同士討ちを演出はしたものの、その表情に満足感はない。



「さて、次は何かな?」

「猊下……いえ、聖下、まだ敵がいると」

「当然だ。奴らだって、我々が罠を張っている事は分かっていたはずだ。その上で攻めてきたのだ。三重、四重の攻撃を準備しているだろう」


その瞬間だった。


一筋の影がグラハムを襲った。



ガキンッ。



いつもの仕込み杖の剣を抜き、斬撃を受けるグラハム。

「ようやく本物の登場か」


だが、自分に打ち込んできた人物を見て、顔をしかめる。


「『ハル』ではないのだな」

グラハムは、襲撃者の予想が外れ、残念と安堵がない交ぜになった声で呟いた。


呟いた後、すぐにいつもの声音に戻って言う。

「私が教皇のグラハムだ。お前は何者だ?」


だが、打ち込んできた男は、何も答えない。


ステファニアが、隙あらば斬りかかろうとしているが……グラハムに斬りつけながら、その隙はない。

かなりの手練れであることは確かだ。



「もう一度問う。お前は何者だ?」

グラハムが問うが、やはり男は答えない。


「ふむ。最近のヴァンパイアは名乗ることもできなくなったのか? かつては堂々と名乗りを上げ、その姿は我ら教会ですら、さすが宿敵ながらあっぱれと思ったものだが。ヴァンパイアが、かくも矮小(わいしょう)なものと成り果ててしまったのは嘆かわしい」

「貴様!」

グラハムの挑発に激高する男。


人よりもはるかにプライドの高いヴァンパイアに、この手の挑発が有効である事をグラハムは知っている。



「我は、シオンカ侯爵ディヌ・レスコである!」

「……侯爵?」

ディヌ・レスコが名乗り、思わずステファニアが呟く。


「侯爵とはな、大物じゃないか」

グラハムがニヤリと笑いながら言う。

ヴァンパイアハンターと呼ばれるグラハムであっても、侯爵級との戦いはほんの僅かだ。


それほど、表に出てこない者たち。



「だが、侯爵よ、味方はあんなことになっているぞ」

グラハムが指摘したのは、アリーナの状況だ。


グラハムによって傀儡に落とされた第一陣の百人と、第二陣の百人は、共に半分以上が打ち倒れている。


「構わん」

ニヤリと笑うディヌ・レスコ。



その理由は、すぐに明らかとなる。



「空に、何かが……」

ステファニアが、空を見上げて叫ぶ。


何十人ものヴァンパイアが、空から円形集会場に飛んでくるのが見えた。

ヴァンパイアではあるが、コウモリになって飛行したり、羽が生えて飛翔したりするわけではない。


もしこの場に、どこかの水属性の魔法使いがいれば、こう叫んだに違いない。

「グライダー!」と。


そう、五十人を超えるヴァンパイアたちが、グライダーのようなものを操って、空から襲撃しようとしているのだ。



円形集会場に屋根はない。

剥き出しだ。


さすがに空からの襲撃は想定外……。



だが観客席には、規格外の火属性魔法使いがいた。

爆炎の魔法使い、オスカー・ルスカ伯爵。


「<バーニング>」


唱えた瞬間、目を焼くような光を放って、空に白いカーテンが現れた。

それは、灼熱の炎のカーテン……あまりの高温に、赤ではなく白く見える炎……。

灼熱のカーテンは、一瞬で、空のヴァンパイアたちを飲み込み……その全てを蒸発させた。


比類なき再生能力を誇るヴァンパイアですら、灰にもならずに、一瞬で蒸発させられれば消え去るらしい。



「馬鹿な……」

その光景を目の端で見た、シオンカ侯爵ディヌ・レスコの呟きだ。


「私も馬鹿なと思うが、世の中には恐ろしい魔法使いがいるものさ」

グラハムは苦笑しながら言った。

そう、苦笑するしかない。

あんな魔法、防ぎようがない……。



「撤収!」

ディヌ・レスコはそう言うと、大きくバックステップした。

同時に、懐から何かを出して地面に叩きつけた。


叩きつけられたものから、大量の白い煙が生まれる。


生き残っていた、第二陣のヴァンパイアたちも同じ行動をとり、アリーナ内はたちまち煙で埋め尽くされた。



「追うな!」

すぐにグラハムが叫ぶ。


今回は罠にかける事ができたために、有利に戦えたが、ヴァンパイアは、決して簡単な相手ではないのだ。

たとえ、促成栽培の者たちであっても……。



「聖下、相手が侯爵とは……」

「ああ、少し驚いたな」

ステファニアの言葉に、グラハムが頷く。


「とはいえ、少しだけ安心もした。あれが相手なら、準備をすればなんとかなるだろう」

「先ほどおっしゃった、『ハル』ではなかったからですか?」

「聞こえたか」

「はい。その……『ハル』とは何者ですか?」


ステファニアが問う。

それに対して、グラハムは答えに逡巡(しゅんじゅん)した。

これは珍しい事だ。


つまり、最も信頼するステファニアにすら、伝えるのを逡巡する内容ということ。



「他言無用だ。『ハル』というのは……ヴァンパイアどもの親玉みたいなものだ」

「公爵、あるいは大公ですか?」

「いや、そういうものではない。全てにおいて規格外……ヴァンパイアの最終進化形態といっていいかもしれん」


グラハムは小さく首を振りながら言う。

『ハル』を頭の中に浮かべているのかもしれない。


「剣技においては、私など足元にも及ばない。赤子の手をひねるように打ち倒される」

「まさか……」

「六属性全ての魔法を行使できる」

「……」

「その上、錬金術の天才でもある」

「それは、化物では……」

「そう、化物さ。最上にして、最高のな」


ステファニアが思わず言った言葉に、頷きながら同意するグラハム。


「今回敵に回ったのが、あの『ハル』であれば、全面降伏するしかなかったが……そうではなかった。それは運が良かったと言える」

「その……『ハル』は、今は?」

「さあな。多くのヴァンパイアたちを率いているはずだが、いったいどこにいるのかは分からん。そういえば……ヴァンパイアたちは、『ハル』のことを、こう呼んでいたな」


そこで一度言葉を切ってから、グラハムは言葉を続けた。


「真祖様と」


先日、「つぎラノ」で投票してくださった皆様の、感想一覧を運営様からいただきました。

感想、全て読ませていただきました。

心温まる感想ばかりで、本当に嬉しかったです。

『水属性の魔法使い』という作品が、本当に、本当に幅広い層からの支持を受け、

多くの方が続き(書籍版もなろう版も)を楽しみにしているのを実感いたしました。


応援いただき、ありがとうございます。


《書籍版》も《なろう版》も書き続けていきますので、これからも、どうかよろしくお願いいたします。



《書籍版》ですが、『第6巻』の制作決定が発表となりました!

ありがとうございます! ありがとうございます!


TOブックスのツイッターでも報告されましたが、第5巻は決定稿

(筆者と担当編集さんとの間で何度か原稿のやりとりをして、これで行きましょう! となったやつ)

まででき上がりました。

とはいえ、書籍は、ここからが時間のかかるものですので、もうしばらくお待ちください。

第5巻の出版は、2022年夏です。



担当編集さんからの連絡だと、第4巻の売上もいい感じらしいです!

読者の皆様のおかげです、ありがとうございます!


フェアをやっている書泉ブックタワー様の、先週のラノベ売上ベスト3位でした!

https://twitter.com/shosen_bt/status/1503239963915145216


他の1位~5位まで、全てアニメ化作品……そんな中、頑張ってます! うちの子!



《なろう版》ですが、本日の「教皇襲撃 後編」が、第三部前の最後の幕間です。

次の投稿は、4月1日、「第三部 東方諸国編」となります!


第三部も、筆者のモチベーションと体力の続く限り、毎日21時投稿予定です。

読者の皆様が、楽しく読んでくれるといいな~と思っております。

第三部は、その性質上、いっつも涼とアベルが出てきて会話をしております。

まあ、第二部であんまり会話できなかった分の補填ということで、生温かく見守っていただければ嬉しいです。


それでは皆様、4月1日21時にお会いしましょう!

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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