番外 <<幕間>> 小説第4巻発売記念 教皇襲撃 前編
明日2022年3月10日(木)、小説第4巻が発売されます!
(サイン本は、昨日辺りから置かれている本屋さんがチラホラ)
それを記念してのSS投稿です。
https://twitter.com/TOBOOKS/status/1500758152920195076?cxt=HHwWiICj6dbl4dMpAAAA
TOブックスのツイッターに、筆者がお気に入りのアベル顔が上がっていました!
第4巻の扉絵です。
なぜ、アベルがこんな顔になったのか……書き下ろし部分が理由ですよ!
ぜひ、第4巻をお読みください!
教皇選挙が終了し、グラハムの次期教皇即位が発表された翌日。
教皇庁のグラハム執務室。
部屋の主グラハム、その右腕ステファニア大司教。
三人の中央諸国使節団の団長、すなわち、オスカー・ルスカ伯爵、先王ロベルト・ピルロ、ヒュー・マクグラスが一堂に会した。
「お聞きになった通り、私が次期教皇となります」
グラハムが告げる。
「おめでとう……と言っていいのかどうか。静寂の棟でのことは聞いているからな」
ヒューが顔をしかめながら問う。
「ええ、おめでたくはありません」
苦笑しながら答えるグラハム。
教皇選挙の最中、ヴァンパイアと思われる者たちの襲撃を受け、静寂の棟において多くの枢機卿が殺害された。
若すぎるグラハムの教皇就任は、その結果と言っても過言ではない。
「教皇選挙中に起きた事、つまり枢機卿らがヴァンパイアに襲撃されて亡くなった事は、本日正午、公表されます」
グラハムがそう言うと、団長三人の間に衝撃が走った。
一分ほど、沈黙が続いた。
口火を切ったのは、ヒュー。
「民衆に……全てを公表する、ということか?」
「はい。一切の隠し立てなく」
グラハムははっきりと言い切る。
全ての情報を民に知らせる。
そこだけ聞けば、素晴らしく開明的な施策に聞こえる。
だが、彼らは知っている。
そんな生易しいものではないということを。
「混乱するであろうな」
先王ロベルト・ピルロの呟き。
グラハムは無言のまま頷く。
間違いなく、民衆はパニックに陥る。
これは絶対だ。
別に、荷物をまとめて聖都を去るものが続出……などというパニックではない。
一見、外見上は変わらないように見えるだろう。
だが、頭の中は明確に変わる。
思考が停止する。
自分で考える事ができなくなる。
なにより……。
感情的になり、議論などできなくなる。
冷静さを失うのだ。
パニックに陥った民衆には、理を尽くして説明しても分かってはもらえない。
そういうものなのだ。
誰が悪いわけでもない。
ここにいる者たちは、その事を知っている。
伯爵、先王、グランドマスター、そして次期教皇と大司教。
いずれも、『情報を受け取る』民衆の側ではなく、『情報を発信する』責任ある立場の側だから。
民は叫ぶ。
「全ての情報を明らかにせよ!」と。
だが、全ての情報を明らかにすれば、民衆はパニックに陥り、理性的な判断ができなくなる。
その事を、責任ある立場の者たちは知っている。
民衆はパニックに陥り、罪のない、関係のない、他の民衆を傷つけ始める。
もちろん、罪の意識なく。
自分たちは正しい行動をとっているのだと信じながら。
その時、誰も、傷つけられた民衆の側には注目しない。
パニックに陥っている民衆とはそういうものだ。
だから、全ての情報を開示するのは恐ろしい。
解決の方法は、時間が経つこと……それ以外に、民衆が冷静になる方法はない。
民衆がパニックに陥る理由はただ一つ。
それは、「怖いから」
先の見通しが持てなくて怖い。
自分や家族が、この先、大丈夫か分からないから怖い。
そもそも、この先、何が起きるか分からないから怖い。
だから思考停止に陥り、感情的になり、自分と違う意見、全てを否定するようになる。
では、そうならない方法はないのか?
もちろん、ある。
民衆自身が、考え続けることだ。
思考停止に陥らないようにすることだ。
「なぜ、あの人たちは、そんな行動をとったのか」と考え続けることだ。
「なぜ、あの人たちは、この行動をとらないのか」と考え続けることだ。
それが、自分がパニックに陥った民衆にならない、第一歩。
ただし厄介なのは、自分自身が、民衆自身がそう動かなければいけないということ……。
「現実的に、隠し通せないので仕方ありません」
グラハムは肩をすくめる。
現実問題として、教皇になるグラハムを除けば、アドルフィト以外の枢機卿は誰もいないのだ。
いずれは、様々なことを公にせざるを得ない。
そうであるなら、一気にやってしまおうと。
「それに私は、民は愚かだとは思っていません。狂気が去り、冷静になれば元に戻ります。私は、そう信じていますので」
グラハムが微笑みながらそう言うと、ヒューは肩をすくめ、ロベルト・ピルロは小さく頷き、オスカーは目を閉じた。
「それで……わざわざ俺たちを呼んだ理由は何だ?」
小さく首を振ってから、ヒューが問う。
「本来なら、教皇即位が発表されて、翌日には即位の儀が執り行われます。そして、民衆の前に新たな教皇が姿を現す」
「即位の儀がすぐに行われて、一年後にお披露目として教皇就任式が行われるんだよな」
「ええ、その通りです」
ヒューの確認に、グラハムが頷く。
中央諸国からの使節団は、その就任式のために来たのだ。
前教皇の。
「今回、襲撃してきたヴァンパイアたちは、さらなる攻撃を行うと思われます」
「そうなのか?」
「ええ。私を殺せなかったので」
グラハムがにっこりと笑って答える。
にっこり笑っているが、ヒューにはある種、不気味に映った。
(リョウのにっこり笑いに似ている)
なぜか、不気味の引き合いに出される水属性の魔法使い。
不憫である。
「そもそも、なぜ奴らはこのタイミングで、教会を襲撃した? ここ百年は落ち着いていたのだろう?」
「おそらくは、先日の就任式で教会が綻びを見せた、力を削がれたと見られたのでしょう」
「なるほど。潜んでいたが、今がチャンスと」
グラハムの答えは、受け入れやすいものであった。
「詳しくは、正式に決定した後に、またお伝えさせていただきますが……今回は、即位の儀を教皇庁の中ではなく、円形集会場で行うつもりです」
「円形集会場というと、先日の就任式が行われた所じゃよな?」
「はい」
先王ロベルト・ピルロの確認に、グラハムが頷く。
先日の就任式で破壊された部分もあるが、そこは教皇庁の財力と影響力によって、西方諸国中から修復に関係した人材が集められ、ほとんど元に戻っている。
「屋内ではなく、屋外でやるということは、あえて襲撃させるということか」
「はい」
「グラハム、お前さん自身が囮になるということだな?」
「はい」
ヒューの確認に、グラハムは頷く。
「ヴァンパイアを叩くのに……俺たちにも協力しろと?」
「正確には違います。使節団の皆様には、就任式の時同様に出席していただきたいのです。もし、ヴァンパイアが襲撃してきたら、ご自分たちをお守りください。教会関係者への手助けは必要ありません」
「いいのか、それで?」
「ええ。それだけでも、襲撃者に対するけん制になりますので」
グラハムがそう言うと、三人の団長は考え込んだ。
使節団は、その後ろに本国を抱えている。
中央諸国の国々は、法国を中心とした西方諸国と、いずれは正式な通商協定を結ぶことになるはずだ。
その相手からの要請であることを、まず考えなければならない。
誰だって、部下たちを危険にさらしたくはない。
だが、自分たちの役割も理解はしている。
感情に流されることが、許されない事も。
「連合は承知した」
真っ先に答えたのは先王ロベルト・ピルロ。
これまで、何千、何万と自分や部下たちの命を秤にかけてきたその経験が、決断の速さだったのかもしれない。
「帝国も承知した」
ほとんど間を置かずに答えたのは、オスカー・ルスカ。
彼の場合にはロベルト・ピルロとはまた違い、もしもの場合は自分が部下を守ればいいと割り切っての決断である。
「はぁ……。王国も承知した」
最後にヒュー・マクグラス。
正直、気乗りしていないというのは見るからに分かる。
もちろん、そう見せているのもわざとだ。
気乗りしていないのは事実だが、必要ならそれを隠す事はできる。
だが、今回はあえて見せる。
「恩に着る」
グラハムはそういうと、三人に頭を下げた。
執務室から三人の団長が出ていき、三人の大司教が入ってきた。
グラハム陣営である、シュロッター大司教、バルタザール大司教、グーン大司教だ。
そして、グラハムの後ろに立っていたステファニア大司教。
目の前に並ぶ四人の大司教に、グラハムは告げた。
「私の教皇即位と同時に、ステファニア、バルタザール、グーンは、枢機卿に上がってもらう」
バルタザールとグーンは、無言のまま頭を下げた。
ステファニアだけが、うろたえる表情になっている。
それは、とても珍しい光景だ。
「シュロッターは、さすがに大司教に上がったばかりだ。今しばらく待て」
「承知いたしております」
恭しく頭を下げる、若いシュロッター大司教。
「二十一人の大司教のうち、十一人が枢機卿に上がることになる。シュロッターの大司教内の序列も上がるであろうからな」
グラハムが優しげに言う。
だが、一人落ち着かない人物が……。
「猊下……私が枢機卿にというのは、さすがに……」
ステファニアが、ついに口を開いた。
「さすがに何だ? 若すぎるか? だが、私が勇者パーティーに選出される時に大司教に就いたのだから……大司教の経験年数的には、枢機卿に上がっても問題ないだろう」
「お、女ですし……」
「アンナ女教皇以来の、女性の枢機卿か。開明的で良いではないか」
グラハムはそう言うと、笑った。
「アンナ聖下は、ほとんど伝説的な……」
「よい。三人を枢機卿に上げるのも、派閥のためではない。必要があってだ」
「必要? もしや、対ヴァンパイアの戦闘能力……」
ステファニアが呟くと、グラハムが頷いた。
「ヴァンパイアハンターである私が教皇になるのは、ヴァンパイアたちからすれば、かなり嫌であろう」
グラハムはそう言うと笑った。
自分が、ヴァンパイアたちに憎まれているのは自覚している。
「そんな私を殺せる機会があれば、できるだけ早く殺したい。それも、集会場で聖職者たちの目の前、さらに使節団の目の前でとなれば、これほど象徴的なことはない」
四人が頷く。
「正直、戦闘力のあるヴァンパイアたちと戦うのは、普通の聖職者では無理。だが、異端審問官たちは別だ」
「はい。そもそも、異端審問庁が設置されたのは、対ヴァンパイアのためであったとうかがいました」
「その通り。ステファニアには、枢機卿に上がった後も、そのまま異端審問庁を率いてもらう」
「え……」
「いずれは規模を三倍に拡充して、恒久的に枢機卿直轄にする」
「承知いたしました」
グラハムが、本格的にヴァンパイアたちと戦うことを想定しているのが、ステファニアにも理解できたのだ。
個人戦闘力だけではなく、組織としても強くなる必要があると。
だが、それは将来の話。
今回は間に合わない。
間に合わないながらも、手は打たねばならない。
「さて……静寂の棟では手酷くやられたからな。今回は、しっかり罠を張るぞ」
グラハムが浮かべた笑いは、見慣れているステファニアからしても、恐ろしいものであった……。
「教皇襲撃 後編」は、14日21時に投稿します。
お楽しみに!
【お知らせ】
実は、3月10日小説第4巻・15日コミックス第1巻の発売に合わせまして、
東京の『書泉グランデ』『書泉ブックタワー』様にて、
『水属性の魔法使い』コミカライズ1巻発売記念フェア
が、2022年3月10日(木)~2022年4月14日(木)で、展開されます!
「コミカライズ作者 墨天業先生直筆イラスト&サイン入り色紙の展示&抽選プレゼントを開催します!!」
書泉グランデ・書泉ブックタワーで、小説1巻~4巻か、コミックス1巻を購入されますと、申し込めるそうです。
また書泉ブックタワーでは、通販もできるそうですよ!
詳しくは、以下のフェアページを!
https://www.shosen.co.jp/fair/180051/
https://twitter.com/TOBOOKS/status/1501139320694280194
また、書泉様だけではなく、秋葉原にある
『COMIC ZIN』様では、コミックス1巻に、イラストカードの特典が付くそうです!
店舗は、秋葉原駅 電気街口を出て、大きな中央通りに面した一階にあります。
交差点近くで、お店も分かりやすいです ゴーゴーカレー秋葉原中央通店のお隣ですね!
コミックスと、評論系同人誌が強いとか。
いろんなお店で展開していただいて、本当にありがとうございます!
そう、以前も書きましたけど、新宿では『ブックファースト新宿店』様で展開していただき……。
まとめると
神保町:書泉グランデ
秋葉原:書泉ブックタワー、COMIC ZIN
新宿:ブックファースト新宿店
こんなに展開してもらっている『水属性の魔法使い』……ありがたいです!
これからも、《書籍版》も《なろう版》も書いてきますから!
皆様、応援よろしくお願いいたします。




