番外 2021年最終投稿
今年最後のSSです!
「年が明けたら、アベルはお年玉をくれなければいけません」
「……」
「あの……アベル? 聞こえていますか?」
「いや、聞こえていない」
「聞こえているじゃないですか! どうして無視するんですか!」
「なんか……俺にとって不利な内容の話になりそうな気がしたから、無視した……」
アベルは元A級剣士だ。
直感が、生死を分ける経験もしてきた。
その直感が言ったのだ。反応するなと。
やはり、目の前にいる水属性の魔法使いは、顔をしかめている。
アベルが反応しなかったのは正解だったらしい……。
だが、この魔法使いはしつこいのだ。
ちなみに、名前は涼という。
「お年玉です!」
「オトシダマ? 音し球?」
「アベルはボケなくていいのです。ボケるのは僕の役割で、アベルの役割はつっこみです」
「うん、意味が分からん」
涼は時々、アベルには理解できない言葉を使う。
まあ、今ではもう慣れた。
涼は、そういうものだ。
「偉い人が、お金をいっぱいくれるのです。それがお年玉です」
「国王が、筆頭公爵に?」
「そ、そういう地位とかは気にしなくていいのです。国王は偉いのですから、お年玉をくれればいいのです」
「リョウは、もう成人だよな?」
「え? そうですよ? それが何か……?」
涼の返答はスムーズではなかった。
「お年玉ってのは、大人が子どもにやるものだろう?」
「なぜ知っている……」
アベルの冷静な指摘に、焦って思わず言ってしまう涼。
「リチャード王の時代以降、しばらくそんな風習があったと聞いたことがある」
「くっ……リチャード王……もう少しあいまいにしておいてくれれば良かったのに!」
なぜか責められるリチャード王。
もちろん、彼に罪はない。
「そもそも、リョウは大金持ちだろうが。お年玉をもらう必要はないだろう?」
「そういう問題ではないのです。金額の多寡ではなく……いや、多額をもらえれば素晴らしいのですが……」
涼は別の言い方がないか考えている。
アベルは、小さくため息をつく。
「別に、俺がお金を渡す必要もないだろう?」
「そ、そんなことはないのです。これは……風習、そう、風習なのです」
「風習?」
「ええ。お年玉は、新年の餅代、夏の氷代みたいに、みんなが貰えるものなのです。新年の餅代、夏の氷代は知っていますか? 偉い人が渡すと昔から決まっているものです。政治に携わる人たちは、みんな貰うのです」
「……なんか、胡散臭い気がする」
「うぐ……今日のアベルは鋭いです」
派閥政治、金権政治の導入失敗。
「餅代、氷代は仕方ないので、せめてお年玉だけでも……」
「まあ、考えておく」
涼が悲しそうな顔をしたので、アベルは小さく首を振ってそう言った。
(ああ、これは夢か……。そういえば新年になって、リョウにお年玉をあげたな、たいした金額じゃなかったが。大金持ちのくせに、すごく喜んでいたのを覚えている……)
…
……
………
そして、アベルは目が覚めた。
そこは砂浜。
目の前には海。
傍らには、いつもの水属性の魔法使いが倒れている。
倒れているのだが……とても幸せそうな顔だ。
むにゃむにゃ言っている。
「おい、リョウ、起きろ」
「……もう、無理。もう、ケーキは無理ですって。お腹いっぱいです……むにゃむにゃ」
「多分、ケーキなんて、ここにはないぞ」
前話同様に、《なろう版》第三部冒頭で、今回はアベルが見ていた夢の中のお話でした。
それでは皆さん、良いお年を!




