表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
471/930

番外 <<幕間>> 飛ばされた魔人とその眷属 ~その3~

三夜連続投稿の三日目です。

六人の男女が、都タントガの入口に到着した。

それぞれラクダに乗り、予備のラクダも連れている。


「ほう、なかなか立派な街じゃないか」

魔人ガーウィンが街を褒める。


タントガ周辺は、砂漠が終わり、草原となっている。


「ここが、砂漠の王国ジュルバンの都、タントガです」

そう説明したのは、人間の男。

丁寧にというより、恐る恐るという表現の方がふさわしいくらいに、弱々しい。



「おい、ボズン、まず飯だ。美味い店に案内しろ」

「かしこまりました、ガーウィン様」

魔人ガーウィンが命令し、男は何度も頷きながら答えた。


ボズンは、デビル会と呼ばれる荒くれ者たちの一人であるが、今は、ガーウィンらの道案内となっている。

しかも、道すがら、ガーウィンらが人ではなく、もっと恐ろしいものである事を理解させられていた。


「ガーウィン様、俺ら別に食わなくとも……」

「黙れオレンジュ! 俺が食いたいんだ、美味い飯を。無論食わなくとも問題はない、だが、街に来たのなら食ったっていいだろうが」

いつものようにオレンジュを怒鳴るガーウィン。


もちろん、他の三人の眷属は無言だ。


そもそも、ヴィム・ローは無口。

ジュクの声はガーウィンにしか聞こえない。

そしてイゾールダは、怒られ役をオレンジュに押し付ける。


オレンジュは、そういう役回りだった。




食事を終えた六人は、店を出た。

「うむ、確かに美味かった。ボズン、褒めてやる」

「ははっ。ありがとうございます」

六人の内、唯一の人間、ボズンは、地面に頭をつけんばかりに深々とお辞儀をした。


だが……。


「ん? そういえば、ボズン、店に金は払ったか?」

「え? い、いえ……」

「なぜ払わぬ?」

「ここは……デビル会に上納金を納めている店でして、それで飲み食いは無料に……」

ガーウィンの問いに、ボズンは少し得意そうに答える。


「それは良くないな」

「え……」

ガーウィンに否定され、ボズンは一気に顔が青くなる。


「人が、人の店で飯を食ったら金を払う。当たり前の事であろうが。すぐに払ってこい」

「はいっ!」

ボズンは、すぐに走り出し、店の会計所に駆け込んでいった。



それを不思議そうに見ていたオレンジュ。

分からないので、ガーウィンに聞くことにした。


「ガーウィン様、金を払えなんて珍しいですね」

「何を言っている、オレンジュ? 人が、人の店で飯を食ったら金を払う、当たり前の事であろう」

ガーウィンは、不思議そうにオレンジュに答えている。


そして言葉を続けた。


「デビル会が、金を納めさせる高位の立場であったとしてもだ。いや、高位の立場であるからこそ……。ジュク、どう思う?」

「……」

「やはりそうであろう? ジュクが乗っ取っていた少年公爵……公爵という、人の中ではかなり高位の立場であったが、街で食事をした場合でも金を払っていたのだろう? 当然であるよな」

「……」

「うむ、高位であればあるほど、民の規範となるのだからか。全くその通りだな。そうなると、オレンジュの言っておる意味が、俺には全く分からん」


ガーウィンはそう言うと、小さく首を振った。

その横で、少年の外見のジュクも、小さく首を振った。


「お、俺が変なのか?」

オレンジュは、顔をしかめて呟く。



そして、さらに言葉を続けた。

「ですが、ガーウィン様は、これまで一度も、人間たちに金を払った事なんてないじゃないですか」

「うむ? 当たり前だ。それがどうした?」

「え? あれ? さっきは金を払えって……」

「我らは魔人とその眷属。人より上位の存在ぞ? 人に金を払う必要がどこにある?」


もはや、ガーウィンがオレンジュを見る目は、可哀そうな人を見る目になっていた。


「お、俺が間違っているのか?」

「オレンジュよ、少し考えてみれば分かるであろうが。たとえばその辺にいる人間どもが、鶏がやっている店に行って飯を食ったとして、鶏どもに金を払って店を出るだろうか? 払うわけがないであろう? 後日、自分たちが取って食う存在に対してだぞ? オレンジュも、もう少し頭を鍛えた方がよいな」

「そのたとえ……合ってます?」


ガーウィンは自信満々に説明し、それに対するオレンジュの言葉は、本当に小さく、誰にも聞こえなかった……。



「お、お待たせしました」

しばらくすると、ボズンが金を払って戻ってきた。


「ボズン、この街で最も強い者は誰だ?」

ガーウィンが唐突に、だがにこやかに問うた。

「お、表でしたら、国王の親衛隊長ゾックラックかと」

ボズンが答えた。スムーズに答えが出てきたところをみると、有名な人物らしい。


だが、ガーウィンが気になったのは、別の箇所だった。


「表ならと言ったな? 裏にもいるのか?」

「はい。何でもありでしたら、うちのデビル会の会長バーザー様です」

これも、スムーズな答えだ。


「よし、ではそのデビル会のバーザーがいる所に連れていけ」

「え?」

「面白そうだからな」

ガーウィンがそう言うと、ボズンは一つ頷いて、先に立って案内し始めた。


ボズンはうっすら笑った。

(やっとこいつらから解放される。どうやって助けてもらおうと思っていたが、自分たちから本部に行きたいと言ってくれるとは……俺の運もまだまだ捨てたもんじゃない)




「……で、ボズン、連れてきたそいつらは何だ?」

そこは、デビル会本部の広間。


ボズンを先頭に、ガーウィンら六人が広間に入ると、怪訝な顔をして問いかけられた。

「はい、副会長。この者たちが会長に会いたいと」

「お前は、会いたいと言えば、誰でも連れてくるのか?」


ボズンの答えに、さらに顔をしかめながら副会長は問いかける。


「い、いえ、その……」

答えに詰まるボズン。


「ああ、ボズンは我らに捕まったから、助けて欲しくてここに来たんだ」

「なんだと?」

ガーウィンが笑いながら言い、副会長は言葉の意味が分からず問い返す。


「会長のバーザーとか言うのが強いのだろう? そいつが俺に勝てば、自分が解放されると思ってここにやってきたんだ」

ガーウィンが丁寧に説明すると、ボズンが驚いた表情になった。


まさかばれているとは思っていなかったらしい。



「まあ、つまり、襲撃だ。お前たちを全員殺せば、会長とかいうのが出てくるか?」

「ふざけるな! 俺たちを殺すだと?」

「ああ。やってみせようか」

「面白い! やってもらおうじゃないか。おい、お前ら……」

「やれ!」


副会長がまだ何か言っている途中に、ガーウィンが指示を出した。



四筋の風が、広間を吹き抜けた。


オレンジュ、ヴィム・ロー、ジュク、そしてイゾールダ。



三人の首が飛び、三人の首から鮮血が噴き出て、三人が石になり、三人が心臓を貫かれた。



生き残ったのは、副会長だけ。



「何が……」

副会長は、何が起きたか理解できなかった。


「お前以外が死んだようだな」

ガーウィンは、事実を告げる。


そして、言葉を続けた。

「それで、会長とやらは、まだ出てこないのか? お前も殺さないといかんか?」

「ま、待て!」



横の扉が開き、人が出てきた。

「なんだ、騒々しい」

「会長!」

出てきた、まだ若い二十代半ばの人物が顔をしかめながら言い、副会長が嬉しそうに呼びかける。


「おう、やっぱり全員殺したら出てきたな。困ったら全員殺すに限るな」

ガーウィンが嬉しそうに言う。


「……そうなのか?」

「あたしに聞かないで」

オレンジュが、囁くような声で、隣にいるイゾールダに問う。

問われたイゾールダは、めんどくさそうに答えた。



「会長とかが、この街で一番強いと聞いてきたんだが」

「ああ、俺が強い」

ガーウィンの問いかけに、堂々と答える会長バーザー。


「そうだよな。悪い事やる奴ってのは強くなきゃいかんよな。だが、どう見てもお前は……」

ガーウィンは、馬鹿にしたように笑って、言葉を続けた。

「弱そうに見える」


「貴様!」

言うが早いか、バーザーは抜剣と同時に一気に踏み込み、ガーウィンの間合いを侵略する。


鋭い横薙ぎを、上体を反らしてスウェーバックでかわすガーウィン。


袈裟懸け、突き、そのまま連続突き、切り上げ、打ち下ろし……。


だが、その全てが空振り。


剣も持たない徒手のガーウィンは、バーザーの剣を受けることもなく、もちろんかすることもなく……全てをかわしきる。



「貴様……」

「さっきから貴様しか言わんな? おっと、そういえば名乗っていなかったな。俺の名はガーウィン。魔人だ」

「魔人? 戯言を!」


正直に名乗ったのに受け入れられないガーウィン。



剣戟……ではなく、バーザーの一方的な剣の振り回しはしばらく続いた。

だが……。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

バーザーは肩で息をしている。

それも仕方ないであろう。


全力の剣が、全てかわされるのだ。


ダメージを与えるどころか、受けてすらもらえない……。

体力以上に、精神力が削られていく。



「お前は……何なのだ……」

「だからさっき言ったろうが。魔人ガーウィン様だと」

バーザーの問いに、再びきちんと答えてやるガーウィン。


「俺って優しいよな」

自分の優しさに酔うガーウィン。


「ガーウィン様って、優しいか?」

オレンジュの問いは、イゾールダに完全に無視された。



「おい、バーザーとやら、そろそろ体力もないだろう? 最後に、お前の最高の技を放って来い。避けないで受け止めてやるから」

「貴様……」

「名前教えてやったのに、結局貴様しか言えんのか……」

小さく首を振るガーウィン。


そんな皮肉は、もはやバーザーの耳には届かない。

バーザーは決意に満ちた表情になる。


最高の一撃。

それが決まれば勝負は決する。

ならば放つしかない!



そして、剣を構える。

そして、放った。


「剣技:五爪連刺」



それは、超高速の五連突き。



カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ。



五連、全てが、弾かれた。


「馬鹿な!」

バーザーが叫ぶ。


避けられるのならともかく、絶対貫通の五連撃が弾かれるだと!?



「弱い」


その言葉と共に、ガーウィンの拳がバーザーの腹に叩き込まれた。


「ぐふっ……」

崩れ落ちるバーザー。



「知ってるか? 悪い奴は、負けると、勝った奴の奴隷になるんだ」

ガーウィンの顔に、禍々しい笑みが浮かぶ。


「お前は俺の奴隷だ」

そう言うと、ガーウィンは大笑いした。



こうして、砂漠の王国ジュルバンのデビル会は、ガーウィンの配下となった。


まだ先が続きそうですよね。

とりあえず、連続投稿は終了です。

また、そのうち、続きを投稿するかもしれませんね。


あと、西方諸国にいる使節団の皆さんの方も、SSを書きたいのですが……。

いずれ、ね。



それでは、また次のSSでお会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ