番外 <<幕間>> 飛ばされた魔人とその眷属 ~その2~
三夜連続投稿二日目です。
一行が辿り着いた街は、それほど大きくなかった。
街というより、集落と言うべきか。
中心に、水が湧き出る池ともいえるオアシスがあり、その周辺に二十張りほどのテントが建っている。
「この、池の周りは、かなり涼しいな」
オレンジュが嬉しそうに言う。魔人の眷属であっても、暑すぎるのは好きではなく、涼しい方がいいのだ。
「以前読んだ本によりますと、人間は、オアシスと呼んでいるようです」
「さすがイゾールダ。オレンジュも、この姿勢を少しでも見習えば……」
イゾールダの補足を称賛するガーウィン。
「何で俺を巻き込むんすか! ガーウィン様だって知らなかったでしょう?」
「黙れオレンジュ! 俺はいいんだ。仕えるお前たちが、俺の不足分を補えばいいんだからな」
「なんて身勝手な……」
ガーウィンの自己中心理論を嘆くオレンジュ。
眷属は、色々と大変らしい……。
一行がオアシスで顔を洗ったり、水を飲んでいると、一人の老婆がやってきた。
「యాత్రికులు」
「言葉が分からん」
話しかけられた、オレンジュが呟く。
ガーウィンが目を、二、三度またたかせた。
すると……。
「旅の方々……」
「お? 言葉が理解できた!」
再び老婆が同じ言葉で話しかけたのだが、オレンジュにも理解できた。
「ああ。道に迷ってここに辿り着いた」
ガーウィンが、彼にしては丁寧な言葉で答える。
まずは、情報の収集が肝要だ。
「できるだけ早く、ここを発たれるがよろしい」
「それは何でだ?」
「そろそろ、『デビル会』の者たちがやってくる。そちらの美しい娘さんを見たら、絶対に自分たちのものにしようとするじゃろうから」
老婆は、イゾールダの方をチラリと見てそう言った。
「デビル会だそうだ。デビルって、あのデビルか?」
「違うでしょ。そもそもデビルは、女に興味はないから」
オレンジュとイゾールダが囁き合っている。
「だったら、ネーミングセンスが壊滅的だな」
「同意するけど……あんただったら、どんな名前を付けるのよ?」
「当然、俺ならオレンジュースだな!」
「うん、聞くんじゃなかったわ」
そんな、オレンジュとイゾールダの会話を聞き流しながら、ガーウィンは老婆に問うた。
「その、デビル会とやらは、何しに来るんだ?」
「あたしらから、金と食料を巻き上げるためさ」
「ああ、なるほど。悪い奴らなんだな」
ガーウィンは、笑いながら言う。
なぜか嬉しそうだ。
「そいつらは、どこから来る?」
「そりゃ、都のあるタントガだよ」
「ほぉ、都か。都は遠いのか? でかいのか?」
「都だからね、大きいよ。オアシスを二つ越えた先だけど……。都に行きなさるんか?」
「そうだな。それもいいなと思い始めた」
それから、一時間後。
一行五人は、老婆の助言を無視して、オアシスの淵に座って休んでいた。
オアシスの周辺は、驚くほど涼しいため、オレンジュはずっと眠りこけていたが。
ついに、西の砂漠からラクダに乗った男たちが現れた。
その数、十二人。
「おう! いつもの集金……」
先頭の男が、叫んでいた言葉が途中で途切れた。
その男だけでなく、他の者たちも、視線が一カ所にくぎ付けになる。
それは、近付いてくる黒髪の美女。
その美女が口を開いた。
「あなたたちが、デビル会?」
「ああ、そうだ」
その瞬間、魔人ガーウィンが、禍々しく笑ったことに気付いた者はいない。
そして、命令が下される。
「一人だけ生かせ。案内させる」
そして、デビル会の間を、三筋の風が吹き抜けた。
オレンジュ、ヴィム・ロー、そしてジュク。
四人の首が飛び、四人の首から鮮血が噴き出て、三人が石になった。
「え? あれ?」
デビル会の先頭で、イゾールダと話していた男だけが無傷。
だが、喉元には、イゾールダによって抜身の剣を突き付けられている。
「あなたは捕虜。私たちを都まで案内しなさい」
「はい……」
こうして、ガーウィン一行は、乗り換えまで含めた十二頭のラクダと、案内人を手に入れたのであった。