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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
466/930

番外 <<幕間>> コミカライズ第2話配信記念 総騎士団長兼筆頭騎士

タイトルの通り、本日コミカライズの第2話が配信されました。


墨天業 (ボクテンゴウ)先生によるコミカライズ

『水属性の魔法使い@COMIC』

https://seiga.nicovideo.jp/comic/55002?track=official_list_l1


https://twitter.com/TOBOOKS/status/1451020423525699586


それを記念して、小説もSS投稿しました!

ハンダルー諸国連合首都ジェイクレア、執政執務室。


「閣下、大変です!」

補佐官ランバーが、ノックもせずに飛び込んできた。

これは非常に珍しい事であり、同時に、驚くほど厄介な事が起きたということでもある。


一瞬で、そう心を整えた連合執政オーブリー卿は、あえて落ち着いた声で問う。

「どうした?」


それによって、ランバーも自分がかなり慌てていたことに気付いた。

だが、それだけの報告があるのもまた事実。


「先ほど、ストラ侯国軍がナイトレイ王国に攻め込んだとの事です」

「なんだと!」

想定外のランバーの報告に、さすがのオーブリー卿も声を荒げた。



ストラ侯国は、ハンダルー諸国連合を構成する国の一つ。

それも、十人会議に席を有する、連合十大国の一つだ。


連合を構成する国のうち、西部国境で外国と境を接する……つまり、王国や帝国と国境を接するのはヴォルトゥリーノ大公国のみ。


のみ、なのだが……幅が百メートルだけ、という奇妙な場所がある。


カンタノ地域と呼ばれるその場所は、現在では明確にヴォルトゥリーノ大公国に帰属しているが、かつてストラ侯国に属していたことがある。

ストラ侯国からは、そのカンタノ地域を通り抜けると、すぐに王国領に入ることができる。


実際、過去にもそのルートで王国に侵攻したことがある……何度も。

おそらく今回も、そのルート……。




現在のストラ侯爵ヴィースン・ガスコは、二十代後半。

その統治は、オーブリー卿に言わせれば、可もなく不可もなくといったところ。


だが、性格が……。

「もう少し思慮深く、慎重になれば……」

オーブリー卿はため息をついた。


「先代のアリーチョ様は、手堅い方でした」

「カンタノ地域を挟んで王国国境があるのだ。あれくらい手堅くないと、こちらとしては常に心配せねばならん」

補佐官ランバーが先代ストラ侯爵を思い出し、オーブリー卿が頷いて答える。



元々、先代アリーチョは、嫡男であったヴィースンではなく次男を後継者にしようとしていたという噂があった。

だが、その噂が上がってすぐ……アリーチョは事故死。

当時二十三歳であった、嫡男ヴィースンがストラ侯爵となった。


そして、当然のように、二年後、後継者に据えられたかもしれない次男は死去。


ヴィースンは競争相手がいなくなった。


「先代アリーチョ様が亡くなられた時、閣下が手を回したのではないかと噂されました」

「まったく……俺だって馬鹿ではないぞ。連合全体の事を考えれば、ストラ侯国は非常に重要な国だ。そこは、アリーチョのような手堅い人物が統治している方がいいに決まっているだろうが。それをなんで、わざわざ殺すかよ」

「まあ、タイミングがタイミングでしたから……」

オーブリー卿がため息をつき、ランバーが苦笑する。


オーブリー卿が執政になり、十人の内九人が代替わりした十人会議……その九人の内の一人が、アリーチョだ。

オーブリー卿が疑われたのも仕方ないであろう。



「それで、今回、ヴィースンはどんな理由で王国に攻め込んだんだ?」

「国内で暴れていた盗賊団が、カンタノ地域を通過して王国に逃げ込んだのだそうです。それを討伐するためにとか」

「なんだ、それは……」

ランバーの報告に、ため息をついて呆れるオーブリー卿。


「さすがにヴィースン殿も馬鹿ではないでしょうから、王都から軍が来る前には撤収すると思います。二日ほどでしょうか」

「王都からならな」

ランバーの推測に、オーブリー卿は小さく首を振る。


「それはどういう意味でしょうか?」

「ランバー、これは罠……というか謀略と言うべきか。王国宰相ハインライン侯あたりの仕掛けだ」

「え……」

オーブリー卿が面白くもなさそうに言い、ランバーが驚く。


「おそらく、王国騎士団が国境近くに伏せてある。あるいは、ワルキューレ騎士団もか。そして、国境を侵犯したストラ侯国軍を完膚なきまでに叩きのめす……。国境侵犯した軍を攻撃するのだ、完全に王国側に大義がある。まったく……面倒な事をしてくれたもんだ」

「謀略ということでしたが……いったい?」

「お披露目(ひろめ)だよ、新たな総騎士団長兼筆頭騎士の」

「西の森のセーラ殿?」

「ああ。国王アベル陛下がいないのは、ほぼ確実。発表はされんだろうがな。だが、いなくとも盤石(ばんじゃく)であるということを示すために、ダシに使われたのだ」


オーブリー卿は顔をしかめながら説明した。


心底(しんそこ)、面倒な事をしてくれた、という表情だ。


「セーラ殿が総騎士団長兼筆頭騎士になると発表された時に、閣下は仰っていましたね。アベル王が国内にいないのは確実だと。それを確定させてしまうのでは?」

「いいんだ。ハインライン侯が防諜を担っているとはいえ、それでも完全に情報を遮断することはできん。連合も帝国も、アベル王がいないという事は、いずれ確定情報としてとらえる。だから、それすらも謀略として使おうというのだ、ハインライン侯は。あえて、このタイミングでセーラ殿を表に出して、王国に隙がないという事を見せつける。これだけやられれば、我が連合も、そして帝国も、簡単には王国に手を出せん」

「謀略の世界というのは凄いですね」


オーブリー卿の説明に、ランバーは感心している。

ランバーは、そういった搦手(からめて)に関しては、全く疎い……。


「西の森のセーラ……確かに恐ろしいエルフだ。だがそれ以上に厄介なのだ、あの宰相は……」

オーブリー卿はそう言うと、深いため息をつくのであった。




「セーラ様、投降した敵は二千三十人とのことです。当初の予定通り、レッドポストへの移送準備調いました」


ここは王国東部国境近く。

先ほど、王国騎士団、魔法団とワルキューレ騎士団が、国境を侵犯してきたストラ侯国軍を包囲殲滅(せんめつ)し、完膚(かんぷ)なきまでに叩きのめした。


結果、二千人以上の捕虜を得た。

連合との交渉に備えて、国境の街レッドポストに捕虜たちを移送する……そこまで、計画の一部として練られている。


全てを計画した、宰相アレクシス・ハインライン侯爵によって。


「さすがはアレクシス殿の計画。完璧であった」

セーラはそう言った。


だが……。


「だが……ドンタン団長、王国騎士団の動き、どう思う?」

特に厳しい声というわけではない。

だが、問われたドンタンの身は引き締まる。

まるで、かつての王国騎士団長、現在の宰相アレクシス・ハインライン侯爵に問われたような、そんな無形のプレッシャーを感じる。


「はっ……。未だ、もう少し鍛えた方が良いかと」

「ふむ。ドンタン団長もそう思うか」

ドンタンが答えた時、すぐ後ろに控えた二人の騎士の内、一人は少しだけ顔をしかめた。

彼の名はスコッティー・コブック中隊長。


だが、もう一人の騎士は、終始顔を赤らめている。

彼の名はザック・クーラー中隊長。


そして、ザックは口を開いた。

「そ、総騎士団長に意見具申(ぐしん)したく思います!」

ザックのその言葉に、ぎょっとした表情で見るスコッティー。

嫌な予感がするらしい。


「ふむ、クーラー隊長、どうした?」

「はい! 王国騎士団はまだまだ伸びしろがあると思います。今の倍の訓練を課すべきかと思います!」

ザックは、真っ赤な顔のままそう言い切った。


さすがにその提案には、ドンタンも目を見張って驚く。


「ははは、クーラー隊長はやる気に満ちているな」

セーラは笑う。


それを見たザックは、もはや天にも昇る心地だ。

倍の訓練を課されるかもしれない部下は……ザックを恨むだろうが。


「だが、さすがに倍の訓練はやりすぎであろう。ドンタン団長、二割増しくらいから始めてはどうだろうか」

「はい。仰せのままに」

セーラの提案で、部下たちは救われた。ちょっとだけ。



それまで黙っていたワルキューレ騎士団団長イモージェンが口を開く。

「セーラ様、お尋ねしたいことがあります」

「どうした、イモージェン団長」

「我々は、以前、ルン辺境伯領騎士団と手合わせをしていただいたことがあります。まことに、王国でも屈指の精鋭騎士団でした。セーラ様は、ルン騎士団の指南役を長年されていたとか……」

「うむ、していた。懐かしいな」

「今、我々や王国騎士団へのご指南と比べて、どのようなものであったのかを教えていただければと……」


イモージェン率いるワルキューレ騎士団は、かつてルン騎士団と模擬戦をしたことがある。

その際に、あまりの力の差に愕然とした。

それ以来、ルン騎士団を目標に鍛えてきたといっても過言でない。


目の前にいる総騎士団長は、長年、そのルン騎士団を指南役の一人として鍛え上げてきた人物。

であるならば、この機会にきちんと聞いておきたいと思ったのだ。



「ああ……。まずルン騎士団は、入団したばかりの子らに、マックス・ドイルが指南役として剣を教える。ヒューム流の、正統派剣術なのだが、マックスは教え方が上手くてな。けっこうすぐに強くなる。そうやって強くなった者たちの……心を、私が鍛える」

「心?」

「うむ。まあ、簡単に言えば、何度も叩きのめすのだ」

「えっ……」

「戦場に限らず、強い者に負かされるというのは、誰しもが経験する事だ。その度に立ち上がってこそ、次の強さの段階に挑んでいける……私は、そう考えている。だから、模擬戦で何度も負かす。もちろん、終わった後に、どこが悪かったとか、どこをどうすればもっと良くなるとか、そういう指導はするぞ? だが、基本的には心を鍛える。ただし、負けてばかりだと、人の心は弱くなる……負け癖がつくというのとは、少し違うのだろうが……。そう、リョウはこう言っていたか……」

そこで、一度セーラは言葉を区切った。


涼を思い出していた……。



「勝つことによってしか、自信はつきません。自信をつけるには、成功体験を積み重ねるしかないのです」


涼の口調を真似て言うセーラ。

嬉しそうだ。



「まあ、リョウが言う前から、ルン騎士団は、時々成功体験を積ませていたようだがな。魔物の討伐をしたり、他の騎士団と模擬戦をしたり」


セーラがそう言うと、イモージェンは驚いたように目を見開いた。

ワルキューレ騎士団とルン騎士団の模擬戦を思い出したのだ。


それを見て笑うセーラ。

「ワルキューレもダシに使われたか」

「そうかも……」

「まあ、何においても、一方的に恩恵を受けるなどということはないからな。ワルキューレは経験を積み、ルン騎士団は自信を手に入れた。ルン騎士団長のネヴィル殿は頭の回転が速いからな。いろいろ、細かいところまで考えてある」

「いえ……確かに、いい経験になったので、恨んだりはしておりません」


セーラの言葉に、イモージェンは一つ大きく頷いて答えた。



「それで……ああ、そうそう、ルン騎士団を鍛えた内容であったな。私がやったのはそれくらいだから、たいしたことはない」

「……」

「あと、リョウが私と模擬戦をするようになってから、アドバイスとして取り入れたのが、六十分間連続戦闘だな」

「六十分間……」

「連続戦闘?」

セーラが思い出したように言い、ドンタンが絶句し、イモージェンが疑問を呈す。


「そのままだ。六十分間、模擬戦をし続ける。水分補給などは、実戦形式で、各自で戦闘の合間や場合によっては戦いながらでも行う」

「それは……過酷ですな」

ドンタンが呟くように言う。


「まあ、実際の戦場では、一時間以内に戦闘が終わるとは限らんしな。一番激しい局地では、交代要員がいない場合もあるだろう? それを想定してだ。当然、隊の中で、適時休ませたりもする。隊員もそうだが、指揮官たちの訓練でもあるな。戦わせる部隊と、休ませる部隊とを、うまく回す訓練。そういえば、訓練が、本番よりぬるいのはどうかと思うんです……とリョウは言っていたか」

そう言うと、セーラは再び笑った。


今度は、弾けるような笑み。

涼の事を思い出すと、笑顔がこぼれるらしい。


「リョウ殿……ロンド公爵閣下は……烈しい方ですな……」

ドンタン団長は言い、イモージェンも頷いた。



涼を誤解する人物が、また増えた。



だが、これを聞いて、決意を新たにした騎士もいた。

「六十分……なら、おれは、百二十分連続戦闘で鍛えて、奴を超える!」

ザックの小さな声での決意を、スコッティーは横目に見て小さく首を振った。


そして、誰にも聞こえないように呟いた。

「負け戦だぞ……ザック」


墨天業 (ボクテンゴウ)先生によるコミカライズ

『水属性の魔法使い@COMIC』

https://seiga.nicovideo.jp/comic/55002?track=official_list_l1


本日2021年10月21日、第2話が更新されました!

ついに、ついに……初めての○○ですよ!


まだ見ていない方は、ぜひ見てください。



そして、小説の方は、お披露目です。

ええ、お披露目はしておかないといけませんよね。





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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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