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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
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0434 涼の不覚

「リョウ!」

花の咲くような笑顔を浮かべて、涼に真っ先に抱きついたのは、セーラ。


「やあ、セーラも来てたんだ」

涼も笑顔いっぱいでセーラを受け止める。


「国の危機だからな。真っ先に駆けつけたぞ」

「真っ先ではなかったが……何とか間に合いはした」

セーラが言い、それを微妙に否定するおババ様。

「気持ちは真っ先だった」

「う、うむ」

セーラもおババ様も、遠い所からだったので仕方ないのだ。



「リョウ……戻ってくるなと言ったのに」

「アベルが変な事を言うから焦りましたよ! 王国はもうダメだとか、中央諸国にはもう戻ってくるなとか。僕がいなくても十分やれてたんじゃないですか?」

「いや、あの時は、セーラもローマンやナディアも、まだ来てなかったから……」

涼が、アベルの『魂の響』で最後に言った言葉をなじる。


「そう、ローマンもナディアも……ああ、マーリンさんに挨拶していますね」

涼は、マーリンに挨拶するローマンとナディアを見た。

ちなみに、マーリンの傍らには、棺桶大の箱がある。

中に何が入っているのかは……言うまでもあるまい。

長距離転移に足りなかった西ダンジョンに魔力を充填しても余りあるほどのエネルギーを持った……堕天した……。


「ご無沙汰しています、マーリンさん」とか「ローマンもナディアも大きくなって」とか会話が聞こえてくる。

マーリンは、完全に二人のおじいちゃんポジションである。


「マーリン? あの赤い老人か?」

「ええ。魔王軍参謀の、善い魔人さんです」

「そうか、魔王軍の参謀……ん? 魔人!?」

驚くアベル。

当然だろう。先ほどまで戦っていた相手が、魔人なのだから。


「だから、『善い』魔人です。さっきみんなが戦っていた……マーリンさんが言うにはガーウィンとかいう魔人らしいですけど、それとは違いますよ」



「陛下、剣を」

ドンタンが、転がっていたアベルの魔剣を拾い、アベルに渡す。

アベルは受け取って、ようやく愛剣を支えに立ち上がる事ができた。



ちなみに、その間も、セーラは涼に抱きついたままだ。



そこに至ってようやく、神官たちは立ち上がれるほどに回復したようであった。

涼が神官たちを見て、驚きの声を上げた。

「あれって……『長距離拡散式女神の慈悲』じゃないですか! あんなものを引っ張り出して……本当に戦争だったのですね」

「あれのおかげで、何とか戦線が崩壊せずに済んだ。神官たちと……ケネスのおかげだ」

アベルは、言いながら、『長距離拡散式女神の慈悲』の傍らで眠り続けるケネスを見る。

「ケネス?」

涼は訝しげに見る。


すぐに、ケネスが右手に握りしめているものが目に入る。

本体はもう砕け散ってそこにはないが、首からかけるために付けてあった紐は、見覚えがある。


「ああ……格納式バレットレインを発動したのですか……」

「格納式? まあ、詠唱無しで発動した。あれは、錬金術か?」

「ええ。使い捨てにも関わらず、かなり貴重な材料を使う……その上、体内の魔力を全消費してしまうそうです」

「とんでもないな……」

涼の説明に、驚くアベル。


「風の最上級攻撃魔法を詠唱無しで強制発動するのですから……。でも、現状ではとても実用的とは言えないとか言って、ケネスもプロトタイプしか作っていなかったんですよね。それを使わざるを得なかったとは……」

「あれは凄かったぞ。あの装置の前に立ち塞がって……バレットレインで、魔人を穴だらけにしてな。封印するためだったのだが、結局封印は失敗し、魔人は再生した……」

「え……」



その瞬間、涼は抱きついていたセーラを突き放した。



なぜ? という表情のまま離れるセーラ。


そして、見た。


涼の胸、正確に心臓の位置から『生える』腕を。



そして、溢れ出る血。



「ゴフッ」


涼の口からも血がこぼれ出る……。



「知っているぞ、妖精王のローブは、僅かでも魔力を纏っていれば全て弾き返す。だが逆に言えば、完全に魔力を消し去れば貫くことができる」


その声は、この場にいる涼以外の者たちが知っている声。

先ほど、消滅したはずの者の声。

おぞましい……魔人ガーウィンの声。



両膝をつく涼。



ガーウィンの左肘から先だけが、涼の胸を貫いていた。



ガーウィン本体は、少し離れた場所に、急速に再生され……。


「ガーウィン様、復活」

そう言って笑う魔人が復活した。


来た、見た、勝った……だけでは終われません!

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『水属性の魔法使い』第三部 第1巻表紙  2025年3月19日(水)発売! html>
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