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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 最終章 魔人大戦
449/933

0423 ウイングストン潜入

「ウイングストンに行けと言われたから来たけど……微妙に、物々しい?」

「ああ……巡回している兵が多い……か?」

「多分、あれって、騎士団だよね」

「普通に、街の衛兵もいるな」

剣士ヘクター、槍士アイゼイヤ、斥候オリアナ、神官ターロウが、街中で周囲を見回して感想を言い合う。

四人の言葉を聞いて、土属性魔法使いのケンジーは無言のまま頷いた。

元王都所属C級パーティー『明けの明星』の五人だ。


現在、ハインライン侯爵領の都アクレ所属の冒険者として、活動している。


正式なC級パーティーではあるが、ハインライン侯爵や、その嫡男でハインライン侯爵領の政務のほぼすべてを取り仕切る、フェルプス・A・ハインラインから請け負う仕事の方が多いのだ。

これらは、冒険者ギルドを通さない仕事であり、ギルドの依頼達成数にはカウントされないため、未だにC級のまま……。


もちろん、C級冒険者といえば、一流冒険者であるため、侮られることはない。


そもそもハインライン侯爵家からの依頼は、報酬がべらぼうに高い……。

ただし、依頼内容も危険なものが多い……。

ついでに、国内どころか、国外にまで行くことが多い……。


でも、お金はいっぱい貰える!


「さて、それじゃあ準備しようか」

「うん」

剣士ヘクターが言い、斥候オリアナが答えた。

他の三人も頷く。


今回の依頼も、極めつけに危険なもの……。

しっかりとした準備をしなければ。




「なあ、スコッティー。ほんとに、俺ら二人とも出てきてよかったのか?」

「いや、そう言われても……。確認はザックしかできないが、俺はその護衛的なものなんだろ。だいたい、ドンタン騎士団長殿自らの命令で、しかも大隊長殿がわざわざやって来て、俺らの隊を引き受けてくれたんだし。行くしかなくない?」


王国騎士団中隊長ザック・クーラーと、同じく中隊長スコッティー・コブックは、ウイングストンの城門が見えるところにまで来ている。

今さら引き返すことなど不可能。


そう、今さらなのだが……ザックは、ハフリーナの街を出てから、ずっと、何度も何度も、同じような問いかけをしていた。


基本的に、豪放(ごうほう)磊落(らいらく)と思われているザックが、こう何度も同じ問いを繰り返すのは珍しい事ではある。

だが、付き合いの長いスコッティーは知っている。

ザックは、自分に関しては頓着(とんちゃく)しないが、部下や後輩たちにはかなり気を配る人間であると。


親分肌、というのとは少し違うが……。

人は、見た目だけで判断してはいけないのだ。



そうこうしているうちに、二人はウイングストンの城門をくぐった。


衛兵は立っているが、特に出入りする者たちの荷物や身分を確認したりはしていない。

公爵領の都であり、王国東部最大の街でもある。

しかも、王国解放戦からの復興の途上という事もあり、尋常ではない人通りだ。

それらを、いちいち調べるというのは、現実的ではないだろう。


「良かったな、ザック。俺ら、商人という事になっているけど、ちょっと調べられるだけですぐに嘘だとバレただろうからな」

「しょうがないだろうが。王国騎士団員として入るのはもちろんヤバい。だから、冒険者として入るのが一番しっくりくるんだろうが、あのギルドカードは偽造不可能だ。見た目だけならともかく、調べられたらすぐに偽造だとバレる」



中央諸国の冒険者ギルドカードは、偽造不可能だと言われている。

かなり高度な錬金術によって生み出されており、一説では王国中興の祖リチャード王が生み出したという言い伝えすらある。


まあ、『高度な錬金術』と言った場合、たいてい、『リチャード王によって生み出された……』と言われたりするため、ホントか嘘かは今となっては誰にも分からないのだ。

ただ、偽造ができないのは本当なため、二人は商人に化けた。


商人も、いちおう商人ギルドというものがあり、所属している者たちは商人ギルドカードを持つが、現実的には商人ギルドに所属していない商人がほとんどだ。


商人ギルドは、互助会的にサポートを受ける事ができるが、会費を払うのはもちろん、金銭面以外の協力を求められることもしばしば……。

そのため、若い商人であればあるほど、商人ギルドには所属せずに商売をしている。


領主の方でも、競争を促した方が、経済が発展すると考える者が多いため、商人ギルドに所属していようがいまいが、街での商売を制限されることはない。



そういう理由で、ザックとスコッティーは、フリーの商人としてウイングストンの街に入ったのだった。



二人に与えられた任務は、シュールズベリー公爵家が魔人と繋がりがあるかどうかの確認だ。

具体的な方法として、ザックが対峙した上級眷属が、公爵邸に出入りしているかどうかを確認する……。

そのため、実際にその上級眷属の顔を知っているザックに、直接命令が下った。


二人は、昼食と作戦会議を兼ねて、街の食堂に入り、会話を交わしている。


「ウイングストン政庁までは、まあ誰でも行ける。公爵邸は政庁に隣接しているとはいえ、敷地内には簡単には入れない。しかも、その公爵邸の中でも制限されている、『別館』と呼ばれる一角に出入りしている可能性があるんだろう? ザック、いい考えがあるとか言っていたよな。どうするんだ?」


スコッティーの問いに、ザックは重々しく頷き答えた。


「さすがに昼間近づくのはまずいからな。夜、公爵邸に忍び込んで確認する」

「はい、だめー」

ザックの作戦に、間髪を容れずに否定するスコッティー。

その否定の速さは、予測していたかのような速さ。

長年の付き合いによる『先読み』というのは、馬鹿にできない。


「なんでだよ! じゃあ、何か? 昼間潜入しろとでもいうのかよ!」

「いや、夜がダメとかじゃなくて、『潜入する』という方法そのものへのダメ出しだ。それくらい分かれ」

逆ギレのザック。

ダメ出しのスコッティー。


「潜入して、もし見つかったら……いや、魔人の眷属たちがうようよいれば、まず間違いなく見つかるだろう。そんな所に行って、無事に戻ってこられるわけないだろう」

「じゃあ、どうしろってんだ!」

スコッティーの冷静な指摘に、言い返すザック。


「指示書に書いてあったろう。『赤鎧』たちは、公爵邸から百メートル離れた貴族の屋敷に出入りしている。そこから、地下道で公爵邸別館に繋がっていると。その貴族の屋敷とやらを見張るのが、筋だろう」

「うっ……」

スコッティーの理路整然とした説明に、何も言い返せないザック。


「ザック……やっぱり、指示書、適当に読み飛ばしたんだな……」

「そ、そそそそそんなわけないだろうが。スコッティーくんは、何を言っているのかな」

スコッティーの呆れた指摘に、明らかに動揺するザック。


それを見て確信するスコッティー。

小さく首を振りながら言った。

「俺もついて行けと言われたのは、こんなことを想定してだろうな……」

「むぐぐ……」


二人は、いいコンビなのだった。




その屋敷は、大きくはないが、瀟洒(しょうしゃ)な外観と言ってもいいものだ。

夕刻を過ぎると、家の中で明かりがつき、明かりの前を人が横切ったりしているのがカーテン越しに見える。

誰かしらは、中にいるらしい。


「なあ、スコッティー。本当に、あの屋敷から公爵邸に繋がっているのか?」

「俺に聞かれてもな……。ドンタン団長から回ってきた指示書には、さすがに情報源は書いてなかったが」

「もしそれが本当だとしたら、かなり詳しく調べられている……よな」

「そうだな。恐らくは、宰相閣下の諜報網なんだろう」

「先々代の騎士団長か……」

スコッティーが情報源を推測し、ザックが小さく頷きながら納得した。


宰相ハインライン侯爵は、先々代の王国騎士団長であり、現騎士団長ドンタンのいわば師匠にあたる。

そして、その情報収集力は、中央諸国屈指と言われ、その情報収集力が、かつての『大戦』において、王国を大勝に導いたとさえ言われているのだ。


「鬼のように厳しかったんだよな?」

「二つ名が『鬼』だからな」

ザックがなぜか(ささや)くように言い、答えるスコッティーも抑えられた小さな声である。


普通の大きさの声で話せば、その『鬼』に聞こえるとでも考えたのだろうか……。



二人がいるのは、監視する屋敷の裏口が見える酒場の窓際の席。

お酒を飲みながら、建物の中から監視できるという、絶好の場所!


見つけたのはザック・クーラー中隊長だ。

こういう事に関しての嗅覚(きゅうかく)では、スコッティーはザックに遠く及ばない。


「相変わらず、こういう才能は凄いよな」

「なんだ、その人を小ばかにした言い方は。そのおかげで、快適な監視ができるんだろうが」

スコッティーが呆れたように言い、ザックがいかにも心外だという風に反論する。


こういった大きな街の酒場は、深夜どころか明け方までやっているところが多い。

競争が大変なのか……。

明け方まで飲んだくれたい客が多いからなのか……。

どちらにしろ、二人にとってはありがたい。




二人が監視を始めてかなりたった深夜、監視対象の屋敷から、四人出てくるのが見えた。

深夜であっても、錬金道具『街灯』が灯っているため、それなりに見える。

だが四人とも、マントとフードをかぶっているために顔は確認できない。


「ザック、どうだ?」

「先頭のやつは……身長とかは似てる気がするんだよな。体格も。だが、確証はない」

スコッティーが聞き、ザックは顔をしかめながら答える。

(くだん)の魔人の眷属な気はするが、確証が持てない。

だが、二人が派遣されてきたのは、確証を得るためだ。


「やむを得ん。あの四人を追う」

「しょうがないか……。あの屋敷は、あくまで公爵邸への地下の入口であって、魔人の眷属たちが集まっている場所は別にあるはず、と指示書にも書いてあったからな。そっちを見つける事ができれば、儲けものか」

「そうなのか?」

「ああ……ザック、指示書は隅々まで読めよ」

「うっ……」

スコッティーの言葉に、何も言えなくなるザック。


彼も分かってはいるのだ。

分かっているし、部下を率いる場合にはちゃんと目を通しているのだが……。

「目が滑るんだ……」

「昔から、文章読むの好きじゃなかったもんな」

ザックが小さく呟きながら席を立つ。

スコッティーがため息をつき、言いながらこちらも席を立つ。


「そこは、アベルを尊敬していた」

「まがりなりにも王子様だったからな。授業をさぼる事はあったが、アベルはよく本を読んでいた……」

ザックもスコッティーも、アベルの読書好きは覚えている。



どんな世界においても、読書は大切らしい。



二人は酒場を出ると、すぐに気づいた。

「おい、あれ……」

「ああ。俺たち以外にも、さっきの四人を追っている奴がいるな」


二人の少し前を、陰に潜みながら四人を追う者たちがいた。


「三人、か?」

「三人、だな」

ザックの確認に、スコッティーが頷いて答える。



屋敷から出てきた四人。

それを追う三人。

さらに追うザックとスコッティー。


追跡はしばらく続いた。


ウイングストンは、東部最大の街というだけあって、街の広さはかなりのものだ。

広大、と言ってもいいだろう。


街の中心付近に、政庁と公爵邸、さらにウイングストン神殿があり、そこから放射状に街が広がっている。

今回の屋敷は、公爵邸の北側にあり、出てきた一行は、北東の方に足早に移動している。


「さすがに東部一の街だが……さすがに、そろそろ城壁が近いんじゃないか?」

「ああ。大きな家は、もうほとんどないな」

ザックが問い、スコッティーが答えた時。



二人は、無言のまま、いきなり後方に跳んだ。


二人の頭があった場所を、二本の剣が薙ぐ。


道路の両脇、陰から剣が出てきたかのような……。


「くそっ。尾行がばれていたか」

「俺たちだけじゃないみたいだぞ」

ザックが悪態をつき、スコッティーが、前方を見る。


前方では、二人の前を追っていた三人が、一瞬のうちに打ち倒されていた。


「やばいな」

「逃げるぞ」

スコッティーが言い、ザックが決断する。



「もう遅い」



カキンッ。


打ち下ろされた剣を受け止めるザック。

剣を振るった男は見たことがある。

その男がいるかどうかを確認するために来たのだから……。


「また会ったな。ハフリーナの隊長さん」

そう言ったのは、オレンジュ。



ザックは、魔人の上級眷属が出入りしていることを確認できた。

もっとも、その情報をしかるべき相手に届ける事ができるかどうかは、また別問題のようだが。


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