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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第八章 教皇就任式
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0416 完全勝利?

「మీరు అబ్బాయిలు……」

来賓席で、今にも化物クモの魔法で殺されそうになっていた男が二人にしゃべりかけた。


「中央諸国使節団の冒険者です。うちの団長とグラハム枢機卿の指示により、皆さんを守ります」

「他に怪我している方はいませんか?」

涼がさりげなくグラハムの評判を上げ、エトが見える範囲の怪我にヒールをかけながら問いかける。


「అతని దాడి మేజిక్ శక్తివంతమైనది!」

涼たちの理解できない言葉で言われている。

来賓たちも、言葉が通じていないことを理解したのであろう。ポケットから何やら取り出し、右耳にかけた。


そして、再び話す。

「అతని దాడి మేజిక్ శక్తివంతమైనది!」《あいつの攻撃魔法は強力だぞ!》

「自動翻訳機!」

来賓が話した後に、耳にかけた機械が、涼たちの理解できる言葉を発した。


《これは、中央諸国語に翻訳してくれる錬金道具だ》

かなり高性能な気がする。

「久しぶりに、リアルとファンタジーを兼ね備えた道具を見ました」

涼の呟きには、誰も答えなかった。



《<マジックシールド>が一瞬で消滅させられたよ……》

《魔法四つ、同時発動したぜ?》

《あれ、化物……》

来賓たちが口々に言う。


誰かに、自分の恐怖体験を聞いてもらいたかったのだろうか。分からないではない。


とはいえ、化物クモは待ってくれない。


「<ファイヤーカノン>」

「<ファイヤーカノン>」

「<ファイヤーカノン>」

「<ファイヤーカノン>」


火属性の十連射攻撃魔法<ファイヤーカノン>の四連斉射。

中央諸国にはない魔法。


だが……。


「認めたくないけど、帝国のあいつの火属性魔法の方が、強かったですよ。<アイスウォール複層氷30層>」

さすがに<ファイヤーカノン>四連斉射を受けきると、涼の氷の壁すらかなりのダメージを負う。


そのため、新たに張り直したのだが……。


「あいつの魔法相手だと、積層が必要でしたからね」



はっきり言って、爆炎の魔法使いの攻撃魔法の方が強かった。

しかも、今回、涼は攻撃する必要もない。

守っているだけでいい。


とどめを刺すのは、涼ではないのだ。



それは……。


ザシュッ、ザスッ。



化物クモの後ろから一気に迫った、聖剣を持った二人の剣士。


飛び上がったアモンがサカリアス枢機卿の首を斬り飛ばし、背中から腹まで達したニルスの剣が腹部にあった教皇の頭をも貫いた。

後方からの奇襲によって、化物クモ前面を守っていた<絶対聖域>が消える。

「<アイシクルランス4>」

涼が放った四本の氷の槍が、四つの膝にあった四司教の顔を刺し貫いた。


アモンとニルスが化物クモから離れる。


念には念を入れて。


「<スコール><氷棺>」

ニール・アンダーセンに対したのと同様に、涼の水で濡らしてからの氷漬け。


五つの顔を潰され、一つの顔を斬り飛ばされた化物クモは、氷漬けとなった。

もちろん、斬り飛ばされたサカリアス枢機卿の頭も、同じように氷漬けである。


その瞬間、集会場にいた『霊煙』はすべて消滅した。

集会場の外の『霊煙』も消滅したのだが、それはこの場では分からない……。



完全勝利であった。



それを理解した者たちは笑顔になった。


ようやく、安全になった。

それを理解したのだ。



それは、ヒュー・マクグラスや、ロベルト・ピルロだけではなく、グラハムにおいてさえもである。



誰もがそう思った。



ただ一人を除いて……。



「……本当に、次元の壁を越えての顕現(けんげん)は不可能なのでしょうか?」

ただ一人……涼は、ずっと引っかかっていたことを思い出していた。


不可能なら、これで終わりだ。

こちらでの()(しろ)、あるいはリモコンのような化物クモを失った『堕天使』は、手を出してはこられない……いや、厳密にはちょっかいをだしてくることは可能だが、おそらくそれでも、残された時間は短いはずだ。

だからこそ、これほど大掛かりな事をやって、貴重な駒として使っていたはずの法国の信用を失ってでも、大量の『神のかけら』を手に入れようとしたのだ。

自分の存在が消滅するタイムリミットがギリギリだからこそ。


それは間違いない。


こちら側で命を刈り取って、大量の神のかけらを、魔法陣を通して捧げる者がいなくなった以上、堕天使の消滅は時間の問題……。



なのだが……何かを見落としていないか?



涼の表情が険しいことに気付いたのは、隣にいたエトであった。


「リョウ?」

「……あのアラクネのエネルギー、魔力はどこから?」

「アラクネ? ああ、化物クモ……それは、やっぱり堕天使からじゃ?」

「だよね……そうだよね……。そうじゃないと説明つかないよね……」

涼は考え込んだ。


でも、それって、『エネルギーは次元を超えて、次元の壁を越えてくることができる』ということになる。


最先端の理論物理学においては、重力は次元を超えると考えられている。


では、他は?



ここで思い出さねばならない。

何度でも思い出さねばならない。


E=mc²


Eはエネルギー。

mは質量。

cは光速。


エネルギーから物質を生み出すことができる……それを示唆するアインシュタインの公式。


エネルギーと質量は、本質的に同じもの……。


つまり、エネルギーとして次元の壁を越え、こちらの三次元に来たところで物質になる事ができるなら……。



その瞬間。


天から、光が落ちた。


次回、「第八章 教皇就任式」最終話!

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