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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第八章 教皇就任式
430/930

0404 <<幕間>> 悪魔たち

ここは『ファイ』のどこか。


便宜(べんぎ)(じょう)『ホール』と呼ばれている。



「待て、ジャン・ジャック!」

悪魔ジャン・ジャック・ラモン・ドゥースは、鋭い声で呼びとめられた。

声だけで、誰が呼び掛けたのかは分かったし、できれば聞こえなかったふりをしたかったのだが……そんな事をすれば、いきなり首を斬り飛ばされるかもしれないため、仕方なく振り向いた。


「おうレオノール、久しぶりだな」

そこには案の定、レオノール・ウラカ・アルブルケルケがいた。

後ろに、エルフのエリザベスも付き従っている。


「ジャン・ジャック、いちおう聞いておくが、西方諸国でリョウに手を出したりはしていないだろうな?」

レオノールは、腰に両手を置いて詰問調である。

とはいえ、それは仕方のないことだ。

ジャン・ジャックの性格をよく知っているから。

涼のような面白い人物を見かけたら、どうしてもちょっかいを出してしまう……。


もちろん今回は、事前に、レオノールから「絶対に手を出すな」と言われていたから、できるだけ近付かないようにしていた。

例の『堕天を知る者たち』に近づく場合でも、涼が近くにいない場合に限っていた。

そう、ジャン・ジャックにしては、非常な努力をしたのだ。



それなのに……。



「もちろんだ。指一本触れていないぞ」

いっそ堂々と、ジャン・ジャックは答えた。


それを訝しげに見るレオノール。

そして、後ろを振り向いて問うた。

「エリザベス、ジャン・ジャックは嘘をついているのではないか?」

「はい、嘘をついていらっしゃいます」

「おい!」


レオノールの問いにエリザベスは即答し、思わず声を上げるジャン・ジャック。


「やはりか! ジャン・ジャック、あれほど言うたであろうが!」

「いや、待て、レオノール、誤解だ! エリザベスもエリザベスだ。そこは、平和を優先して『嘘などついていません』と答えるべきだろう!」

「申し訳ございません、ジャン・ジャック様。私、嘘がつけません性分でして」


エリザベスはそう言うと、深くお辞儀した。



「待て、レオノール。まずは説明させろ」

「何だ、弁明か? あるなら聞いてやる」

「弁明……その言葉にも語弊があるのだが、いや、まあいい。弁明する。確かに、リョウと、ちょっと戦った……いや、まて、レオノール、その殴ろうとしている右手を引っ込めろ。確かに戦ったが、あくまでそれは成り行きでそうなっただけだ」

「どうせまた、人間を食べようとしたのであろう? 人間は、むしろ増やさなきゃいかんのだから、あんまり食べるなと言っておろうが」

レオノールはため息をつく。


「い、いや、それは、あれだ、ほら、例の西方諸国にちょっかい掛けている上位次元の奴、あいつの消滅を狙ってだな、妨害を兼ねて少し食べたりしただけだ……」

「嘘をつけ! それだけではないであろうが」

ジャン・ジャックが説明し、レオノールが断定する。


そして、後ろを振り向く。


「はい、嘘をついていらっしゃいます」

「やっぱりか!」

エリザベスが肯定し、レオノールが吠える。


「いや、だからエリザベス……。まあ、全部本当ではないが、嘘というほどではない。実際、奴がちょっかい掛けてくるようになってから、西方諸国の発展がかなり停滞するようになった……。昔のように戻って欲しいと思っているのは確かだぞ」

「うむ、それは我も疑っていない。とはいえ、奴は上位次元の存在……我々も、簡単には手が出せん」

「まあな。だが、あのリョウとそのパーティーは非常に興味深い。可能性はゼロではないと思っていてな……実は今も、ずっとあの辺りを監視している」

「ほぉ~、ジャン・ジャックにしては珍しいではないか」

「言ったろう? 西方諸国には、以前のように戻って欲しいと」


レオノールは心底驚いたように言い、ジャン・ジャックは心外な事を言われた様子で、小さくため息をついて答えた。



「ニューがいた頃は、なかなかに楽しかった。奴が死んでからも、数百年はいい時代が続いた。その間、人間とヴァンパイアの争いなど、見ているだけでも血沸き肉躍るような光景もあったが……いろいろと楽しかった……。祀られていたやつらの一部が、こうしてちょっかいを掛けてこなければ……」

「仕方あるまい。人間は、やはり特別な生き物じゃ。それは、上位次元の者たちにとっても。エネルギーの供給源を離れた者たちとて、消滅はしたくないじゃろう。そうであれば、新たなエネルギーを手に入れるほかない……」


ジャン・ジャックが過去に思いを馳せ、レオノールは未来を考える。


「生存本能だと? そうだとしても、俺に関係しない所でやって欲しいものだ……」

「奴らが、一番接しやすかったのが西方諸国なのじゃ、仕方あるまいよ。奴らも、ただ上位次元にいるというだけで、万能には程遠い。さらに、次元の異なるこちらの事情など理解はできまい。我らが、奴らの事情を理解できないのと同様にな。いろいろと仕方ないのじゃ」

ジャン・ジャックが小さく首を振り、レオノールも同じように首を振った。



世界は、人が思う以上に複雑らしい。



「まあ、そういうわけで、俺から積極的にリョウに手を出したわけではないからな!」

「そうか。今度リョウに会ったら聞いてみるとしよう。リョウの答え次第では、ぶん殴るからな!」

「えぇ……」

「いいな、ジャン・ジャック。何度も言うが、リョウは我の獲物じゃ! リョウを殺すのは我じゃ、絶対に手を出すなよ!」


また明日「0405」から本編に戻ります。

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