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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第七章 消えた魔法使い
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0397 地下宮殿

御飯を食べて、六時間の睡眠をとった後、十号室の四人は宿を出た。

いちおう、部屋はもう一日分確保し、前払いしてあるが、部屋には何も置いていない。


涼が言った北東の方角には、立派な宮殿と思しきものが建っていた。


この地下街そのものが、天井は非常に高い。

三十メートルほどはある。

そんな中、その宮殿は天井にまで達する高さ……。


他の建物で、そんな高さのものはもちろんない。



「これは……絶対、教会とか政府とか、そういうやつの関連施設だよな……」

「普通の国なら領主の館なんだろうけど、ここは法国だしね……」

「門にも、衛兵がいるので、信者が入れる教会じゃなさそうですね……」

「まさに敵の本拠地! おそらく最後に、三十メートル級ゴーレムが現れるに違いありません!」

ニルスが顔をしかめながら言い、エトが同意し、アモンが入口に注目し、涼が願望を述べる。


三十メートル級ゴーレムなどという物があるのかどうか、涼はもちろん知らない。

そんなものが出てきたら、天井が壊れるのだが……。


「うん、リョウの願望は理解した。あくまで理解しただけだがな!」

「ニルスのつっこみが、アベルに似てきました……」

ニルスがつっこみ、涼がため息をついた。


ちなみに、涼のため息とともに吐かれた「アベルに似てきました」の言葉に、ニルスが少しだけ嬉しそうな顔をしたのを、エトとアモンは見逃さなかった……。



「普通なら、夜になって忍び込むんですけど……」

「この地下空間は、常に明るいみたいだからね、困るね」

アモンがため息をつき、エトが苦笑する。


「『街灯』を全て<アイシクルランス>で貫いて真っ暗にしてもいいんですけど、真面目に働いている人たちが困るでしょうね。暴動に発展する可能性もあります」

「うん、リョウ、絶対やるなよ」

「ニルスが言うそれは、絶対やるなよ、絶対やるなよ、絶対……さっさとやれよ! って言う、あれじゃないですよね?」

「ちげーよ! 何だそれは! マジで、やるなよ!」


ニルスが、きちんと良識を持った冒険者であったことに、涼は安堵(あんど)した。



四人は、『宮殿』近くの酒場に入った。

もちろん、お酒を飲むのが目的ではなく、作戦を()るためだ。


「リョウでも外から探れないとなると、何とかして中に入らないといかんよな……最悪、リョウだけでも」

「僕だけでも?」

ニルスが言い、涼は首を傾げた。


「涼は入りさえすれば、魔法で探索できるだろ? 目で見つけられなくとも、なんとかならんか?」

「ああ……そうですね、多分、なんとかなるとは思うんですよね。入口が、正面のあそこしか無さそうなのが問題ですけど。あの正門から見つからないように入るとか、凄い隠密(おんみつ)スキルを持っていないと無理……」

ニルスが言い、涼が答えたが……涼の言葉は、途中で止まった。


「リョウ?」

エトが疑問に思って問いかける。



「いけるかもしれない方法がありました。一人分ですけど」

涼は、そう言って、銀色のブレスレットを鞄から取り出した。


「ブレスレット?」

「使われている魔法式など、一応調べはしたんですよ。で、凄く繊細ではあるんですが、注意深く魔法を通せば、僕でも使えそうなんです」

アモンが問い、涼が答えた。


「それは、何のブレスレットだ?」

隠蔽(いんぺい)のブレスレットです」



チェーザレらが使用していて、共和国からお詫びとして涼が貰ったのが、この『隠蔽のブレスレット』(涼命名)だ。


当然であるが、このブレスレットは、特定の使用者だけが使えるように、カスタマイズされている。

奪われて使われたら困るからだ。

人それぞれの魔力の、僅かな違いを感知するらしい……。

らしいというのは、涼ですら、そこは理解できていないから。


それほどに、高いレベルの錬金術が駆使されている。

生体認証の部分にすら。



それを、涼は、強引に自分が使えるように動かそうという……。



先ほどから言っているが、不可能だ。



涼ほどに、魔法制御に習熟し、というより恐らく魔法使いの中でも最高レベルに近いほどに習熟し、錬金術においても知識と経験を積んだものでなければ、これは不可能であろう。

そんな者は、おそらくいない……と思ったが、

(なんか、セーラならいけそうな気がします……)


涼並み、あるいは涼をすら上回る魔法制御、エルフだからこその豊富な錬金術に関する知識……。


まあ、涼やセーラクラスじゃないと、強引にこのブレスレットを使うことはできない。


しかも、そんな涼ですら、細い細い針に連続して糸を通していくかのような、集中力が必要となる。

そのため、このブレスレットを使いながらでは、他の魔法を使うことはもちろん、走る事すらできない。


使用者限定の錬金道具を強引に使うというのは、それほどに難しいものなのだ……。




涼は『隠蔽のブレスレット』を起動しながら、歩いて、正門をくぐった。




『宮殿』の門をくぐり、開け放たれた正面入り口から中に入る。


その瞬間、薄い空気の膜を通過した感じがした。

(今の膜が、水蒸気を変な風にとらえていた原因……。あれなら、風属性魔法の<探査>とかも防ぎそうです)



中に入ったが、隠蔽のブレスレットを使いながらソナーで探ることはできない。

どこか人目につかない場所で、ブレスレットを止めて探索しなければ。


だが、構造が全く分からないため、フラフラと歩きまわっている……。

階段を上ったり下りたりすると、非常に面倒なことになりそうなため、なんとか一階をさまよい……ようやく、周りからは見えにくそうな廊下の端についた。



(<パッシブソナー>)

いきなり、<アクティブソナー>は使えない。

鋭敏な人間は、感じ取ってしまうから。


だが、精度の上がった<パッシブソナー>は、かなりの状況の変化を拾える。

寝息を立てている人間すらも。


(この宮殿の中、百人を超えている……。捕らえられているとしたら、地下牢というのが定番でしょうか)

涼の、適当推論。

監禁するなら、地下牢か塔の上。

この『宮殿』には、塔はないから、地下牢。



(地下二階の奥の方に、やっぱり変な水蒸気の場所がある? さっきの入り口みたいだとしたら、空気の膜で隔絶されているのかな?)


仕方なく、涼は行ってみることにした。

もちろん、『隠蔽のブレスレット』を起動して。歩いて。



見えないと分かっていても、人とすれ違う時にはドキドキする。


この建物は、騎士らしき者が非常に多いことに気付いた。

それと、魔法使いも。


ただ、魔法使いはやはり魔力の流れに敏感なのか、一度ならず涼の方に目をやる者たちがいた。

とはいえ、見ても何も無いため、気のせいと思い視線を戻す。



そんなことを何度か繰り返しながら、地下二階の奥、空気の膜の前に辿り着いた。


奥は見えている。

かなり広い空間。

宮殿の中である事を考えれば、吹き抜けだろうか?


そんな場所の前に、空気の膜。


(嫌な予感がします……)

とはいえ、探らねばならない。


涼は意を決して、右手の先だけ空気の膜の向こう側に出して、すぐに唱える。

(<パッシブソナー>)



(いた!)

広い吹き抜けのさらに奥、四人が別々の独房に入れられ、鎖を繋がれている。

恐らくは、魔力を常に抜き取る鎖……とかそういう系統のもの。

四人の独房の、さらに奥にも……。



だが、同時に、涼は感じ取っていた。

広い吹き抜けの中央にいるものを。


しかも向こうは、完全に涼を捉えている。それも理解できてしまった。


「仕方ない」

涼はそう呟くと、吹き抜けに歩を進めた。



そして、中央に佇む人物に声をかける。


一日ぶりだ。


「こんにちは、教皇聖下」


次回、対教皇 第2ラウンド!

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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