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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第七章 消えた魔法使い
422/915

0396 常夜

朝になり、街道を人が通るようになってから、十号室の四人は聖都に入った。

いちおう、使節団宿舎に戻る前に、朝食をとりながら情報を整理する。


「聖剣は取り戻したが、例の四人の魔法使いは見つからない。しかも、手掛かりが全くなくなった」

「そうなんだよね。手掛かりが何もないというのは、痛いね」

「ただ、昨日の教皇に魔力を供給していたやつですけど、普通に考えれば、聖都かその近くのどこかに監禁されていて魔力を吸い上げられている、と考えるのが一番筋は通ると思うんです」

ニルスが言い、エトが同意し、涼が推論を述べる。


涼の推論自体はまともなものであるため、エトを筆頭に、ニルスもアモンも頷いた。

とはいえ、それ以上は情報が足りなすぎる。



「てか、なんであんなタイミングで、教皇が現れたんだろうな」

ニルスの素朴な疑問に答えられる者は、そこには誰もいなかった……。




四人は朝食を食べると、王国使節団宿舎に向かった。


そこでは、いつものように、ロビーに団長ヒュー・マクグラスがいた。

「おう。戻ったか」

そう言うと、ヒューは四人を奥のラウンジに誘った。



「まず報告を聞こう」

ヒューの問いに、ニルスとエトが報告する。


聖都地下空間からパダワン伯爵、教皇の襲撃まで。

ヒューは少し驚きつつも、言葉を挟まずに聞いた。



「それで、聖剣と思われる四振りを回収しました」

最後に、ニルスが言う。

そして、ニルス、アモン、涼がそれぞれ持っていた聖剣を机の上に出す。


「マジか……この短期間で。お前ら、優秀だな」

ヒューが手放しで褒める。


そして、一振り手に取る。

「よし」

小さく呟く。


それが四回繰り返された。


「良くやった。四振りとも、間違いなく聖剣だ。特性は、分からんがな」

「おぉ~」

ヒューの言葉に、ニルスとエト、アモンが喜ぶ。


「ヒューさんは、握っただけで、聖剣かどうかが分かるんですか?」

「おう、分かるぞ。俺だけじゃなくて、ある程度の期間、聖剣の主になっていると、分かるようになるんだ。特性はもちろん分からんが、聖剣であるかどうかは分かる」

涼の問いに、ヒューは頷いて答えた。


「あの……もしかしてなんですけど、聖剣って、壊したり溶かしたりすることもできないです?」

「ああ、その通りだ。よく知っているな」

涼の推論に、ヒューは頷いて答えた。


「いえ、なんでわざわざ保管しておいたのかと思って。溶かしちゃうのが一番ですから」

「聖剣は壊れない。だから、数百年どころか、数千年前に作られたと言われる聖剣だってある。ああ、俺の聖剣ガラハットも、かなり昔からあるやつだな、確か」

涼が答え、ヒューは思い出したように言った。




「グランドマスター、実は……」

ニルスはそう切り出し、四人の魔法使い捜索の手掛かりが無くなったことを、正直に報告した。


もちろん、ヒューは、それを聞いて怒鳴りつけたりはしない。

そんな理不尽な事で怒ったりはしない。


長く、組織を、冒険者たちを率いてきたのだ。

部下から報告を受けやすい上司、というのがどういうものか、彼は理解している。



普段からの、信頼関係の構築こそが、最も重要なのだ。



そこさえ間違えていなければ、部下はちゃんと、報告しづらいことでも報告してくれる。

強面(こわもて)巨漢(きょかん)であっても。



「それに関しては、実は昨日、情報が入った。つい今しがたまで、それを精査していたところだ」

ヒューはそう言うと、懐から一通の封筒を出して、言葉を続けた。

「グラハムから、斥候モーリスを通して、昨日届いた」

そう言って、ニルスに渡す。


ニルスは封筒の中から、一枚の紙を取り出した。

横からエトが覗き込む。

アモンと涼は、素早くニルスの後ろに回り込み、そこから覗いた。


「四人は、常夜の国にいる」

ニルスは、書かれた文字をそのまま読んだ。

そして首を傾げる。

エトとアモンも首を傾げる。


涼も首を傾げているのだが……三人とは少し違う。


「常夜の国って何だ?」

と、三人は首を傾げている。


だが、涼は、『常夜の国』という言葉に、聞き覚えがあった。

聞き覚えはあるのだが、いつ、どこで聞いたのかが思い出せない……。


(常夜……いつも夜……夜の住人、ヴァンパイア……トワイライトランド……)


「あ!」

思い出し、思わず声を上げる涼。

驚く三人。


「どうしたリョウ?」

「いえ……常夜の国という言葉、アベルに聞いたのを思い出しました」

「ほぉ。アベル……陛下は、常夜の国を知っていたのか」

ヒューが感心している。


「以前、魔法団顧問のアーサー・ベラシスさんから聞いたことがあると、言っていました」


涼がアベルから聞いたのは、トワイライトランドへの使節団として、国境を越えた時だった。


「トワイライトランドなのに、普通に太陽が出ています」と言った涼に、アベルは、「当たり前だろう、伝説の常夜の国じゃあるまいし」と言ったのだ。



そう、いつかアーサーに聞こうと思って……涼は、すっかり忘れていた……。



「常夜の国って、伝説上の国なんじゃ?」

涼はヒューに問うた。


「ああ、最初は俺たちもそう思ったんだが、調べてみるとそうではないらしい。簡単に言うと、かつてヴァンパイアたちが住んでいた国だそうだ」

「なるほど……」

ヒューの答えに、納得する四人。


実は、ヴァンパイア自体は太陽の下でも活動できる……トワイライトランドでそうであったように……のだが、眷属(けんぞく)たるストラゴイが、太陽の光が苦手だ。

そのため、常に夜の国などがあれば、それは嬉しいだろう。



とはいえ、普通、地球人などに『常夜』と言って思い浮かべるのは何かと問えば、『極地』と答えるだろう。

北極圏や南極圏だ。


一日を通して太陽が昇らない『極夜』の時期がある。


それは、イメージ通りの、『常夜』と言えるのかもしれない。



だが、ヒューの説明は全く違うものであった。


「地面の下に広大な空間がある」


(まさかの地底都市!)

涼が最初に思ったのは、その言葉。

だが、すぐに別の光景が思い浮かぶ。

そう、それは、今自分たちがいる聖都の地下の……。


「いや、お前たちが見てきた地下空間ではないようだ」

ヒューも、四人が何を想像したかを分かったのだろう。

先に否定した。


「聖都の北にある街ボレアスと、東にある街エウロスのちょうど中間。そこの地下にある。広さも、聖都ほどではないが、ボレアスやエウロスなどとは比べ物にならないほど広いらしい」

「かつてはヴァンパイアの街で、今は?」

「一般人には存在自体が知らされていないらしいから、無人じゃないのか?」

ニルスが質問し、ヒューが答えた。


「まあ、地下だと、普通の人は存在自体を知らないでしょうね」

「殺されたヴァンパイアの怨念(おんねん)が、今もそこに渦巻いていて、人がやってきたら食らうに違いないです……」

「なぜリョウは、いつもそっち方向に持っていこうとするのか……」

アモンがまともな事を言い、涼がラノベ的展開を提示し、ニルスが首を振りながら否定する。


「もし、本当に、そこに四人が閉じ込められているのだとしたら、かなり厳しい監視態勢になっているはずだ。さすがに、お前たちでも厳しいだろう。だから、まず調査をしてきて欲しい。その結果、人数が必要となれば、グラハムの部下たちを出してもらう。いいか、無理はするな。生きて帰るのも、冒険者に必要な力の一つだからな」

「はい!」

ヒューの言葉に、四人は力強く答えた。




ヒューはロビーに戻り、ラウンジに四人だけが残った。


まず、具体的な計画を練る必要がある。

当然のように、ケーキとコーヒーを食しながら……。



「斥候モーリスが伝えに来たけど、モーリス自身が探ったわけではないらしい、ってことだったよな?」

「うん。だから、本当にそこにいるのかどうか、という部分も探った方がいいんだろうけど……」

「そこまで探れますかね?」

「普通の牢屋ならソナーで探れるけど、特殊な部屋だったら難しいかもね~」

ニルスが確認し、エトが同意し、アモンが疑問を呈し、涼がケーキを食べながらしゃべっている。


「入口はボレアス政庁……」

「まあ、行ってみるしかないんだよね、最終的には」

「最終的には、ボレアス政庁を占拠してでも、強引に突入することになる可能性がありますね!」

「だから……そういう派手な事はしないからな?」

アモンが呟き、エトが言い、涼があるかもしれない展開を予想し、ニルスが即座に否定する。


地下空間に潜る前から騒動を起こしていては、その先いったいどうなるか知れたものではない……。

もちろん、涼はそんなことをしたいわけではない。

そう、したいわけでは決してない。

可能性を述べただけに過ぎないのだ。



もちろん……起きたとしても、残念には思わないだろうが。




その日のうちに、『十号室』の四人は、北の街ボレアスに移動した。


ボレアスの中心に、ボレアス教会がある。

その教会敷地内に、巨大な第一保管庫がある。


そんなボレアス教会の大通りの反対側に、ボレアス政庁はあった。


「大きいですね」

「これは、中庭がある造りだろ」

「その中庭に、地下への入口があるみたい」

「なんですかね、そのいかにもな造りは……」

アモンが素直な感想を言い、ニルスが推測し、エトが肯定し、涼が首をひねる。


中庭に、地下への入口……?

普通、そんな場所にありますか?

おかしいでしょう?

などと、涼は凄く納得できない表情をしながらも、<アクティブソナー>で一帯を探った。



たとえ、中庭にあろうとも、涼のソナーがあれば、誰にも見られずに侵入することは造作もないのだが。



実際、誰にも見られずに、入口の前に来た四人。

そこは、あまり人が出入りした形跡はない。


鍵もかかっておらず、開いた。


中には、下に下りる階段らしきものがあるだけ。


「まあ、行くしかないわな」

ニルスが言い、三人が頷いた。



そうして、螺旋(らせん)階段を降りた後、長い長い下り坂を歩くのであった……。




錬金道具『街灯』が時々ついている下り坂を、かなり歩いた後。


高さ三メートルほどの、かなり大きめの扉の前に着いた。

「ここも、鍵はないね」

エトが確認する。


「どうなっているか分からんからな、慎重に開けるぞ」

ニルスはそう言うと、ゆっくりと扉を開けた。



扉の向こうには、漆黒(しっこく)の闇……はなく、とても明るい。


しかも、大勢の声が聞こえる。


「あれ?」

アモンが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。


驚いているのはアモンだけではない。

エトもニルスも、もちろん涼も驚いていた。



その地下空間には、人が(あふ)れていたのだ。



あちこちに、錬金道具『街灯』があり、昼間の屋外の街並みに明るい。


『極夜』どころか、『白夜』だ……。


そして、行き交う人々……馬が引く荷馬車もかなり通っている。


完全に、街として機能していた。



「これはいったい、どういうことだ……」

ニルスの問いに、答えられる者はいなかった。




そこにいる人たちは、もちろんヴァンパイアなどではなく、人間。

聞いて回ると、一年ほど前から、一般人にも開放されたという……。


完全に一般市民にも知らされているわけではなく、教会や法国政府に近い人物からの紹介という形で入ってきている者がほとんどらしい。

とはいえ、噂を聞きつけて自力で辿り着いた者もいたりして、かなり混沌とした状況になっていた……。


さらに、四人が入ってきた入口は基本的に使われていないらしく、もっと使い勝手のいい大きめの螺旋階段、螺旋スロープがいくつかあるということで、ほとんどの者たちがそこから出入りしている。



「これは想定外でした……」

「ああ。まさか、宿や飯屋まであるとはな……」

涼が呟き、ニルスも頷いて同意した。


四人は、地下空間……多くの者は、そのまま『地下街』と呼んでいるため、地下街と呼ぶが、その地下街の宿の一つ、その食堂にいた。


「お金さえ払えば身分証類の提示は全くないというのも、すごいですね」

「それだけいろんな人が来ているってことだよね」

アモンが変なところに感心し、エトも苦笑しながら頷いた。


「俺らは見つかりにくいからありがたいが……魔法使いたちも探しにくいな」

「仕方ないよね」

ニルスが小さくため息をつき、エトも頷く。


「<パッシブソナー>でも<アクティブソナー>でも、反応が無いんですよね。ただ、『反射』が変な場所がありまして……」

涼はそう言うと、街の、ある方向を見た。

「多分、北東の方角になるんですが……」

「地下なのに方角が分かるの?」

エトが驚く。


「今時の水属性の魔法使いは、地下でも方角くらいは分かるんですよ」

「そんなわけあるか!」

涼のボケに正確につっこむニルス。


「ニルス、腕を上げましたね」

「恥ずかしいからそういうこと言うな!」

涼が褒めたのに、ニルスは顔を真っ赤にしてそむけた。

それを見て苦笑するエトとアモン。


「とにかく、北東の方角に水蒸気の反射が変な場所があって、そこが気になります」

「よし、飯食って休んだらそっちに行ってみるか」

「ここって……ずっと街灯、つきっぱなしなのですかね?」

「さっき聞いたら、そうだって言ってた。だから、働く人はずっと働いているんだって」

「恐ろしいブラック環境……」


涼の呟きは、誰にも聞こえない。


ずっと明るいのに、ブラックな環境……。

なんという皮肉であろうか。

(この環境を作った人は、皮肉屋さんに違いありません!)


「0198」の伏線『常夜の国』を回収しました。

よかったよかった。


そして再び出てくるコーヒーとケーキ。

これだけ第二部で出てくるケーキ……当然、理由があります。

「第三部 東方諸国編」で……ハッ、これ以上は内緒です!

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