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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第七章 消えた魔法使い
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0394 パダワン伯爵

屋敷の裏手から、大きく回り込んだ『十号室』の四人。

表側での戦闘音は、かなり離れたこの場所にも聞こえていた。

だが逆に言うと、あれが聞こえているうちは、自分たちへの注意は少なくて済むはず……。


「ゴーレムは、全機向こうに行ったんだな?」

「ええ。冒険者が屋敷の庭に十人いますけど、表の扉付近に七人。こちらの裏口付近には三人です」

涼の<パッシブソナー>で、配置状況は丸裸。


「相変わらずだね、リョウの探知」

「安心して襲撃できますね」

「アモンの感想は、どうかと思うんだが……」

エトが感心し、アモンが素直な感想を述べ、ニルスが小さく首を振る。


「ゴーレムが、私たちを見つけてやってくるとかそういうことは……」

「大丈夫ですよエト。そのために、悪辣にもニルスは、テンプル騎士団がゴーレム本隊と交戦するまで待ったのですから。たとえ気づいても、戦闘をほっぽり出して離脱とはなかなかいきません」

エトの懸念に涼が答える。


「間違ってはいないが、その表現はなんとかならんか?」

ニルスは不満らしい……。



結局、裏口付近の冒険者はすぐに氷漬けにされ、誰にも気づかれないまま、四人は屋敷に入ることに成功した。


「屋敷の中は……分かる範囲だと六人」

「結構少ないな」

涼の報告に、ニルスは答えた。


「一人は……お酒に酔っていますね、三階。隣に扉で繋がった寝室があるので、この屋敷の主人ですかね。なんとか伯爵。あと一階の食堂らしき広い部屋に五人が集まっています」

「酒に酔っているとか分かるのか……」

「傍らに置いてある飲み物を、けっこうなペースで呷っているんですけど、ちょっと動きが危ういので……多分、お酒に酔っているんでしょう」


どんな場合でも、手に入れた情報を分析し、そこから推理する必要が出てくる。

それは魔法ですらだ。

いや、むしろ、魔法だからこそ、分析し推理する能力は非常に大切だと言える。


他に、その情報を掴んでいる人はいない。

自分だけだ。

当然、分析で頼れるのも自分だけ。



「まず、一階の五人を制圧する」

ニルスが方針を決め、三人が頷いた。



四人は、扉の前に着く。

ニルスが涼に頷く。

涼が、指を三本立てる。

次は二本に。

そして一本に。


(<アイスバインド5>)

グーになった瞬間、ニルスが扉を蹴破る。


四人全員が突入した。


床に転がる五人の冒険者。

手足と口を氷で拘束されている。

抵抗できないようにと、叫ばないように……。



「えっと……」

ニルスが戸惑い、涼を見る。

「五人の場所はソナーで分かっていたので、三、二、一、のところで拘束しました。もしかしたら、僕が把握していない六人目とかがいるといけないので、緊張しましたけど、良かったです、五人だけで」

「お、おう……」

涼が大きく息をついて満足げな顔をし、ニルスが若干、本当に若干、納得いかない顔をしながら受け入れた。


エトとアモンは苦笑している。


こうして、屋敷は制圧された。



「あとは、三階の伯爵か」



伯爵の部屋と思しき扉。

ニルスは、きちんとノックした。

「入れ!」

酔った男性の声が中から聞こえた。


扉を開けて入ると、一目で酔っていると分かる五十代半ばの男性が椅子に座って、こっちを見た。

「ん? お前たちは誰だ? 雇った冒険者じゃないな」

「はい、違います」

伯爵の問いに、ニルスが丁寧に答えた。


いちおう、目の前の男は貴族であろうから、貴族に対する言葉遣いだ。


「そうか。俺を殺しに来たか? いいぞ、殺せ。この世には、もう何の未練もない」

「パダワン伯爵でいらっしゃいますね?」

「その通りだ。ああ、さすがに確認せねば殺せんか。ほれ、認識プレートだ」

そう言うと、伯爵は、首から下げている小さなプレートをニルスに投げて渡した。


涼も持っている、プレート……とは少し違う。国によって、外見はかなり違うのだ。

ただ、これを認識する錬金道具は、中央諸国でも西方諸国でもかなり一般的になっている。

少なくとも、多くの街の門に置かれている。

また、衛兵が持ち歩いている場合すらある。


その広がりは、あまりにも不自然なほどに……。



とはいえ、ここにいる四人は、誰もそんな錬金道具は持っていない。



「マリーは死んだ。ランスはすでに廃人、オシリスも戻らない。そしてついには、トマーゾも死んだと……。パダワン伯爵家を継ぐ者はもういない……。トマーゾだけが希望だったのだ……本当に最後の……。そのために、教会のどんな要求でも飲んだ……。人を殺せと言えば殺した。街を襲えと言えば襲った。誰にも見つからぬ場所に保管しろと言われて保管もした……。そうしたら……俺だけに飽き足らず、トマーゾにも襲撃をさせやがった。ふざけるな! 何が聖職者だ、何が枢機卿だ、人を何だと思ってやがる……」


最後、パダワン伯爵の言葉は怒りに満ちていた。


「だいたい、分かったかな」

「そうだな」

エトが言い、ニルスが頷いた。


「パダワン伯爵。私たちは、誰にも見つからない場所に保管しろと言われた物を探しに来ました。その場所を教えていただきたい」

「……なぜ教えねばならぬ?」

ニルスの問いに、パダワン伯爵は濁った目で、口をへの字にして答えた。


「もし教えてくだされば、トマーゾが残した最後の希望をあなたに伝えましょう」

そう答えたのはエトであった。


他の三人は心の中で首を傾げる。

最後の希望って何だろうと。



「トマーゾが残した最後の希望? ふん、面白い。どうせ嘘だろうが、まあ、その言い回しが気に入った。教えてやる。隣の寝室から繋がる特別保管室がある、その中だ。ついてこい」

そう言うと、パダワン伯爵は立ち上がったが、足下がおぼつかない。


だが、ニルスが差し出した手を振り払う。

そして、何とか歩き始めた。



寝室の本棚、その一冊を引くと、するりと本棚が横に動いた。

「素晴らしいギミック」

涼がちょっとだけ感動して呟いたが、それに反応したのはニルスだけであった。

無言のまま、首を振っただけだが。



開いた部屋には、いくつかの樽、鎧、さらに宝石の入った袋などが置かれてあった。

そして、四つの細長い袋がある。

形と大きさからして、恐らく剣。


「その辺にあるのが、保管しておけと言われたやつだ。好きに持っていけ。どうせ俺は殺される」

パダワン伯爵はそう言うと、小さく笑った。


四つの袋を開け、中に一本ずつ剣が入っているのを確認する。

聖剣は、主以外の人物が触るのは避けた方がいい……ヒューがそんなことを言っていた。

おそらく、この袋は、聖剣の移動を可能にする特殊な袋なのだろう。



四振りの剣をニルスが二振り、アモン、涼が一振りずつ、袋に入ったまま持った。


その間に、エトがパダワン伯爵にロケットを渡す。

酒場のエレナが、受け取りを断ったロケットだ。

自分には関係のない物だからと。



「どうせ死ぬのであれば、死ぬ前に人を助けてみませんか?」

「何だと?」

「このロケットに描かれた女性は、トマーゾが愛した女性です」

「なに!?」

「あと半年後には、二人で外国に移住する約束をしていたそうです」

「そうか……。その方が幸せになったかもしれんな」


エトの言葉に、パダワン伯爵も小さく頷いた。


「ですが本題はここからです。恐らくですが、彼女、エレナというのですが、エレナはトマーゾの子供を妊娠しています」

「本当か!」

エトの言葉に驚いたのは、パダワン伯爵だけではなかった。

ニルス、アモンそして涼もだ。


三人で目を合わせている。


「私は神官ですから、そういうのは分かるんです。新たな生命が宿っています。どうせ死ぬのなら、彼女を助けてから死んでも遅くないのではありませんか?」

エトはそう言うと、エレナが働いている酒場兼食堂の場所を紙に書いて渡した。


「時間は戻って来ません。でも、罪滅ぼしはできますよ」


大きなトラブルもなく聖剣を手に入れましたね。

よかったですね~。

ここは聖都郊外。

無事、聖都の中に戻れるといいですね……ふふふ。

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