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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第七章 消えた魔法使い
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0393 激突

翌日。

四人は聖都に戻り、パダワン伯爵家について調査した。



「領地は法国西部にあるけど、それほど大きくない。トマーゾもそうだったけど、聖騎士や修道院長とかをけっこう出している家柄みたい。現在の当主は、トマーゾの父イラーリオ。聖都郊外に屋敷がある……領地までは遠すぎるから、もし保管庫から奪った物を置いておくなら、その聖都郊外の屋敷かな?」

エトは、調べてきた内容を、他の三人に告げた。


エトは、こういう調査はけっこう得意だ。


「よし、なら、その屋敷の調査だな」

ニルスの決定に、他の三人も頷いた。




「見るからに怪しいです。いえ、見えないですけど、見るからに……」

涼が言う。

言葉として変だが、他の三人も理解している。


四人がいるのは丘の上。

そこからは、遠くにパダワン伯爵家の屋敷を望むことができる。

だが、屋敷に至るまでの道に、かなりの数が配置されているのだ。



ゴーレムが。



「ゴーレムって、貴族も持っているのか?」

「いや、法国では貴族は持てないらしいよ」

ニルスの問いに、エトが答える。


「ということは、あのゴーレムは、法国か、教会か、あるいはその有力者が手配したもの、ということになるよな」

「ざっと、二十体はいますね」

ニルスが言い、アモンが見える範囲のゴーレムの数を数えた。



「ゴーレム二十体、人が五十人……。こう、秘密を隠すなら、もう少し目立たないようにするべきだと思うのです」

「うん……。これって、見る人が見れば、何かあります、怪しいですって主張しているようなものだよね」

涼の報告と感想に、エトも同意する。


「まあ、街中じゃないからな。これだけの防衛戦力を配置していても、普通の人は知らないわけだ。俺たちは怪しんだうえで、こんな場所から見ているから、あからさまに見えるがな」

「実際に、誰かが襲ってくることを想定しているんでしょうか」

「そうだろうね。その上で、力で弾き返そうと」

ニルスが言い、アモンが問い、エトが同意する。



その間、涼は<アクティブソナー>で探っていた。

(あのゴーレムは、やっぱり共和国の時にいたホーリーナイツ……右手に剣、左手に小盾……共和国の時と同じ装備。法国正規ゴーレム。五十人いるのは、装備からすると騎士じゃない……どういうこと? ホーリーナイツを配置しているなら、法国の後ろ盾があると言ってるようなものじゃない? それなのに守備している人間は……多分、冒険者)



涼は、<アクティブソナー>で掴んだ情報を伝える。


「もしかして、攻めてくる相手も分かっているんじゃ?」

「……騎士団が攻めてくる?」

エトが推測し、アモンが乗っかる。


「騎士団同士では、何が起こるか分からない……手心を加えるかもしれないから、冒険者を雇ったと」

「なるほど……」

ニルスが補足し、涼は頷いた。


状況的には、あり得そうだ。


「どちらにしても、迎撃の主力はホーリーナイツでしょうけどね」



そこまで言ったところで、涼の<パッシブソナー>に反応があった。


「騎馬が……五十体近づいてきます」

「騎士団か?」

「ああ……例の第三分遣隊がいますね。バシュレ隊長も入っています」

「彼らも、保管庫から盗まれた物が、ここにあるというのに辿り着いたのか。優秀じゃないか」

ニルスが腕を組んで頷いた。


確かに、かなり早く辿り着いたといえる……もしかしたら、他の隊が掴んだ情報とも突き合せたのかもしれない。

情報収集においても、数は力だ。



「テンプル騎士団の中でも、カミロ枢機卿の命令に従う者たちもいれば、オスキャル枢機卿の命令に従う者たちもいる……ってことかな?」

「あり得るな」

エトが推測し、ニルスが同意した。


テンプル騎士団は全体で千人を超えるらしい。

もちろん、全員が聖都とその周辺にいるわけではなく、法国中に散らばっている。

それでも、聖都にかなりの数がいるのは事実であり、指揮系統もいろいろ複雑なのかもしれない。


何せ、枢機卿は、教皇を除けば西方教会のトップ。

教会のトップという事は、法国のみならず西方諸国全体でもトップという事になる。

それが一枚岩ではないとなれば、下につく組織は色々と難しい要求をされるだろうというのは、想像に難くない。


「世知辛い世の中です」

涼は呟いた。

それを聞いて、三人は苦笑する。

今回ばかりは、涼の言葉に同意した……そう、世知辛い世の中だ。




四人がそんなことを話している間に、五十人のテンプル騎士団は、パダワン伯爵の屋敷に近づいていた。


そして、ついに最初の防衛線に辿り着く。

騎士団の先頭の四人が、頭の上で何かをグルングルン振り回しているのが見える。


「あれはまさか……ボーラ?」

涼は呟いた。


四人の手から放たれた。


(ひも)の両端におもりがついているらしく、ホーリーナイツの足に当たると、そのまま両足を絡めとる。

当然のように、ホーリーナイツは倒れた。


「おぉ」

涼を含めて、四人とも感嘆の声を上げた。


「自国のゴーレムだから、弱点も知っているんですかね!」

「なるほど、そうかもしれないね」

アモンの言葉に、エトも頷いて同意する。


「さすがはテンプル騎士団です。いつも負けてばかりではないのですね」

「負けてばかりのイメージをつけたのは、リョウの氷の床だと思うんだが」

偉そうに腕を組んで頷きながら言う涼に、呆れた表情で答えるニルス。



倒されたゴーレムたちだが、足に絡まっただけなので、いずれは紐を切るなり外すなりして脱出するだろう。

それでも構わないとばかりに、騎士団は全員速度を落とさず走り抜けた。

倒れたホーリーナイツには構わずに。


すぐに、次の二体のホーリーナイツが前を塞ぐ。


先ほど同様に、テンプル騎士四人の手元からボーラが飛んだ。


ボーラが絡まる……だが、それは足ではなく手に持った剣に。

ホーリーナイツが、足に向かって飛んできたボーラを、剣に絡めて防いだのだ。


「もう対応してきた」

エトが驚く。


「二十体のホーリーナイツ、何らかの方法で常時、情報のやり取りをしているのかもしれません」

涼は、共和国で見た、ホーリーナイツ対シビリアンの、ゴーレム戦を思い出してそう言った。


一列目の戦闘を見て、二列目以降のホーリーナイツたちは対応を変えていたように見えたが、実は『見て』いたのではなく、情報をやり取りしていたのかもしれないと思ったのだ。

二十一世紀の地球でも、例えば戦闘機などが、戦術データ・リンクなどによって他の機体が手に入れた情報を瞬時に共有し、戦術展開に活かすということは行われていた。

そこに、人工知能を嚙ませたりしたイメージが、ホーリーナイツたちにはあるのではないか……涼はそう感じた。


「ぜひ欲しい」


そう、涼の水田管理用ゴーレムには、この手の機能はもちろんない。

人工知能的なものも持っていない。


今回の西方諸国への旅によって、かなり多くのゴーレムの中身を見ることができた。

キューシー公国のゴーレムに至っては、文字通り隅から隅まで解体して見ることができたのだ……これは、想像以上に、涼のゴーレムに関する知見を上げることに貢献した。


きっと、ロンド公爵領に戻って、水田管理ゴーレムにフィードバックすれば……その戦闘力は指数関数的に上がるに違いない!



もちろん、水田管理ゴーレムに戦闘力が必要かどうかは、誰にも分からないのだが。



テンプル騎士団は、ホーリーナイツに構わず、騎馬でその横を走り抜ける。

だが、全員は走り抜けることができなかった。


「あ、落とされた!」

「二人……。ホーリーナイツ、騎馬に体当たりしましたね……、三メートル級ゴーレムならではの、騎馬への体当たりです」

アモンが叫び、涼が勝手に作っている三メートル級ゴーレムのカテゴリーに感心する。


まあ、確かに、人では騎馬に体当たりは無理であろうが……。



「ゴーレム相手に戦えるか?」

「確か、法国のゴーレムは西方諸国最強でしたよね?」

「あの、キューシー公国のやつよりも強いのか~」

「さすがに、地上戦で、人がゴーレムに一対一で勝つのは難しいでしょう……」

ニルスが問い、アモンが確認し、エトが諦めを表現し、涼はかつて参戦したインベリー公国での戦闘を思い出していた。


連合の人工ゴーレムは強力だった。

南部軍の冒険者たちが囲んだことがあったが……『スイッチバック』のリーダー剣士ラーが、ゴーレムに吹き飛ばされた光景を思い出したのだ。


戦争の中で、インベリー公国の騎士団などに、たかられて倒された機体もあったが、そこはやはり数の暴力なればこそだ。

一対一では、人間に分はない。


「どこかの水属性の魔法使いが、キューシー公国のゴーレムをひっくり返していた気がするんだが……」

ニルスのそんな呟きは、涼には届かなかった。



ホーリーナイツに体当たりをされて、馬から落とされた二人の騎士は、それぞれホーリーナイツのシールドバッシュで吹き飛ばされて、気絶した。

ちゃんと、盾で防いだのにだ。


パワーこそ全て。

それを体現するホーリーナイツ。



「やられちゃいましたけど……どちらにしろ、僕らは見ているしかできません。さすがに、この距離からでは、僕の魔法も届かないです。多分」

「多分なんだ」

涼が宣言し、エトが呟く。


実際、二百メートル以上は離れているため、助けようがない。

とはいえ、これ以上近付くと、ホーリーナイツの探知に引っかかる可能性が出てくる。

ホーリーナイツは、その強力な出力を活かして、探知能力が非常に高く設定されていることを、壊されたホーリーナイツをいじくり回した際に、涼は把握していた。


それもこれも、西方諸国における教会の権威を背景に、大きな魔石を手当たり次第に集めている法国だからこそ可能……という噂がある。

ニール・アンダーセンも、その噂について否定していなかったので、多分事実なのだろう。



結局、国力というものは、科学技術の発展にも、その結果生まれるものにも、大きな影響を与えるのだ。

発展途上にある国が、先進国並みの科学技術に達することができないのは、その部分が大きい。

人材の差ではなく、国力の差……。


だからこそ、為政者は、国が弱くならないように心を砕かなければならない……。



これまで、合計四体のゴーレムを突破した四十八人のテンプル騎士団。

だが、その前に現れたのは、ゴーレムの壁と三十人近い冒険者たちであった。


屋敷側が、ここで騎士団たちを全力で止めようとしているのは明らかだった。



「よし、そろそろ俺らも動くか」

ニルスの言葉に頷く三人。


申し訳ないが、テンプル騎士団には(おとり)になってもらうのだ。


まあ、勝手にテンプル騎士団が突っ込んだだけ……ではあるのだが。


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