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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第六章 再び共和国へ
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0386 報告

((リョウ、聞こえるか?))

((珍しいですね、アベルの方から繋げるなんて。何かあったんですね? 視察が中止になりました?))

((ああ、視察は中止になって、しばらく前に王都に戻った))


涼と十号室と十一号室の六人は、聖都に向かっている。

あと、三十分も歩けば、聖都の門に着く。


((いちおう伝えておく。先ほど入ったばかりの知らせだ。デブヒ帝国の皇帝ヘルムート八世が亡くなった))

((え? どうして?))

((回廊諸国の騎馬の王、アーン王に討たれた))

((回廊諸国……。確かアーン王って、先帝ルパート陛下に恨みを抱いていたんですよね? それで、わざわざ帝国の皇帝を殺しに?))

((まあ、その辺りはいろいろと複雑だ))



そう言うと、アベルは、帝国動乱をかいつまんで説明した。



((なるほど。そのコンラート殿下の策ですか……。凄いですね、虎を討つのにワイバーンを呼び込むみたいな……。アベルはそんなことやらないでくださいね。王国内にどうしても倒したい勢力がいるのなら、僕が倒してあげますから。外国の勢力を呼び込んだら、そいつらに国をめちゃくちゃにされますよ!))

((お、おう……。その時は、頼むわ……))


王国において、国王に次ぐ地位にいるのは筆頭公爵たる涼だ。

涼はあまり自覚がないが……。


ただ、今回のコンラートの策が、かなり危ない橋を渡っているのは、アベルも理解していた。

そして、やむを得ないというのも理解していた。



コンラートがヘルムート八世を殺してしまえば、皇帝殺しと呼ばれる。

それは、少なくとも形の上では事実だ。

皇帝を弑逆(しいぎゃく)しておいて、自分が皇帝位に就く……できないことはないだろうが、国内の貴族がうるさいことになるだろう。

有力貴族の多くが、先帝ルパートの時代に取り潰されたとはいえ、全くいないわけではない。


また、諸外国の目を、完全に無視するわけにもいかない。

例えば、亡くなったヘルムート皇帝の妹、先の第一皇女が嫁いでいる国などが介入してこないとも限らない……その国は、連合の主要国の一つであるし。


それよりは、今回のように、外国勢力に討たせた方が、ある意味スマートだろう……。

誰がどう見ても、コンラートが裏で糸を引いていると分かったとしてもだ。



形を整えておく事が重要。


強い力を持っているのなら、形さえ整えておけば、たいていの無理は通る。



世界とはそういうものだ。



もちろん、このまますんなりと、コンラートが皇帝位に就けるかどうかは……。



((おそらく、帝国使節団も、何らかの方法で本国の情報は入るようにはしていると思うんだが……))

((四千キロ以上離れていますけど? ケネスですら、その距離を超えるのは難しいと、以前言っていました……))

((だが、今回、俺の魂の響で超えているだろう? 帝国も優秀な錬金術師はいるからな。あるいは、例のハーゲン・ベンダ男爵に往復させるとか……))

((転移……それはそれで凄そうですね。魔力切れとかしないんですかね……))

((まあ、とにかく、この情報の扱いは、グラマスと決めてくれ))


グラマスとは、グランドマスター、団長ヒュー・マクグラスの事だ。




一行は、聖都の王国使節団宿舎に着くと、すぐにロビーにいた団長ヒュー・マクグラスに報告を行った。

まずは、悪魔の襲撃のこと。

そして、悪魔が語ったことを。


「まとめると……。教皇の後ろに堕天した存在がいるかもしれない。そいつの目的は、俺ら人間の中にある神のかけらを集める事。それは、その堕天した存在が消え去らないために」

ヒューが確認するように、丁寧に言葉にしている。

それを聞いて、涼が偉そうに頷く。

エトも頷いているのだが……なぜか偉そうには見えない。

その差はいったい……。


「そして、人に埋まっている神のかけらは、堕天した存在だけではなく、魔王と魔物たちにも関係する。『魔王の因子』が励起(れいき)……まあ起きると、それを鎮める事ができるのは神のかけらだけ。だから、魔王軍対人間という争いが起こってきた」

涼は頷く。やはり偉そうだ。

エトも頷く。やはり偉そうには見えない。


「神のかけらは、世界の『バランス』をとっているものだから、そう簡単に大量に手に入れる事はできない……だから、遠い中央諸国から俺たちが呼ばれた。殺して、神のかけらを奪っても、この西方諸国にはあまり影響を与えないから。そしてそれらは、堕天した存在が糸を引いている可能性が高いと」

「はい」

ヒューの言葉に、エトが頷いた。


なかなかに複雑に絡まり合っているが、ヒューもエトも理解しているようだ。

もちろん、涼も理解している……多分。



最後に補足するように、涼はアベルから聞いたことを告げた。

つい先日、帝国の皇帝が、アーン王に討たれたという事を。


「なんだと……」

ヒューは絶句した。

他の六人も絶句した。

涼だけは説明を終えると、深刻そうな顔をしながらコーヒーを飲んでいる。


深刻そうな顔をしているのは、なんとなくだ。

雰囲気も大事かな、と思って……。



そんな雰囲気の場所にやってきた首席交渉官イグニス。

「何かあった雰囲気ですね?」

イグニスも、すぐに何か尋常ならざる情報が入ったことを感じ取っていた。


そして、皇帝ヘルムート八世の死去がイグニスにも伝えられた。


「それは、なんとも……」

イグニスは顔をしかめている。

これから大変なことになりそうな、帝国使節団の人員たちのことを(おもんぱか)っているのかもしれない。



「あ、イグニスさん、船、調達できました」

「おぉ~!」

(よど)んだ空気を打ち払うように、涼は報告し、イグニスは飛び上がって喜んだ。

イグニスがここまで喜ぶのは非常に珍しい。


涼が持ち帰った書類を見せる。

明日か、明後日には、別便で送らせた書類も届くはず。


イグニスは、詳細に確認する。


特に、船の仕様を見た時には震えていた。

涼に問いかける声も、震えていた。

「こ、これほどの船が、本当に……?」

仕様書と設計図から、どれほどの性能なのかを理解したらしい。


涼が頷くと、笑顔がはじけた。


「すぐに会議を開いてきます」

そう言うと、宿舎の奥に飛んでいった。


涼はそれを見て、頷いた。

そして満足した。

役に立てて良かったと、心の底から思った。



その間に、ヒュー・マクグラスの中でも、一つの結論が出されていた。


「帝国使節団には俺が伝える。情報の入手経路は適当にごまかす。王国使節団内には、今日の夕方に伝えることにするから、それまでお前たちも黙っていてくれ」

「わかりました」

ニルスが答え、涼を含めた六人が頷いた。



「あとは、その『堕天』と『生贄(いけにえ)』だな……」

ヒューには、悪魔が語った全てを報告した。

当然それは、使節団全体の安全にも関わってくるものだからだ。


「さすがにそれは……今、この場ではどうにもならんな……。明日の朝、教皇庁のグラハム枢機卿の所に行って、話してみるか。グラハムが知っているとは思わんが、俺らだけでうんうん考えているよりは、何か見えてくるかもしれんからな」

「それがいいと思います」

ヒューの考えに賛同したのは、エトだ。

ジークも頷いている。



とりあえず、報告まで終了し、七人はヒューの下を去った。



安心したら、疲れがどっと出た。

多くの人が経験したことがあるであろう。


冒険者たる一行ですら、それは例外ではない。


涼だけは、すぐに大浴場でお風呂に入ったが、他の六人はそんな力すらなく、そのままベッドに横になった。


(あんな経験をしたのだから仕方ないでしょう)

などと涼は思いつつ、お風呂に入ってさっぱりした。


さっぱりしたら甘い物が欲しくなる。

これは当然だ。

そう、これは当然なのです。

異論は認めません。


問題は、宿舎ラウンジにするか、隣の『カフェ・ローマー』にするかなのです。


「久しぶりに、お隣にしましょう」




カフェ・ローマーは、かなり混んでいた。

やはり、午後三時過ぎという時間帯のせいだろう。


涼が入ろうかどうか迷っていると、一人の男性が出てきた。

男性一人客というのは珍しい。もちろん、涼は除く。

そのため、涼はすれ違ったその男性の姿を目で追った。


「ハーグ! ここにいたか」

その男性に声をかける人物が。

「小姓頭? どうかしましたか?」

「キルヒホフ伯爵がお呼びだ。急いで宿舎に戻ってくれ」

そんな会話を交わした後、二人は帝国宿舎の方に走っていた。


「ヒューさんの報告のせいかな? 帝国の方々も大変です」

涼は小さく首を振りながら、もう一度カフェ・ローマーを見る。


どうも、席は空いていないように見える。


「これは……今日は、宿舎ラウンジにしておけということでしょうか」

そう呟くと、王国使節団宿舎に戻った。


十分後、一階ラウンジで、美味しそうにリンドーのタルトを食べる水属性の魔法使いの姿が見られた……。


これで「第六章 再び共和国へ」は終了です。


明日より、新章「消えた魔法使い」開幕です!

ついに、西方諸国編の核心に……。

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