表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第六章 再び共和国へ
406/930

0381 魔王の因子

「リョウ、まずは回復しよう」

エトはそう言い、涼が持っていたマジックポーションを飲むと、唱えた。

「<エクストラヒール>」

それによって、欠損した左腕が再生され、脇腹の傷も修復される。

「いつ見ても恐ろしい回復です」

涼の呟きに、苦笑するエト。



回復が終了すると、涼はマーリンの方を向いて頭を下げた。

「マーリンさん、ありがとうございました」

「む?」

だがマーリンは、よく分かっていない。


「マーリンさんが時間を稼いでくださったおかげで、僕は間に合いました」

「なるほど、その事か。なに、お主が離れれば、また六人に、悪魔がちょっかいを出してくる可能性があると言われたからな。気にかけておったら案の定、現れおった。しかも、また西ダンジョンと聖都の間に」

「この場所というのは……」

「西ダンジョンは、わしがおるからな。そして聖都は、昔から悪魔は近づかんのじゃ」


(聖都には、聖なる何かがある? いやあ……堕天した者が教皇やその背後とかにいるのに、聖なるものがあるとは思えないんですが。あるいは、堕天しても、まだ……悪魔が近づきたくない要素を持っている?)

涼は、そんなことを考える。



「確かに……あの悪魔、ジャン・ジャックが現れるのって、必ずリョウがいない時だった……」

エトが思い出しながら頷く。


「多分、レオノールに、僕に手を出すなと言われていたんじゃないかと」

「もう一人の悪魔ですね」

涼が推測し、アモンが頷く。


「そのレオノールも……別に、リョウを守っているんじゃないよな?」

「もちろんです。僕を殺したがっているんですよ。まあ、ただ殺すというより、全力で戦って、倒して、楽しんだ結果として僕を殺したい、的な」

「お、おう……。俺には理解できん感情だ」

涼の説明に、ニルスは首を振りながら答えた。


ニルスだけではなく、他の六人……つまりマーリンも首を振っている。


もちろん、涼も理解できない。



「ジャン・ジャックは、多くの、貴重とも言える情報をくれました」

ジークが話を戻す。

「俺たち使節団が呼ばれた理由が、あんな理由だったとは……」

ハロルドが呟く。


とはいえ、ハロルドとしては千載一遇の好機とも言える状況ではあったのだ。


己の未熟さから『破裂の霊呪』にかかり、このままでは死ぬしかないという状況から、西方諸国への使節団に入れてもらえた。

西方教会には、破裂の霊呪を解く魔王の血が保管されており、それがハロルドの希望になっていた。


結局、保管されていた魔王の血は全て失われたため、自分たちで魔王を探索し、探し当てて、血を分けてもらって、霊呪が解けたわけだが……。



そんな、中央諸国から使節団が呼ばれた理由が、神のかけらを集めるため……。


遠くからやってきた者たちなら、殺しても『地域のバランス』が崩れないから。


なんとも理不尽な理由だ。



「しかし、事ここに至っても解けていない謎がいくつかあります」

涼が言うと、他の七人が一斉に見た。


「そもそも、ハロルドが額に垂らしてもらうはずだった魔王の血。第一保管庫に保管されていたそうなんですが、それを含めて、四つの保管庫全てが襲撃されたその理由」

「ああ、確かに」

涼の言葉に、エトが頷く。


「どうせ僕たち全員を殺すのに、凄く真剣に、中央諸国と法国との交渉がなされている理由」

「神のかけらを集めようとしている、陰謀? と知っているのが、極少数なんだろうな」

涼の言葉に、ニルスが腕を組んで答える。



「そして最後に、マーリンさんです」

「ん? わしか?」

涼はマーリンの方を向いて言い、マーリンは驚いて問い返す。


「マーリンさんが寝ていない理由です」

「ああ……確かに」

涼が言い、ニルスも頷く。


「多分、僕ら人間の『寝る』とは違う意味なのだと思うのです。なんか、悪魔レオノールも寝起きだからまだ弱い、みたいにさっきジャン・ジャックも言ってましたから……そういうのでしょう?」

「まあ、そうじゃな」

涼の問いに、マーリンも小さく頷いて答えた。



「わしらスペルノ……人間は魔人と呼ぶが、わしらは自分たちの種族はスペルノと名乗っておる。スペルノは、少なくとも千年に一度は眠りについた方がよい。そうせねば、極端に力が落ちていくのじゃ」

「力が落ちる……」

マーリンの説明に、ジークが呟く。


「人間も、寝不足では力が発揮できまい? まあ、それの酷いやつじゃと考えればよい。理想は、五百年寝て五百年起きて、といったところじゃ。わしは、もう、数千年寝ておらんからな……確かに、酷い状態じゃ」

マーリンは苦笑しながら言った。


「マーリンさんがずっと起きているのは、魔王軍と関係があるのですか?」

エトの問いに、マーリンは少し目を見開いた。

「……まあ、そうじゃな」

何か言いにくそうだ。


「魔王軍が暴走しすぎないようにしていたのが、マーリンさんの役割?」

驚くべきことに、アモンが核心を突いた。


「なぜ……そう思うんじゃ?」

マーリンは、少しだけ顔をしかめて問う。


困ったと苦笑との中間であろうか。


「なんとなくなんです……。伝説に聞く魔王の力はもの凄いです。それに付き従う魔物も、例えばケンタウロスの人たちとか、かなりのものでした。そんな魔物たちが魔王に従っていれば、西方諸国の国々とか何度も滅びそうな気がしたので」

アモンが言い切った。


それを聞いて、マーリンははっきりと苦笑した。

「そう、何度もは滅びんと思うが……。『魔王の因子』というやつは驚くほど厄介なのじゃよ」



魔王の因子というのは、多くの魔物の中に生まれながらにして存在し、魔王が軍を興すと、強制的に魔王軍に付き従うことになる、『制約』あるいは『呪い』のようなものだ。


「魔王が望まぬでも、魔王の因子は効果を発揮し始めることがある」

「なんと……」

マーリンの説明に、涼が絶句した。

他の六人も絶句している。


「一度励起した魔王の因子は、しばらくは励起したままじゃ。神のかけらをある程度取り込むと、時間と共に基底状態に戻るが……」

「神のかけら……。だから、魔王軍は人間とぶつからざるを得ないと……」

マーリンの説明に、涼は補足して頷いた。


「うむ。仕方のないこと……神が作りしものゆえ、わしらにはなんともできぬが……。人間からしたら、たまったものではあるまい? じゃが、魔物たちも、魔王の因子には逆らえんのじゃ。そのため、誰かがバランスを取らねばならぬ」

「それがマーリンさん」

「うむ。わしらスペルノは、魔王の因子を埋め込まれておらぬ。それゆえ、魔王の因子が励起している中でも、冷静さを保てるのじゃ」

「だから、常に魔王の傍らに参謀としてついていたのですね。魔王軍が、暴走しすぎないように、人間を殺し過ぎないように……。最後、停戦条約の調印の場にも必ずいた、と記録を読みました」


マーリンの説明を、エトが補足した。

エトとジークは、聖都の専門図書館で、その辺りの記録も読んでいた。



「いつか神なるものに会うことができたら、ぜひ問いたいのじゃ。なぜ、魔王の因子などというものを創り給うたのかと」

マーリンは、何度も首を振りながら言うのだった。




マーリンと別れ、聖都入口に到着した一行。


「教皇就任式まで、あと二十日あまりです」

ジークが言うと、ハロルドとゴワンが頷いた。


「やれることを一つ一つです。そもそも、僕たちで勝てる相手とは限りませんからね、神のかけらを欲するほどの存在なら」

「まあ……そもそも、さっきの戦闘も、俺には理解の範疇を超えていたがな」

涼の言葉に、ニルスが涼の方を見て言う。


そして、続けて問うた。

「だいたい、最後とか、リョウは左腕を斬り飛ばされていたろう。あれ、あのまま戦闘が続いていたらどうするつもりだったんだ?」

「ああ……どうでしょうね。魔法戦ですかね? あるいは、氷で左腕を作って剣戟の続行というのもありですかね」

「そんなことできるのか!」

「さあ? やったことないですよ?」

「おい……」

涼の適当返答につっこむニルス。


「だって……ニルスに代わって、って言っても代わってくれないでしょう?」

「ああ、もちろんだ。絶対に代わらない。代わるわけがない!」

涼の問いに、いっそ清々しく拒絶するニルス。


それを聞いて苦笑するエトとアモン。

そして、ため息をつく涼。



「まあ、なんとか、首を飛ばされないで終わる事ができました。とはいえ、内容的にはまだまだですけど」

「あれでまだまだ……」

涼の言葉に、アモンが呟く。


「いずれは空中戦、つまりは完全三次元戦闘になるでしょうね」

「リョウはいったいどこを目指しているんだ……」

涼の適当未来予測に、ニルスが呟く。


涼がどこを目指しているのか……それは、誰にも分からない……。

もちろん、涼にも。




((そんな感じで、こっちもいろいろ大変だったんです))

((お、おう……大変そうだったな))

涼は、国王陛下の動揺を感じていた。


((アベル、何かあったのなら相談に乗りますよ? 僕はこれでも筆頭公爵ですからね!))

((いや……さっきの悪魔との戦闘、魂の響を通して見ていたんだが……))

((ああ、そうだったんですね。面白い光景が見れたでしょう?))

((なんというか……凄い世界の戦闘だな))


それは、アベルの素直な感想であった。

アベルは、剣士だ。

そのため、近接戦の専門家と言ってもいい。

その、近接戦の専門家としても……全く想像外の速度であった。


((あんな速度域での戦闘をやるのか……))

((あれ? アベルは、セーラと模擬戦とかしたことないのです? セーラの『風装』は、あれくらいの速度域での剣戟じゃないですか))

((うん、やったことないし、これからもやらない……))

アベルは心に誓った。


そして、涼は当たり前の事を思った。

(そういえば、最近セーラに会っていません)




王国西の森。

「今帰ったぞ」

「おババ様、おかえりなさい」


王都への出張から戻ったおババ様を、セーラは真っ先に迎えた。

そこからは、村に作られた訓練場が見えるが、多くのエルフたちが倒れている。


おそらく、セーラに打ち倒されたのだろう。



「セーラ……わしではなく、お主が王都に届けてくれてよいのじゃぞ? 正式に、この西の森の次期代表なのじゃ。王都でも、粗略に扱われたりはせんし……わしも、ここと王都の往復は疲れる」

「いえ、そこはおババ様にお任せします」

セーラは、頑なに拒んだ。


その理由をおババ様は知っている。


「どうせ、リョウが王都におらんからじゃろうが」

「さすがおババ様、全てお見通し」

おババ様は首を振りながら言い、セーラはあっけらかんと笑って答える。


「リョウがいない王都など、何の価値もありません」

「いや、そう言い切るな……」

セーラが断言し、おババ様はため息をつく。


「西方諸国への使節団に加わっておるのじゃ。仕方あるまい」

「リョウも筆頭公爵なんだから、そんなのは部下に行かせればいいのです。代わりに、王都の美味しいお店巡りでもした方が、よっぽど意義があります」

「それはどうかと思う……」

さすがに、セーラの言葉に同意できずに、おババ様は反論した。


「ノブレス・オブリージュとか言うやつじゃ。高貴な者の責任、仕方あるまい」

「もちろん冗談です。リョウは真面目ですからね。きちんと自分の役割をこなすあたりは、素晴らしいです。リョウに会いたいのは当然なのですが……でも、どんなお土産を持って帰ってきてくれるのかも、楽しみではあるんです」

「なんというか……リョウとセーラの気が合うのは……分かる気がするわい」


セーラが嬉しそうに言う言葉に、おババ様はため息をついて呟くのだった。


そんなおババ様を見て、セーラは言葉を続けた。

「まあ、私は、ここでみんなを鍛えた方が、王国の防衛力向上につながるでしょう? その方が、より多く国に貢献できると思います。ですので、実際に行くのはおババ様にお任せします」

「むぅ……」

セーラの言葉に反論しにくいおババ様。

言っていることは間違っていないからだ……。


間違っていなければいい、というわけでもないのだが……。


で、明日からちょっと「幕間」が四日ほど入ります。

明日のは、まあいつもの「幕間」です。


明後日から三日連続で、三連幕間『帝国動乱』が入ります。

名前通り、帝国が動乱で揺れます……。

どうしても、このタイミングで入れなければならないお話なので、

三日ほど、お時間をください……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ