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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第六章 再び共和国へ
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0377 罠

涼が、二度目の共和国に向かった数日後から、『十号室』と『十一号室』の六人は、聖都西ダンジョン攻略に再び取り掛かっていた。


それ自体は楽しいことなのだが、正直、このタイミングでダンジョン攻略をしていいのかどうか……そう思ったのだが……。

「行ってこい」

と団長ヒュー・マクグラスに言われたのだ。


それは有無を言わせぬ口調。

何か裏があることはニルスでもわかったが、あえて何も言わないで受け入れた。



今、伝える必要がないから何も言わないのだ。

今、まだ伝えるタイミングではないから何も言わないのだ。

どちらにしろ、今、ニルスたちが知っていいことではない理由なのだろう。


だからヒューは、何も言わない。

ならばニルスも、何も問うまい。



西ダンジョンの街での宿は、もはや定宿となった『聖都吟遊(ぎんゆう)

街でも、最上級の宿に、使節団のお金で泊まりながら、ダンジョン攻略。


「いいんですかね、こんなに贅沢(ぜいたく)させてもらっちゃって」

アモンが笑顔で、豪華な宿の晩御飯を食べながら言う。

「ヒューさんがつけた条件は一つだけ。指示があるまで、西ダンジョンの街から出るな、だもんね。それだけ守ればいいんじゃない?」

エトも嬉しそうに、食べながら答える。


ニルスとしては、若干気になるのではあるが、考えてもどうしようもない事だとも理解していた。




さて、六人が前回攻略したのはボスのいる百層。

そのため、今回は百一層から。

「次のボスは百五十層……しかも、記録されている最深層がそこだ」

ニルスはそう言ったが、そこに至るまでに懸念がいくつもあるのもまた事実だった。


まず、この六人は、剣士三人、双剣士一人、神官二人だ。

はっきり言って、バランスが悪い。


ほぼ、遠距離攻撃力がない。

せいぜい、エトが左腕に着ける連射式弩……いちおう、神官二人のライトジャベリンもだろうか。


魔法使いがいないのだ。


だが、まあ、それはいい。

『十号室』だろうが、『十一号室』だろうが、基本的に魔法使いのいないパーティーだ。

慣れていると言えば慣れている。



だが、ダンジョンにおいて……斥候(せっこう)がいないのは厳しい。



百層に至るまでにも、いくつもの凶悪な(わな)があった。

もちろん、その全てを避けてはきたが……。


罠の感知は、アモンとジークが秀でていた。

完全に直感のアモン。

論理的に罠がありそうだと推測するジーク。



この二人での罠の回避率、実に九十九%!



一度だけ、移動戦闘中にゴワンが罠を踏み抜き、毒矢の罠が発動したことがあった。

迫る数十本の毒矢は、エトが緊急展開防御魔法<サンクチュアリ>を展開し、事なきを得た。


それとて、ゴワンが踏む前にジークが指摘したのだ……ゴワンは理解していなかったが。


つまり、アモンとジークが揃えば、全ての罠を見つけ出せる。



それにもかかわらず、ニルスの胸中には、理由の分からない不安が去来(きょらい)していた……。




翌日から、ダンジョンを攻略。

今までに比べ、層がかなり広い。

もちろん、地図は出回っていない……。

しかも、百一層以下は、層の情報すらほとんどない。


これは、これまでの多くの先達が、百層のボスを攻略できずに、そこでダンジョン攻略を止めたからだ。


百層の出現ボスは、完全にランダム。


だが、ある程度強いボスが出てくるのが普通らしい。



六人の前に現れたボスは、ワイバーンであった。

これは、百層に出てくるボスとしては最強クラスと言っていい。


というか、普通、ワイバーンが現れたら、どんなパーティーも撤退する。


百層は、撤退しても何の問題もないのだ。

一日一回しか潜れない、という制限があるだけで、デメリットは全くない。

翌日潜れば、別のボスが現れるのだから、そこで再攻略すればいいだけ。



それなのに、六人はワイバーンを攻撃した。


そして、最終的には倒すことに成功した。



そんなワイバーンクラスとまではいかなくとも、百層ボスは、かなり強力なボスが出ることが知られている。

そして、数人のパーティーで攻略するのは難しい相手が。


キングボア。

ハーピークイーン。

ゴブリンキング。

シャドーストーカークイーン。

レイスキング。

などなど。

キングやクイーンのオンパレード!


いずれも、地上では滅多にお目にかかれない魔物でもあるため、攻略方法が確立していないものが多い。



そんな理由で、百一層から下は、そもそも進むことができるパーティー自体が少ない。


『十号室』と『十一号室』は、進むことができる稀有(けう)なパーティーになったのだ。

これは、実は西ダンジョンの街においてかなり話題になっていた。


現役で、西ダンジョンを攻略しているパーティーで、百一層以下に足を踏み入れているパーティーは、彼ら六人を含めて、八組だけ。


常時、五千組を超えるパーティーが攻略に取り掛かっているとすら言われる西ダンジョンで、トップ八組の一つということになる。

話題になるのは当然であろう。



もちろん、六人は、そんなことは気にも留めていないのだが。




ダンジョン再攻略に取り掛かって数日後。

順調に攻略を進め、百二十層に到達した。

石段を下り、百二十層に足を踏み入れようとした瞬間。


「待った!」

ジークが声を上げる。


先頭は、ジークとアモンだ。

罠の探知をしながらのため、そういう形になっている。


そんなジークが、目を凝らしているが、小さく首を傾げていた。

そして、口を開いた。

「何か変です。すいません、何か分からないのですが……何か変です」


これは、ジークにしては非常に珍しいことであった。


だいたいにおいて、

「通路の幅が狭いので、横から槍などの罠が出てきます」だとか、

「天井が暗くて見えないので、何か降ってくるか魔物がくるかもしれません」などと、

理由と、ありそうな罠を指摘するのだが……今回は、「何か変です」だけ。



「確かに、変な感じがしますね。しますけど……何が変なのか、よくわかりません」

アモンも同じようなことを言った。


だが、これで確定した。


この百二十層には、何か、今までにない罠がある。



「分かった。今まで以上に慎重に進むぞ。一歩ずつな」

ニルスが言うと、他の五人は頷いた。

そして、文字通り、一歩ずつ、足元の石畳に異変がないかを確認しながら歩を進める。


基本的に、ダンジョンの罠は、足元の石畳で発動することが多い。

一定の重さがかかると、罠が発動する、みたいな。



そのため、特に先頭のアモンとジークは、一歩一歩石畳を確認しながら進んだ。


だから、罠を踏み抜いたりはしなかったはずなのだ。



だが……瞬間的に、それは起きた。



転移。



六人とも、すでに何度か経験している……地上において。


その感じを、初めてダンジョンで経験した。


声を上げる暇もなかった。


一瞬だけ体が浮いた感じがして、次の瞬間には、すぐにどこかに立っていた。



「転移……」

思わず、ハロルドが呟く。

「転移の罠があるダンジョン……」

エトも小さい声で言う。

「以前、リョウが言っていたな」

ニルスが、体に似合わない囁くような声で言う。

「今回は、俺じゃない……」

ゴワンは、罠を踏んでいないことを主張した……。


他の三人も頷き、ゴワンを慰める。


そう、他の三人も。ゴワンを入れて四人だけ。



「アモンとジークは……」

「別の場所に飛ばされたな……」

エトが言い、ニルスも頷いて答えた。



六人は、分断された。


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