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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第六章 再び共和国へ
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0374 襲撃

都ゴスロンで一泊した後、涼は、ゴスロン公国が用意した馬車に乗り、公国を出た。

後は、聖都マーローマーに戻るだけ。


ゴスロンから聖都までは、馬車で三日。

……何事もなければ。



それは、ゴスロン公国の国境まで、あと二十キロほどの場所であった。

街と街の間の街道上。



馬車を突然の衝撃が襲う。


吹き飛ばされる馬車。馬。そして、御者。

馬車は車輪が砕け、箱も大きくひしゃげてしまった。



「出てくるがいい。その程度では死なないだろう?」

派手なことをやらかした者にしては、非常に落ち着いた声。


その声に反応して、倒れた馬車に巨大な穴が空き、中からローブを纏った涼が現れた。


「驚くほど派手な攻撃ですね。アベラルド司教、ブリジッタ司教、ディオニージ司教」


涼を襲ったのは、『教皇の四司教』のうちの三人。



「王国使節団リョウ殿。それとも、ロンド公爵と言った方がいいかな。以前、警告したはずです。教会の害になると判断すれば、あなたを排除すると」

正面のアベラルド司教が告げる。

口調は、以前同様に普通だが、ほんの僅かに苛立ちが混じっているのを、涼は感じ取った。


「それは覚えていますが……。教会の害となるような行動、とっていませんよ?」

涼は首を傾げながら答える。

実際、そう思っているのだが……。はて?


「ふざけんな! 教会の敵、共和国から船を買っただろうが。どんだけの金を共和国に渡した? それを利敵行為と言わずして何だというんだ!」

「ああ、なるほど」

乱暴な口調でディオニージ司教が指摘し、涼もちょっと納得してしまった。


言われてみれば、そういう視点も成立する。


「そういうわけで、教会は、あなたを排除することを決定しました」

アベラルド司教が、やはり落ち着いた声で告げる。


「教会が……。すいません、あなた方三人への命令は、どなたが下されたのか、教えていただくことは可能ですか?」

「もちろん、教皇聖下です」

「教皇……ご自身の口で?」

「もちろんです。我々への指令は、常に、教皇聖下がご自身の口で伝えられます」


アベラルドはそう答えると、恭しく頭を下げた。

同時に、ブリジッタもディオニージも頭を下げる。



三人の、教皇への忠誠は、やはり絶対のものらしい。



教皇が、涼の排除を決定したとなると、三人を倒すことができて、聖都に戻れたとしても、いろいろと難しい気がする……。


とはいえ、今は、そこは考えない。

目の前に、危機が迫っているのだから、それを排除してから考えればいい!



涼がそう思い、その目に力を宿した瞬間……違和感が襲った。



以前、感じたことのある違和感。



けっこう、何度も感じたことのある違和感。



最初は、ロンドの森の、あの片目のアサシンホーク……。



「まさか……こんな場所で、魔法無効化?」

涼がそう呟くと、三人の司教は驚いた。


アベラルドは、かなり驚きを自制したようだが、それでも完璧ではない。

ブリジッタも、僅かに表情が変わった。

ディオニージに至っては、「なぜ分かった」などと呟いたように聞こえた。


三人は驚き、涼も驚いた。

確かに、涼も驚いたのだ。

だが、我知らず笑った……涼は自覚していない。



「なぜ笑っている? 魔法使いにとって、魔法無効化は死の宣告にも等しい……。諦めたか?」

アベラルドは、眉根を寄せて尋ねる。


涼が笑っている理由が分からないのだ。


「笑ったつもりはないのですけどね。いえね、ここで魔法無効化ということは、あなたたちの誰かが、魔法無効化を引き起こす何らかの物を……おそらくは錬金道具を持っているということなのでしょう? それはぜひ見たいと思っただけですよ」

やはり涼は笑っている。


「馬鹿が! 貴様は死ぬんだ。見ることなどできん!」

ディオニージが怒鳴る。


「そう、やはりあるんですね、魔法無効化の錬金道具。まあ、見られるのは、生き残ったら、ですね」

涼は二度頷いて鞘から村雨を抜き、氷の刃を生じさせる。



そして言い放った。

「中央諸国においては、魔法使いが近接戦をこなせるのは当たり前なんですよ」



「ぬかせ!」

叫ぶが早いか、ディオニージは手を閃かせて、一気に飛び込む。


手から三本の短剣が放たれ、同時にディオニージも両手にダガーを持って涼に向かって飛び込んだのだ。


三本の短剣を弾き、ディオニージの右手の短剣を、村雨で受ける。

その瞬間、ディオニージが左手に持った短剣で涼に斬りつける。

それを、村雨の柄で打ち落とし、反動をつけて突く。


「チッ」

ディオニージは小さく舌打ちし、バックステップして涼の間合いから出る。


入れ違いに、涼の右から何か光るものが迫る!

視界の端で捉えた瞬間、首を傾げて紙一重でかわす。


だが、すぐにそれは失敗だと悟った。


投げられた短剣などではなかったのだ。

慌てて上半身を倒し、ダッキング。


涼が下げた頭の上を、『後ろから』棒が薙いでいく……。


「三節棍?」

長さ六十センチ、太さ四センチほどの三本の棒を、鎖で繋ぎ一直線になるように連結した武器……カンフー映画などでしか見たことないが、涼でも知ってはいる。

知っているだけで、映画以外で実際に使っているのは見たことないが。


それを、ブリジッタが振り回している……。


ブリジッタは女性ではあるが、身長は百六十センチほどある。

そのため、特に苦も無く、三節棍を体の周りで回せるようだ。



左、両手短剣のディオニージ。

右、三節棍のブリジッタ。

となれば、当然、正面のアベラルドが気になるが……動かずに、じっと涼の様子を見ている。


(そういうのが、一番やりにくい)

涼は小さくため息をつく。



(ブリジッタは、シミュレート能力があって、驚くべき予測を行う。それを破るには……速度で上回るのが一番かな? そして、一対多の鉄則。敵は一方向に置く)


涼は、自らブリジッタの元に飛び込んだ。



ブリジッタの三節棍は、涼の村雨でも斬れないようだ。

細かい斬撃を入れて、涼はブリジッタと体を入れ替える。


この方向なら、敵三人全員を、視界に収めることができる。



時々、ディオニージが短剣を投げてくるが、見えているため問題ない。

そのまま、戦いながら少しずつ移動。


そうして、背後に、馬車の残骸を背負う位置を確保。

後方に、安全域を得ることに成功した。


(あとはいつも通りです!)


涼、鉄壁の守り。



一対二であっても、涼の守りは抜けない。



そうして、涼は二人の攻撃を防いでいる間に、あることに気付いた。

それは、ただ一人戦闘に加わっていないアベラルドの表情。

冷や汗を垂らし、時々苦痛に顔をゆがめることすらある。


あれほど、常に落ち着き、驚きの表情すらかなり自制してみせたアベラルドがだ。



(戦闘が膠着しているのに参戦しない。冷や汗、苦痛……魔法無効化……)

涼は、目の前の戦闘をさばきつつ、そんな事を考えている。


逆に言えば、それができるほどの状況にある。


ブリジッタの先読みは厄介ではあるが、これほどの近接戦かつ高速戦闘となると、それを活かす状況はほとんどない。



もちろん、ディオニージもブリジッタも、決して弱くない。

いや、涼がこれまで戦ってきた中でも、人間に限って言えば、トップテンには入る……と思う。



だが、はっきり言えばそれだけだ。



涼が戦ってきた人外の者たちに比べれば……。


魔法無効空間で戦った、ヴァンパイアの剣士に比べれば、かなりの余裕をもって戦える。

魔法無効化を身に付けた、片目のアサシンホークの時ほどには、追い詰められていない。



三人は、魔法使いである涼を、魔法無効化の状態に置けば楽に倒せると思っていた。

だが、実際は違った。

魔法使いのくせに、近接戦が強い。


涼は、そんな魔法使いだった……。



(だいたい分かりました)


涼はバックステップして、ブリジッタから距離をとる。

待ってましたとばかりに、ブリジッタは、三節棍を伸ばしての攻撃。


涼は、向かってくる三節棍の先端を、右足を半歩踏み出してよけ、よけざま、伸びきった三節棍の連結部分を斬り落とす。

ほぼ同時に、体を傾けながら、ディオニージの投げた短剣の一本を、ボールをバットで打ち返すように村雨で打ち返した。


アベラルドに向けて。


「ぐはっ」


飛んだ短剣は、アベラルドの腹に刺さる。

思わず膝をつくアベラルド。


驚き、アベラルドを見る二人を置いて、涼は一気にアベラルドの元へ駆け寄り、跪いた状態の頭を蹴り上げた。


吹き飛ぶアベラルド。

その左手から、何かが飛んだ。

涼は手を伸ばしてキャッチする。

350ミリリットル缶ほどの大きさの、円筒形の何か。


涼が手を伸ばして取り、確認している間に、ディオニージとブリジッタは、吹き飛んだアベラルドを抱え、走り去る。



遠くに馬車が現れ、三人を拾って去っていくのを、涼は見送った。



別に三人を倒す必要はなかったし、それ以上に、手にした筒が気になった。

恐らくは、これが魔法無効化を生み出した錬金道具。


だが、アベラルドのあの様子を見た後だと、自分で試す気には到底なれない……。


「ケネスのお土産にしましょう」


だが、涼はそこで気づいた。

馬車がすでに壊されていることに。


しかも、御者は吹き飛ばされたまま、未だに気絶している。


「はぁ……」

涼は、大きな大きなため息をつくのであった。


『ちょっとした』襲撃がありました。


明日「幕間」が二本入ります。

12時と21時に投稿します。一日二話投稿ですね。



以前も、ちょっとあとがきで書きましたが、

現在「第22回 好きラノ2021年上期」の投票が行われております。


ありがたいことに、「水属性の魔法使い」第一巻と第二巻が投票対象になっております!


Twitterアカウントのある方は、1人10作品まで投票できるそうなのですが、

もしよければ、うちの子たちへの投票もお願いいたします……。



きっとこういうのが、続巻を出すのに繋がっていくのではないかと思っています。

それがひいては、筆者が書き続けるモチベーションに……。



締切は7月24日(土)だそうです。


他の、推し作品と共に……ぜひ……「水属性の魔法使い」へも清き一票を……。


第22回 好きラノ2021年上期

https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/?v=4803015015

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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