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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第六章 再び共和国へ
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0371 二度目の共和国~ちょっとディープなお船の調達

((アベル、五千億フロリンもの信用状を与えられています))

((ああ。グラマスに、必要な時に使えといって持たせたやつだな。使い方は任せてある))

((そういうところは、素直に、アベルは器が大きいなと感心してしまいます……))

((……そうか?))


多分、アベルは照れている……涼には分かるのだ!


((まあ、船の調達そのものが、交渉の成否に直結する状況なのだろう? ならば五千億フロリンの信用状というのも、わからんではないだろう))

((ちなみに……五千億フロリンって、どれくらいの価値なんですか?))

((どれくらいの価値? 意味が分からんが?))

((え~っと……例えば、王国民の平均年収っていくらくらいですか?))

((ああ……。王国全体はわからんが、王都民に限って言うと、百万から百五十万フロリンくらいだったはずだ))

((な、なるほど……))


二十一世紀初頭の日本円に換算すると、五千億フロリンは、約一兆円ほどらしい。


ちょっとだけ、涼の指が震えた。


((近寄る者は、全て盗賊とみなして返り討ちにします!))

((いや、それはやめろ))



お金は人を狂わせる……。




聖都マーローマーから、マファルダ共和国国境まで、涼は六日で着いた。


そう、『六日』で着いた。

前回は、五日だったが。


急いでいるにもかかわらず、時間がかかったのはもちろん理由がある。

それも、のっぴきならない事情が。



ちなみに、途中で寄ったのは、聖都西ダンジョンだ……。




そして、マファルダ共和国国境。

前回同様、厳しそうな国境警備が行われている。



しばらく待つと、国境検査は、涼の番になった。


馬車付きの御者が降りて、何か手続きをした後、扉がノックされた。

「どうぞ」

「失礼します」

涼が言うと、扉が開いて、警備兵が扉を開いて入ってきた。


「役儀によりお尋ねします。共和国発行の国境通過証、あるいは身分証明はございますか」

前回同様、極めて丁寧な問い。


もちろん涼は、今回も共和国発行の国境通過証は持っていない。


手元にあるのは……。

「では、これを」

涼は、ネックレス風に首から下げている身分プレートを渡した。


「はい。貴族の方でしたか。少々お待ちを」

警備兵はそう言うと、外に向かって言った。

「照会板を持ってきてくれ」




「中央諸国ナイトレイ王国の筆頭公爵が、再び入国したそうだ」

「ナイトレイ王国の筆頭公爵というと、ロンド公爵でしたな」

元首コルンバーノ・デッラ・ルッソと、最高顧問バーリー卿の会話。


ここは、マファルダ共和国首都元首公邸、元首執務室。


「前回は、アンダーセン殿に手紙を持ってきたのでしたな。しかし、アンダーセン殿は共和国を去ってもういない。さて、今回はいったい何が目的なのか……」

「まあ……監視は……いや、どうだろうな。今回も無害とは限らんし……」

バーリー卿が考え、元首コルンバーノも考える。


「うむ。前回、ロンド公爵に助けられた特務庁の人間がいたな。その二人に、ロンド公爵に会いに行かせよう。それで、目的も探れる」

コルンバーノは、すぐに特務庁のボニファーチョ・フランツォーニ局長に連絡するのであった。




涼が、マファルダ共和国首都ムッソレンテに入ったのは、国境を越えた二日後であった。


馬車は、市街地にほど近い、だがかなり広い敷地を確保した、見るからに高級な宿の前に止まる。

すぐに、宿から従業員が出てきて、馬車に積んである荷物を宿に運び入れはじめた。


全てがスムーズ。


一瞬の遅滞もなく、欠片のストレスも感じない。

まさに、一流の仕事。



涼は上機嫌で宿の門をくぐった。



巨大なロビー。

三階吹き抜け、ふんだんにガラスを使い、とても明るい。

二度目の訪問であっても、やはり圧倒された。


「ようこそ、ドージェ・ピエトロへ。ロンド公爵様」

受付のお姉さんも、前回見た人だ。


涼の顔を覚えていたらしい。


「こんにちは。とりあえず、七泊でお願いしたいのですが」


今度の涼のお仕事は、船の調達だ。

七泊では短すぎるかもしれないと思いつつ、とりあえずは……。


「あと、明日午前中にフランツォーニ海運商会を訪れたいと思っていますので、先方に約束を取りつけていただけますか?」

「畏まりました」


一流のお宿は、こういう事ができる。

涼は満足して、ラウンジへと足を運ぶのであった。



涼も、ただ休むためだけにラウンジに行ったわけではない。

もちろん、今月の黒板ケーキが気にならなかったとは言わないが……。

決してそれだけではない。



そして、ラウンジに入って五分後、想定通りの事が起きた。



「失礼します。ロンド公爵様にお会いしたいと、諜報特務庁の方がお見えですが」

「ああ。こちらでお会いしますので、通してください」


やってきたのは、バンガン隊長とアマーリア副隊長。


「ロンド公爵閣下、ご無沙汰しております」

バンガンはそう言うと、きっちりと頭を下げた。

同様に、隣のアマーリアも頭を下げる。


今回、二人は、特務庁のさらに上、元首公邸から特に命令されて訪れた。

いやがうえにも気合は入るというものだ。


「こんにちは、バンガン隊長、アマーリア副隊長。まあ、どうぞ、そちらへ」

涼が、向かいのソファーを指し示すと、二人は座った。

「ここのケーキはとても美味しいですよ。注文されてはどうですか?」

「あ、では……」

「こら!」

涼が勧め、アマーリアが注文しようとして、バンガンに怒られた。


「え~。せっかくの、ドージェ・ピエトロのラウンジですよ? 隊長分かってます? とても我々の給料なんかでは入るどころか、近付くことすら叶わない、遥か彼方(かなた)、夢の場所ですよ? しかも公爵閣下がどうぞと勧めてくださっているのに断るのは、逆に失礼ですよ?」

アマーリアが自説を主張する。


美味しいケーキを前にして食べないなど、拷問以外の何物でもない。

涼はそう思うので、重々しく頷き、アマーリアに加勢した。


「バンガン隊長、ケーキを注文して、友好的な雰囲気を構築した方が、情報を引き出しやすいと思いますよ」

「そ、そうですか? それでは……」

「やった!」

バンガンが許可し、アマーリアは小さくガッツポーズした。


これで、涼も心おきなく二個目のケーキを……。

((ケーキは一日一個までだ))

どこかの王様の声が聞こえる……。

((交渉の一環です。ここで退けば二人の心を開けなくなります。仕方がないのです))

((……))

王様も納得したらしい。


不満ありありな雰囲気が、『魂の響』の向こうから漂ってくる気がするが、気のせいに違いない。



「それで、お二人が今日来たのは、私が入国した目的を知るためですか?」

涼のズバリの言葉に、二人とも驚いて目を見張った。


「はい。おっしゃる通りです……」

辛うじて、バンガン隊長が言う。


涼は一つ頷いて、言葉を続けた。

「今回伺ったのは、船を手に入れるためです」

「船、ですか?」

アマーリアが首を傾げながら問う。


「はい。長距離航行が可能な……それなりに大きな船ですね。ここから、中央諸国に行けるくらいの」

「中央諸国に……」

「いや、しかし、それはどれほどの距離があるのか……」

涼が説明し、アマーリアが絶句し、バンガンが驚いている。


「まあ、難しいのは承知しています。ですが、そのために来たのもまた事実。今回は、正式にナイトレイ王国の代表として伺っています。元首閣下と局長にも、そのようにお伝えいただけますか」

「か、畏まりました……」


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