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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第五章 教皇庁
388/930

0363 抗う者

「グラハムさん、こちらが本日の書類です」

「ああ、ご苦労様です」


涼は、今日も無事にお仕事をこなした。

なので、この後は、プライベートの時間である。


「グラハムさん、昨日の件は……」

「ええ、お伝えしようと思っていました。今朝は時間をとってありますので、説明をしましょう」

涼の問いに、グラハム枢機卿はそう答え、応接セットに座るよう指示した。


すぐに、香り豊かなコーヒーが運ばれてくる。

恐らくは、暗黒大陸産のコーヒー。



「分かったことからお伝えしましょう。リョウさんを監視していたのは、アドルフィト枢機卿の手の者でした」

「ほぅほぅ~」

グラハムは、そう説明してくれたが、もちろん涼は教会内の知識がほぼ無いため、(くだん)のアドルフィト枢機卿がどういう人物か全く分からない。


「アドルフィト枢機卿は、十二人いる枢機卿の中でも、最も裏工作に秀でた人物だと言われています」

「裏工作……」

グラハムの大上段からの説明に、涼はさっそく顔をしかめる。

面倒な人に目をつけられたらしい。


「八時間ずつ、三交代制で監視していたのは、リョウさんは分かっていたようですが、目的としては、特に害を加えようとしていたわけではないようです。私との関わりを、可能なら探り出す。むしろ主目的は、リョウさんを通じて、教皇庁内の情報が外部……使節団にではなくて、共和国のような仮想敵国に()れないかを探っていたようですね。リョウさんが、共和国帰りだという点が、その理由だったみたいです」

「ああ、なるほど……」


グラハムの説明に、涼は非常に納得できた。


仮想敵国、というより戦端すら開いた共和国から戻ったばかりの男が、毎日のように教皇庁内に出入りしていたら……確かに、裏の仕事に精通した人物から見れば、怪しむのは当然な気がする。



「じゃあ、そのアドルフィト枢機卿とかいう人は、教会のためを思って行動した善い人なんですね」

「善い人……と言い切れるかは分かりませんが、今回の監視自体は、教会と法国のためを思って……と言っていいかもしれません、確かに」

涼の無邪気とも言える感想に、苦笑しながらグラハムは答えた。


綺麗(きれい)ごとばかりでは、国というのは存続できないものなのだ。



「もちろん、リョウさんが情報を共和国などに流している証拠があがれば、人知れず排除することまで指令を受けていたみたいですよ」

「前言撤回です。全然善い人じゃないですね!」

グラハムの新たな情報の追加で、涼は前言を翻した。


善い人ではなく、ちょ~悪い人だ、という方向に。



涼の命は、何よりも大切なものだ。

涼にとっては。



「ただ、気になることを言っていました」

「気になること?」

「はい。彼ら、アドルフィトの手の者たちは、リョウさんの監視が主任務らしいのですが、時々、別の監視者たちを見かけることがあると」

「え?」

「一つは、連合使節団を監視する者たち。もう一つが、王国の文官を監視する者たち」

「連合はともかく、うちの文官って……」


グラハムの説明に、涼は顔をしかめ、小さく首を振りながら答えた。

文官たちは、彼らのような暗殺任務すらこなす者たちに狙われれば、恐らく簡単に命を落としてしまうだろう。


「王国の文官の誰を監視しているかは?」

「恐らくは、軍務省交渉官グラディス・オールディスであろうと」

「ああ……軍関係の文官で、一番偉い方ですね」


涼は知っていた。

いや、正確には本人は知らないのだが、彼女の護衛としてついてきている軍務省文官を知っている……。

その関係で、グラディス・オールディスの事も知っていた。



「グラディスさんを監視して、いったい……。あ、で、グラディスさんや連合使節団の監視を命じているのは、いったい誰なんですか?」

「グーン大司教です。私もそれほど詳しくはないのですが、カミロ枢機卿の子飼いの人物らしいです。ですので、背後にいるのはカミロ枢機卿の可能性が高いですね。カミロ枢機卿は、簡単に言うと、アドルフィト枢機卿の次に、裏工作に秀でた枢機卿です」

「枢機卿というのは、裏工作に秀でた人が多いんですか……」


グラハムの説明に、あんまりな感想を述べる涼。


だが、グラハムは真面目に頷いて言葉を続けた。

「実際そうなのです。そうでなければ、足をすくわれて、上に上がることなどできないのですよ。今の教会では」

「……恐ろしい場所ですね」



実力を示せば上に上がっていける……そんな大組織は存在しない。

ただの夢物語だ。


驚くほど多くの偶然と、信じられないほどの幸運とが重ならない限り、あり得ない。


宗教組織だろうが、会社組織だろうが、あるいは政府組織だろうが、ある程度以上の規模の組織においては、『組織の上に上がっていくための技術』を持っていない者は、上に上がることはできない。


それを処世(しょせい)術と言う人もいるだろうが……組織全体のためにも、組織の未来のためにも、あまり良い状態ではない。


良い状態ではないのは、多くの人が分かっているのだ。

だが、分かっていても変わらないし、変えられない。



これは、人の根本の部分に根差した悲しい(さが)なのではないかとすら、涼は思っている。


歴史を見れば、枚挙にいとまは無い……。


ほぼ全ての大組織が陥る病。

そうであるのなら、それはもはや、人が普遍的に持つ(ごう)


人が人である限り、逃れることができないものなのだろうと。



涼は小さく首を振った。



グラハムも、寂しそうに微笑んで言葉を続ける。

「開祖ニュー様が望まれたのは、こんな教会ではなかったはずなのですけどね……。時間が変えてしまったのか……それとも別の何かなのか……。どちらにしろ、今いる我々の中にも、なんとか修正したいと思っている者もいます……それは事実なのですよ」


それが人の性であり、業であったとしても、(あらが)うのもまた人……。


毒を以て毒を制す……そうせざるを得ない場所。

悩みながらも、グラハムも、抗う者の一人なのかもしれなかった……。

『水属性の魔法使い』第三巻の宣伝をちょっとだけ。(活動報告からの抜粋です)


ええ、『第三巻』です。

この前発売された第二巻ではなく、まだ予約も始まっていない第三巻ですよ?


ちょっとだけね。

なぜなら、筆者はやってやったからです!


そう、やりました! やってやりましたよ!



第三巻、加筆11万7千字です!



『改稿』じゃないですからね。新たに書き下ろして膨らんだ分が、11万7千字ですよ!


第三巻も、いつも通り23万字超の大ボリュームなのですが、そのうちの半分が、なろう読者の皆様が、誰も読んだことのない書下ろし。


その中でも目玉は、新章『ヴォルトゥリーノ大公国』7万字弱。

はたしてその中身は?


「涼とアベルの、二人の冒険譚」です!


ええ、二人で冒険してもらいます。

二人旅、じゃないですよ。

がっつり、冒険です。

この7万字のうち、8割から9割は、二人で行動してもらっていますね。

戦闘、その他、もちろん会話もいっぱいあります。そりゃそうですね。


ふふふ。読んでみたいでしょう?


読んでみたいはずです。だって、筆者が、何度も読み返したくなる章になりましたもん。

(これは内緒ですが、読んでて面白いのです)

第一部、第二部全体を見ても、涼とアベル二人での冒険は、ないんですよね。二人旅だけです。

それが、まるまる新作ですよ。ふふふ、ふふふ、ふふふのふ。



元々、第三巻の範囲としては「間章 帝国パート」「インベリー公国」だったのですが、

これでは12万字しかないということで……がっつり書き足しました!


もちろん、SSや外伝ではなく、本編増量です。

新たに、ここに出てきた人たち、この先も出てきます。


もうこの先、書籍版は、完全になろう版とは違……。


書籍もなろうも、どっちも面白ければいいか、と筆者は割り切って、2作品書いている気分でやってます。




では、なぜ、このタイミングで第三巻の宣伝をしているのか?


「まだ一巻も二巻も買ってない、でも、この三巻は絶対読んでみたい!」

そんな気持ちにさせて、そんな方々の背中を押すためです。


「三巻が出たら、その時、一緒に一、二巻を買えばいいか」

と思った方も、いらっしゃるかもしれません。

でも、その時に、一巻、二巻が本屋さんに並んでいるとは……正直思えません。

都会の大きい本屋さんは別として。

ラノベは、新刊しか置いてない、という本屋さんは多いと思うのです。

(アニメ化作品は別として……)


でも、今なら、まだ一巻も二巻も置いてある! 多分!

ですので、今のうちに、一巻と二巻をお買い求めいただくのがいいと、筆者は思うのですよ。


まあ、既に、筆者の周りにある4軒の本屋さんは、一巻しかないとか、二巻だけ置いてあるとか……そんな状態ですけどね!



とはいえ、各地の状況、いろいろあります……。

お住いの場所の情勢に合わせた選択をしてください。

オンライン注文を使うのも手です。


(三巻が出るまでに、確実に一、二巻を手に入れる方法は、TOブックスオンラインで注文する方法です。

発売している出版社に直接注文でき、手元に届けてくれるのですから。これは確実です!

それに、電子書籍とは違う特典SSもついてきますから。第一巻も第二巻も、涼主役のSSですよ)



他にも、第三巻については、いろいろある……けっこういろいろあるのですが。

それはまた後日。

筆者の一存では公表できないものもありますのでね。



というわけで。いろいろ準備はお早めに。

どうぞ、よろしくお願いいたします。


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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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