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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第二章 二人旅
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0037 干し肉

晩御飯を食べ終わり、まったりとした時間。

旅とはいえ、常に緊張しっぱなしでは神経がもたない。

緩める時には緩め、締める時に締める。それが大切。



「麻痺毒を吐く植物の魔物……しかも見えないとか……初めて聞いたぞ、そんなやつ」

冒険者として、それなりの経験を積んだアベルでも、聞いたことのない魔物であった。


「僕が住んでいた辺りは、そういえば植物の魔物自体がいなかったですね」

「植物の魔物は、発生する地域がかなり偏っているし、動物の魔物みたいに移動しないからな。なかなか出会わないかもしれない。だが、中には植物の魔物ばかりを狩る冒険者もいたりするからな」

「ほっほぉ。何かいい素材を落とすんですか?」

「ああ、錬金術の材料とか、魔法具の材料とかだな」

「錬金術とか、すごく興味があります!」

涼は目をキラキラさせながら、未だ見ない錬金術への憧れを口にした。


「一人前になるにはかなり大変らしいぞ、錬金術」

「望むところです! 石の上にも三年です!」

アベルには、『石の上にも三年』の意味はよく分からなかったが、スルーすることにした。



「そういえば涼は、あの魔物の麻痺毒、どうやって防いでいたんだ?」

そう、アベルには不思議だったのだ。

アベルは、実は身に着けているアイテムで、状態異常を回復することができる。

普通の毒程度であれば、すぐ解毒される。

今回の麻痺毒は、わずかとはいえ、片膝をつくほどには身体に影響を与える強力なものであった。

だが、涼は毒の影響を受けた様には見えなかったのだ。


「いや、特に何もしてないですよ」

そう、涼は何もしていなかった。

かと言って、これまでに毒への耐性をつけるような修行をしたことも無い。

そもそも、涼の家の周りでは、『解毒草』を見つけることはできなかったのだから。


(本当に、どうして何ともなかったのだろう。水の妖精王の加護、とか……いや、そんなのがある世界とは思えないし……もしかしたら……)

「このローブの効果ですかね?」

なんとなく思いついて言ってみた。

どうせ検証のしようは無いし、とりあえずは、くれた人に感謝するだけだ。


(師匠、ありがとう)


「ああ、その可能性はあるのかもな。一見普通のローブに見えるが、そのローブは間違いなく普通じゃない」

「アベル、言葉が変ですよ」

「いや、分かっているんだが、そうとしか表現できないんだから仕方ないだろう」

「先ほど心の中で、これをくれた師匠に感謝したところでした」

「ああ、それがいい。感謝の気持ちは大切だからな」

それを聞いた瞬間、涼の顔が驚愕に満ちた。

「アベルがまともなことを……」

「おい、こら、俺はいつもまともなことを言ってるだろうが!」

「そう思っているのは本人だけ、というパターンですね」

「お前にだけは言われたくない!」




次の日から、二人は山越えのための干し肉作りを始めた。

林にいる間に、ラビット系とボア系の肉を狩っておきたいと思ったのだ。

森や林にはラビット系やボア系は多いのだが、草原ではほとんど見かけない。


涼は、地球ではそんな習性は聞いたことなかったのだが、アベルに聞くと、

「そういうものだ」

という味もそっけもない答えであった。



二日ほどで、どちらも5頭ずつ手に入れることができた。

二人分の干し肉には多いほどだ。


干し肉を作るのに絶対欠かせない「塩」。

これは、それなりの量がある。

本来は醤油などに漬け込みたいのだが……手元には無い。

仕方が無いので、切り出した肉に塩とブラックペッパーをまぶして、3日ほど乾燥。

以上。



「結構、簡単なんですね」

「ああ、冒険者が現地で作る、簡単な干し肉作りだからな。酷い時には、塩だけで作るから、コショウがあっただけでも相当にラッキーだろう」

「ロンドの森にコショウがあって良かったですよ」

うんうんと頷きながら言う涼。


涼が作った氷の竿に干し肉を刺して、乾燥させながら、二人は北へ、山脈へと向かっていた。

ちなみに切り出された肉以外、つまり皮は涼によって『鞣され』、アベルのマントと涼の『服の代わり』となっていた。


さすがに、雪すら被っている山を越えるのにマントもないのは辛い、アベルがそう言い出したからだ。

マントがあるだけで、かなり防寒の効果は上がるのだ。

そのついでに、涼の服……見た目『貫頭衣』も作られた。

長くなめしたグレーターボアの革の中央に頭を出す穴をあけ、すっぽり被る。

ベルト代わりに蔦を締めれば、まるで弥生時代の貫頭衣が完成。

元々、涼はデュラハンにもらったローブを着ているため、マントは必要ない。

代わりに、ローブの中に着る貫頭衣を作ったので、温かさは倍増。

これで二人とも防寒能力は飛躍的に向上した。


「なあ、リョウ、マントと一緒に作ったその鞄って……」

「ええ、干し肉をこれに入れて持って行くんですよ」

肩掛け鞄としては、標準的な大きさと言えるだろう。

「これ以上大きいと、アベルとか戦闘の時に大変でしょう?」

「ああ、まあそうなんだが……だが、二人の鞄を合わせても、干し肉が全然入りきらないように見えるんだが」

「ええ、もうそれは仕方ないでしょう。入りきらない分は……」

「ああ、仕方ないか」

捨てるのはもったいないがやむを得ない。アベルはそう思った。


「入らない分は、手に持って行きましょう」


「……はい?」

「毎日食べるのだから、進めば進むほど減っていくでしょう? そのうち手に持っている物は食べ尽くしますよ」

目が点になっているアベル。

「いや、手に持ってると、俺、戦えない……」

「その間は、僕が戦います」

いかにも悲壮な覚悟で臨む、的な雰囲気を出しながら頷く涼であった。



実際の所、完成した干し肉を鞄に詰め込んでみると、手に持つのは一日分程度で済んだ。

その程度で済んだことに、アベルが安堵したことは言うまでもなかった。


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