表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第四章 マファルダ共和国
376/930

0351 リアルロボット大戦

二十五時間後。


「よし、完了じゃ。行ってこい!」

ニールが言うと、共和国ゴーレム最後の一体が、格納庫を出ていった。



「お疲れさまでした」

涼はそう言うと、一杯の水を手渡した。

こういう時は、水を飲むのが一番だ。

「うむ、すまぬの」

ニールはそう言って受け取ると、一気に飲み干す。


「ほぉ、旨い水じゃ。リョウ殿は、水属性の魔法使いじゃったか」

「はい」



涼は感動していた。

整備を見て感動するという、初めての経験であった。

それほどに、ニールの『整備』は凄まじかったのだ。



「まさか、持ってきていた道具が、組み立て式の整備補助ゴーレムだったとは」

涼は、ニールの傍らに立っている、全長一メートル半程度のゴーレムを見て言った。

「共和国ゴーレムの整備をすることになるじゃろうと思ったからの。これのおかげで、間に合ったわい」

そう言うと、ニールは嬉しそうに笑った。


「アンダーセン様、ロンド公爵閣下。元首閣下より、お二人を司令部にお連れするようにと申し付かっております。司令部から、戦場が見えますので」

兵士が二人に近づいてそう言った。

「そうか、参ろう」

ニールが頷き、涼も頷いた。




「アンダーセン殿、本当によく間に合わせてくれた。感謝いたしますぞ!」

司令部に入ると、すぐに元首コルンバーノが両手で握手を求めた。

最高顧問バーリー卿も、深々と頭を下げた。

他にも、そこにいる全員が、ニール・アンダーセンに頭を下げた。


全員が理解しているのだ。

ニール・アンダーセンがいなければ、法国のゴーレム、ホーリーナイツを相手にできなかったということを。


さすがのニールも、苦笑している。


「まあ、強くはなりましたが、勝てるかどうかはわかりませんぞ」

ニールはそう言うと、東の窓に向かった。

そこから見える平野で、ゴーレム同士の戦闘が開始されようとしていた。


ちなみに、涼はすでに、その窓にかじりつき、見入っている。


「リアルロボット大戦……」

そんな涼の呟きは、誰にも聞こえていない。




法国のゴーレム、『ホーリーナイツ(聖なる騎士)』と、共和国のゴーレム、『シビリアン(共和国市民)』が対峙している。

どちらも、三メートル級ゴーレムであり、戦場で戦うことを前提に設計、製造されたものだ。


『ホーリーナイツ』は、左手に小盾、右手に剣を持ち、一列十体ずつ、それが八列ある横隊。

三メートル級ゴーレムが、横に十体並んでいる姿は、なかなかの迫力だ。


対する『シビリアン』は、左手に体がほとんど隠れるほどの大盾、右手に槍を持つ。そして、こちらも一列十体ずつ、五列の横隊。

最前列は、どちらも真正面からぶつかることになりそうだ……。



基本的に戦闘用ゴーレムは、簡単な命令を与えられた後は、自律行動をとることができる。

例えば、「城門を突破せよ」と命令すれば、その命令を達成するための最善の行動を、自ら考えてとることができる、といった具合だ。


「走って」「跳んで」「右手の剣で突いて」「盾で防いで」……といった具合に、いちいち指示を出す必要は全くない。

そもそも、数十体のゴーレムにそんな命令を出すというのは、現実的ではない。


戦いは、リアルタイムで進行するのだから。



そのゴーレムたちに指令を出すのは、ゴーレムの後ろにいる指揮管制車。

見た目、大きな箱馬車であるが、その中にいろいろと積んでいるらしい。

今回のような、『戦場』で数十体を超える場合に使われるらしく、ホーリーナイツの後ろにも、シビリアンの後ろにも一台ずついる。


指揮管制車の周囲に、指揮を執る者なのだろう。数名の者たちが……。


「彼らを襲撃してしまえば終わる可能性はありますが……」

涼はそこまで呟いて、慌てて首を振った。

「それは無粋すぎですね」


ゴーレム同士の対戦で決着をつける。


これこそが戦場の華!


騎士の一騎打ちにも通じる、様式美的な部分もあるのではないか……勝手にそう解釈したのであった。




この戦いにおいて、法国『ホーリーナイツ』に出されていた命令は、目前の『シビリアン』を撃破せよ、というものであった。

あとは、ホーリーナイツが、最適な行動をとる。


ホーリーナイツには、これまで法国が集めてきた、各国ゴーレムのデータが与えられている。

その中には、当然、共和国の『シビリアン』のデータもある。

目下のところ、仮想敵国である共和国ということを考えれば、最も詳細に分析されたデータとも言えるであろう。


そのデータに基づいて、ホーリーナイツは動き始めた。


ホーリーナイツは、シビリアンに比べて、攻撃、防御共に上回り、耐久力はほぼ同じ。

ありていに言って、正面からぶつかれば、まず負けない。

八十対五十であるなら、相手五十体全てを破壊しても、味方が六十体以上は残る計算になる。



ホーリーナイツは、正面から突っ込んだ。



シビリアンも、正面から突っ込んだ。




「速度を上げてあるぞ?」

ニールがニヤリと笑いながら呟いた言葉は、隣にいる涼にしか聞こえなかった。



正面からぶつかる両者。

だが、まず得物の差がでる。

剣対槍。


共和国シビリアンの槍が、先に届く。


法国ホーリーナイツは、蓄積されたデータから、左手の小盾で、シビリアンの槍による突きを、余裕をもって受けることができる……はずであった。



だが、ニールの手によって、速度を上げられたシビリアンの刺突速度は、以前のデータとは違い……。



最前列十体の喉に突き刺さる。


十体全てが同じタイミングで喉に攻撃を食らい、同じタイミングで突き上げられ、同じタイミングで活動を停止した。



ある意味、壮観。



人間であったらグロテスクであろうが、顔がのっぺらぼうのゴーレムだと、そこまではない……。

おそらく、自分が作り上げたゴーレムであったら、そんな気持ちは吹き飛ぶのだろうが。



蓄積されていたデータと、最前列のホーリーナイツが受けた攻撃速度の差を、二列目以降のホーリーナイツたちは修正する。


自律的に動くゴーレムである以上、これは当然に行われることだ。


涼が作った水田管理用ゴーレムには、まだ、この手の機能がない……。

だが、この西方諸国への旅によって、涼の錬金術の知識と技能は上がった。

簡単ではないが、この手の機能を組み込むことはできると、自信を持ち始めてもいた……。



今までのデータとの違いによって、共和国シビリアンは奇襲とも言える攻撃を成功させ、無傷のまま、敵十体を葬った。

だが、法国ホーリーナイツ側も、データを修正したため、最初のような攻撃は、もう成功しない。



「二列目も同じとは限るまい?」

ニールの呟きは、やはり隣にいる涼にしか聞こえない。



一列目どうしの激突では、一列目シビリアンたちの槍の先に、一列目ホーリーナイツの首が突き刺さったままだ。

そこに向かって、二列目共和国シビリアンたちは走りこむ。


そして、その三メートルの大きさからは想像できないほど軽やかに、一列目シビリアンの背中に片足を乗せ、そのまま飛び上がった!


飛び上がり、落ちる先は、敵、ホーリーナイツ二列目!


左手の大盾を振りかぶりながら、落下と同時に叩き付ける。

全体重を乗せたシールドバッシュ。



事前データを超えたジャンプ力によって、二列目ホーリーナイツの頭を潰した。



「なんて恐ろしいシールドバッシュ」

涼の呟きに、ニールは少しだけ笑って答えた。

「ようやく二十体潰したが、まだホーリーナイツの方が多い」


現在、法国ホーリーナイツ六十体、共和国シビリアン五十体。



「前二列は、シビリアンそのものの性能を上げたが、後ろの三列は違う。引き出した力は、武器に使った」

「武器?」

ニールの言葉に、涼は首を傾げる。

確かに、前二列は、瞬発力などを上げることによって、相手の想定を上回った。


だが、その想定は、再びすぐに修正される。


それを見越して、武器に使った……いや、待て待て、『引き出した力』?



三列目のシビリアンが持つ槍の先端が赤く輝いた。


「炎?」

涼は呟く。


炎を(まと)った槍で突く。

それを小盾で受けたホーリーナイツ……だが、小盾はすぐに溶けた。


連続で、突く、突く、突く!

ホーリーナイツたちも、よけるが、全てをよけ続けることはできない。

槍がかするたびに、ホーリーナイツの各部が溶けていく。


最終的に、致命打を浴び、三列目ホーリーナイツたちは倒れていった。


だが、今回は前二列のように、一撃で倒したわけではない。

当然、ホーリーナイツ四列目も戦列に加わる……シビリアン四列目も。



乱戦となった。



乱戦となったのだが……五列目以降のホーリーナイツたちは、その乱戦には加わっていない。


なぜか?


それは、五列目シビリアンの武器に理由があった。

その槍も、先端が輝いているが、赤ではなく、白い。



前に掲げた槍の先から……白い炎の塊が発射されていた。



「なに、それ……」

涼は呟き絶句した。


だが、すぐに思い出す。

かつて、インベリー公国で見た、連合の人工ゴーレムは、その腕の先にプラズマを発生させていた。

それと同じようなことが行われている……。


かな?


というか、一体三十分の全分解で、そんなことまでやっていたのか?

そちらの方に、恐ろしさを感じる涼。



「遠距離攻撃で足止めをしておけば、敵を分断したことになるからの」

ニールは、戦闘展開を想定してカスタマイズしたのだ。

ただの錬金術師ではない……恐ろしいほどの能力。


そもそも、ゴーレムが遠距離攻撃魔法を生成できるなど、聞いたこともないのだが……そう、連合の人工ゴーレムのプラズマは、飛ばすことはできなかったし。



「ゴーレムも、遠距離攻撃魔法が使えるんですね」

涼は素直に、思ったことを口にした。


だが、ニールは笑って否定する。


「それは違うぞ、リョウ殿。あの炎の塊を飛ばしているのは、槍自体が、そういう錬金道具なだけじゃ。ゴーレムは、体内に魔石を抱えておる。つまり魔力で動いている。その魔力を、槍に通せば、槍に仕込んだ魔法陣が発動して、あの炎の塊が飛んでいく。ただそれだけの単純な話じゃよ」


そう、発想としては、決して難しいものでも、複雑なものでもないのだ。

だが、これは、ゴーレムに飛び道具を持たせることが可能になる……ということでもあった。


魔力を通せば炎の塊が飛んでいく錬金道具の槍。

それ自体、製作するのは難しいものではない。



涼は、戦争における武器の発達を、目の当たりにしていた……。




目論見(もくろみ)通り、乱戦下にあったホーリーナイツ二十体は、全滅させた。

だが、シビリアンも無傷とは言えず、大破し活動停止となった機体が三体出た。


「四十七対四十。ようやく上回ったか。あとは力戦」

ニールは一つ大きく頷いた。


想定通り進んできて、ようやくこの先が見えたのだろう。

少し、表情が緩んでいた。


涼はそれを見て、尋ねるチャンスだと思った。


いくつも疑問はあるのだが、短い返答が期待できるものなら、質問してもいいのではないか?


「ニールさん、先ほど三列目の、槍の先に赤い炎を纏わせたのって、もしかしてエンチャントですか?」

「ほほー。リョウ殿は、エンチャントを知っているのか? 中央諸国にはない魔法のはずじゃが……」

涼の問いに、ニールの方が驚いていた。

そして、涼の予測は正解だったようだ。



エンチャントとは、武器や体そのものに、一時的に魔法属性を付与したり、性能を上げたりする魔法だ。

それを行う魔法使いを、エンチャンターと言う。

そしてエンチャントは、中央諸国の魔法体系にはない。


「はい。以前、エンチャンターの方にお会いしたことがありまして」


中央諸国にやってきた勇者パーティーの中に、エンチャンターのアッシュカーンがいた。

そのため、涼はエンチャントを知っている。



「うむ。エンチャントの魔法式が、機体に書いてある」

「なんですって!」

ニールの答えに、涼は驚いていた。

そして、うずうずしだした。


その様子に、ニールは笑った。

なぜ、涼がそうなったか、よく分かっているから。

錬金術師なら、当然だ。


「リョウ殿、その魔法式が見たいのであろう?」

「はい、ぜひ!」

ニールは笑いながら問い、涼ははっきりと答えた。



その後の、涼の頭の中は、ゴーレム同士の戦闘内容よりも、エンチャントの魔法式の方で頭がいっぱいになっていた。

実際、ゴーレム戦は、シビリアンが、少しずつホーリーナイツを磨り潰すようにして、自軍の損害を少なくしながらの戦いに移行していた。


決着は時間の問題であった。




一時間後。

ゴーレム戦は決着した。


ホーリーナイツ八十体は全滅。

シビリアン側は、大破六体。小破十四体。ほぼ無傷三十体。


圧勝であった。



「自力で動ける四十四体は、格納庫に移動した後で、動力を停止せよ。一度切れば、すぐには動かせぬからな。確実に、格納庫で切るようにな。格納したら、指示してある通り、城壁の魔力を流用して充填を開始するように」

ニールが、伝令兵に厳しく言い渡している。

「魔力が完全に空になるから、その後の連合王国との戦いに投入できる保証はない」と言っていたことと関係があるのであろう。


涼はそう予測したが、それ以上に魔法式が気になって……。


「リョウ殿、大破した六体を見に行こうぞ。あれは、どうせすぐに戦線に復帰させるのは無理じゃから、ゆっくり見られる」

「はい!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ