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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第四章 マファルダ共和国
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0348 戦利品

「本当に捕まえるとは……公爵閣下、ありがとうございます」

特務庁の局長室で、涼は深々と頭を下げられた。

頭を下げているのは、局長ボニファーチョ・フランツォーニ、それと横にいるバンガン隊長とアマーリア副隊長。


「いえいえ、たまたま上手くいっただけですから」

これを、日本人的謙遜というのだろうか。


「それで……本当に、五人の身柄を完全に共和国にお預けいただけるので?」

「ええ、もちろんです。私が持っていてもしかたありませんし」

ボニファーチョ局長の確認に、笑顔で答える涼。


事実、その通りである。


だが、別に欲しいものがある。


「ただ、サンプルとして、彼らのブローチを二個。それと、彼らが使っていた『隠蔽(いんぺい)』の技術について、分かったらそれを教えていただきたいのですが」

「ええ、事前にバンガンたちから聞いております。もちろん、構いません」

ボニファーチョ局長は大きく頷いた。


「あ、あと、魔法封じの手枷とかいうのも、ちょっと興味があるので、できればそちらも……」

「なるほど。法執行機関のみが所有しているものなので、お渡しすることはできませんが、見るだけならば構いません」

涼の追加注文にも、ボニファーチョ局長は応じた。


あの五人を捕まえたのは、共和国にとってかなり大きなことだったのだ。



そもそも、融合魔法のブローチなどを渡しても、共和国の損には全くならない。

捕虜から手に入れた物だからだ。

そんな物を渡し、わずかな情報を与えることで、あの五人の身柄を手に入れることができるのであれば安いもの。


「奴らが、我が特務庁の監視員たちを襲っていたことは分かっていました。それが無くなるのは、非常にありがたい」

ボニファーチョ局長は、何度も頷いた。



そして、数十分後。



涼は、約束通り、魔法封じの手枷の情報と、二個のブローチを手にした。

その顔は、本当に、本当に嬉しそうな……。


((リョウ、なぜ一個じゃなくて、二個なんだ?))

王都の王様が、そんな質問をしてくる。

((一個はケネスへのお土産です。もう一個は、自分へのお土産です))

((な、なるほど……))


そう、涼は友人であり師匠でもあるケネス・ヘイワード子爵へのお土産を手に入れたのだ。

涼は、とても友情に篤い男なのである。



「『隠蔽』については、まだ分かっていないようなので……。まだしばらく国内にとどまられるのであれば、お知らせしま……ああ、国境が封鎖されたのでしたな。申し訳ありませんが、しばらく共和国内にとどまっていただくしかありません」

「そうでした……。とどまるのは仕方ないのかなと思うのですが……聖都にいる使節団が、私のことを心配している可能性があります。その辺りはなんとかならないでしょうか?」

「分かりました。それにつきましては、うちのルートを通じて、王国使節団にお伝えいたします」

「ありがとうございます」


『確認先は使節団だ』と涼が啖呵(たんか)を切った翌日には、その確認をできていたのだから、何らかのルートがあるだろうと思って言ったのだが、案の定であった。

これでとりあえず、戻るのが遅れても心配されることはないであろう。


戻るのが遅くなったら、きっと心配した……はず……ですよね?

心配してくれたはずですよね?

心配……するふりくらいはしてくれたに違いない。



「ドージェ・ピエトロに泊まりますので、何か分かったら、そちらまでお知らせください」

「はい。かしこまりました」



こうして涼は、引き払ったばかりの宿ドージェ・ピエトロに、さらに延泊することになった。


全てにおいて完璧な宿。

ここ以外の選択肢など、あり得なかった。




チーロ・ペーペの屋敷では。

「まさか……五人とも捕虜……?」

「はい。特務庁に潜り込ませている者から知らせがありました。特務庁本庁地下の監獄に、捕らえられているそうです」

ソファーに座る男の問いに、チーロ・ペーペは答えた。



ソファーの男は、左手の中指で、自分の額をポンポンと叩いている。



しばらくすると、その指が止まった。


「チェーザレは脱出させます」

「は?」

ソファーの男の言葉に、チーロ・ペーペはそれだけしか答えられなかった。

チーロ・ペーペは、この共和国の子爵だ。

だから、特務庁本庁地下の監獄が、どれほど厳しい場所か知っている。

少なくとも、脱獄などできる場所ではないことは知っている。


だが、目の前のソファーの男は、そもそも共和国の人間ではない。

法国の人間だ。

その困難さを知らないのだろう。

難しいということを伝えようと口を開こうとしたが……。


「大丈夫です。私の手の者にやらせます。まあ、私が動かなくとも、チェーザレ一人で脱獄してしまうかもしれませんが……やるなら早い方がいいでしょうから。あなたは、その特務庁に潜り込ませている者からの情報を、収集し続けてください。よろしいですね?」

「はい、かしこまりました」


チーロ・ペーペは、そう言うしかなかった。




聖都マーローマー、教皇庁本院の、ある部屋。


「チェーザレが、共和国の諜報特務庁に捕まったそうだ」

男性の声が情報を伝えた。

「まあ、私たち四司教の中では一番弱かったからね。仕方ないでしょう」

若い女性の声が呆れた様子で答える。

「まったく、四司教の恥さらしだな。死ぬならともかく、生きたまま捕まるなど、あってはならん」

若い男性の声が、侮蔑を含んだ声で言う。


その部屋にいるのは、三人だけ。

中央にある巨大な円卓に、椅子は四つ。

一つが空いていた。


それが、おそらくはチェーザレの席なのであろう。


たとえ、共和国から生きて戻ってこられたとしても、再びその席に座ることができるかどうかは分からない。

任務を失敗し、生きたまま敵に捕まるなど、失態というのも生ぬるいほどの大失態。



力によって立つ存在である以上、力がないと判断されれば、排除される。

それは、仕方のないことなのだろうか……。




翌日。

共和国西の国境、ジュズヴァッラ平原で、シュターヘン連合王国第一軍、第二軍と、共和国防衛隊との、正規軍どうしの戦闘が開始された。


後に、ジュズヴァッラ会戦と呼ばれることになる戦いである。


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