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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第四章 マファルダ共和国
372/930

0347 魔法戦

((五人……それも、この前の五人です……))

((うん……それを俺に聞かせてどうするんだ……?))

((アベルほどの経験豊富な冒険者なら、何か素晴らしいアドバイスをくれると思って、わざわざ言っているのです!))

((お、おう……。俺なら、なんとか一対一の状況を作り出して、それぞれ倒していくな))

((各個撃破ですか。セオリー通りですが、面倒なので、僕はまとめて叩きます!))

((……俺に聞いた意味ないだろうが))

((アベルの意見は尊重してますから! 今回は、ご縁がなかったということで……))


どこかの人事担当者のようなセリフを吐く涼。



市街地の外れの、少し開けた土地。

涼はそこで立ち止まると、振り返って言った。

「そこの五人、出てきなさい」


チェーザレを中心に、軍服のようなローブを着た五人が出てくる。


「俺たちがつけていたのが分かっていただと?」

チェーザレの左隣の男が言う。

「隠蔽がばれていた? 馬鹿な……」

チェーザレの右隣の女が呟く。



(そう、そこは非常に興味のあるところなのです。どんな技術なのか……魔法なのか、錬金術なのか、はたまた僕の知らない何らかの方法なのか)

涼は、彼らの『隠蔽』の技術についても、非常に興味を持っていた。


そう、「『隠蔽』の技術について『も』」だ。

もう一つ、彼らは良い物を持っているはずで、それにも興味がある。


ここでいう「興味がある」は、もちろん、手に入れたいと同義。

そのためには、

(殺さずに確保しなければいけない……)


厄介なのは、彼ら五人が魔法使いだということだ。

魔法使いは、<氷棺>で氷漬けにすることはできない。

完全に不可能ではないが、かなり厄介だ。


生かしたまま捕らえても、反撃されたり、逃げられたりしては意味がない。

一番確実な方法は、気絶させること。



だが、現実問題として、気絶させるのはとても難しい……。



延髄に手刀をいれてもなかなか気絶しないし……クロロホルムをかがせるのは分からないが手元にないし……お腹にパンチは、悶絶はするが気絶はしないし……。


一番確実に気絶するのは、締め技。

これは確実だ。

柔道や総合格闘技、場合によってはプロレスなどでも、首の二本の(ない)(けい)動脈と椎骨(ついこつ)動脈を絞めて気絶させてしまう……これは確実なのだが……一対五では、難しい。



涼はそんなことを考えながら、五人に対峙している。

気絶させて無力化した後の方法は考えてあるが……。


「やってみるしかないか」

涼は呟いた。



「チェーザレ、俺が行く」

チェーザレの左隣の男がそう言って一歩前に出た。

一対一で戦うのだろうか。


「いや、バルトロ、全員でかかる」

チェーザレは、前回同様に、抑揚のない声で宣言した。


それに、バルトロと呼ばれた男は驚く。

「は? あいつは、中央諸国の魔法使いなんだろ? 中央諸国の魔法使いなんて、ろくに使いものにならんだろうが……」

「この前は防がれた」

「いや、それはそうだが、あれは特務庁の二人の道具か何かじゃ……」


中央諸国の魔法使いは、西方諸国や東方諸国の魔法使いに比べて、レベルが低いと思われている。

わざわざ詠唱して、しかも威力の低い魔法しか生成できないとなれば……。



以前、西方諸国から来ていた勇者パーティーの魔法使いが、そんなことを言っていた……。



それもこれも、全て、ヴァンパイアの真祖様の想定通り……。



文化圏の魔法文化そのものを、自分が設定したレベルに押しとどめる……はっきり言って、とんでもない。

歴史上、そんなことに成功した人物を涼は知らない……もちろん地球の歴史において。


だが、あの真祖様は、ヴァンパイアが安心して中央諸国で暮らせるようにするために、中央諸国の人間が使う魔法を、わざわざ詠唱が必要なものにし、なおかつ威力の低いものにしたのだ。


とんでもない……。


まあ、その結果、こうして馬鹿にされているが。



「目の前の男は強い。侮るな、全力で、全員でかかる」

チェーザレは、涼を高く評価しているらしい。



「チェーザレ殿の言うことは正しい」

あえて、涼は挑発する。

「なに?」

バルトロと呼ばれた男が聞き返す。


「さすがは教皇の四司教の一人。その慧眼(けいがん)、恐れ入ります」

涼はそう言うと、わざとらしくお辞儀をした。


「中央諸国の冒険者のくせに、いろいろと知っているようだな」

チェーザレが言う。

(あれ? もしかして、僕がロンド公爵であることは知らない?)

涼は少しだけ意外であった。

共和国の諜報特務庁も掴んでいる涼の身分だが、目の前の暗殺部隊は知らないらしい。



あるいは、あえて知らされていないのか……。



「特に興味があるのが、そのブローチです」

涼がそう言うと、チェーザレ以外の四人の顔色が、明らかに変わった。

「まさか、融合魔法がすでに実用化されているとは。誰が作ったのか、ぜひ知りたいですね」

涼はそう言うと、にっこりと微笑んだ。


そこまで言うと、チェーザレすら、驚いたようだ。

あまり表情の変化のない男みたいだが……。


「さすがに、アンダーセンの知り合いというだけはあるか」

チェーザレのその呟きは、そう大きくはなかったが、涼の耳には届いた。

(アンダーセン? ニール・アンダーセンさん? なぜ彼が?)



涼が持っていた違和感が、また一つ大きくなった気がした。

ニール・アンダーセンに関して、何か引っかかっているのだが……それが何なのか、わからない。



とはいえ、今はいい。



目の前の問題に集中する。


会話から引き出せる情報はあまりなかったが、仕方ない。

わざわざ戦う前に会話したのは、何か情報を得られないかと思ったからだ。

殺す相手になら、口を滑らせてくれるかもしれないでしょう?

どうせ殺して、口封じをするのだから、言っちゃってもかまわないと思って……。

実際は、あまり無かったが……。


とはいえ五人の反応から、西方教会の中でも、融合魔法のブローチは、まだあまり一般的ではないということはわかった。

それだけでも良しとしよう。



狙うは融合魔法のブローチと、『隠蔽』を可能にしている何か。

ずばり、その二つ!



さて、涼は、魔法使いと言いながら、実は純粋な魔法戦をあまりやったことがない。

せいぜい、暗殺教団の首領『ハサン』との戦闘くらいだ。

それとて、最後は……。


レオノールやあの爆炎の魔法使いなど、いわゆる強敵と呼んでいい相手は、たいてい近接戦も交えてとなる……。


不思議だ。



そんなこんなで、今回は、魔法戦でいこうと決めている。



「言った通り、全員でかかる。俺に合わせろ」

「はい!」

チェーザレが言い、他の四人が答えた。


「<ファイヤーカノン>」

「<ファイヤーボール>」

チェーザレのファイヤーカノンに、四人がファイヤーボールを合わせる。

無数の炎が、涼に向かって飛……ぼうとした。


「<動的(ダイナミック)水蒸気(スチーム)機雷(マイン)>」

涼と五人の間の水蒸気が、機雷になる……。

無数の。


そこに、炎の攻撃魔法が飛び込み、何十、何百の対消滅が発生し……対消滅の光が乱舞する。

それは、目くらまし……。


「<アイシクルランス5> <アイシクルランス5>」

全て先端を丸めた氷の槍。

最初の一撃は鳩尾(みぞおち)に。

それで前かがみになったところに、次の一撃が顎を下から……ボクシングのアッパーカットのように。


もちろん、それらでは気絶はしない場合がある。

鳩尾で肺の中の空気を吐き出させ、顎で脳を上下に揺さぶって脳震盪(しんとう)を起こして動けなくして、そのうえで……今回の本命。


「<ウォーターカラー5>」

水の首輪が襲いかかる。


対象の周りの水蒸気を結合させて水にし、それで首を絞める。

単純だが効果的。



四人は水の首輪をつけ、気絶させることに成功した。


そう、四人。



ただ一人、チェーザレだけは、無傷。

最初の、鳩尾への<アイシクルランス>はもちろん、顎への<アイシクルランス>もよけたのだ。

最後の<ウォーターカラー>に至っては、腕に炎を纏わせて、弾き飛ばした。


「一人だけ格が違う」

涼は、呟く。



「<ファイヤードラゴン>」

チェーザレが唱えると、その両手から、炎が脈打ちながら生じた。

そして、まさに龍のごとく、前に漂う水蒸気機雷をよけながら、涼に襲いかかった。


「うそん……」

涼は思わず呟いたが、すぐに唱える。


「<アイスウォール20層パッケージ>」

前方だけではなく、自分の全方向に氷の壁を構築。



構築が完了した瞬間……。


ドゴンッ。


正面ではなく、左横、そして、上の氷の壁で炎が弾ける。

好きなように炎を動かして、様々な方向から攻撃を加えることができる魔法だった。



「<アイシクルランス128>」

あえて正面から、氷の槍を飛ばす。


「<魔法障壁>」


ガキン、ガキン、カキン……。


チェーザレが唱えた魔法障壁は、明らかに分厚く、固いもの。

涼の<アイシクルランス>が、障壁を貫けないのだから。

だが、さすがに、128発の氷の槍を食らって、無傷とはいかない。


割れる。



「<アイシクルランス128>」

そこに、さらに128発の氷の槍。


「<魔法障壁>」

再び張られる障壁。



それが、五回繰り返された。



「<アイシクルランス128>」


涼が唱えるのと同時に、チェーザレは魔法障壁を張りなおさずに、唱えた。


「<ファイヤーカノンフルブースト>」

これまでとは明らかに違う数……千は下らない数の炎の塊が生じて、その手から発射された。

炎の塊の内128個は、氷の槍と対消滅して消えたが、残りは涼を襲う。


「ついに! <積層アイスウォール20層>」

涼の前からチェーザレに向かって、積み重なるように構築されていく氷の壁。

いかな、融合魔法によって強化され、おそらく最後の魔力を振り絞っての最強攻撃であっても……積み重なっていく氷の壁を全て撃ち抜くのは不可能。


ケネスから聞いていた情報が役に立った。

持久力を犠牲にして瞬間火力を上げる……そんな融合魔法の使い方。

持久力の勝負になれば勝てる……涼には、やる前から分かっていた。



ほとんどの魔力を使い切ったチェーザレは、沈黙した。



「<ウォーターカラー>」


水で首を絞められ、チェーザレは気絶した。

他の四人と同様に。



「ふぅ、成功です」

涼はそう言うと、大きく手を振った。


涼の合図に、遠くから走ってくる五人。


「すごい……」

到着した五人のうち、一人がそう呟いた。

バンガン隊長だ。

「本当に生け捕りにするなんて……」

アマーリア副隊長も首を振りながら呟いている。


涼の知らない他の三人が、手際よく、暗殺部隊五人を後ろ手にして、手首に何か手錠のようなものをはめている。


「それって、なんですか?」

涼は興味深げに見る。

「魔法封じの手枷です。これをつけられると、魔法を使えなくなります」

「なんと……」

中央諸国では見たことのなかった道具だ。

はめると、ほんのり光り始めた。錬金道具が発する光……つまりこれは、錬金術によって、魔法を封じているのだ。


(ぜひ、仕組みを見せてもらわねば!)

涼は、固く心に誓った。



「運ぶ方法は考えてあるということでしたが……?」

バンガン隊長が涼の方を見て問う。

「はい。<台車5>」


暗殺部隊の五人は、それぞれ氷の台車に乗せられ、涼の後をついて諜報特務庁の本庁へと運ばれるのであった。


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