0343 チェーザレ
本日二話投稿。二話目です。
0時に、前話「0342 ニール・アンダーセン」を投稿しております。
そちらからお読みください。
「さて、あの六人が誰か、あるいはどこの手の者か分かりますか?」
涼は、傍らに逃げ込んできた二人に尋ねる。
二人の目は、大きく見開いている。
「おそらく……教会の、どれかの暗殺部隊」
バンガン隊長が、呟くように答えた。
「どれかの? そんなにたくさん暗殺部隊を抱えているんですか……なんて恐ろしい」
涼は何度も首を振りながら言う。
「噂ですが、十二人の枢機卿と教皇がそれぞれ……合計十三の暗殺部隊があると言われています」
アマーリア副隊長が答えた。
さすが諜報特務庁である。敵側の情報収集には余念がないらしい。
「となると……彼らは捕らえて吐かせた方がいいわけですね」
涼は呟く。
「そうですけど、驚くほどの手練れ揃いのはずです……」
バンガン隊長も小さい声で答える。
アマーリア副隊長は、隣で生唾を飲み込んでいる。かなり緊張しているらしい。
暗殺部隊六人は、じりじりと近づいてくる。
「では、いきましょうか」
涼は呟いて、唱えた。
「<氷棺6>」
一瞬で、六体の氷の塊が生まれた。中に、暗殺部隊の者たちを閉じ込めて。
「え……」
バンガンとアマーリアが、異口同音に呟く。
涼は氷の棺に近づきながら言った。
「よしよし。久しぶりに<氷棺>使った気がするから大丈夫かなと思いましたけど、大丈夫でした。技術は衰えない、ですね」
ペタペタと叩きながら、満足そうに頷く。
「あの……生かして捕らえるんじゃ?」
バンガン隊長が、恐ろしげな顔をして問う。
自分に、今の魔法を向けられたらと思ったのかもしれない。
「ああ、大丈夫ですよ。この人たち、生きてますから」
「この状況で……生きてる……?」
アマーリア副隊長の呟きは、隣のバンガンにだけ聞こえた。
「ここで尋問してもいいですけど、尋問の技術とかない……」
そこまで言ったところで、涼は突然、動いた。
「<アイスウォール10層>」
バキッ、ジュッ。
極太の炎が、渦を巻きながら、涼を襲った。
それを防いだ氷の壁が、九層までが融けた。
「馬鹿な……」
それは、涼ですら驚く威力。
アイスウォールを融かす炎など、レオノールか、あの爆炎の魔法使いくらいしか思いつかない……あるいは、赤い熊か。
まさかそんなレベルの……?
その五人は、突然現れた。
「転移? いや、この感じは違う……」
涼は、これまで何度か、転移で現れる者たちの感覚を経験している。
正確には、転移で現れる者たちを、<パッシブソナー>がどう捉えるかを知っている。
目の前の五人は違った。
むしろ、あのラフレシアもどきな植物魔物に近い。
もちろんあれは、光学系の隠蔽だが……それの、上位互換の隠蔽を解除したかのような……。
そんな現れ方。
「まさか、俺の<ファイヤーブレス>で貫けないとは……驚きだ」
中央の、燃えるような赤い髪の男が、あまり抑揚のない声で言う。
二十代後半だろうか、身長は百八十センチほど。
服は白い、ローブというより、地球における軍用コートに近いものを着ている。
「チェーザレ、どうする?」
「全員、殺す。俺に合わせろ」
そう言うと、赤い髪のチェーザレと呼ばれた男は、右手を肩の高さにまで上げ、唱えた。
「<ファイヤーカノン>」
唱えた瞬間、チェーザレの右腕から、無数の炎の弾丸が発射された。
「<ファイヤーボール>」
他の四人も唱えると、それぞれ、数十個の炎の塊が発射された。
「<アイスウォール20層>」
涼は、特務庁二人の前に移動して、前面に氷の壁を生成する。
だが、涼の氷の壁すら……。
「融ける? なんという威力……」
驚くべきことに、涼のアイスウォールを融かし、貫く……。
そのたびに、張りなおされる氷の壁。
だが……。
「あの人たち……」
アマーリア副隊長の呟きが聞こえた。
見ると、凍らせた六人……凍らせた氷の棺は攻撃を受け、無残にも破壊されていた。
中に閉じ込めていた者たちも……。
「味方じゃないのか……」
バンガン隊長の絞り出した声は、苦々しさを伴っていた。
自分たちを殺そうとした六人ではあるが、戦闘能力を失った者たちだった……それをあえて攻撃して殺す必要は……。
涼は、傍らのバンガンとアマーリアをちらりと見た。
(二人を守りながら戦うには、難しい相手……)
そう判断を下した。
そうと決まれば、話は早い。
右手でバンガン、左手でアマーリアの腰を掴む。
さらに、二人を取り落とさないように、氷で補強する。
「え?」
異口同音に疑問の声を出す二人。
「逃げるよ」
言うが早いか、立て続けに唱える。
「<アイスミスト><積層アイスウォール20層><ウォータージェットスラスタ>」
氷の霧に紛れ、氷の壁で遮り、水で飛んで……三人は撤退した。
若干二名ほどは、途中で気絶してしまったが……。
気絶から目が覚めたバンガンとアマーリアは、涼を連れて諜報特務庁の本庁に到着した。
とりあえずの報告を、上司にする必要もあったし、首都の中で、この二人にとって最も安全な場所は、間違いなくこの諜報特務庁だったからだ。
「あんな大物が出てくるなんて……」
バンガンの呟きは、涼にも聞こえた。
「さっきの人たち、誰か分かるんですか?」
「ええ、チェーザレと呼ばれていましたから……」
涼の問いに、バンガンは頷いて答えた。
だが、答えたのは、アマーリアであった。
「チェーザレって、やっぱり、教皇直属第三司教のチェーザレ……?」
「ああ。教皇直属の暗殺部隊を率いる四司教の一人……。噂以上の魔法だった」
バンガンは頷く。
「確かに凄い魔法でした」
涼も頷いた。
だが、涼には気になることがあった。
五人が魔法を発動した時、彼らがつけていたブローチが、ほんの僅かに光ったのだ。
そして、涼の認識が間違っていなければ、あの光は……。
((錬金術が発動するときの光でした))
((……俺に錬金術の話を振られても答えられんぞ?))
『魂の響』のアベルは、忙しい王様であるうえに、錬金術は門外漢だ。
((忙しいアベルにしかできないことだから、仕方なくこうして話かけているのです。ええ、仕方なくです。そう、仕方なくなのです))
((お、おう……。で、俺にどうしろと?))
((ケネスに確認してほしいのです。『融合魔法』について、詳しく))
そう、涼は、彼らの異常に強力な魔法は、錬金術と魔法を合わせた結果だと考えたのだ。
そしてそれは、融合魔法と呼ばれていることを、ケネスやイラリオンに聞いたことがある。
だが、そうなると……。
彼らの背後には、ケネス・ヘイワード子爵に匹敵する天才錬金術師がいることになる。
いろいろと厄介なことになりそうだ……。
そして、三人は特務庁に入った。
涼は、一人応接室に残され、二人は報告へ。
(はっ、これは……もしや)
涼はあることに気づく。
(貴族令嬢救出昵懇法則は、発動しませんでしたけど、派生型とも言える隊員救助昵懇法則の発動なのでは? ついに……折られ続けた、異世界ファンタジーものよくある法則が発動したに違いありません!)
感動していた。
二分後。
目の前に出されたコーヒーを飲もうとしたところで……乱暴に扉が開かれた。
そして、警備兵らしき者たちが入ってきて、涼が座っているソファーを取り囲む。
「……え?」
困惑する涼。
入ってきた者の指揮官らしき男が言い放った。
「身分詐称の容疑で逮捕する」
「……はい?」
本日2021年6月19日(土)、『水属性の魔法使い』第二巻の発売日です!
お昼過ぎ、活動報告でもあげたのですが、
Amazon kindleラノベランキングで、
3位:『水属性の魔法使い』第一巻
4位:『水属性の魔法使い』第二巻
と、二冊ともトップ5に入っていたのですよ!
うちの子たち、頑張っています!
これも、いつも応援してくださり、お買い求めくださった読者の皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
https://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/digital-text/2410280051/ref=zg_bs
TOブックスTwitterでも、証拠画像(?)付きで紹介していただきました!
https://twitter.com/TOBOOKS/status/1406144914757357574
ちなみに1位は「ようこそ実力至上主義の教室へ 2年生編4.5」、2位は「Re:ゼロ 27巻」
どちらもアニメ化された大人気作品です!
ちなみにちなみに、5位は「閃光のハサウェイ(上)」でした。
そんなアニメ化作品の中で、輝きを放つうちの子たち。
ものすごくものすごく、嬉しいですよ!
そして、ありがたい事だと思っています。
これからも、なろうでも更新を続けていきますので、楽しくお読みいただければと思います。
どうか、応援よろしくお願いいたします!




