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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第三章 魔王探索
353/930

0328 ダンジョン攻略……?

全てがスムーズ。

一行の、西ダンジョン探索のスタートを表す言葉である。


前夜の約束通り、朝には、ダンジョン探索に必要な装備を、宿は全て準備していた。

もちろん宿代とは別料金だが、たいした金額ではない。

自分たちで、初めての街を回って装備を揃えるのに比べれば、驚くほどストレスがない。

しかも、西ダンジョンに初めて潜る一行では、そもそも「何が必要なのか」を、完全に理解できているとは思えない。


もちろん、ルンのダンジョンには何度も潜ってきたメンバーもいるが、ダンジョンは千差万別。

ルンで重要視されていない物、あるいは全く必要のない物が、こちらでは重要な場合もある。


だが、このクラスの宿であれば、並の冒険者よりもダンジョンに詳しい。

宿泊する王侯貴族や、有名な冒険者に、適当な装備を準備したり、相談されたのにうまく答えられなかったりなどということは、あってはならないのだから。

宿の評判そのものに直結することなのだ。


だからこそ、プロとして、実際にダンジョンに潜る冒険者たち並みに、場合によってはそれ以上に、ダンジョンに詳しくなければならない……。



それが、宿の、ホスピタリティ。



そんな、完璧な装備を携え、一行はダンジョン入口にあるダンジョン受付に到着した。

そこでも当然のように、宿から、一行がダンジョンを訪れることが伝えられている。

人数と、そして『聖印状』持ちであることも。


「どうぞ。これを各自、首から下げてください。転送プレートです」

一人一人に渡されたのは、親指大の小さなプレート。

ネックレスのように、首から下げるようになっている。



各階層は、次の階層に降りる階段の前に、人間大の石碑のようなものがある。

『石碑』には記録機能があり、そこに到達すると、その階層をクリアしたとみなされる。

クリアしたとみなされれば、そこから入口に転送で戻ってくることが可能となる。


そして、次回から、入口の『石碑』の転送機能によって、クリアした階層に飛ぶことができるようになる。


転送で飛ぶことができるのは、

入口の『石碑』からのみ。

入口の『石碑』に向かってのみ。


例えば、十層までクリアした者が、十層から五層に飛ぶ……などということはできない。

同様に、三層から五層に飛ぶ……などということもできない。

十層から入口へ。入口から五層へ。


それ以外は、階段で普通に降りていくことになる……。



「わかった。問題ない」

説明に対して、ニルスが代表して答えた。



その横で、涼が歓喜に震えていた。


「ついに、ついにですよ! 折られ続けてきたフラグ……異世界転生ものの定番に臨めます! ようやく、まともなダンジョン探索! この時をどれほど待ったか……ダンジョン思って幾星霜……。フフフ……待っていましたよ……」

涼のその呟きは、本当に小さく、他の誰にも明確には聞こえていない。


だが……。


「リョウさんの表情が……」

「あれは、いつものあれだね……」

「また、よからぬことを……」

アモンが指摘し、エトが推測し、ニルスが断定する。




そうして、一行は、ついに一層に足を踏み入れた……。




『全てがスムーズ』であったのは、ここまでであった。




「……なんだろうね、この人の多さは」

「人……ばっかりですね」

エトが思わず呟き、アモンも同意する。


一層は、人で溢れていた。

魔物なんて、影も形もない。


だが、溢れる人たちも、そこで喋ったり、たむろったりしているわけではない。

つるはしを持っている人間が多い……。


「鉱石の採掘……だな」

ニルスが言う。

「うん……ルンだと、魔銅鉱石が採れる第五層に、つるはしを持ってる冒険者が、たまにいるね」

エトがルンの光景を思い出して、頷く。

「でも、ここまで多くはないですよね。さすがに一層だからですかね」

アモンも、頷いて言った。



ちなみに、『十一号室』の三人は、唖然としたままだ。

そもそも、ずっと王都所属パーティーである『十一号室』は、ダンジョンに潜るのは、今回が初めてなのだ。

とはいえ、話として聞いていたダンジョンと、今初めて見たダンジョンとのあまりのギャップに驚いているのは誰でもわかる。


例えばゴワンなどは、比喩でもなんでもなく、開いた口が塞がっていない……。


涼は……両手両膝を地面についていた。

絶望のポーズ。

「また……またも……定番ものの……フラグが折られ……」

とか呟いているが、もはや誰も気にしない。



「え~っと、貰った『ダンジョン地図』によると、一層はレッサーマウスの層らしいよ……」

エトが説明する。

もちろん、ネズミ一匹……いない……。


「さっさと、下に行くか」

「はい」

ニルスがため息交じりで言い、ハロルドが頷いて答えた。


未だ絶望のポーズのままだった涼は、アモンとゴワンが両側から引き起こす。

涼の足取りは、当然、弱々しいものであった。


まさに、とぼとぼ、という言葉がぴったりな……。



二層に降りる階段の前に、記録をする『石碑』があり、そこで一層を踏破したことが確認された。

一行の誰の顔にも、満足感のかけらもなかったが……。




「……十層まで終了したね」

「……ああ」

「……ルンのダンジョンとは、大違いですね」

「魔物、一体も倒していないのは、気のせいに違いありません」

エトが事実を述べ、ニルスが同意し、アモンが比較し、涼が現実から目を背けようとしていた。


十一号室の三人は無言。


そんな、十一号室の三人を見て、アモンが言った。

「でも、目的は、マーリンさんに会うことですから」


「確かに……」

ニルス、エト、涼が異口同音に言う。

十一号室の三人も頷く。


そう、忘れてはいけない、目的を。

マーリンという魔王の参謀的な人物(?)に会い、魔王の居所を聞き、その血でもってハロルドの霊呪を解く。


そのために、潜っているのだから。



「まあ、とりあえず、今日のところは帰ろうか。十一層から下の地図もあるそうだから、それを入手して、また明日来よう」

エトの提案に、全員が頷いた。


情報がないままダンジョンに突入するのは、あまりに無謀。

それは、冒険者の常識であった。




翌日。

再び宿に相談し、五十層までの地図を手に入れた。


「宿の人が言ってましたね、十層までの喧騒は、最近の事だと」

「教会が、十層までの各層で採れる鉱石を大量に購入するって言ったんだってな」

「まったく……人騒がせな!」

アモンが言い、ニルスが補足し、涼は憤慨した。


十一層から下は、そんな喧騒とは無縁らしい……。



ようやく……一行の、西ダンジョン攻略の幕が上がるのであった。


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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