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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第三章 魔王探索
351/930

0326 冒険者たち

本日三話目です。

12時と13時に、短い幕間を二話投稿しています。

「聖都を発した我々は、再び聖都に戻って来ました」

涼が、いかにもといった雰囲気で、重々しくそう宣言する。


だが、ニルスは知っている。

なんとなく、かっこつけて、そう言ってみたかったから言っただけだと。

だから、小さくため息をついて、小さく首を振る。


そんなニルスの反応に、涼は寂しい顔を向けて言う。

「ニルスが酷いと、アベルに言いつけてやる!」

「おい、こら、やめろ」



聖都マーローマーに向かう馬車の中。


一行は、一度、団長ヒュー・マクグラスに報告しようということで、意見の一致をみた。

西方教会の本拠地である聖都に戻るのは、危険ではないかという意見は出たのだが、少なくとも、表立って教会と争ってはいない。

テンプル騎士団たちの件も、何か超常現象によって、彼らが立ち上がれなくなっただけということにしたし……。

教会が発行した、正式な『聖印状』を持っているのも、また事実なのであるし。


少なくとも、一度報告に戻ったからといって、使節団に迷惑をかけることはないだろうという判断であった。




「ダンジョン攻略ですか。懐かしいですね」

涼は誰とはなしに言う。


「いや、リョウは、ろくにダンジョン潜っていないだろ?」

ニルスは訝しげに涼を見て言う。


ニルスが知る限りにおいて、涼は、錬金術に使う魔銅鉱石を採掘するために五階層までしか行かないはずなのだ……。



「何を言っているのですか、ニルス。ルンのダンジョンの、最深度到達記録四十階層というのを、僕は持っているんですよ?」

涼は、えへんといった感じで胸を張って言う。


十一号室の三人は、ちょっと目を見張って、涼を見る。

尊敬のまなざし……の二歩手前くらいであろうか。


「ああ……それはアベル陛下から、以前聞いたぞ。全階層、底に水で穴を開けて、四十層まで下りたって。それは探索じゃないだろう……」

「え……」

ニルスの冷静な指摘に、固まる涼。



涼の中では、それでも十分、『ダンジョン探索』のつもりだったらしい……。



「た、探索ではなかったとしても、『到達』はしていますから!」

「まあ……到達はしているな。到達しているだけだがな」

涼の強弁に、ニルスも多少は認める。


敗勢が色濃くなったと判断した涼は、エトに助けを求める。

「エト、何とか言ってやってください!」

「え~あ~っと……あ、ほら、リョウ、例の聖都西のダンジョンって、転移機能があるやつだよね?」

エトが、『旅のしおり』を見ながら言う。


「そう、確か百五十層まで到達しているって、その『旅のしおり』に載っているんでしょう?」

「うん」

「かなり深いですけど……まだ、下があるんだよね……」

涼は、そう言うと、少しだけ顔をしかめて言葉を続けた。


「いったい、どこまで潜ればいいのか……」




探索一行は、再び聖都に入った。

もちろん『聖印状』を持っているため、何の問題もなく。



「どうした、お前ら?」

団長ヒュー・マクグラスは、宿舎のロビーにいた。

彼は、いつも、連絡の取りやすい一階に陣取っている。



探索一行は事情を説明する。



「西のダンジョン……」

そこまで言って、ヒューは黙り込んだ。

何事か考えこんでいる。


探索一行も、静かに待つ。

辺りには、誰も近づいてこない。


ただコーヒーの香りだけが漂う。



「他に……他の方法では、魔王には辿り着けんのか?」

ようやくヒューは口を開くと、そう問うた。


少しだけ驚いて、だがニルスが静かに答える。

「はい。ケンタウロスは、それが一番確実だし、それ以外では考えつかないと」

「そうか……やむを得んか」


ヒューは呟くようにそう言うと、チラリと涼を見た。

そして言う。


「リョウは、魔法団顧問のアーサー殿や、イラリオン様から聞いたことがあるかもしれんが、西のダンジョンは転移の罠がある」

「ああ……」

ヒューの言葉に、涼の口から思わず言葉が漏れる。

そういえば聞いたことがある……気がする。


「転移の罠にかかると、パーティーがバラバラにされる可能性がある……そこが凶悪だ」

「なるほど……」

ヒューの懸念を真っ先に理解したのは、エトとジークであった。



パーティーというのは、いわば一つの生き物だ。

協力し合ってこそ、さまざまな問題に打ち勝っていける。

だが、それが強制的にバラバラになれば……。


腕や足だけでは生きてはいけない……。

もちろん、頭だけでも生きてはいけない……。



回復役がいなくなれば、わずかな傷が命取りになり得る。

盾役がいなくなれば、ゴブリンですら大敵になり得る。

攻撃役がいなくなれば……逃げ回るしかできなくなる……慣れないダンジョンの中を。



だが……。


「行くしかありません」

はっきりとそう言い切ったのは、十号室リーダーのニルス。

そして、頷くエトとアモン。


そう、他に選択肢はない。

可能性があるのなら、それに賭けてみたい。



この辺りが、冒険者なのかもしれない。



リスクよりも、掴めるかもしれない結果の方を重視する。

普通の人なら躊躇(ちゅうちょ)する場面でも、一歩踏み出すことができる。

その勇気。

あるいは無謀。


だが、そこに惹かれる者もいる。



「ありがとうございます」

すっくと立って、深々と頭を下げたのはハロルドであった。

すぐに、ジークとゴワンも立ち上がって頭を下げる。



ヒューは何も言わずに七人を見る。


事ここに至っては、グランドマスターであり、使節団団長であっても、送り出すしかないことは理解している。

目の前にいるのは、大切な部下であり仲間ではあるが、同時に冒険者なのだ。


全てを考慮したうえでやりたいというのであれば、止めることなどできない。


ヒューは大きく頷いて言った。

「分かった、行ってこい」





((なあ、リョウ……))

((なんですかアベル、今、いいところなんです))

((いや、『魂の響』を通して俺も見ているから、それは分かる……))

((分かっているのに話しかけてくるなんて、どういう了見ですか))

((俺は……正直、リョウたちを送り出したことを、少し後悔している))

((え?))


さすがに、それは涼の想定外の言葉であった。


((何かあったんですか?))

((いや……冒険者だからというのは分かるんだが……自分の身を賭けてまで、ハロルドのためにというのが……))

((ハロルドは、大切な甥なんでしょう?))

((だからだ。ニルスたちを危険にさらしてまで、本当に……そんなことをさせていいのかと……))

((まったくこの王様は……。王様になって、大切なものを忘れちゃったんですかね))

((何?))

((ニルスたちがその身を賭けるのは、何も王様の甥だからじゃないですよ。彼らは、冒険者仲間のためなら、いつでも、ためらわずにその身を賭けますよ))

((……))

((なぜかって? だって、彼らが尊敬する先輩が、ずっとそんな姿を、そんな背中を、彼らに見せてきたんですから))

((……))

((彼らの中では、そうするのが当たり前なんです))

((……))

((アベル……彼らは、あなたの後輩たちなんですから))


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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