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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第三章 魔王探索
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0321 ケンタウロスの事情

その夜、ケンタウロスの集落では、一行の歓迎の宴が催された。

もちろん、中心で、次から次へと浴びるように酒を飲まされたのは、ニルスだ。


それを後ろから、まるで崇拝の対象のように見るハロルドとゴワン。

ニルス教の信者、一号、二号……。


次から次に注がれる酒を、次から次に飲み続けるニルスを、エト、アモン、そしてジークは苦笑しながら見ている。

もちろん、ご馳走を食べながら。


涼は、偉そうに腕を組んで、ニルスを見ながら何度も頷いていた。

「ニルスもやるようになった」などと、呟きながら。



そんなニルスの元に、闘った相手がやってきた。

手には、酒瓶を持っている。

その酒瓶を見る、周りの目が驚きに見開かれている。

かなり、希少な酒らしい……。


「ニルス、まあ、一杯」

「おお、ケイローン。もらおう」


酒を酌み交わす。

さすがに、今までニルスの周りで酒を注いでいたケンタウロスたちも、ケイローンにその場を譲っていた。

敗北したケイローンであるが、ケンタウロス族たちの見る目は変わっていないようだ。

いや、熟練者の雰囲気を出している者たちからは、今まで以上に敬意を払われているようにすら見える。



『闘い』の内容を評価されたのであろう。



「ニルスは強いな。いい勝負ができた。感謝する」

ケイローンは、何度目かの杯を空けながら、言う。

「勝負は時の運。今回は俺が勝ったが、次はわからん」

ニルスも、一息で杯を空けて答える。


「謙遜するな。俺は強い奴に負けたんだ。ケンタウロスは、強き者には敬意を払う」

「そ、そうか? あ、俺が勝ったからといって、ケイローンの立場が悪くなるとかそういうのは……」

「大丈夫だ」

ケイローンは笑いながらそう言うと、さらに言葉を続けた。



「勝利は名誉だが、敗北は恥ではない」



そう言うと、もう一杯、飲み干す。

「敗北を経験するたびに強くなる。我らケンタウロスは、そのことを知っている。だから、敗北は恥ではない」

そう言うと、ケイローンは笑った。


ニルスは、その笑顔を眩しそうに見た。

確かに事実ではあるが、はっきりとそう言い切るのは、なかなかできることではないという事を、知っているからだ。

「確かに……また強くなりそうだな」

「ああ、そう思うだろ?」

二人は、大笑いした。




エト、ジークと涼の元に、立派な装備を着ていたケンタウロス……もちろん今は、鎧は脱いでいるが……が来た。

「私が、族長のケンロウトルだ」

「私はエト、こっちがジークとリョウです」

「酔いつぶれる前に伝えておこうと思ってな」


そう言うと、族長ケンロウトルはにやりと笑った。


「まず、申し訳ないが、現在の魔王のいる場所は分からん」

「そうですか……」

にやりと笑った表情から一転、申し訳なさそうに、ケンロウトルは言う。

答えるエトも残念そうだ。



エトが、意を決したように問う。

「もし……もし、知っていらしたら、正直に教えてくださったのでしょうか?」

「ん? どういう意味だ?」

「我々が、魔王の元にたどり着くのを助けることになりますから」

「ああ、そういうことか」


ケンロウトルは笑いながら答える。


「かまわんよ、教えただろうな。我々は、魔王が軍を起こせばそれに従うことになる。これは、我らの意思には関係なく、我々が持つ『魔王の因子』によるものだ。選択の余地はない。だが、魔王が軍を起こしていない現在は、魔王との関係は全くない状態とも言える。魔王や、他の幹部、側近たちがどうだろうが、関係はないのだよ」

「魔王の因子……」

涼が呟く。


そう、どこかで聞いたような……涼にまつわる謎単語『妖精の因子』に似ている……。


「現在、魔王は軍を起こしていない……。つまり、人類に対して侵攻する意思はないと?」

「まあ、そうだな。そもそも、ここ百年以上、魔王軍と人との衝突など、起きたことはないがな」


そう聞いて、エトとジークは驚いた。


ここ数百年、世に生まれる魔王と勇者は、ほとんどが西方諸国で生まれている。

そして、半ば定期的に西方教会から、勇者が魔王討伐に成功したという発表がなされてきた。

そのため、中央諸国の人間は、勇者と魔王の関係性を正確には知らないと言ってもいい。

だが、西方教会の発表から、漠然と、魔王軍と人とがぶつかり、勇者が魔王を打倒したのだろうと考えていたのだ。



人が持つ魔王のイメージ。

それは、魔物の王。そして、人類の永遠の敵。


だが、実際は違うのかもしれない……。

涼は無言のまま、そんなことを考えていた。



「現在の魔王が誰なのか、どんな魔物なのかすらわからんが……魔王軍を起こして欲しくないというのが、正直なところだ」

ケンロウトルは、少しだけ寂しそうな表情で呟いた。



「どんな魔物かすらわからない?」

涼は、ケンロウトルの言葉を訝しみ、呟いた。


どうせなので、聞くことにした。


「魔王とは、デビルの……魔王子の一人が進化して成る、と聞きました」

「ふむ。半分正解と言える。実際に、そのルートで魔王になる魔王子もおる。だが、そうではなく、生まれながらにして魔王である者もおる」

「なんと……」

ケンロウトルの答えに驚く涼。


さらに、エトとジークも、大きく目を見開いて驚いている。

中央神殿では、四体いる魔王子の一人が進化して魔王になると教えられたと、リーヒャが以前言っていたことを考えると、二人もそう聞いていたのだろう。



やはり、魔王や魔王軍に関して、現在の中央諸国の人間は、知らないことが多すぎる。



「しかしそうなると……どうすれば魔王を探すことができるのか……」

ジークが顔をしかめて考え込む。

それを見てケンロウトルが言う。

「ハロルド殿が、魔人の霊呪にかかっているのであったな」


『闘いの祭』が終わってすぐに、なぜ一行が魔王を探しているのかは話してある。


そのため、ケンロウトルは言ったのだ。


「確かに、魔人の霊呪を解くには、魔王の血を一滴、額にたらす……それしかない。そのために、かつての魔王の血を教会は保管していたはずだが、それが失われたとか。そうなると……教会は魔王狩りを始めるであろうな」

「魔王狩り……」

ケンロウトルの言葉に、エトが顔をしかめて言う。



『狩り』とは……狩られるものに待ち受けるのは、残酷な運命しかない……。


だが……仮にも魔王と呼ばれる存在が、ただ狩られる運命を唯々諾々と受け入れるだろうか?

もしや、これを契機に、魔王軍を起こし、人類との戦争が再び起こるのではないだろうか?

もしや、西方教会の保管庫を襲った者たちは、戦争を引き起こそうと画策しているのではないだろうか?


涼の脳裏には、そんな考えも思い浮かんでいた。



もちろん、保管庫襲撃者の狙いが、『魔王の血』であるなら、だが。



結局、情報が少なすぎて、まともな結論は出ない。

そう、こういう時に取る方法はただ一つ。


考えない!


涼は、目の前の美味しそうな山賊焼きにかぶりついた。

美味しい物は、思考を停止させてくれるのだ!




涼は思考を停止したが、エトとジークは、ケンロウトルに最後の質問をしていた。


「魔王自身の場所が分からないのは理解しました。では、魔王の居場所を知っていそうな方を教えていただけませんか?」

エトのその問いを予想していたのだろう。


ケンロウトルは何度か頷きつつも、その答えを伝えていいのか、しばらく考えた後で、口を開いた。



「おそらくは……魔王の場所を確実に知っている者がいる」

ケンロウトルのその一言に、ジークが顔をはね上げて問う。

「それは誰ですか!」


「魔王軍を起こした魔王の傍らには、常に、一人の参謀がいた。名をマーリンという。魔物の種類は知らんが、人との交渉の席にはマーリンが就いていたそうだ。その時は、人と同じ姿をとったとか」

「常に……?」

ジークが呟く。


「そうだ。数千年前から、常にだ。そして、恐らくは同じ個体。寿命が長い種なのであろう」

ジークの呟きが聞こえたのだろう、ケンロウトルは、頷いてそう答えた。


「人との交渉の席に就いていたということは、人と会話をすることはできるであろう。そして、常にその傍らにあったということは、魔王そのものの存在を感知、あるいは場所を特定できる何らかの手段を持っているのだろう。マーリンであれば、恐らく、現在の魔王の場所も分かる……が……」

そこで、ケンロウトルは言いよどんだ。


「そのマーリンは、どこに?」

ジークが前のめりで問う。

当然だ。ハロルドの命が懸かっているのだから。


「うむ……。これは祖父が、マーリン本人から聞いた話らしいのだが……」

やはりケンロウトルは言いよどむ。


ジークは何も言わないが、体勢が前のめりだ。


「お主らですら到達できるかわからぬ場所だ」

「到達?」

山賊焼きから戻っていた涼が呟く。



「聖都マーローマー、西のダンジョンの奥だ」


出てきました、聖都西の、転送機能付きダンジョン!

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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