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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第三章 魔王探索
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0317 探索スタート

問題:魔王を探索するための方法とは?

答え:知ってそうな人に聞いて回る……。



仕方がないのだ。


『七つ集めれば魔王の元に導いてくれる宝石』、などない。

『常に魔王の方向を教え続けてくれる錬金道具』、などもない。

『魔王城に乗り込む』こともできない。そんな城はないからだ……。



魔王軍なるものが暴れまわっていれば、まだ方法があるのだが、現状、そんなものはない。

そうである以上、地道に聞いて回るしかない……。


「魔王軍の幹部だった人たちの領地を回るんだけど……その領地って、人間が治めている土地じゃないから……普通に考えて、とんでもないよね」

エトが首を振りながら言う。


「まあな……。教えてください、って聞いても、絶対教えてくれないだろうしな……」

「丁寧に、体に聞くしかないですね!」

「丁寧に体に聞くって、なんだ……?」

「拷問です!」

ニルスの問いに、涼が答えた。


それを聞いて、ニルスがあからさまに嫌そうな顔をする。


「そういうのは……ちょっと……な」

「ニルスが善い人ぶっています。貴重な情報は、簡単には手に入らないのですよ?」

「そ、それはわかるんだが……」

ニルスは、見た目はあれだし、ガキ大将な雰囲気が未だにあるが、拷問などそういう系統は苦手らしい……。


「リョウが拷問するにしても、あまり見えないところでやって欲しいな……」

「僕は、拷問とかしませんよ? そういうの苦手ですから」

「え? さっき丁寧に体に聞くって言わなかったか?」

「もちろん、ニルスがやるに決まっているじゃないですか!」

「何で俺なんだよ」

「剣士だからです!」

「いや、関係ないだろ……」


誰しも、拷問は苦手らしい。

まあ、拷問が得意という人がいたら、ちょっと怖い気がするが。


「でも……魔王軍の幹部に、人の言葉が通じるんでしょうか?」

「あ……」

アモンの冷静な指摘に、ニルスと涼が異口同音に声を上げた。




そこは、西方諸国の北端。

アリエプローグ北方国の、北国境。

北端ではあるが、常に氷に覆われた世界というわけでも、豪雪地帯というわけでもない。

ただ、驚くほど険しい山々の連なりがあるため、それより北側に、人の支配が及んだことはない。

また、そんな地形のために、大軍を動員しての軍事行動も不可能な地域だ。


この山の連なりは、昔からこう呼ばれている。

『魔王山地』と。



探索一行七人は、アリエプローグ北方国最北の街、オンゲに到着した。

魔王山地は険しいため、これまでのように馬車で乗り入れるわけにはいかない。

このオンゲに馬車を置いて、徒歩での山越えに挑むことになる。


『聖印状』のおかげで、オンゲ教会に馬車と荷物を置かせてもらえたのは運がよかった。

馬は馬車から離して管理してもらうが、馬車は不届き者がいないとも限らない。

教会に置かせてもらっても、常に教会の人が見ていてくれるわけではないのだ。

自分たちの道具は、自分たちで守らなければならない!



「よし、こんなものでしょう」

一行の前には、氷漬けにされた馬車が鎮座していた。

それは、太陽の光を反射して、驚くほど煌めき、美しい光景を現出する……。


その氷の塊を、満足そうな声を上げて、作り上げた水属性の魔法使いがペタペタと叩いている。


「なあ、リョウ、これって、馬車の中は水浸しになっているんじゃないか?」

「大丈夫ですよ、ニルス。魔法の氷ですからね、濡れませんよ。もちろん解凍後も、全く濡れていない状態で現れます」

ニルスの疑問に、自信満々に答える涼。



これまで、何万回、何百万回とやってきたことなので、自信満々なのも当然だ。



これで、オンゲ教会が突然裏切って、一行の馬車を接収しようとしても大丈夫。

グラハムが言うには、西方教会も一枚岩ではなく、内部では熾烈な権力争いが常に起きている。

その一派が、過激な行動に出る可能性もあるから注意を、とは言われているのだ。


基本的には、『聖印状』を持って訪れた一行に対して、教会は笑顔で迎え入れてくれる。

聖印状とは、教皇庁が発行した身分保証書みたいなものなのだから、当然だろう。

であるなら、教会の資産はできる限り有効に使うに限る。

今回のような、無料の荷物預かり所的な……。




オンゲ教会に馬車を預け、三日後、『魔王山地』の麓に到着した。

もう、この辺りになると、小さな村すらない。


魔物の大群が魔王山地の向こうから襲ってくるから……というわけではもちろんない。


人間たちの軍勢が魔王山地を越えられないように、魔物も山地を越えてこちら側にやって来たことはない……らしい、記録に残る限りは。

なぜか?


魔王山地に足を踏み入れて、一行はその理由を知った。



人一人がやっと通れるような崖……とても飛び越えられないような深く、大きく裂けた大地……常に落石を意識しなければならない斜面……。


そして、こういった急峻(きゅうしゅん)な山地にいる、羽が生えた変な女の人風な……。


「また、ハーピーが……」

「<アイスウォール10層パッケージ>」


ガキン、ガキン、ガキン、ガキンッ。


一行をすっぽり覆う、氷の壁により、ダメージを受けることはないが、気が休まることもない。



「ハーピー、ボア、ベアー、ラビット、果てはスネークまで……」

「驚くほどの、魔物の多様性が見られますね」

現れる魔物の多さにぼやくニルス、言葉を変えてそれを表現する涼。


「多様性などいらん!」

ニルスは小さな声で、そう言い放つ。


「でも、リョウの魔法のおかげで、崖とかを歩くのもかなり楽だよね」

エトが称賛する。

涼が、<アイスバーン>と<アイスウォール>を駆使して、一行はほぼ危険な状態に陥ることなく、魔王山地を移動できていた。


ぱっくりと口を開けた大地も、上に氷の橋をかければ……下を向くと足がすくむような光景ではあるが、落ちることはない。

涼の氷が割れない限りは……。


「そうでしょう、そうでしょう。水属性魔法の偉大さを、とくと味わっていただく好機!」

涼は、嬉しそうに言う。

人は誰しも、称賛されれば嬉しいものだ。




そんな順調な一行の探索行が危機に陥ったのは、魔王山地に足を踏み入れて三日目であった。


「<アイスウォール10層>」

ほとんど反射的に張った氷の壁に、火の玉が当たる。


「なんだ!?」

ニルスが叫ぶ。

誰も気づかないうちに、攻撃を受けた。


それは、本来あり得ないことだ。

仮にも、『十号室』はB級パーティー。

A級など、そうめったに現れないことを考えると、実質的に冒険者の頂点付近と言っても過言ではない。

そんな者たちが、当たるまで気づかない魔法攻撃など、あり得ない。


そして、涼。

普段の街道や、街中であればともかく、いつ魔物が襲ってくるか分からないこの山地に入ってからは、ほぼ常時<パッシブソナー>を起動している。


それらをかいくぐって攻撃を受ける。


ニルスならずとも「なんだ!?」と叫ぶであろう。



最も驚いていたのは、涼であった。

その原因は、先ほどの火の玉の威力。

それは、驚くほどの威力。

現在の涼による、<アイスウォール10層>ですら、おそらく二発で割られてしまうであろうほどの威力。

今の火の玉を超える火属性攻撃魔法など、悪魔レオノールや、帝国のあいつの攻撃くらいしか思いつかない……。


そんな攻撃が、この山地で?


「かなりの強敵です」

涼は、真面目な声音で注意を喚起する。

涼が、全くふざけていないことを理解した六人は、気を引き締める。



そんな一行の元に、足音が聞こえてくる。



「人間の足音じゃないな」

剣士ニルスが呟く。

「一体ですが……なんか変ですね」

剣士アモンが、足音から違和感を感じる。

「四足歩行ですが、あまり前足に力がかかっていない音」

神官ジークが、違和感の理由を推測する。


「そもそも、火属性の魔法を使う魔物というのが、めったにいないよね」

神官エトが、先ほどの火の玉の異常性を指摘する。

「普通、地上や空中の魔物は、風属性か土属性ですから」

剣士ハロルドが確認する。

「火属性魔法を使う魔物となんて、戦ったことないぜ」

双剣士ゴワンの意見に、ハロルドとジークだけではなく、ニルス、エト、アモンも頷いた。


経験豊富な『十号室』の三人ですら、実は、ないのだ。


涼だけが渋い表情をしている。

悪魔レオノールを、魔物に入れるべきかどうか悩んでいる……わけではなくて、ダンジョン四十層で戦った、デビルたちを思い出していたのだ。

(でも、あれは、完全な二足歩行だった)


ならば、今近づいてきているのは、いったい……。



音が近づいてきて……一行の目に入った魔物は……、

「赤い……」

「熊……」

「なんだそれは……」


アモン、エト、ニルスはそれだけ言って言葉を失った。


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