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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
337/933

0312 到着

聖都マーローマーの周囲には、衛星都市とも呼べる街がいくつか点在しているが、そのさらに外に、東西南北のダンジョンが存在している。

ダンジョンは、決して等間隔ではなく……北ダンジョンは、聖都マーローマーから、徒歩三時間ほどの距離。


北ダンジョン周辺は、小さな街と化している。

ダンジョンには、冒険者がやってくるため、その冒険者目当ての店も建つ。

さらに、冒険者や商人たち向けの宿なども。


そんな冒険者たちのために、ギルドの出張所もあるらしい。

もっとも、中央諸国のギルドと同じかどうかは、使節団の誰も知らない……。



とはいえ、使節団は、今回聖都マーローマーに直行する。

北ダンジョン街と便宜上呼ばれるようになっているこの街は、入ることすらなく、少し離れた場所を通る街道を進んだ。



「あのダンジョンも、大海嘯とかあるんでしょうか」

アモンの呟きに、「確かに」とか言いながら、神官のエトとジークが『旅のしおり』をめくる。


だが、そこまでの情報は載っていなかったらしい。


「無いといいね」

エトの希望的観測に、ニルスは頷いて呟いた。

「あれは厄介だったからな」




三時間後、使節団は、無事に、聖都マーローマー北門に到着した。


聖都マーローマーは、巨大都市で多くの門があるが、その中でも北門は巨大な門の一つである。

そして、何よりも……城門を守っているのが……。


「ゴーレム!」

涼が思わず叫ぶ。


門の両脇に二体ずつ、合計四体のゴーレムが立っている。

全長三メートル……公国のゴーレムとほぼ同じ大きさのゴーレム。

体の前で剣を地面に突き刺し、柄頭の上に両手を重ねて立っている。



だが、動く様子はない。



「あれ? ゴーレムが、身分照会とか不審物の探索とかをしてくれるのでは……」

「しないみたいだな」

「聖都マーローマーの門は、常に開いたままらしいです。西方諸国中から集まってくる信者たちが、いつでも聖都に入れるように、って書いてあるね」

涼は当てが外れたような顔をし、ニルスがそれを肯定し、エトが『旅のしおり』から情報を提供する。


「ま、まあ、いいです。止まっているなら、近づいて、いくらでもじっくりと見ることが……」

「ダメだぞ」

フラフラとゴーレムに近づいていこうとする涼を、むんずとつかんで列に戻るニルス。

いつかどこかで見た光景が、繰り返される。


「ニルス、止めないでください!」

「いや、止めるだろ。このまま、使節団は入城するんだから」


帝国使節団、連合使節団、そして王国使節団の順に聖都マーローマーに入城し、教皇庁での歓迎式典に出ることになっていた。


「その辺りは任せます。僕はゴーレムの観察を……」

「諦めろ」

抗う涼、捕まえるニルス。



数回のやり取りの後、結局、涼は諦めた。


「ゴーレムは逃げない」

そう自分に言い聞かせて、諦めたらしい……。


他の六人は、いつものように苦笑していた。




教皇庁における、中央諸国使節団歓迎式典。


涼たちは列に並んで、式典が進むのを待っている。


王国使節団は、帝国、連合の後ろであり、その中でも十号室と十一号室は、最後尾に位置する。

もちろん、馬車は式典会場の外に置かれ、馬車に乗ってきた文官たちも、列に並んでいる。



最後尾の場所からは、教皇まで遠すぎて……。



「教皇の顔とか、全然見えんな」

「これだけ遠いとね」

「西方教会の頂点ということは、やっぱり魔法も凄いんでしょうね」

ニルスがぼやき、エトが肯定し、アモンがワクワク感を抱いた感想を述べる。


十一号室の三人も頷いている。


だが、涼だけは、何度も首を傾げている。


神官エトはそれを見て問うた。

「リョウ、どうしたの?」

「ん~なんというか、言葉では説明しにくいのですが……凄い違和感があります」

「違和感?」

「うん。何と言えばいいんでしょう……教皇聖下の……中身が空っぽな感じがするんです」


「中身が?」

「からっぽ?」

ニルスとアモン、二人とも首を傾げながら疑問形になる。


涼以外の六人から見れば、教皇の顔はほとんど見えないが、動きは普通だし、団長たちへの声掛けも普通なように見えるが……。



結局、涼が持った違和感はずっと晴れず、六人も理解することができないうちに、使節団歓迎式典は、無事終了した。



帝国、連合、王国の各使節団は、それぞれ割り当てられた宿へ移動する。


宿は、教皇庁に隣接した巨大な宿であった。

三国の宿は並んでいる。


聖都マーローマーは西方教会の中心ということもあって、国外からの使節が来ることは多い。

その際に、この教皇庁隣接の宿群はよく使われているらしい。


そんな情報を仕入れてきたのは、神官ジークであった。

ジークはできる男である。




「やっと……着いたんだよな?」

宿に入り、部屋に着くと、ニルスがそう切り出した。

「ええ。片道一カ月以上……やっぱり、けっこうかかったんですよね」

エトが頷きながら答える。

「でも、普通の護衛依頼に比べても、全然大変じゃなかったですよね」

アモンが楽しそうに答える。


「きっとこの後、空から隕石が降り注ぎ、川は血のように濁り、イナゴの群れが襲い、夜な夜な長男を殺された親たちの泣き声が聖都を満たすのです」

「いや、不吉な物語を作るな」

涼がおどろおどろしい感じで語り、ニルスが顔をしかめて否定する。


「……まあ、とにかく、基本的には三か月後の教皇就任式まで、護衛冒険者としてのお仕事は終了。宿や、文官たちの教皇庁との行き来など、聖都内における安全の全ては、ファンデビー法国の責任で行われる、って言われたよね」

「別の言い方をすれば、監視下に置かれる……まあ、法国に入ってずっとだけどな」

エトが言い、ニルスがファンデビー法国に入って毎夜、宿の周りを監視する者たちがいたのを思い出しながら答えた。


「仕方ありません。使節団の護衛とはいえ、ニルスのような不審人物を国に入れるのです。法国も、見張りくらいつけないと不安でしょう」

「俺じゃなくて、リョウだろ」

「いえいえ、僕なんて、どこからどう見ても、人畜無害の穏やかな水属性の魔法使いじゃないですか」

胸を張って、威張って言う涼。


だが、そこにいる六人は、誰も同意しなかった。



涼は、周囲の理解の無さを嘆いた……。




ここは、連合使節団が入った宿舎。

その団長室。

そこには、連合使節団団長である、先王ロベルト・ピルロと、その護衛隊長グロウンがいた。


「あれが、教皇か……」

先王ロベルト・ピルロは、さきほどの歓迎式典を思い出しながら呟いた。

「陛下?」

護衛隊長グロウンが問いかける。


「あれは……替え玉だったのかもしれん」

「替え玉? 教皇本人ではなかったと?」

ロベルト・ピルロの言葉に、驚くグロウン。


当然であろう。

長い旅の果てにようやく到着した使節団を、偽物がもてなしたなど、本来あり得ないことだ。

とはいえ、中央諸国の常識が、西方諸国においても常識であるとは限らない……。



「教皇というにはあまりにも……凡人……いや、凡人を通り越して人形と言われても頷けるような……」

「し、しかし、陛下を含め、各団長にも声をかけられていらっしゃったではないですか」

「うむ。だからこそだ……あれが、西方諸国をまとめている西方教会の頂点であるとは、どうしても思えなかったのだ……」

ロベルト・ピルロはそこまで言うと、何度か首を振った。


ロベルト・ピルロは、先王であるが、同時に、中央諸国ではよく知られた魔法使いでもあった。

いや、よく知られたというよりも……連合において、トップクラスの魔法使いといっても過言ではないレベルのだ。

そんなロベルト・ピルロだからこそ感じることができた。



先ほどの教皇の、力の無さを。



「西方教会の頂点というからには、光属性の魔法を使えるであろう。それも、常人とは比べ物にならないほどに。そのはずだ。そして、魔法使いであれば、どうしても僅かに、体から魔法が漏れる……あるいは、魔法が漂うというべきか。強い魔法使いであれば、余計にだ。だが、教皇からはそれが全く感じられなかった……」


強者の魔法使いであれば、必ずあるはずの魔法の漏れが……。


だが、そこでロベルト・ピルロは思い出した。


彼が知る、ほとんど唯一の例外を。

そしてわずかに微笑んで言った。


「いや、王国の筆頭公爵殿は、そういえば魔法が漏れておらんかったな……」


図らずも、夜のコーヒーパーティーで、石机を囲んで座った涼は、魔法が漏れていなかったことを思い出したのだ。

もちろん、事前の情報で、強力な魔法使いであることは知っていたのだが……。


「彼のような例外もあるのか……」

それは、七十年以上生きてきて、初めての経験であった。



かつて戦った強力な魔法使いたち……王国のイラリオン・バラハ、あるいはアーサー・ベラシスなどは、魔法を『(まと)っていた』

もちろんそれは、その辺の有象無象の魔法使いとはレベルの違う……緻密に編み込まれたとでも言おうか、そんな魔法を纏っている感じであった……。


対峙するだけでも、恐ろしさに血が凍るかのような……そんな記憶がある。



だが、王国筆頭公爵の涼は違った。



「そう、あれは……穏やか……魔法は感じなかったが……雰囲気なのか……?」


そこまで考えて、ロベルト・ピルロは何度か首を振った。

そして言葉を続けた。


「まあよい。就任式まで三カ月ある。それまでには、いろいろ分かろうさ」


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