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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
331/933

0306 ゴーレム兵団

「ついに、念願がかないます!」

「いや、以前、連合から鹵獲(ろかく)したゴーレム、王都で見ただろ?」

涼の言葉に、付き添いというより監視役でついてきた王国使節団団長ヒュー・マクグラスはつっこんだ。


団長自らが監視役……涼はVIP待遇なのだ。

単に、他の人物では抑えきれない可能性が高いから、とも言える。


「あれはあれ、これはこれです」

「そ、そうか……」

涼の力説に、ヒューは力なく同意した。



そこは、『兵団整備室』というプレートが扉につけられている。

公国側の案内人が、六人を案内していた。


「というか、俺とリョウだけじゃないというのが……」

「いや、マクグラス団長、我々も当然興味はあるのですよ」

「マスター・マクグラス、抜け駆けはいけませんな、抜け駆けは」

ヒューがぼやき、先帝ルパートが笑いながら言い、先王ロベルト・ピルロが茶々を入れる。


涼にはヒューが付き、ルパートにはハンス・キルヒホフ伯爵が付き、ロベルト・ピルロには護衛隊長グロウンがついていた。


各使節団から二人ずつの、合計六人。

とても公正で公平。




『兵団整備室』のプレートが付いた扉を開けて、案内人は六人を中に導いた。



そこは、バスケットコート十面分ほどはありそうな、巨大な空間。

そこに、ずらりと並んだゴーレム。

鈍い金属の反射光が、なかなかに荘厳な雰囲気を現出している。


「おぉ……」

涼は思わず声を漏らすと、一番手前にあるゴーレムの方へ、フラフラと近づき、手を触れようとして……。

「こら!」

ヒューに止められた。


「ヒューさん、止めないでください!」

「いや、止めるだろ! 見るだけ、触るなと言われただろうが」


そう、見る許可は下りたが、触れるのはもちろんダメである。

涼も使節団の一員ということで、国同士の約束事を破れば大変なことになる。


「むぅ……そうでした」

さすがに、涼ですら理解した。



そこに並ぶゴーレムは、高さ約三メートル。

表面は、何かの金属で、鈍くくすんでいる。

涼が以前見た、連合の人工ゴーレムと比べた場合、同じ部分も違う部分も、いくつかある。


まず大きさは、連合の人工ゴーレムは二メートル半、こちらは三メートルほど。

そして、見た目の大きな違いは……。


「二本足……」

涼が呟く。

そう、目の前のゴーレムは二本足。

連合の人工ゴーレムは、四本足であった。


言うまでもなく、四本足の方が安定性は高い。

というより、『二本足で歩く』というのは、かなりバランス制御が難しいのだ。

つまり、目の前のゴーレムたちは、制御機構が人工ゴーレムと何か違う、と言える。


外部からは、かなり装甲がびっちりと重なり合っており、関節部分などはよく見えない。


「できれば魔法式なども……」

涼の呟きは、案内人に聞こえたようだ。


「申し訳ございません。魔法式は、外部からは見えなくなっております。また、様々な外部からの干渉を防ぐために、干渉阻害の仕組みが施されております」

つまり、外部から魔法式を書き換えて乗っ取る、みたいなことをされないように、いろいろ工夫してあるらしい……。

もちろん、魔法式そのものも、見えないようになっていると。


まあ、そうでなければ、教皇直々にもてなせと言われた使節団とはいえ、外国の者に、簡単にゴーレムを見せるなどとはならないであろう。



当然の配慮はなされているのだ。



「これは、ぜひ、お手合わせし……」

「申し訳ございません」

涼が言い切る前に、案内人が断った。


「そっこーで断られました」

「当たり前だ」

涼が驚きの表情で呟くと、ヒューがつっこんだ。


「外に整列していた時には、ハルバードを掲げていましたよね」

「ハルバード? 何だそれは?」

「あれ? そういえば……中央諸国では見た記憶がないかも……」

ヒューの疑問に、涼は思い出しながら呟く。



ハルバードとは、槍の先端付近に(おの)鉤爪(かぎづめ)がついている長柄(ながえ)の武器だ。

槍として突く、斧として振り回す、あるいは鉤爪で引っ掛けるなど、多用途使いができる……ただし、けっこう重い。

人間用でも、二メートルから二メートル半。

整列したゴーレムが掲げていたのは、四メートルはあったように見えた。



「ハルバードを振り回しながら、敵の密集陣形に突っ込むのは有効らしいですよ。このゴーレムたちも、戦場ではそういう使い方をするのかもですね」

「こんなのが突っ込んできたら厄介だな……棍棒振り回すだけでも、人間にゃどうにもならんだろ」

涼の言葉に、ヒューも小さく頷きながら答えた。




「これは、なるほど見事だな」

「一機でB級冒険者五人分、と言われるのは伊達ではありませんな」

先帝ルパートが呟き、傍らのハンス・キルヒホフ伯爵も頷いて答える。


西方諸国のゴーレム兵団は、その一機で、B級冒険者五人分の戦闘力と伝わっている。


「ロベルト・ピルロ陛下、連合にも、このようなゴーレムがあるのでしょう? 連合の戦力は侮れませんな」

先帝ルパートは笑いながらそう言ったが、目は笑っていない。

目の前のゴーレムが持つ『力』を理解し、それに伍する物を、同じ中央諸国の一角が持っているとなれば、心の底から笑うことはできないであろう。


「いや、ルパート陛下、うちの人工ゴーレムは、まだできたばかりですから……まだまだ、ここまで洗練されてはおりませぬよ」

答える先王ロベルト・ピルロも、笑いながら答えるが、もちろん目の奥は笑っていない。



連合の人工ゴーレムを製造したのは、天才錬金術師として名高いフランク・デ・ヴェルデ。

当然、未完成品なわけがない。

ルパートもロベルト・ピルロも、それを理解した上での会話だ。


それを、少し離れた場所から見る、もう一人の団長ヒュー・マクグラスは、小さく首を振って呟いた。

「あんなのを相手に国の運営をしなきゃならんとか……アベル陛下も大変だ」




二時間後、ゴーレム見学会は終了した。

約一名、まだ名残惜しそうにしていた水属性の魔法使いがいたが、さすがに時間は区切られている。

そもそも、国家機密に準ずるものを見せてもらえただけでも、ありがたいのだ。

実際、三人の団長は、案内人に丁寧に感謝し、キューシー公に感謝を伝えてほしいと述べている。


「ああ……」

と言いながら、ヒューに引っ張られて部屋を出た涼は、ようやく最後の最後で、

「ありがとうございました」と一応は言った。

まあ、それだけでもましな方だったのかもしれない……。



その後、公国の整備師たちが、全てのゴーレムを点検して回ったのは当然であったろう。

外部からの干渉ははねつけるとはいえ、何かされていましたでは困るのだ。

詳細な点検が行われ、問題なしと判断されたのは宵の口に差し掛かる頃であった。



だが、彼らも知らない。


その日の深夜、いくつかの怪しい影が整備室のゴーレムたちに取り付き、何らかの錬金道具によって細工がされていったことを……。





「我が国も、ゴーレムを戦力として作るべきか……。どう思う、ハンス」

「はい。ゴーレムなら、人的損失を減らすことにはなりましょうが……何分、誰にでも作れるというものではございません。連合が製造に成功したのも、失礼ながらフランク・デ・ヴェルデ殿のおかげ……」

先帝ルパートが、歩きながら問い、傍らのハンス・キルヒホフ伯爵はそう答えた。


「まあ、そこは否定できませんな」

うっすらと笑いながら、ハンスの言葉を肯定する、連合の先王ロベルト・ピルロ。


「ふむ。作るには天才錬金術師が必要か……」

ルパートの呟き。



それに反応したのは、涼であった。



「おそれながらルパート陛下。王国のケネス・ヘイワード子爵を(さら)おうなどと考えるのはおやめください」

「ほぉ……。もちろん、そんなつもりは全くなかったが……リョウ殿は、そのようなことを懸念されていたのか」

ルパートはうっすらと笑いながら答える。


「もちろん、賢明なるルパート陛下が、そのような軽はずみなことをされるなどとは考えておりません。そもそも、ケネスは私の友であり、師でもありますので、いなくなったりしたら困ります。その時は、帝国全土をくまなく探しますので」

涼はにっこり笑って言う。


「さて、見つかるかな?」

うすら笑いのまま、ルパートは言葉を紡ぐ。


「帝国全土を凍らせて、探しますので見つかるでしょう。大丈夫です。凍ったままでも生きていますので。後日、帝国民は解凍いたしますよ?」

にっこり笑ったまま、涼は答えた。



これが冷戦。コールド・ウォー。



一国の先帝に不敬な物言いとも言える言動をした涼を、ルパートは叱責してもいいのだが……。

そんな事はしない。

しても意味がないことを理解しているからだ。



「もちろん、ヘイワード子爵に手を出すつもりなど全くなかったが……別の方法で、ゴーレム製造を考えるとしよう」

「賢明なる判断、感謝いたします」

ルパートはにっこりと笑って言い、涼は頭を下げた。



「うん、おまえら、怖いって……」

ヒューの呟きは、誰の耳にも届かなかった。


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