表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
330/930

0305 公都ディーアール

西方諸国の最東端の国家として知られるキューシー公国。その都ディーアールは、さすがにこれまでの回廊諸国の街とは規模が違っていた。


「これは……王都とまでは言わないけど、ルンの街以上の人口はいるね」

その人口の多さに驚く神官エト。


「西方諸国を王国に例えれば、このキューシー公国は辺境伯にあたります。そのためか、西方諸国の中でも、かなり強力な軍事力を持っているそうです。その一つが、ゴーレム兵団とか」

『旅のしおり』を読みながら、情報を補足する神官ジーク。


「なるほど……って、え? ジーク、今、ゴーレム兵団って言った?」

ジークが言った言葉に反応する涼。


「あ、はい。西方諸国最強のゴーレム兵団は、教皇が治めるファンデビー法国らしいですが、このキューシー公国のゴーレム兵団も、なかなかのものだそうです」


ジークは、そう言いながら、旅のしおりの該当箇所を見せた。



「それは、ぜひ、見たいですね!」



ワクワクを通り越して、ソワソワしはじめた涼。


「これは、ヒューさんに、公国に半年くらいとどまるように直接交渉を……いや、ルパート陛下やロベルト・ピルロ陛下にも根回しを……」

「いや、そういうのはやめろ」

涼の口から出る不穏な言葉を、未遂のうちに止めようとするニルス。

苦笑するエトとアモン。

ちょっと口ぽかんとなる十一号室の三人。



だが、ニルスの懸念は払拭され、涼が望んだ光景も……。



一行を迎えた公城には、ずらりと整列したゴーレムたちがいたのだ。


それを見た涼の表情は……。


まさに歓喜。

まさに喜悦。

まさに……至福。



列から逸れて、フラフラとゴーレムの方へ近寄っていこうとするのを、ニルスにむんずとつかまれて、何度列に戻されたことか……。


結局、整列したゴーレムの間を抜け、公城内の広場に一行が入るまで、それは続いた。

広場に入り、扉を閉められ、ゴーレムが見えなくなる時……、

「ああ……」

手を伸ばしながら、涼の口から漏れた言葉に、『十号室』と『十一号室』の六人はため息をついた。



だが、本当は、ため息で終わってはいけないのだ。

涼の行動力を考えた場合。


それを理解していたのは、この六人ではなかった。


((リョウ、絶対扉を破って突っ込むなよ!))

((アベル、止めないでください!))

((いや、止めるわ!))


はるか中央諸国にいるアベルによって、涼の暴走は未然に防がれた。


『魂の響』を通して、アベルはその光景を見ていた。

そして、涼の気持ちも想像がついた。

となれば、とるかもしれない行動も予測がつくというものだ。



((本命は、教皇のゴーレム兵団だろうが。ここで問題を起こせば、それを見られなくなるぞ?))

((うっ……))


教皇が治めるファンデビー法国のゴーレム兵団は、西方諸国でも最強と言われている。

そして、使節団一行は、その教皇の就任式に向かっているため、ファンデビー法国には必ず行くのだ。

それに連れていってもらえなくなるのは、涼としてはさすがに困る……。


((仕方ありません。後で正式なルートで観察を申し込みます))

((正式なルートって何だ……))

((ヒューさんに、お願いします))

((ま、まあ……それはいいが……。グラマスに迷惑かけるなよ?))

((大丈夫ですよ。僕に任せてください!))


なぜか自信満々の涼。

だが、いったい何に自信満々なのかが、全く理解できないアベル。



世界は、常に、すれ違いからできているのかもしれない……。




キューシー公ユーリー十世への謁見がつつがなく終了し、使節団首脳たちには、ファンデビー法国までの旅程が示されていた。

西方諸国には、

『全ての道はファンデビーに通ず』

という言葉があるくらい、街道網が発達している。


さらに、教皇の指示により、キューシー公国は、中央諸国使節団をファンデビー法国まで道案内する役割を与えられていた。

そのための、旅程伝達であった。



「川が増水?」

旅程表を見て、思わずヒューの口から言葉が漏れる。


「はい。この公都ディーアールからファンデビー法国までは、オース川を船で向かいます。三十台の馬車と二百人以上乗れる船を、合計六隻用意させていただいております。各国二隻ずつです。ただ、昨日まで降り続いた大雨のため、川が増水しております。二日ほどで出航できるとは思いますので、それまでこのディーアールでお待ちいただくことになります」


陸路でもファンデビーに向かうことは可能らしいが、船より時間も手間もかかる。

さらに、教皇の就任式まで、まだ三カ月ほどの余裕がある。急ぐ必要もない。

となれば、待つのが上策。


先帝ルパート、先王ロベルト・ピルロ、そしてヒュー・マクグラスの三人は視線を交わした。

言葉に出さずとも、その程度は理解できる。


「わかりました。川が治まるまで待たせていただきましょう」

代表して、先帝ルパートが答えた。



ここに、二日間の余裕が生まれた。




「やりましたよ! 天は我に味方せり!」

宿舎の大食堂にて、その川が治まるまで待つという報告を受けた時、ある水属性の魔法使いが叫んだ言葉だ。


「なんだ、リョウ。何が味方なんだ?」

その、かなりの喜びように、訝しげな表情を向ける、団長ヒュー・マクグラス。

十号室と十一号室の六人は、小さく首を振ったり、苦笑したりしている。


「ヒューさん、お願いしたいことがあります!」


涼は、ヒューに近づきながら言った。

「公国のゴーレムを、近くで見る許可をとって欲しいのです!」

「ゴーレム? ああ、並んでいたやつか……」


涼の言葉に、ヒューは整列していたゴーレムを思い出す。

同時に、三年前の、インベリー公国への出兵時に、涼が連合の人工ゴーレムに、異常なほどの興味を示していたことを思い出していた。


「リョウは……ゴーレムに興味があったな、そういえば……」

「はい!」

ヒューの言葉に、いい返事をする涼。


ヒューも、涼の希望が通ればいいなとは思うが、ゴーレムは恐らく国家機密、そう簡単に、他国の人間が見る許可は下りないだろうと思う。


「まあ……先方に頼んではみるが……難しいと思うぞ?」

「大丈夫です。その時には、この公都全体を一時的に氷漬けにして、みんなが動けなくなったところで見ますから」

「いや、ばか、やめろ」


涼のとんでもない考えを、慌てて止めるヒュー。


公都全体を氷漬けにできるかどうかは分からないが、そんな考えを持つこと自体が大変困る。


「もちろん冗談ですよ。いやだな~ヒューさんたら、本気にしちゃって」

「……リョウの場合、どこまで冗談かが全く分からん」

涼が素敵な笑顔でヒューの腕を叩き、ものすごく疲れた顔で答えるヒュー。



いつもはアベルが担う役割を、今回はヒューが担っている……とても、大変そうだ。



その後、『見るだけなら構わない』という許可が下りたのは、誰にとっても幸運であった。



涼は何度もガッツポーズをして喜び、ヒューは問題が起きなくて済みそうだとホッと胸をなでおろし、知らないうちに氷漬けにされたかもしれない公都民は……何も知らないで生活を続けた。


もちろん、涼が氷漬けにすると言ったのは、冗談ですよ?

涼自身が言った通り、冗談ですよ?

本当ですよ?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ