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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第二章 二人旅
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0032 ゴーレムの巣

二人は、壁に沿って歩いた。

二時間ほど歩いた辺りから、段々と壁が低くなってきた。


「少しずつ壁が低くなってきてるけど、まだ登れないよね」

「難しいな。焦らなくとも、このまま行けばなんとかなるんじゃないか」

高さは三十メートルほどにまで低くなってはきていたが、それでも壁を登るのは難しそうであった。


(まるで巨大なレーザーにでも抉られたかのような感じ。もしかしたら、光属性の魔法使いならそういう魔法を使えるんじゃないだろうか)

心の中で放たれたその疑問に、答える人は誰もいなかった。

心の外に放たれたとしても、誰にも答えようは無かったであろうが。



そのまま一時間ほど歩くと、唐突に、壁は無くなった。

「ようやく壁が終わったか」

「壁の向こうは森じゃなくて、草原ですね」

所々、一メートル程の高さの岩の塊がある以外は、涼が言う通り、見渡す限りの草原が広がっていた。

壁に突き当たるまで、鬱蒼とした森を歩いてきたことからすると、かなりの変化だと言えよう。

「見通しはいいが……まあ、あれこれ言っても仕方ない。どうせ北に向かうしかないんだからな」

「では行きましょう」




二人が草原に足を踏み入れ、三十分ほど歩いた頃であった。


カキンッ


前衛のアベルが、剣を抜きざま、そのまま振りぬき、飛んできた何かを斬った。

「……石?」

アベルが呟く。

それを契機に、前方から親指大の石が連続でアベルに向かって飛んできた。

それを避け、あるいは剣で叩き落し、前方に目を凝らす。

二メートル程の岩から飛んできているのが見えた。

「<アイスウォール>」

アベルの前方に、涼が生成した氷の壁が生まれる。


アイスウォールにより石の心配をしなくてよくなったアベルは、さらによく目を凝らす。

「リョウ、これはやばい。ロックゴーレムの巣に入っちまったらしい」

「ゴーレムって巣があるの?」

後衛の涼もアベルに走り寄ってきた。


「ゴーレムが集団発生する場所のことを、冒険者は『巣』と呼んでいるんだ。どうもここは、そうらしい。俺も経験するのは初めてだけどな」

知識としては知っていても、それだけではどうしようもないこともある。

「あの、岩みたいなやつがロックゴーレム?」

「ああ、あれだ」

「ゴーレムって、もっと、こう、人間みたいに手とか足とかあるものだと思っていました……」

涼のは、地球の知識だ。

もっとも、地球に実際にゴーレムがいたという歴史的事実は存在しないのだが。


『ゴーレム』とは、元々はユダヤ教の伝承に登場する動く泥人形だ。

まあ、土に魂を入れて動かしたり、あるいは人にしたりというのは、世界各地に神話や伝承として残っていたので、もしかしたら地球にもかつてはゴーレムがいたのかも……。


「ああ、錬金術とかで動かせるやつはそういう形だな。西方の国にはゴーレム兵団を持つ国があると聞いたことがある。だが、自然発生するゴーレムは、いろんな形のやつがいるらしいから……ここのゴーレムはあんな岩だった、ってことなんだろう」

アベルがそう言った途端、後ろを振り向きざま剣を一閃させた。


カキン。


後方からも、ゴーレムの石が飛んできたのだ。

「<アイスウォール>」

後方にも、涼はアイスウォールを生成する。


「そういえば、僕らが通ってきたところにも、あの岩、ありましたね。起きちゃったんでしょうか」

「誘いこんでから挟撃かよ。土塊のくせに頭が回るな」

「あのゴーレムって、剣で倒せるんですか?」

ちなみに、ゴーレム系は『魔物大全 初級編』には載っていなかったために、涼には知識が全くない。

「試したことないからわからん」

「ですよねぇ」

「まあ、これもいい経験かもしれん、ちょっと近くの一体を攻撃してくる。リョウはここにいろ」

そう言って、アベルは前後のアイスウォールの間から外に出て、右手前に近付いてきていたロックゴーレムに向かって走った。


そう、ロックゴーレムは見た目『岩』なのだが、少しずつ近づいてきていたのだ。


(岩、ってことは普通のウォータージェットじゃ切れないんだよね。アブレシブジェットなら斬れるんだろうけど……あれ、一瞬で、という感じじゃないからどうなんだろう……あとで試してみよう)

涼がそんなことを考えている間に、アベルはロックゴーレムの一体に斬りかかった。

「闘技 完全貫通」

近付きざま、闘技を発動させて剣で突く。


ザクッ


アベルの相棒の魔剣は、闘技の効果も相まってロックゴーレムの身体を貫いた。

貫きざま、そのまま横に薙ぐ。

普通の生き物ならこれで死ぬのだが……ゴーレムは斬られた場所が修復されていく。


「くそっ」

アベルは、修復中のゴーレムを足で蹴り倒してから、アイスウォールに向かった。

石を飛ばすまでに少しでも時間を稼げれば、と思ったのである。

走っている時に、後ろから撃たれたら、さすがにかわすのは難しい。

ゴーレムは、転がった状態からでは石を撃つことはできないのか、アベルは無事にアイスウォールの元に戻ることが出来た。



「ダメだ、修復しやがる」

「ええ、見てました。今動いているゴーレムは、アベルが攻撃したのも含めて、前方に七、後方に五います」

「合わせて十二体か……走って逃げるには、ここは見通しがよすぎる」

「逃げるのは無理ですね。ん~ちょっと試してみたい攻撃があるので、それをやってみていいですか?」

そう言って涼は空を見上げる。

「どうせ俺の方は手詰まりだ。任せる」

「それでは。<アイスウォール10層>」

涼が詠唱すると、ゴーレムたちの40メートル上空にアイスウォールが『地面と平行に』生成された。


そして落下。


耳を劈く轟音と、何メートルも吹き上がる土と草。


涼とアベルは、防御用のアイスウォールがあったために被害は皆無だが、アイスウォール10層が落ちた場所はひどいものだった。

もちろん落ちた先にいたはずのロックゴーレムは……欠片も残っていない。

どうも、そこにいた二体のゴーレムを巻き込んだらしい。


「質量兵器って怖い」


そう、涼が行ったのは、何も特別なことではない。

上空にアイスウォールを発生させて、落としただけだ。

10層にしたのは、10層の方がより重いだろうと考えて……。

上空からのアイシクルランスといい、これといい、涼は上げて落とすのが好きなのかもしれない。


涼はそれでいいとして、アベルは唖然としたまま、動けなかった。

再起動に五秒ほどかかったようだ。


「りょ、リョウ……なんだ今のは」

「ほら、僕らの目の前にあるこのアイスウォール、これを上空に生成して、そのまま落としただけですよ。ものすごく単純ですけど、上手くいきましたね」

アベルを安心させるためもあって、にっこりほほ笑む涼。

想定以上の質量兵器的効果を生じさせたが、全て想定通り、という顔をしておいた方がカッコいいだろう……そう涼は思ったのだ。

「今ので二体倒したみたいですけど、他のも同じように倒しますね」

そう言って、涼は次々にアイスウォール10層を上空に発生させ、落下させ、地面との間でプレスしていった。



涼は気づいていた。

アベルが蹴り倒したロックゴーレムだけは、その後動きを止めていたことを。

「アベル、とりあえず十一体は倒しました」

「十一体? ん? 十二体いるんじゃなかったか?」

「ええ、アベルが最初に蹴り倒したあいつ、動きを止めてるんですよ」

そう言って、涼はアベルが蹴り倒したゴーレムを指さした。

「確かに……動いてないな」


防御用のアイスウォールを消し、二人は蹴り倒されたゴーレムに近付いた。

アベルが、剣先でちょんちょんとゴーレムに触れてみるが、全く反応が無い。

「何で動かないんだ……」

「アベルのもの凄い蹴り技によって機能を停止したのでしょう。アベルは、剣士をやめてグラップラーになるべきですよ!」

「グラップラーって何だよ。だいたい、そんなに凄い蹴りじゃなかっただろうが」

アベルの蹴りは、ダメージを与える蹴りというよりも、ひっくり倒すための蹴りであった。

足の裏で押すような……プロレスで言うケンカキックに近いと言えるだろう。

人間相手なら、鳩尾に入ればダメージを与えるのだろうが、この石のゴーレムに、そんなキックでダメージを与えられはしないだろう。


「もしかして……」

涼はしゃがみ込んで、ロックゴーレムの下の部分、本来地面と接していた部分を注意深く調べた。

ゴーレムは、地面から、なんらかのエネルギーを供給されており、それを受け取ることが出来るのはゴーレムの下の部分だけなのではないか、そういう予想を立てたのだ。

元になった知識は、スマホなどの非接触充電だ。

あの技術を家の床とか壁に備え付ければ、家電のコンセントとか不要になるのに……地球にいた頃、ずっとそう考えていたのを、ひっくり返って動きを止めたゴーレムを見て思い出したのである。


ゴーレムには……確かに何かがあった。


「アベル、これを見てください」

涼はアベルに、その部分を見てもらう。

「これは……魔石か?」

ゴーレムが本来地面と接していた部分からは、ほんの僅かだが、黄色い魔石が見えていた。

「ゴーレムから削り出してみましょうか」

「ああ。だがロックゴーレムは硬いぞ。俺の闘技 完全貫通ならいけるが……」

「大丈夫です、少し時間はかかりますが、水属性魔法にちょうどいい魔法があります。<アブレシブジェット>」

ロックゴーレムを倒すのには使えないだろうと思っていたアブレシブジェットであるが、時間がかかっても問題無い解体には、ちょうどいい魔法だ。

埋まっている魔石がどれくらいの大きさかわからないために、慎重に周りの岩を削り落としていく。


十分ほどかかって、魔石を取り出すことに成功した。

ちょうど手のひら大の黄色い魔石。

「これは……かなり大きいな」

今まで多くの魔物を倒し、数えきれないほどの魔石を取り出してきたアベルすらも驚くほどの魔石であった。


魔石の価値は、大きさと色と濃淡で決まる。

大きいほど価値が高い。一般的に強い魔物ほど大きな魔石を持つ。

色は、魔法で言う属性である。火なら赤、水なら青。

そして濃淡は、だいたいにおいて、その魔物が生まれてから今までどれくらい生きて来たか、その長さと経験によって変わる。多くの経験を積んでいれば濃くなり、濃ければ濃いほど価値が高くなる。



「大きさは申し分ない。色は黄色だから土属性。その濃さも驚くほど濃い。多分、ここで長い間、入り込んできた魔物を倒してきたんだろう」

アベルがゴーレムの魔石を見ながら言う。

「おぉ、今回の戦利品ですね。それはアベルが持っていてください」

「俺が?」

「ええ。僕の服にはポケットがありませんから」

「お、おう」


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