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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
328/930

0303 回廊諸国を抜けて

((アベルも本当に大変ですよね))

((藪から棒になんだ?))

((いえ、ナイトレイ王国の国王として、あんな大変な人たちと、渡り合っていかなければならないと考えると……))

((それは、ルパート陛下や、ロベルト・ピルロ陛下のことか?))

((ええ、よくわかりましたね))

((ああ。リョウとお二方の会話は聞こえていたからな))

((盗み聞きしていたんですか!))

((人聞きの悪いことを言うな。魂の響が繋がったままになっていたから、聞こえてきただけだ))


そういえば、直前まで、アベルと話していたことを涼は思い出した。


((そういうことにしておきましょう))

((いや、事実だろうが!))



ここは、回廊諸国最後の国『スフォー王国』から、西方諸国の最東端である『キューシー公国』に繋がる街道上。

回廊諸国内は、街道と呼べるものなどなかったが、スフォー王国とキューシー公国の間には、通っている。

この二国の間は、小規模ではあるが交易がおこなわれているからだ。


もちろん、石畳敷きの立派なものではなく、土を固めただけの簡素な街道ではあるが……。



((それで? まだ今日、魂の響を接続した理由を聞いていませんけど?))

((……誰のせいだよ。いや、まあいい。例のハーゲン・ベンダ男爵の件だが、いくつかの情報収集の結果、やはり使節団内にいることが確定した))

((次元魔法の男爵ですよね))

((ああ、そうだ))

((わかりました。それで、どうします? 捕えて次元魔法を抽出しますか?))

((抽出って……そんなことができるのか?))

((さあ? 僕はできませんけど?))

((……一瞬でも、リョウの錬金術でできるのかと期待した俺が馬鹿だった))

((なんたる言い草! だいたい、そんな非人道的な事が、許されるわけないでしょう!))


涼は首を振る。もちろん、魂の響を通してなので、その様子はアベルには見えないのだが。


((……とりあえず、頭の片隅に置いといてくれというだけだ。おっと、そろそろ会議だな。じゃあ切るぞ))

そう言うと、アベルは一方的に魂の響の接続を切った。


国王陛下は忙しいらしい。



「まったく困ったものです」

涼はそう口に出して言うと、再び小さく首を振った。

それを見て、横を歩いているニルスが言う。

「アベル陛下との会話は終わったのか?」


簡単にではあるが、十号室と十一号室の六人には、錬金道具によってアベルとたまに会話することができると話してある。

それを聞いた時には、ニルスが羨ましそうな顔をしたが、常に魔力を消費し続けると聞いた瞬間、うなだれて諦めていた。


ちなみに、団長たるヒュー・マクグラスには伝えていない。

伝えると、色々とこき使われそうな気がしたから……。



「ええ、今、終わりました。それにしても、こんな長距離なのに問題なく繋がるのは本当に凄いです。錬金術の偉大さの証明ですね」

「本当ですよね!」

涼は、錬金術の凄さをアピールし、アモンが同意して頷く。

アモンは素直でいい奴である。


「魔力の消費量、とんでもなさそうだよね。本当に、将来、リョウ以外の人でも使えるようになるのかな」

エトは半信半疑なようだ。

エトは悪い奴ではない。


「そんなことよりも、もうすぐ昼だろ。腹減ったな」

ニルスは食べ物のことしか頭にない。

ニルスは、脳筋&腹ペコさんらしい。


「リョウ、今、ものすごく失礼なこと思っただろ!」

「そ、ソンナコトナイデスヨー」

脳筋なのに鋭いのは、B級冒険者だからであろう……。




王国使節団の昼食は、ゴロゴロお肉の入ったシチューであった。

スフォー王国で、かなり潤沢な補給を受けられたこともあり、使節団の食は非常に充実している。

食べることが生きがいの冒険者は多いが、文官たちも食べることは息抜きになっているのだ。


部下のストレスコントロールは、上司が常に意識しなければならない要素。


美味しそうにシチューを食べる使節団員を見て、団長ヒュー・マクグラスは何度も頷いた。


美味しいものは、人を幸せにする。

人は幸せを感じれば、ストレスが軽減される。


いつの時代、どんな世界においても変わらぬ真実。



人は、どこにいても人なのだ。



「団長、今日到着するんですよね」

食べ終えて、少しゆっくりしていたヒューに、そう声をかけたのは、文官百人を取りまとめる首席交渉官イグニスであった。


「ああ。あと二時間もすればこの丘を越える。そうしたら、街が見えるらしい」

その街が、キューシー公国の国境を管理している。


「楽しみでもあり、不安でもあり……」

イグニスは、苦笑しながら言った。


「西方諸国についたら、文官たちは忙しくなるな」

「そうなんですが……西方諸国と一口に言っても、いろいろありますから。やはり本番は、西方教会の中心たるファンデビー法国での交渉でしょう」



西方諸国全土で信仰されていると言っても過言ではない、『西方教会』の中心となる教皇庁があるのが、ファンデビー法国だ。

国家面積は決して大国と呼ばれる規模の国ではないが、富、軍事力、有形無形の影響力などを勘案した国力は、間違いなく西方諸国一。


教皇自身が治める国であり、西方諸国におけるその影響力は、想像を絶すると言ってもいい。


そもそも今回の使節団は、そのファンデビー法国で執り行われる、第百代教皇就任式を祝うために中央諸国が送り出したものだ……少なくとも表向きはそうなっている。

そうである以上、ファンデビー法国までは、あまり時間をかけずに到着する必要があった。



「まあ、言語体系がほぼ同じというのは、交渉する者としてはありがたいです」

「ああ……。東方諸国とかだと、全く違うよな。それでも、ある程度の教養がある者たちであれば、中央諸国語を話すから、生活する分には、実は支障がないとか」

首席交渉官イグニスは、交渉官らしい意見を述べ、王都のグランドマスターでもあるヒューは、東方諸国の言語事情について思い出して言った。


「行ってみたいのは、西方も東方も変わりませんがね」

イグニスはそう言うと笑った。

根っからの外務省の人間であり、交渉官なのかもしれない。



それを、少しまぶしいものでも見るように、ヒューは見た。

本質的に冒険者であるヒューも、まだ見たことのないものを見たい気持ちは、大いに理解できるものだった。




そして、二時間後。


使節団は、丘を越え、遠くに、キューシー公国の街を望んだ。



その街は……燃えていた。


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