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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0289 森の声

「移動はらくちんになりました」

「ま、まあな……」

「一直線の道ですね」

「あんなのに出会ったのなら、冒険者や騎士たちが戻れなかったのは分かるね……」

涼が感想を言い、ニルスが同意し、アモンが事実を述べ、エトが戻ってこなかった者たちが遭遇したであろう悲劇を思いやった。


キャタピラーが通り過ぎた後は、全ての木がなぎ倒され、一直線の道ができ上がっていたのだ。


狼、蛇、イノシシといった魔物たちは、全て木をよけながらの移動であったが、キャタピラーは木を押し倒して突き進んだ。


そのため、キャタピラーが通過した道を通って、四人は順調に世界樹に近付いていった。



そして、涼の<パッシブソナー>にこれまでとは違う異変が感じられた。

「あの~、ソナー……ああ、魔法の探索によると、八百メートルほど先に、高さ一キロを超える何かが建っています」

「は?」

涼の報告に、ニルスが()頓狂(とんきょう)な声で聞き返す。


そして、涼を含めて四人全員が、八百メートルほど先を見る。

「普通に……」

「森ですね」

「でも一キロを超える高さって……」

「うん、多分、世界樹だと思う……」

ニルスが言い、アモンも肯定し、エトが確認の問いを行い、涼が答える。


何かがあるようには見えない。


「まさか……。<アクティブソナー>」


<パッシブソナー>よりも<アクティブソナー>の方が、たいてい、探査の精度は高い。


「やっぱり! 多分、世界樹の表面に、大量のラフレシアもどきがくっついてます!」

「ラフレシアもどきって……あの、見えない植物型魔物か!」

十号室の三人は、思い出していた。

渡河できるポイントを探しに、探索に出かけた時に、その魔物が放出する麻痺毒によって動けなくなったことを。

しかもその植物型の魔物は、氷漬けされるまで、見えなかったのだ。


「あいつが世界樹の表面に?」

「はい。おそらく、数千体とか数万体といった数……」

「確かに、それなら見えないのも納得だ」

「近づくと、また麻痺しますよね?」

ニルスも、涼も、エトも、アモンも、正直戦いたい相手ではない。


涼の<氷棺>なら、封じ込めることは確かに可能だが……。


「戦ったり、解決するのが目的じゃなくて、探索だから。ある程度確認したら、手を出さずに戻ろう」

エトが、最も現実的な提案をする。

そう、今回四人が来たのは、あくまで『確認』なのだ。

確認して報告すればいい。


世界樹は存在するけど、見えなくなる植物型の魔物がいっぱい張り付いていました、と。



だが、事態は、彼らの予想を超えて進展する。



「空から、何か降ってきます」

涼が言うと同時に、三人は上を向く。

「人?」

「人型の魔物?」

「三体きますね」

ニルスもエトもアモンも見たことがない、人型の魔物。



三体が四人の前に着地した。



人ではない。

全身灰色の、のっぺらぼうで、目も鼻も口も耳も……何もない。

魔物なのは一目でわかる。

だが、体長百八十センチ、二足歩行で、二本の手には、右手に片手剣、左手に小盾を持っている。

そして、着地すると同時に、構えており、しかも殺気も感じる……。



「まさか、噂に聞くシャドーストーカーとかいうやつか? なんにしろ、これは……戦わざるを得んな。俺、アモン、リョウで近接戦。エトは後方支援」


ニルスが指示を出した瞬間、三体は向かってきた。


ガキンッ。

ガキンッ。

シュンッ。


一騎打ちが三か所で発生した。


シャドーストーカーは強かった。

B級剣士、ニルス、アモンと同等に打ち合っているのだ。


もちろん、涼とも……。



((アベル、アベルは生きてますか~?))

剣戟を行いながら、涼は、魂の響を通して、アベルに話しかけていた。


((おう、生きてるが今ちょっと忙し……ん? 珍しい奴と戦っているな。シャドーストーカーか。しかも、武器装備の奴とか初めて見たぞ))

((やはりアベルの知識は便利ですね。国王陛下をクビになったら、冒険者ガイドさんを始めるといいです。きっと食べていけますよ))

((なんだ冒険者ガイドって……。とはいえ、シャドーストーカーは強いぞ。気をつけろよ。そいつらは、森が生み出す幻影と言われているからな……大きな森であればあるほど、強力になるらしい))

((幻影というわりには、普通に実体がありますよ? そもそも剣を握っているし……盾で防ぐし))

((おそらく、森で亡くなった冒険者の武器だろ。『幻影』という意味は、魔石を持っていないから……じゃなかったか? 王国ではめったにお目にかからない魔物だから、俺も詳しくは知らん))


アベルの解説を聞きながら、涼とシャドーストーカーとの剣戟は続いている。


シャドーストーカーの剣筋は、基本に忠実だ。

魔物の剣筋が基本に忠実というのも、変な話ではあるが、アベルやアモンの剣に似ているのだ。

王国で言うヒューム流剣術である。

それだけに、涼的には見慣れたものではあった。


だからこそ……。

「読める」


それまで、村雨で丁寧に受けていた剣を、今回も受ける、と見せてかわす。

シャドーストーカーが袈裟懸けに打ち下ろしてきた剣を、左足を開いてかわし、体勢が崩れたところに、一刀のもとに首を刎ねた。


首が落ちると同時に、シャドーストーカーは消えた。

後には、使っていた片手剣と小盾が地面に落ちる。



それと、ほぼ時を同じくして、アモンとニルスも、シャドーストーカーを倒した。



「ふぅ、だいぶてこずったな」

「この剣や盾って、森で死んだ冒険者や騎士たちのですよね」

ニルスとアモンがそんな会話を交わし、エトと涼がそこに合流しようとしたところで、辺りに声が響いた。



『『人の子らよ、汝らに問う。森を訪れし目的は何か』』

辺り一帯から聞こえてくるような、あるいは地の底から響いてくるような……四人ともが初めての経験だ。

「これは……」

「森そのものの声ですかね」

ニルスとアモンが小声でそんな会話を交わす。


(森そのものの声とか、なんというファンタジー! セーラたちの『西の森』では見られない現象ですよ)

心の中で、そんな風に興奮している涼。


そうなると、当然、交渉役は神官エトとなる。



「私たちが訪れた理由は、世界樹の現状を知るためです。決して争うためでも、森を荒らすためでもありません。先ほどの三体との戦闘は、本意ではありませんでした」

さすが、神にその身を捧げた神官だからであろうか。

相手が漆黒の森そのものであると思われても、堂々としている。


涼は、その姿に素直に感心していた。


「さすがエトです。こういう時、ものすごく頼りになりますね」

「同感だが、リョウ、なぜチラチラと俺の方を見ながら言うんだ?」

「べ、別に深い意味はありませんよ?」

ニルスの問いに、慌てて視線を逸らしながら答える涼。


そんな光景を横に感じながら、エトが先ほど以上に、リラックスして漆黒の森との交渉に臨めたのは……きっと二人は意図していないはずだ……。



『『汝らが十分な力を持ちながらも、森のものを傷つけずに来たことは理解している』』

(シャドーストーカーを倒すほどの力を持ちながらも、ずっとアイスウォールで囲まれたまま移動し、魔物を下手に倒してこなかったことを言っているのかな?)

涼はそんなことを考えていた。


だったら、アイスウォールのまま移動したニルスの判断は、正解だったということになる。



『『弱きものが強きものの糧となる、それは森の掟なれば、人の子らが森に生きるものを狩るのは止めぬ。自由にすればよい。されど、街に住む人の子らは、約定を破った。“樹”に触れてはならぬという約定を破り、枝を切り、持ち帰った。ゆえに、これ以上近づくことは許さぬ』』


「それって……」

「うん。三か月前に、ズラーンスー公の命令で、世界樹から枝を切り出して、アイテケ・ボに持ち帰ったって噂があったね」

アモンとエトが、そんな会話を交わした。



街中で聞いてきた話の中にあったらしい。



「偉大なるお方よ、理解いたしました。そのお返事で十分です。街に持ち帰り、報告いたします」

エトはそう言うと、一礼した。


(相手は多分森だろうけど、どう呼びかければいいかわからないから、「偉大なるお方」という呼びかけを選択……。さすがはエトです。これがニルスだったらいったいどうなっていたか……)

「おい、リョウ。やっぱり、ものすごく失礼なことを考えていただろ」

ニルスの指摘に心の中を見透かされた涼は、大きく目を見開いてニルスを見て言った。

「よくわかりましたね!」

「いや、そこは嘘でも、そんなことないですよ、だろ……」


ニルスはそう言って、大きなため息をついたのであった。


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