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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
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0286 国主

『アイテケ・ボ』は、国名であると同時に、街の名前でもある。

つまり、一つの都市が国の全てともいうべき、都市国家なのだ。


アイテケ・ボは高い城壁に囲まれ、魔物の襲来を受けても、街への侵入を阻止してきたらしい。


外交使節団であるため、特別な検査などされることなく、王国使節団はアイテケ・ボに入った。



アイテケ・ボの街は、中心をそれなりに大きな川が流れ、街が東西に分かれている。

西岸に国主館を中心とした貴族街が広がり、東岸に市街地が広がっている。


宿は、全て東岸地区にある。

とはいえ、帝国で王国使節団が逗留(とうりゅう)した時のような、巨大な宿泊施設などは、もちろん存在しない。


いちおう、帝国外縁などとの交流があるらしい……中央諸国の基準からすれば、かなり小さいようだが。


最も大きな宿ですら、四十人ほどしか宿泊できない。

そのため、王国使節団は合計十三カ所の宿に分かれて逗留することになった。


当初は、一国当たり四軒ずつで、王国、帝国、連合の使節が宿泊し、残り二軒の宿に小国の使節が……ということになっていた。

だが、王国使節団長ヒュー・マクグラスの意向で、王国使節団が全十四軒のうち十三軒を占拠することにしたのだ。


器が小さい?

そんなことはない!

これも王国のため……に違いない……そのはずだ……そうだといいな……。




文官のまとめ役は首席交渉官イグニスだが、護衛冒険者のまとめ役は、B級パーティー『コーヒーメーカー』リーダーのデロングだ。

『十号室』も同じB級パーティーであるが、『コーヒーメーカー』の方がB級としては先任であり、何より王国冒険者の中で、最も多くの護衛依頼をこなしてきたパーティーの一つでもあるため、そうなっていた。


もちろん、ニルスら『十号室』も否やはない。

『十号室』初めての護衛依頼であったウィットナッシュへの護衛で、『コーヒーメーカー』と組んで以来、両パーティーは良い関係を築いてきているからでもあった。



さすがに、この西方諸国への道中は、帝国のギルスバッハに逗留した時のように、街に入ったら護衛のお仕事は終了……というわけにはいかない。

街中でも何が起こるかわからないからだ。

西方諸国に着いた後ならともかく、その道中は、常に護衛依頼中となる。


それは、宿においてもであった。



「ニルス、すまんな。『月夜の誘い館』の護衛は『十号室』に任せる」

「はい、デロングさん。お任せを」

「いや……以前も言ったが、同じB級だし、呼び捨てにしてくれ……」


未だにやんちゃ坊主な雰囲気を持つニルスであるが、先輩はきっちりとたてるタイプだ。


「俺らは、予定通り、『春の太陽』で護衛に入るから、何かあったらそっちに来てくれ」

「わかりました」


『春の太陽』は、アイテケ・ボで最も大きな宿であるため、団長ヒューをはじめ、首席交渉官イグニスもそこに宿泊することになっていた。

いわば、最重要拠点であり、気の抜けない護衛任務の最たる場所。

自ら進んで、最も厄介な場所を引き受けるあたり、デロングのプロ意識の高さがうかがい知れるというものだ。



三年前まで、その背中で、その行動で、ルンの街の冒険者たちを引っ張ってきた『アベル』の薫陶(くんとう)がいまだに生き続けている、その証なのかもしれなかった。




アイテケ・ボ、謁見(えっけん)の間。

そこでは、アイテケ・ボ国主ズラーンスー公による、ナイトレイ王国使節団の謁見が行われていた。



「それで、今回の使節団受け入れによって、王国は、この国に何を差し出してくれるのだ?」

国主ズラーンスー公のあまりと言えばあまりの言葉に、団長ヒュー・マクグラスは言葉を失った。


最初の謁見で、いきなりの要求というのも驚きであるが、そもそも『差し出して』などという表現を使うのも理解しがたい。

彼我(ひが)の国力差を考えろとまで言わないが、もう少し言い方というものがあるのではないか?


ヒューが何かを言おうと顔を上げた時、機先を制してイグニス首席交渉官が口を開いた。

「おそれながら陛下、明日よりの交渉の席で、それを明らかにしていくことができればと考えております。王国が一方的に差し出すものよりも、貴国が望まれるものを手に入れる方が、よりお互いの利益になるのではないかと愚考いたします」

「ふむ。それも一理ある。それでは明日よりの交渉に期待するとしよう」


そう言うと、ズラーンスー公は退出し、謁見は終了した。




「さすがイグニス……言質を取らせず謁見を終わらせたな。俺はブチ切れそうになっていたわ……」

「ははは。団長殿、口を開かなければ、失礼な言葉を浴びせることにはなりませんよ。私は、これでも交渉官の端くれですから。ただ、先ほどの謁見からも、想像以上に唯我独尊……というより傲慢(ごうまん)なお方のようですな。いろいろと、時間がかかりそうです」

「時間は仕方ない。もう諦めた。後は頼んだ」


正直、トラブルが起きる前にさっさと先に進みたいと、ヒューは思いはじめていた。

だが、中央諸国の取り決めで、後発の帝国や連合が追い付くのを、アイテケ・ボで待つと決まっているため、勝手に進むわけにはいかないのだ。




「今、聞いてきたんだけど、二か月くらい前に、世界樹は無くなったらしいよ」

「世界樹はお隠れになった、って言っていましたね」

街中で、世界樹の情報を拾ってきたらしい神官エトと神官ジークは、涼にそう報告した。


「お隠れになった……?」

涼は首を傾げながら問う。

「うん。一夜にして消え去ったって」

エトが頷いて、そう答えた。

「世界樹の幹は、ここから十キロ以上離れた森の中にあるらしいです。で、何が起きたのかを確認するために、冒険者や兵が派遣されたらしいのですが、だれ一人帰ってきていないと」

ジークは顔をしかめながら言った。



「何か恐ろしいことが起きているのかもしれません」

涼は、いかにもな感じで、深刻な事態に陥った可能性を指摘した。

二度目である。


だが、『十一号室』の面々はともかく、付き合いの長い『十号室』の面々は、やっぱりだまされない。


「リョウさん、深刻な感じで言ってますけど……」

「うん、いつものやつだよね……」

「よからぬことを考えている顔だ……」

アモン、エト、ニルスはリョウの顔を見て言った。


「なぜバレた!」

指摘されて驚く涼。

本人は、真面目で深刻な顔をしていたつもりらしい。


涼にシリアスな演技は難しいのかもしれない……。


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