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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 第二章 二人旅
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0030 リザードマン

「さあ、お昼は鳥肉の山賊焼きと、猪ホホ肉の炙り焼きですよ」

どちらも焼肉だ……。


「アベル、ブラックペッパーは疲労回復の効果もありますから、がっつり食べてください」

「お、おう」

久しぶりの鳥肉に舌鼓を打つ涼。

ラビットやボアに比べると、鳥系の魔物は、なかなかに出会う確率が低いのだ。

アベルもいろいろと引っかかるものがあるとはいえ、食べられるときに食べるというのは冒険者として必須の能力。

まずはがっつり食べる。


しばらくは、二人の咀嚼(そしゃく)音だけが広場に響いた。


食べ終える頃になると、『剣技』二つで相当に疲労していたアベルも、疲労が抜けたのを感じた。

涼が準備した水を飲み干し、満足の吐息が口から洩れる二人。

「もし今が夕方前だったら、もう、ここで野営をしてしまいたいくらい、満足している」

アベルの言葉に涼が苦笑する。

「アベルが、早く仲間と合流しないといけないんでしょ」

「そうは言っても、何週間とかかかりそうな道程だろう? 焦っても仕方ないさ」

「まあ確かに、どれくらいかかるのか分かりませんからねえ。とはいえ、まだ半日は歩けますから、行きましょう」

そう言いながら涼が立ち上がる。

「仕方ないか」

そう言ってアベルも立ち上がる。

「いやいや、アベルを仲間の元へ送り届ける旅でしょうに……」



「なあ、リョウ、さっきの戦闘なんだが……」

いつも通り、アベルが前、涼が後ろの隊形。

鬱蒼(うっそう)とした森であり、離れるとはぐれてしまう可能性があるために、涼はアベルのすぐ後ろをついて行っている。

「ええ、どうしました?」

「アサシンホークの攻撃って、どうやって防いだんだ? あれって、不可視の風魔法と突撃があるだろ? しかも突撃は目で見て反応とか絶対不可能な速度だし」

アベルは視線を前に向け、歩きながら涼に話しかける。

「防いだのは、水属性魔法の、アイスウォールという氷の壁を生成する魔法ですよ」

「へぇ、そんな魔法があるのか」


「アベル、後ろを向いてください」

アベルはそう言われると、後ろを振り返った。

特に何もなく、手を伸ばせば届く距離に涼はいる。いるのだが……何か違和感がある。

「ん? これは……」

コンコン。

アベルはアイスウォールに気づき、ノックみたいに叩いてみる。

「もの凄く透明だな」

「ええ、なかなか気づかないでしょ」


(なるほど、アサシンホークは、この透明な壁に突撃して自滅してしまったのか)

「水魔法も凄いもんだな。俺の知り合いには、あいにくと水魔法の使い手は一人もいなかったからよくわからないんだ」

アベルの知っている魔法使いは、火、風、土、光だ。その四属性の魔法使いたちは結構いるのだが、水と闇は誰もいなかった。

闇はかなり特殊なので、中央諸国全体で見ても使い手はほぼいない。水は……。

「水属性の魔法は戦闘には向きませんから、とか言ってたけど、かなり使えるじゃないか。爺め、今度会ったら文句言ってやる」

「ん? アベル、何か言った?」

「あ、いや、独り言だ、気にするな」



涼には気になっていることがあった。

アサシンホークと交戦した広場、その先の森にいた魔物の事だ。

少なくとも、今まで涼が遭遇したことのある魔物ではない。

涼とアサシンホークの戦闘が始まり、結局その魔物は広場に出てくることなく、戻って行った。

『感じ』からすると、それほど大きな魔物ではなかった。

実際に、その魔物がいたと思われる辺りをこうして通っているが、木が折れていたりはしていない。大きい魔物であったならば、バキバキ折れているはずである。それほど鬱蒼とした森なのだから。

(まあ、いろいろ考えても仕方ないか)


考えても無駄なことなら考えない。

涼の得意技の一つである。




「前から、何か音が聞こえる」

アベルが涼に囁いた。涼も頷き返す。


しばらく進むと、森は切れ、奥には湿地帯が広がっているようであった。

そして、デュラハンの湿地帯とは違い……そこにはリザードマンがいた。

「リザードマン……」

顔をしかめながらアベルが言う。


リザードマンは群れで生活する。

ということは、この湿地帯の奥にリザードマンの集落がある可能性が高い、ということだ。

「リザードマン……湿地帯に群れで棲みつく魔物で、成長すると尻尾が脱皮し、それを槍として使う。人間との意思疎通は出来ず、人間を見たら無条件に襲ってくる。なぜなら、人間の内臓が好物の一つだから」

アベルが驚いたように涼を見て言う。

「よく知ってるな。なんだ、リザードマンと戦ったことがあるのか?」

「家にあった『魔物大全 初級編』という本に書いてあっただけです。戦ったことはありませんよ」

涼は首を横に振りながら答えた。


「リザードマンは、魔法は使わないが湿地帯では相当に厄介な相手だ。しかも群れているから、必ず大人数でいやがる。ここは迂回しよう」

もちろん涼にも否やは無かった。

そして二人とも、風下でもある西の方に向かった。



かなりの距離を歩き、湿地帯から離れたところで、再び北に向かって歩き出した。

湿地帯がどれほどの広さだったのか、正直なところわからないが、出来るだけ湿地帯から離れておきたい、というのは二人とも思っていた。


だが……その目論見は脆くも崩れた。


「アベル、どうもリザードマンに気づかれたようです」

「マジか。ここで迎撃するか」

鬱蒼とした森の中だ。少なくとも湿地帯ではないため、リザードマン単体ならそれほど厄介ではないはずだ。

「アベル、僕のことは気にしないで戦って大丈夫ですからね?」

「お、おう。無理するなよ。さっきの壁とか上手く使ってくれ」

アベルは、何となく涼は大丈夫な気がしていた。

(この森で一人で生活してたわけだし。俺が前で出来る限り倒して、引きつけ、後ろに行かせなければいいだけだしな!)


そんなことを言っているうちに、リザードマンの前衛が現れた。

「敵の人数が分からない以上、闘技は節約させてもらうぞ」

自ら踏み込み、そのまま剣を横一線に薙ぐ。その一撃でリザードマンを葬る。

さらにそのまま右の敵に向かって突き、二体目を葬る。

その後も、アベルは決して囲まれることなく、細かく移動しながら危なげなくリザードマンを葬っていった。


闘技を使わずとも、アベルは優秀な剣士なのだ。


(凄いですねアベル。全く危なげない。あれは我流じゃなくて、きちんとした訓練を小さいころから受けてきた、そういう洗練された動き……)

涼は、素直に感心していた。

鍛錬に鍛錬を重ね、努力に努力を積み上げてきた一流の剣士の姿が、そこにはあった。



だがそんなアベルですらも、捌ききれずに二体ほど涼の方に向かってくる。

「大丈夫!」

涼はアベルに叫ぶ。

アベルはチラリと涼を見て、すぐに自分の周りのリザードマンの処理にかかる。

「<アイシクルランス2>」

涼の手元から発射した二本の氷の槍は、狙い違わずリザードマンの額に突き刺さった。

「なんか、久しぶりにアイシクルランスを撃った気がする」



そろそろ終わりが見えてきたか、と思えた頃、今までとは違うものが迫っていた。

「アベル、何か大きいのがリザードマンに交じって来ます」

「なに?」

リザードマンを葬る手を一切休めず、アベルはリザードマンがやってくる方を見た。

やってくる大きいのは……、

「リザードキング! 何でそんなものまで出てくるんだよ。集落の奥で休んどけよ!」


リザードキング……それは集落に一体だけ存在するリザードマンの『上位体』だ。

『上位種』の様に、種の進化ともいうべき変化を成したわけではなく、あくまでまとめ役と言うだけだ。人間界における、『王』や『村長』に近いであろう。

だが、リザードキングになる個体は、身体も大きく何より戦闘力が高い。

そういう個体がキングになる。


「残り四体とキングか。ちょっと厄介だな」

「アベルはキングをやっちゃってください。僕が残りを魔法で倒しますので」

「いや、しかし涼は杖が……」

「<アイシクルランス4>」

涼の手元から発した四本の氷の槍は、先ほどの二本の氷の槍と同じように、キング以外の四体の額に突き刺さった。


「は?」

唖然としたアベル。

「今、四本飛んで行ったけど……リンは連射する魔法なんて無いって以前言ってた気が……いや水属性魔法にはあるのか? 連射じゃないからありなのか? あれ?」

「アベル、リザードキングが来ますよ」


涼の言葉で、アベルは我に返った。

「考えるのは後だ。まずはキングを倒す」


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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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