表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
308/930

0284 ラフレシアもどき

ラフレシアもどきが、他にいないことを確認すると、涼は小さく頷き、ジークの方を見た。

神官ジークは、麻痺(まひ)に抵抗し立っているようだ。

「凄いねジーク……」

思わずそう呟き、涼はいつもの鞄から、自家製毒消しポーションを取り出す。

ジークは無言のまま受け取ると、緩慢(かんまん)な動作ながら、自分でポーションを飲み干した。


そこまで確認して、涼は地面に崩れ落ちている五人にも、一人ずつ毒消しポーションを飲ませていった。

崩れ落ちてはいるが、状況は結構ばらばらだ。

最も症状が軽いのはアモンとハロルド。

アモンは何となく分かる気がする。理由はないのだが、何となく。

ハロルドは、王家直系として、毒への耐性が強くなるように鍛えられてきた気がする……そんな、一見、非人道的な事があるのかどうかは分からないが……。


それでもありそうな気はする。

古来、特権階級の人間が最も恐れるものの一つが、毒なのだから。


次に症状が軽いのはニルス。そして、ゴワンとエト。

この三人は、指一本動かすことができなさそうだ。


恐るべし、麻痺毒!



毒消しポーションを飲ませて、五分もすると、全員いつも通りに回復。

だが、顔色は悪い。



「あれ? 僕の毒消しポーション、不味かった?」

涼は、その顔色の悪さを心配した。

毒を消すためのポーションなので、不味いのは我慢して欲しいのだが……。


「いや、リョウ、助かった」

ニルスが真っ先に口を開いた。


それでも微妙に聞き取りにくい。

麻痺毒からの回復は、喋れるようになるまで時間がかかるようだ。

体は、けっこうすぐに動くのだが、口の周りの筋肉は、微妙な制御がいるのかもしれない。



「しかし……あれは何だったんだ。突然、体全体が麻痺したぜ」

「うん、驚いたね。麻痺にしても、あそこまで瞬時に体全体の麻痺とか……」

「リョウさんが凍らせた、あの植物のせい、ってことですよね」

ニルスが苦い顔をしながら思い出し、エトが苦しい記憶を辿り、アモンが苦しさの欠片もない清々しい表情で、氷漬けになったラフレシアもどきを眺める。


「リョウ……さん、ありがとうございました」

「感謝する」

「来てくださって助かりました」

十一号室のハロルド、ゴワン、ジークも、きちんと涼に感謝した。


この辺りは、けっこうしっかりしてきた印象だ。

ニルス辺りが何か言ったのかもしれない。

憧れている人からの言葉というのは、圧倒的な影響を及ぼすものだから。



ニルスは恐る恐るという感じで、アモンは初めてのものを見るわくわくした感じで、氷漬けラフレシアもどきに近付いた。

「さっきは、こんな奴らいなかったよな……」

「見えていなかっただけ、ということでしょうかね」

ニルスとアモンが意見交換をしている。


「以前、アベルとの旅でこいつに会ったことがあるけど、多分、鏡のように反射して、周りの景色に紛れる能力があるんだと思う」

涼が簡単に説明する。


「見えなくなる植物型の魔物とか、初めて聞いたぜ」

「中央諸国にはいない奴なのかもね」

「あれ? でも、リョウさんとアベルさん、見たことがあるって……」

ニルス、エトが感想を言い、アモンは今、涼が言ったばかりの情報に問い返す。


「ああ……。僕とアベルが会ったのは、魔の山の向こう側だから。中央諸国と呼んでいいか微妙だね」

涼のその言葉は、他の六人から驚愕の視線をもって迎えられた。



「魔の山の向こう……そんな所からよく生きて……」

「てか、アベル陛下、さすがっす」

「魔の山の向こうとか、ものすごい魔物がいそうですね!」

エトが呟き、ニルスが敬愛する人をさらに尊敬し、アモンがバトルジャンキーへの道に足を踏み出しているかのような言葉を吐く。


もちろん、十一号室の三人は、無言であった。

三人とも、少しだけ震えていたのは……これも、いつも通り内緒なのだ。

別に、十一号室の三人が、他より気持ちが弱いとか劣っているとか、そう言う事では決してない。


十号室の三人が、変なだけだ。

涼に関して、特に。

それもこれも、いろいろと仕方ない……。

全ては時間が解決してくれる……はず。



「それにしても、街道から少し外れただけで、こんな恐ろしい魔物がいるなんて……。漆黒の森、恐るべしですね」

涼が頷きながら、したり顔で感想を述べる。


「……この植物型の魔物って、移動はしないんですかね?」

アモンが、氷漬けのラフレシアもどきの足元を見ながら呟く。

「ああ……確かに、こいつ、地面に突き刺さってはいないぞ」

ニルスがラフレシアもどきの足元を見て答える。

「ゆっくりとではあっても、動ける植物型の魔物はけっこういるって聞いたことがあるから、これもそうなのかも?」

エトが何度か小さく頷きながら言った。


「トレントは、見た目からして可愛かったのですけど、この子たちは……」

涼が、氷の棺をぺしぺし叩きながら言う。

「うん、可愛いかどうかを基準に考えるのが変だと思うぞ」

ニルスの呟きは小さすぎて、涼には届かなかった。


「この魔物も、麻痺毒を吐かなければ、見た目は可愛い気がしないでもないですが」

アモンが首を傾げながら言う。


アモンの感性は、少し独特なのかもしれない。



「まあでも、街道にけっこう近い、こんな所まで移動してきたんですよね、この子ら。森の奥で、何か不穏な事が起きているのかもしれませんね」

「リョウ……深刻な内容を言っているのに、顔がにやけているぞ」

「そんな馬鹿な!」


涼が真面目さを装って言い、ニルスがその化けの皮を指摘し、涼が驚く……。


「ぼ、僕は、緊張しているこの場を和ませようと、あえて笑いを提供しているのです」

「……よく、そんな、誰も信じそうにないことを堂々と言えるよな」

涼の抵抗に、一顧だにしないニルス。

「くっ……最近、ニルスがアベルに見えることがあります」

「アベル陛下万歳!」

憧れは、人を成長させる……のかもしれない。



そんな二人の会話は、『十号室』の、昔からよくある光景だ。

エトとアモンは苦笑い。


十一号室の三人は、震えは止まったが、顔色はさらに悪くなっていた……。

全ては涼のせいなのかもしれない。

場を和ませるのではなく、顔色を悪くさせてしまった……。


笑いとは、かくも難しいものなのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ