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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第二章 西方諸国へ
306/930

0282 最初の街道にて

本日より、

「第二部 第二章 西方諸国へ」開始です。


ようやく、中央諸国を出ました。


中央諸国の使節団の先頭は、ヒュー・マクグラス率いる王国使節団。


だが、その王国使節団は、回廊諸国の一つ『アイテケ・ボ』への街道の途中で停止していた。

街道脇に入って休息などではなく、街道の上でそのまま動きを止めていた。




「平和な光景です」

涼は氷の椅子と机を生成し、淹れたてのコーヒーを飲みながらホッと一息ついて、そう呟く。


「お、おう……」

涼に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、『十号室』リーダーのニルスは微妙な顔をしながらも、いちおう同意した。


「まあ、めったにできない経験なのは確かだね」

涼に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、『十号室』神官エトは、微笑みながら同意した。


「壮観ですね!」

涼に淹れてもらったコーヒーを飲みながら、『十号室』剣士アモンは、とても嬉しそうに周りを見回して言った。


ちなみに、『十一号室』の剣士ハロルド、神官ジーク、双剣士ゴワンは、三人とも無言でコーヒーを飲んでいる……。



現在、王国使節団一行の前と後ろを、右から左へ、木の魔物トレントの集団が移動していた。



トレントは木の魔物である。

針葉樹に足が生えた種類のものが多いようだ。

だが、よく見ると、広葉樹と思しきものに足が生えたものもいる。

一口に『トレント』と言っても、いろんな種類がいるらしい。


それは、地球生まれの涼からすれば、とてもとても幻想的な光景。

だって、木に足が生えて、歩いたり走ったりしているんですよ?


チャカチャカ小走りで走るものもいれば、飛び跳ねるように走るものもいる……。

植生の多様さ同様に、トレントにも多様さがあるらしい。



あくまで、涼にとっては、幻想的な光景……。



そんなトレントたちが横切っている街道。


その街道は、決して広くはない。

とはいえ、街道は街道だ。

その街道は、『漆黒の森』を貫いている。

そのため、森の中を移動する魔物たちは、どうしても街道を横切ることになる。

これは、生態上仕方のないこと。


だから、この街道には、中央諸国の街道にあるような退魔柱などは設置されていない……。


基本的に、木の魔物トレントは、穏やかな性格の魔物であり、こちらが攻撃しない限りは襲ってはこないと言われている。

それでも、数千は下らない数の魔物がすぐそばを移動していれば、心穏やかにはいられないという人間もいるだろう。


少なくとも、「平和な光景」などと言える人物は、実は、そう多くはないのかもしれない……。



「おっきぃ奴は、それはそれで威厳がありますけど、小さいのはなかなか可愛いですね」

「あ、リョウさんもそう思います? 魔物も、みんなこんな感じならいいのにな~」

涼の言葉に、アモンも頷きながら答える。


「いや、俺はつい剣に手をかけたくなるぞ……」

「ほらニルス、少しは落ち着いて。トレントの子供とか、襲ってきたりはしないから」

ニルスが正直な感想を述べ、エトが苦笑しながらそれをなだめる。


「でも、今回はトレントですけど、場合によってはウォーウルフの群れが横切ることもあるんですよね?」

誰とはなしに、そんな懸念を口にしたのは神官ジークだ。

「うん、あるみたいだね。そういうのに出くわすと、簡単にパーティーが壊滅するらしいよ」

懸念に答えたのは、同じく神官のエト。


それを聞いて、十一号室の残りの二人が少しだけ震えたのは、仕方のないことであったろう。

先輩であるB級剣士のニルスも、その光景を想像して震えたのだから……。



だが、一人自信満々の態で口を開く水属性の魔法使い。

「大丈夫です!」

何やら自信があるらしい。そのまま言葉を続けた。


「その時は、ニルス一人を残して、全員走って逃げますから!」

「なんで俺なんだよ!」

「そのおっきな体が食べられている間に時間を稼いで……」

「食べられるの前提か……」


もちろん冗談である。

……もちろん、冗談ですよ?

ええ……、冗談ですとも……多分。




王国使節団最後尾で、『十号室』と『十一号室』がそんな会話を繰り広げている間、使節団先頭では団長ヒュー・マクグラスが、難しい顔をしていた。

その手元には、簡易な地図らしきものがある。


「仕方のないこととはいえ……これは相当な時間を食うな。当初予定していた野営地までは行けんか」

「ですね。第二予定地点での野営になるでしょう」

ヒューの言葉に応えたのは、先頭を護衛するB級パーティー『コーヒーメーカー』リーダーの、デロングであった。


『コーヒーメーカー』はB級パーティーであり、かなり経験豊富なパーティーだ。

その中でも、護衛依頼をこなしてきた経験は、王国でもトップクラスの多さと言える。


かつて、涼を含めた『十号室』初めての護衛依頼が、『コーヒーメーカー』と組んでのウィットナッシュ往復護衛依頼であったのも、決して偶然ではないのだ。

そのため、今回の王国使節団は、『コーヒーメーカー』が先頭の護衛につき、リーダーのデロングはヒューの相談役にもなっていた。



「野営第二予定地点は、河原だったか」

「はい。街道沿いです。今のところ増水の心配はなさそうですし、気を付けるのは……」

「ああ……。水飲み場の可能性はあるわな」


動物であろうが魔物であろうが、たいていのものが、生きていくのに水は必要だ。

そのため、河原はそれらの水飲み場となっており、寄ってくる可能性は高かった。


特に、この『漆黒の森』は、中央諸国の森とは違って人通りが多くはない。

ゼロではないが、かなり少ない。

そのため、森の魔物たちは、人間に慣れてはいない……。



魔物と人間。

嫌でも衝突が起きる、その可能性が高いと言えた。

「しっかり柵でも作れればいいのだが……」

ヒューはそこまで呟いて、ふと思いついたことがあった。


「……できるか?」




「ヒューさん、いちおう、アイスウォール……氷の壁で使節団全体を囲ってみました」

ヒューの依頼により、涼は使節団全体を囲むアイスウォールを構築し、魔物が現れても使節が襲われないように整えた。

「お、おう……」

思い付きで涼に問うたヒューであったが、「できますよ」と言われ、そして実際に構築したのを見て、言葉少なくなっていた。



半径100メートル……全周約628メートル……の氷の壁。



およそ、一人の魔法使いが構築できる規模のものではない。


かつての『大戦』を含めて、ヒューは、戦場において、魔法による大規模構築物をいくつか見てきた。

この規模の『土壁』を構築しようとすれば、土属性の魔法使い二十人以上が必要だったということを、思い出してもいた。

(リョウ……やはりとんでもない)

心の中でそう呟くヒュー。



「けっこうでかいな!」

「屋根もついていますし、これで安心して寝られますね」

「もしかして見張りもいらないのかもね」

ニルス、アモン、エトの感想が、こんなとんでもないものを前にしているのに、ごく普通の感想であることにヒューは目を見張った。


思わず呟く。

「あいつらも、すでにリョウに毒されているのか」


そして、思ったのだ。

『十一号室』のお目付け役を、『十号室』の連中にしたのは、間違いだったのではないかと……。


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