0276 <<幕間>>
使節団出発まで数日に迫ったその日、涼が、謁見の終わった一団と出会ったのは偶然だ。
「リョウ!」
聞きなれた声と共に、音速の飛び込みで抱きついてきたのはセーラであった。
以前は、音速の飛び込みで、涼のお腹に拳や肘が意図せずして入ることもあったが、最近は涼の方も慣れたものである。
問題なく受け止め、抱きしめられていた。
「あれ、セーラ? どうして王城に?」
涼は当然の疑問を述べる。
「もちろん、リョウに会いに来たに決まっているじゃないか!」
「それは嘘じゃ」
「おババ様!」
セーラと涼は、異口同音に、オチをつけた人物の名を呼んだ。
セーラは「なぜ言うのか!」という意味で。
涼は「やっぱり……」という意味で。
「リョウも使節団で西方諸国に行くのであろう? 『西の森』からの親書を、使節団に託すために持ってきたのじゃ」
「ああ、なるほど」
おババ様の説明に、涼は頷いた。
中央諸国以外のエルフ事情というのは、涼は全く知らないが、西方諸国にもエルフはいるのではないかとは、なんとなく思える。
「まあ、そんなことはどうでもいい」
「そんなことって……そのために来たと言うたであろうが」
セーラの言い草に、小さく首を振るおババ様。
「リョウ、私は、王都は久しぶりなのだ。美味しいご飯を食べたいから、案内してくれ」
セーラはニコニコと、本当に嬉しそうに、ねだった。
涼は、セーラの笑顔が大好きだ。
もちろん、否やは無い。
「いいよ。最近、いくつもいいお店ができてるんですよ。ハンバーグのレベルは元々高かったし、スパゲッティも美味しいし、カレーのレベルは、ほぼルンに並んだし」
「スパゲッティ? パスタじゃなくて?」
「そう! あれはスパゲッティなのだよ」
セーラと涼はそんなことを言いながら、廊下を歩いていった。
あとには、おババ様と西の森の一団が残されていた。
そして呟く。
「もしや、これを予想して、セーラは親書を届けるこの一団に入ったのでは……」
王都内、エルフ自治庁。
現在、優美さで並ぶもののない建物でありながら、錬金術による様々な仕掛けが施された建物となっている。
かつて王都騒乱の際、最後まで防衛に成功したとはいえ、最後はセーラ一人の活躍に頼ったことから、その防衛力の強化はおババ様によって厳命され……現在も、日々強化されている。
その一環として、自治庁の周りに隣接し、王都騒乱で途絶えた貴族の館などを買い取り、訓練施設の新設なども行われ、以前以上に敷地面積が広がっていた。
「おババ様、お帰りなさいませ。ん? セーラは?」
「うむ。王城でリョウに会ってな……」
「ああ、なるほど」
おババ様のそれだけの説明で、自治庁長官カーソンは理解して苦笑した。
恐らく、王都を巡るデートであろうと。
涼は、ロンドの森から『西の森』に、けっこう定期的に遊びに来ていた。
かなりの距離があるらしいが、どうやって来たのかは誰にも言わなかったが、おババ様は知っている。
経緯は全く分からないが、グリフォンに乗ってやってきていると。
グリフォンの背から飛び降りてきていると。
グリフォンが、その背に誰かを乗せるなど、エルフですら聞いたことがないのであるが、おババ様は遠眼鏡でたまたまその光景を見てしまったので、信じられないが、信じるしかないのだ……。
だが、おババ様は、そのことを誰にも言ってはいない。
セーラにすら言ってはいない。
涼が、広めたがっていないことを理解していたから。
いろいろあって、涼の事は王国にいるエルフはみんな知っている。
そして、セーラとの剣戟を見て、敬意も払うようになっていた。
王国エルフが、おそらく全員で束になってかかっても倒せないであろうセーラと、互角に戦うのである……。
明確に、異常だ。
自治庁長官カーソンにとっては、涼は、王国筆頭公爵という立場でもある。
王城内で会うこともあるし、国王との会談や宰相との会議に出席することもあるのだ。
間違いなく、王国内の重要人物の一人であると認識していた。
そんな人物が、今や王国エルフの中でも最も知られた存在となったセーラと仲がいいのは、立場的にもありがたいことだ。
なんと言ってもカーソンの役割は、エルフと王国の橋渡しなのだから。
「して、カーソン。首尾はどうじゃ」
「はい。訓練施設の拡張工事も、来月には完了いたします。防衛設備に関しても、ケネス・ヘイワード子爵と協力し、王都騒乱のようなことが起こっても、二度と陥落しない自治庁となりそうです」
「うむ。頼んだぞ」
おババ様はその答えに満足したのであろう。
大きく頷くと、建物の方へと歩いて行った。
カーソンは呟く。
「目指すは王都内要塞……」




