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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第一章 序
299/930

0275 使節団メンバー

無言。

誰もしゃべらない……言葉を発さない……。

静寂(せいじゃく)とは違うもの。



たっぷり一分間、誰も口を開かなかった。



仕方がないので、涼が口火を切ることにした。


右手を挙手して発言する。

「ラーシャータさん、質問があります」

「リョウさん? どうぞ」

「魔王の血っていうのは、文字通りの魔王の血ですか? こう、何かの例えとか、あるいはワインの名前とか……」


キリストの血、的な意味合いで涼は問うたのだ。


「ええ、文字通り、まごうかたなき、魔王の血です」

「なんと……」

ラーシャータの答えに、涼は心底驚いた。


まるで何かのロールプレイングゲームのような……ああ、ものすごくファンタジーな感じだ。



ラーシャータは、補足すべきだと思ったのであろう。説明を始めた。


「先ほども言いました通り、この『破裂の霊呪』は、中央諸国では、ほとんど伝承も残っていないほど珍しいものです。おそらく今回は、封じられた『東の魔人』が関係するのでしょう」


涼たちは、以前、『南の魔人』には出会っている。

その時は、魔人虫の騒動だった……。


「ですが、この霊呪は、西方諸国ではよく知られています。それは、けっこうな頻度で、この霊呪にかかる人間が出てくるかららしいです。そのため、西方教会は、魔王の血を保管していると言われています」

「なっ……」

ラーシャータの説明に、そこにいた全員が絶句した。



確かに、魔王は定期的に生まれる。

その魔王を倒すために、勇者も定期的に生まれる。


二、三年前に、勇者ローマンによって魔王が倒されたという発表が、西方教会からなされた。

確かに、倒した時に血を採取すれば、保管しておくことも可能ではあるだろう……。



「これは……ハロルドの意識が戻ってから、全員で話し合った方がよさそうだな」

アベルはそう言い、ラーシャータと涼は頷いた。




それから五日後。

王城、特別会議室。

そこには、各種関係者が集まっていた。


国王アベル一世。

王妃リーヒャ。

宰相アレクシス・ハインライン侯爵。

中央神殿大神官ガブリエル。

中央神殿伝承官ラーシャータ・デブォー子爵。

王都冒険者ギルドグランドマスター、ヒュー・マクグラス。

C級冒険者リョウ。

B級冒険者ニルス、エト、アモン。パーティー名『十号室』

そして、C級冒険者ハロルド、ジーク、ゴワン。パーティー名『十一号室』



後半の冒険者六人は、ガチガチに緊張していた。


「何か、我々、すごく場違いじゃないですかね」

と、そんな言葉を吐けたのは、アモンだけであった。


ニルスは、アベルがいるために硬直し。

エトは、リーヒャがいるために硬直し。

ハロルドらは……、『十号室』がいるために硬直していた。




「では、会議を始めます」

司会は、宰相ハインライン侯爵。


ハロルドの現状が簡単に説明された。

これは、『十号室』の面々も含めて、事前に伝えられているため、確認だ。

ハロルドも、自分の状況に関して初めて聞いた時にはさすがに動揺していたらしいが、それから二日経ち、今では状況を受け入れていた。



「……といった状況です」

ハインライン侯の説明が終了すると、ある人物が静かに右手を上げて発言を求めた。


「ジーク殿、どうぞ」

ハインライン侯が指名する。



「失礼します。国王陛下並びに、マクグラス様にお願いがございます。どうか、私たち『十一号室』を、西方諸国への使節団にお加えください」


これは、当然想定された願いであった。

とはいえ、神官ジークではなく、当の本人であるハロルドが求めてくるだろうと、多くの者が思っていたのであるが……。


「ジーク……俺は、もう……」

「いけません、ハロルド。希望がある以上、それにすがるのは恥ずべきことではありません! あなたは公爵家を興すのでしょう? こんなところで、その大願を打ち捨てていいはずがありません。この霊呪にも全力で挑むべきです」


ハロルドとジークの会話は、抑えた声ではあったが、それでも、その場にいる全員に聞こえた。


『十号室』、伝承官ラーシャータ、大神官ガブリエルの五人は、ハロルドが先の王太子カインの忘れ形見であることは知らないが、特に表情を変えるようなことはなかった。

国王が出席する会議がわざわざ王城内で開かれる……その議題の中心となる人物が、普通の人物なわけがない……それくらいは誰でも推測できるというものだ。



「グラマス、どう思う」

アベルは、ヒュー・マクグラスに問いかけた。

「ああ……まあ、この連中はC級冒険者だから、国外への護衛依頼を受ける権利はある。実力的にも……はっきり言うなら、戦闘力は問題ない」


ヒューは、頭をガシガシ()いてから言葉を続けた。


「戦闘力は問題ないが……俺は、言葉を飾るのは苦手だからはっきり言うぞ? ハロルド、お前は性格に難がありすぎる。暴走した時の事を考えると、正直、今回の使節団の護衛に入れるのは不安が大きい」

ヒューは、ハロルドを正面から見つめ、そう言った。


言われたハロルドは、最初こそヒューを睨み返したが、すぐに視線を逸らした。

自覚はあるらしい……。



「グラマスが代表であるなら、抑えられるのではないか?」

そう言ったのはアベル。


アベルからすれば(おい)だ。

性格などに厄介な部分を抱えているとはいえ、亡き兄の忘れ形見であり、貴重な王家直系の血を引く人物……このままでは、『破裂の霊呪』によって、確実な死が待っている以上……そして本人はともかく、仲間が助けたいと思っているのであれば、挑ませるのに反対する気はなかった。


アベルは、国王である以前に冒険者なのかもしれない。


「確かに俺が代表ですが……いつも側についているわけではありませんからな。やり合う相手がルパート陛下やロベルト・ピルロ陛下となると、そっちを考えることに神経を使いますよ」

ヒューは、そう言いながら首を振った。



「私が! 私が責任を持ちます! ハロルドの行動に責任を持ちます。決して、懸念されるようなことはさせません。ですから、なにとぞ……」

そう言ったのは、やはり神官ジークであった。

そう言って頭を下げる。


一緒に、パーティーメンバーのゴワンも頭を下げた。

ハロルドは……悔しさと申し訳なさのない交ぜになった表情で、頭を下げるジークを見た。

そして、自分も頭を下げた。



ヒューは、そんな三人を黙って見ている。

ヒューも、このままではハロルドの命が、いずれ尽きることは理解している。

そして、でき得ることならそれを避けたいとも思っている。


性格に難あり、というのは確かだが、だからと言って死んでも構わないとは思っていない。

いわば自分の部下であり、冒険者としての仲間でもあるのだ。


誰だって、仲間の死は見たくないであろう?




そんなことを考えながら、視線を動かす。

動かした先にいるのは、『十号室』の三人と、涼であった。


「なあ、ハロルド」

ヒューは、呼びかけた。


「はい」

ハロルドは、ヒューが自分ではなく、別の人物たちを見ながら呼びかけているのを見た。

ヒューが見ているのは、十号室の三人と……自分の肩を砕いたC級冒険者……。



「お前さん、ニルスたちを尊敬しているよな?」

「はい! 尊敬しています」

これまでで、最も力強く言葉を発したハロルド。

それを聞いて、特にニルスは顔を赤くしている。


(ああ、だから彼らのパーティー名は『十一号室』なのか……)

涼は、妙に納得してしまった。

しかも、『十号室』の中でも、ニルスを最も尊敬しているようである……その熱っぽい視線から、涼でも分かるほどに。


「今回の使節団には、ニルスたち『十号室』も加わってもらう。お前たち『十一号室』は、ニルスたちと共に戦うことになるし、お前たちが馬鹿な行動をとれば、王国を代表するパーティーの一つである『十号室』の連中の顔に、泥を塗ることにもなる」

その言葉に、ハロルドは目を見開いた。


もちろん、十号室の顔を潰す気はないのだが、驚いたのはそこではなく、すでに、自分たちが使節団に同行する前提でヒューが話しているかのような点であった。



「いいな。お前たちがとる行動は、十号室の連中の評判を傷つける可能性がある。そこは十分に考えて行動しろ」

「はい。わかりました」

ハロルドは頷いて、答えた。


ジークとゴワンも、ヒューを見た後、ハロルドを見た。

彼らも、同行できるらしいと理解したのだ。



「そういうことですので、陛下、ハロルドたちも使節団の護衛冒険者に加えます」

「わかった。グラマス、頼む」

「はい……というか、俺より……」


ヒューはそう言うと、『十号室』の隣にちょこんとお行儀よく座って、話を聞いている風を装っている水属性の魔法使いを見て言った。


「あとハロルド、今回の使節団には、そこのC級冒険者リョウも加わる」

「!」

おそらくそうだろうと思っていたが、改めて言われて、ハロルドの表情に緊張が走った。

当然であろう、自分にあんなことをした相手なのだから……。



「そうだ。お前さんの肩を砕き、剣を突き立てたリョウだ」



ヒューのその言葉に、『十号室』の三人は驚きを露わにし、涼を見た。

その六本の視線にさらされた涼は、剣は突き立ててない、とか言いながら、あらぬ方に視線をさまよわせ、さらに口笛を吹いてごまかそうとして……もちろん失敗した。


そのため、言い訳をすることにした。


「あ、あれは、そこのモンブラ……いえ、ハロルドが、僕に決闘を挑んだからです。尋常な決闘の結果にすぎません。僕のせいではないですよ? こら、ニルス、そのいかにも信用していませんという視線はなんですか」

「いや、どうせリョウが(あお)ったんだろうと……」



正解である。



「な、ななな、何を言っているのかな?」

動揺を隠し切れない涼。



「まあ、経緯はいいとして。ハロルド、お前はニルスたちを尊敬しているのなら聞いたことあるんじゃないか。『十号室の四人目』の話は」

「はい、もちろん、その噂は聞いたことはあります。十号室には、四人目のメンバーとして魔法使いがいたと。信じていませんが」



「事実だ。そして、その四人目が、リョウだ」



その言葉が与えた影響は強烈であった。

ハロルドは思わず立ち上がり、涼を見た。


めいっぱい開いた目で。


そして、ニルスの方を見る。

見られたニルスも、ハロルドが何を問うているのかはわかる。


「事実だ。リョウは元々、俺ら三人のルームメイトだし、何度も依頼をこなすのを手伝ってもらっていた」

ニルスは、はっきりとそう答えた。


「で、ですが……それならなぜ、この男……リョウ……さんは、十号室のメンバーに入っていないのですか」

「それは、リョウが強すぎたから」

そう答えたのは、同じく十号室の神官エト。


その答えは、ハロルドだけでなく、神官ジークをも驚かせた。


本当に、この『リョウ』という男は、十号室の四人目なのか……ハロルドはその事実を受け入れるのに、かなり苦労しているのが傍目(はため)にも理解できた。



「まあ、そういうわけで、使節団の中では、リョウの言う事も聞けよ。リョウも、『十一号室』の連中の事は気にかけてやってくれ」

ヒューはハロルドと涼を交互に見て、そう言った。


「わかりました。それは、ニルスたちが経験したような訓練を、彼らにも経験させろということですね」

「おい、こら、やめろ」

涼が重々しく頷いて答え、それを慌てて止めるニルス。

エトは何度も首を振り、アモンは苦笑いを浮かべた。


明日4月21日、短い「0276 幕間」を12時に投稿します。


本編「0277」はいつも通り、21時に投稿します。


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