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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第二部 第一章 序
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0263 ルンの危機

ギルド馬車は、各街で馬を交換しつつ、四人は馬車の中で一泊し、次の日の午後、ルンの街に到着した。


「よし、俺らは、またこのまま移動だな。ギルド馬車はここで返却して、あとは……」

「ルンの冒険者ギルドが、ここから先の馬車を準備してくれているよ」

「もう、他の人は現地の村に入ってるんですよね」


ニルスも、エトも、アモンも、一昼夜馬車に揺られていたのに気合十分。

さすがは、B級冒険者……涼は素直に感心していた。



ちなみに、涼はC級冒険者のままだ。

この三年間で、片手の数ほどしか依頼をこなしていないために、当然と言えば当然であるが。



「涼はどうする?」

ニルスは馬車から降りながら聞いた。

「僕は、家で本を取って、『飽食亭』で久しぶりにご飯を食べたら、すぐに王都に戻ります。多分、ギルド馬車は借りられないだろうから、普通の辻馬車とかで」

「まあ、王都と違って、ギルド馬車、三台しかないもんな」


ニルスも小さく頷き、涼の考えに同意した。



「よし、まずはギルドマスターに到着の報告と、馬車を借りる話だな。じゃあ、俺らはこのままギルドに上がるわ。涼も気をつけてな」

「今度は王都で会おうね」

「飽食亭のカレーは美味しいですよね、羨ましいです」

ニルスがリーダーっぽい真面目なことを言い、エトが王都での再会を約束し、辛い物好きのアモンが飽食亭のカレーを褒めて去っていった。



涼は、ルンの冒険者ギルドに顔を出すこともせずに、東門の『飽食亭』に向かうのであった。




翌日午前。

ルンの冒険者ギルドの講義室には、ルン所属のD級冒険者が集められていた。


「……というわけで、ワイバーン討伐に出ているため、現在ルンの街にはC級以上の冒険者はいない。ここにいるお前さんたちが、街を支える最高戦力だ」

前に立って、そう話しているのは、ギルドマスター、ラー。


そう、かつて、このルンの街所属であったパーティー『スイッチバック』のリーダーであった、剣士ラー。


『スイッチバック』は、最後はB級パーティーとなり、解散していた。

サブマスターの職などを歴任して、現在は辺境最大のルン冒険者ギルドマスターである。


B級冒険者だったというのは、やはり多くの現役冒険者からすれば、憧れの人物だ。

講義室で、ラーを見るD級冒険者たちの視線は、熱っぽかった。

ラーの、その堂々たる体躯は、前任のギルドマスターであり、現在は王都のグランドマスターとなっているヒュー・マクグラスに連なる系譜を思わせる。



「ラー、いい演説だったよ」

ギルドマスター執務室に戻ったラーを褒めたのは、サブマスターのスー。

パーティー『スイッチバック』の斥候だったスーだ。


「お、おう……」

ルンの冒険者ギルドがうまく回り、ラーの仕事が破たんしないのは、スーがサポートしてくれているから……多くのギルド職員がそう思っていた。


そして、ラー自身がそう思っていた。


そのため、パーティーであった時以上に、今でもスーには頭が上がらない。

スーがどう思っているのかは、誰にもわからないことであったが。




同日午後三時。

ルン広場の鐘がなり、街中に三時であることを知らせる。


それを聞いて、ラーは呟いた。

「そろそろ、ワイバーン討伐が始まる頃か」

「大丈夫、南部の冒険者はタフだから。それに、『十号室』もわざわざ来てくれたじゃん」

ラーの呟きに、スーは大きく頷きながらそう答えた。


実際、『十号室』には魔法攻撃職はいないが、それ以外に集められたパーティーは、かなり魔法職の多い編成になっているのだ。

ワイバーン討伐の定石として、魔法攻撃職を多めにした方がいいというのがある。

その定石からすれば、いいメンバーが揃っているはずであった。




この日、問題は、ワイバーン討伐組ではなく、ルンの街自体に襲い掛かった。




「ギルドマスター大変です!」

ギルド職員が、執務室に転げるように入って来て告げた。


大海嘯(だいかいしょう)が発生しました!」



大海嘯。

ルンの街中央にあるダンジョンで、数年に一度発生する魔物の大増殖。

もちろん、定期的に発生するものなので、ダンジョン入口周辺は、大海嘯で魔物が出てきても迎撃しやすいように、防壁が構築されている。


前回の大海嘯から三年……絶対にあり得ない間隔ではないのだが……。


「もうかよ」

ラーは思わず呟いた。


数年に一度発生すると言われる大海嘯。

過去の記録の中には、前回の大海嘯から三年以内に再発生したという記録も確かにある。

だが、三年前の大海嘯が、その前から十年経って起きたため、それに比べればあまりに早いと感じてしまうのも、またしかたないであろう。



そんなことを言っていたら、すぐに続報が届いた。


「ダンジョン近くにいた、領軍騎士団長ネヴィル・ブラック殿が指揮を執られ、防壁内での封じ込めに成功。迎撃態勢を取りつつあります」

「よし。俺も行くぞ。残っている冒険者にも声を……」


そこまで言ってラーの声は尻すぼみになった。


そう、C級以上の冒険者は、全員ワイバーン討伐に駆り出されており、D級以下しか街には残っていない。



だが、それでも言うしかない。



「残っている冒険者にも声をかけろ。全員ダンジョン防壁に集合。ありったけの弓矢、武器を防壁に運べ!」

ラーがその指示を出した時には、すでにサブマスターのスーは執務室にはいない。

先にダンジョン防壁へ、冒険者側の防衛体制構築と指揮のために向かったのだ。



そして、そこにさらなる続報が入る。

「今回の発生は、オーガです!」

「な……んだと……」


大海嘯で発生する魔物は、一系統。

前回はゴブリン系統であった……しかし、数が尋常ではなかったため、かなり大変だった。



だが、それでも、ゴブリン……一体一体は強くはない。

だが、今回は、オーガ……一体一体が凶悪。



二メートル半という巨大な体躯(たいく)には、簡単には矢が刺さらない。

振り回す棍棒がかするだけで、人間は戦闘不能になってしまう。


そんなオーガが発生したのに、D級冒険者以下しかいないのだ。

「使える戦力は騎士団だけか……」


執務室を出るラーの顔は、土気色(つちけいろ)になっていた。


いよいよ、次話で……。


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