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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 最終章 ナイトレイ王国解放戦
279/933

番外 <<幕間>> 第一巻発売記念SS 魔石の分割

本日、2021年3月10日、ついに「水属性の魔法使い」第一巻、

『水属性の魔法使い 第一部 中央諸国編Ⅰ』

が発売されます!


パチパチパチパチ(拍手です)


これも、読者の皆様がいつも読んでくださったおかげです。

本当にありがとうございます!

そして、これからもよろしくお願いいたします!

ここは、王城、国王執務室前の廊下。


「陛下はまだいらっしゃらないのでしょう? 本当に中に入ってよろしいのですか?」

「はい。陛下のご指示にございます。ヘイワード男爵がお見えになったら、執務室に通しておくようにと。陛下も、すぐに戻ってまいられます」

天才錬金術師であり、王立錬金工房の責任者でもあるケネス・ヘイワード男爵と、侍従長の会話である。


そんな会話の後、ケネス・ヘイワード男爵は、国王執務室に通された。

だが、執務室は無人ではなく、そこには人がいた。


もちろん、国王アベルではない。


ソファーにぬべ~っと寝転びながら、錬金術の本を読んでいる水属性の魔法使い……。


「あれ? ケネス?」

「ああ、リョウさん。なるほど。だから陛下は、先に部屋に入っておけとおっしゃったのですね」

ケネスは理解した。


もう一人の方も理解したが、何やら文句もあるらしい。

「お客人を迎えるのに、先に入っていないのはどうかと思うんですよね。アベルは、国王になって調子に乗っている可能性がありますね!」

「いや、なんでだよ……」

入ってきた瞬間、水属性の魔法使いの非難を聞いたアベルがぼやく。


「国王陛下」

ケネスは、入ってきたアベルを見て、すぐに片膝をついて臣下の礼をとる。

旧知の仲とはいえ、この辺りはきちんとしている。

「よい、ケネス。他の者がいる前ならともかく、この三人しかおらぬのだから、今まで通りアベルで」

アベルは、そう言った。


もちろん、ぬべ~っと寝転がっている水属性の魔法使いにして王国筆頭公爵は、臣下の礼をとっていない……。

「僕も、人前ならちゃんとアベルを立てますよ?」

「……そうか」

「なんですか、アベル。その、いかにも、本当か? リョウはちゃんとできるのか? みたいな目は!」

「いや、別に何も言っていないぞ」

「嘘ですね! 僕だって、常に片膝ついて礼を取りたいのですよ? でも、筆頭公爵、貴族の代表、ひいては王国民の代表として、国王陛下の専横を防がなければなりません! 国王陛下が調子に乗らないようにするのが役目、みたいな部分もあるのです。国とは難しいものなのです!」

「あ……うん……それは、大変そうだな……」

涼の演説に、反論する気力も失せて、アベルは頷いた。


ケネスは横で、笑顔のまま二人の漫才、もとい、国王と筆頭公爵の丁々発止のやり取りを聞いていた。



「そうだ、ケネス。何やら、長距離の交信について報告があると聞いていたのだが」

「はい、アベルさん。いちおう、書類にもまとめてきましたけど……『魔石分割による共振現象を利用した長距離交信の可能性』という論文になります」


ケネスはそう言うと、けっこうな分厚さの書類を応接セットの机の上に置いた。

それと、二つの魔石を。


アベルは、書類の最初の数ページを読む。

いわゆる、概要が書いてあるページであろう。


涼は、興味のあるテーマであるため、アベルの後ろに回り込んで、書類を覗き込む。



「アベル、ちょっと読むの速すぎませんか?」

「そうか? 普通これくらいの速さじゃないのか?」


アベルは、速読というほどではないにしても、かなりの速さで読み進めていく。


おそらくは、鍛えられたのだ。

毎日の書類仕事によって。


人は、鍛えられて強くなる。

だが、それは、周囲の涙を誘うものでもある。

特に本人が、そんな悲劇的な状況のせいで成長してしまったという事を理解できていない場合には……。



「リョウ、何で、そんな憐れみに満ちた目で俺を見る?」

「い、いえ、何でもないですよ……」

アベルが胡乱げな目を向け、涼は慌てて視線を外してごまかした。


可哀そうな人に、憐憫を多分に含んだ視線を向けるのはあまりいいことではないのだ……。



「なるほど、これは凄いな。一対一ではあるが、かなりの距離での交信が可能になるのか……ただし、双方ともに、魔力をかなり消耗し、双方ともに、魔法使いでなければならないと」

「はい。その点が、一般化するのに難しい点になります。あくまで、技術的に可能、ぐらいの状態である事をご認識ください。王都内などであれば、平均的な魔法使いでも使用可能ではありますが……それでも、二十秒ほどの交信で、保有魔力の半分はなくなります。これから先は、その辺りの省魔力化と、交信距離の延長を図っていくことになるかと思います」

アベルの確認に、ケネスが頷いて、さらに今後の見通しも語った。


「だが、そもそも、『魔石の分割』そのものが、驚くほど難しい事だと以前……爺だったか、イラリオンが言っていたな」

「はい。その点は、今も変わりません。こればかりは、魔石の特性上、誰でもできるわけではありません。ですので、この長距離交信にしても、誰でも彼でも普及させることができる、というものではありません」

「まあ、その点はありがたいな」

ケネスの説明に、アベルは少し安堵した。


長距離での交信が一般化すれば、社会そのものが激変する可能性が高い。

いずれはそうなるのだとしても、為政者としては、急激な変化は困るのだ。



これは別に、アベルが怠惰であるとか、王国政府が努力を怠っているとか、そういうことではない。



いつの時代、どんな政府においても、社会の急激な変化は望ましくない。

なぜなら、『政府』というものは、その国において、たいていの場合、最も巨大な組織だ。

そして、巨大であれば巨大であるほど、動きは遅くなるし、動き出すのも遅くなる。

ただし巨大ゆえに、動き出したらその推進力は非常に強い。


加速は遅いが、馬力は大きい。


それが、政府の本質なのだ。


これを理解しないまま、為政者が、急激な変化を政府にかけようとすると、大きなひずみが生まれる。

ひずみは、必ず破局をもたらす。


『割れる』か、『ゆり戻し』かの違いだ。


それが起きないようにするには、強力な力、それも『暴力』に類する力で抑えつけることになる。

一般的にそれは、歴史において、弾圧や虐殺と呼ばれるものだ……。



それを回避することはできるのか?

もちろん、歴史上、回避した例はある。

どうやって?

それは、例外なく、『特殊な人物』を必要とする。



カリスマ性を持ち、しかも、極めて有能な指導者。



そんな人物がいる場合のみ、成功する。



もちろん、本当にそれによって『ひずみ』が消えてなくなるわけではなく、表には出てこなくなるだけではあるのだが……他に成功する道はない。




「魔石の分割って、そんなに難しいのですか?」

涼は、一番疑問に思ったことを尋ねた。


「ああ、難しい。魔物の体内にある魔石、あれを剣で突いたら、割れて霧散するだろう? それによって魔物も倒せるが、魔石も回収できない。基本的に魔石は、割れたら消える物なんだ」

涼の問いに、ケネスではなくアベルが答えた。


ケネスも、向かいのソファーで頷いている。


「ケネスクラスの錬金術師でなければ無理だろう?」

アベルが言うと、ケネスが照れたように笑った。


「さすがケネスです! どこかの剣士兼王様などと違って、そんなこともできるんですね!」

「どこかの水属性魔法使い兼筆頭公爵も、できないだろうが!」

「当然です! 僕は今から成長していく人間なのでいいのです!」

なぜか威張って言う涼。



未来への希望というものは、誰にとっても大切なものなのである……。



「大きい魔石になればなるほど、分割するのは難しくなりますね。もちろん私でも、常に成功するわけではありませんが、やはり大きいものの方が、成功率は低くなります。でも、大きいものの方が、この共振現象も強くなるらしく、交信可能距離は延びます。もちろん、魔石を持っている人たちの必要魔力も増えるのですが……」

ケネスのその説明を聞いて、涼は少し考えた後、質問した。

「魔石の種類はどれがいい、とかは……?」

「風、土、火で試しましたけど、風がいいですね。消費魔力は同じままで、距離が五割増しでした。あとは、お互いに魔石を持つペアなのですが、同じ属性の魔法使いである方が、消費魔力はかなり少なくてすむみたいです」

「なるほど……」




ケネスが報告を終えて、国王執務室を去った後も、涼はソファーに座って何やら考えている。


アベルは何も問いかけない。

なぜなら、涼の口から、無意識なのだろう、言葉が漏れており、何となく、何を考えているか分かってしまったからだ。


「風の魔石だとやはりワイバーン……ロンドの森に行く山にいっぱいいるし……問題は、片方を誰に持ってもらうか……魔法使いじゃないといけない、しかも保有魔力が多くないと……しかもしかも、一方を僕が持ったら、もう一方も水属性の魔法使い……うん、やはりウィリー殿下に……」


アベルは、実験台になりそうなウィリー殿下の無事を祈った……。


さて、本日第一巻が発売され、2021年6月19日には、第二巻が発売されます!

第二巻からは、以前書いた通り、Web版では見たことのない人たちも出てきます。

どこに繋がるのかわからないエピソードも入っています。

(けっこう加筆したと思うんです。数万字は)


第二巻も二十三万字弱と、第一巻とほぼ同じ大ボリュームです!

文語本にすると、二冊分以上!

お得ですよ!


さらに、第一巻に載っていた外伝「火属性の魔法使い」の続き、

第九話から第十六話(二万四千字)が載ります。

オスカーの復讐物語ですが、ちょっとだけ救われる……かなぁ……?


特にWeb版を読んでいる皆さんには、ぜひ読んで欲しいです!


さて、なろうに掲載するWeb版第二部について。

何度も言っている通り、2021年4月1日21時より投稿いたします。

そこは決定しておりますので、楽しみにお待ちください。


第一部と第二部の間のSSは、今回のSSが最後となります。

つまり、次にお会いするのは、4月1日21時です。

それまでに、書籍版や第一部の読み返しなどを……。

Web版第一部は、最近ちょくちょくと、サブタイトルをつけたりしております。

読み返ししやすいようにです。

今まで、ほとんどが「0028」みたいな数字だけでしたからね……。

どこにどんなエピソードがあったとか、分かりにくかったかと思います、すいません……。



いろいろありますが、4月1日21時に、お会いできることを祈っております。

楽しみにお待ちください!

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『水属性の魔法使い』第三部 第4巻表紙  2025年12月15日(月)発売! html>
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