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水属性の魔法使い  作者: 久宝 忠
第一部 最終章 ナイトレイ王国解放戦
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番外 <<幕間>> なんとなく書いた記念SS リョウ先生

なんとなく、コーンを出すためにSSを書きました。

そこは、ゲッコー商会王都臨時支店。

王国解放戦で取り潰された、何とかいう伯爵の邸宅を改装したらしい。


「ゲッコーさん……さすがやり手……」

涼は、門をくぐって、そう呟きながら進んだ。


だいたい、この手の建物の配置と、中庭の位置は理解している。


中庭の方に回ると、案の定、模擬戦が行われていた。


<アイスウォール>と<アイシクルランス>での模擬戦。

すでに全員が、呼吸するかのように使いこなせるようになっている……。



真面目に、素直に取り組むと、人間は驚くほど簡単に技能を身に付けることができる。



もちろん、若ければ若いほどその効果は顕著に現れるが、年齢を経ても傾向は変わらない。

真面目に、素直に取り組むほど、早く身に付く。

下手にメンタルブロックがかからないからなのか……。

あるいは、もっと脳科学的に、海馬(かいば)偏桃体(へんとうたい)の特性? それともA10神経?


明確な理由は分からないが、事実として、そういう現象が存在している……と、涼は認識している。



そんな、ちょっと難しげに見える事を考えながら、涼は目の前で繰り広げられる水属性の魔法使い同士の模擬戦を、頷きながら見ていた。


「あ、リョウ先生!」

模擬戦をしていた子たちの一人が気付く。


「ホントだ!」

「先生、<アイシクルランス>十六本、飛ばせるようになりました!」

「私、<アイスウォール5層>、生成できるようになりましたよ!」



……真面目に、素直に取り組むと、想像以上に早く身に付くらしい。



「みんな、凄いです!」

涼はそう褒めると、一人ひとり、順番に魔法を見ていくのだった。




「さあ、皆さん、そろそろ休憩はおしまいですよ」

「はい!」

邸宅から出てきた会長ゲッコーの言葉に、いい返事をして、リョウの弟子たちはそれぞれの持ち場に去っていった。


「ゲッコーさん、こんにちは」

「リョウさん、いえ失礼しました、ロンド公爵閣下、よくおいでくださいました」

「いや、今まで通り、リョウとお呼びください」

「そうですか? では、リョウさんと」


昔からの知り合いに『ロンド公爵』と呼ばれるのは、やはりまだ慣れない。

いずれは慣れるのだろうか……はなはだ疑問である。



「実は、これから新作ケーキの試食を行うのですが、リョウさんもご一緒にどうですか?」

「それはぜひ!」


もちろん、今日、涼が伺うことは事前に知らせてある。

だからこそ、中庭まで簡単に入れてもらえたわけで……。

ということは、この新作ケーキを食べさせる事まで、商人ゲッコーの計算の内。



やはり、ゲッコーはやり手なのだ……。



二人が向かったテーブルには、すでに座っている人物がいた。

「あ、コーンさん、お久しぶりです」

「おう、リョウ。いや、失礼しました、ロンド公爵……」

「いえ、今まで通りリョウで……」


同じようなやり取りをさっきもした涼。

毎回訂正するのもめんどくさいと、思いはじめている……。


コーンは、元インベリー公国のC級冒険者。

インベリー公国が滅亡するときに、ゲッコーと一緒に王国に流れてきた。

いちおう、ゲッコー商会に所属しているが……。



「王国北部に行ってみようと思っている」

出てきた、イチズクを入れたフルーツ系のケーキを一口食べて、コーンは言った。

涼も、一口食べる。

生クリームの甘さと、イチズクのほんのり酸味とか素晴らしいバランスで、お互いを引き立てあっている。


「いいですね!」

涼のいいですねは、果たしてコーンの今後の行動についてであったか、それともイチズクのケーキについてであったか……。



涼は、コーンの所作(しょさ)をじっと見て言った。

「コーンさんって、見るからに冒険者って感じなんですけど、そういうテーブルマナーというか所作は、とっても洗練されていますね」

そう、コーンは、無精ひげも生えているし、着ている物もあれなのだが……。


「おう。実は昔、こういうのはきちんと仕込まれてな。貴族の前に出ても恥をかくことは全くないから……マジでありがたいと思っている」

「なるほど」

コーンが、遠い目をしながら語り、涼は大きく頷いて同意した。



こういった教養の有無で判断されてしまうことが多いのは、どんな世界でも変わらないらしい。



実力「のみ」で判断してもらえるのは、非常に(まれ)な事。

その事は知っておいても損はない。


実力は問題ないはずなのにきちんと評価されていないと思ったら、一般常識や一般教養の部分で低く評価されているからなのだ。

自組織の中だけの話なら、不当だ! とも言えるかもしれないが、外部と接する可能性があるのであれば……責任者としては、一般教養を持っていない人間を自組織の代表として出すのに抵抗があるのは仕方がないであろう……。


悲しい話である。



「そうか……リョウはあいつに似ている部分があるのか……」

「え? 何か言いました?」

「いや、なんでもない」


コーンは、ずっと昔の学友を思い出していた。

だが、それを言ったら、なんとなく……すごく、なんとなくなのだが、良くないことが起きる気がして、口をつぐんだ。


直感の鋭さは、優秀な冒険者が持つ特性の一つだ。



コーン、涼、ゲッコーの三人がイチズクのケーキを食べ終えたところで、屋敷の執事らしき人物が入ってきて、ゲッコーに囁いた。

「こちらにお通しして」


入ってきたのは、この国の国王陛下であった。


「すまんなゲッコー、突然訪問して。例のやつが出来上がったと聞いて……」

アベル王が部屋に入りざま声をかける。


それを見て、すぐに立ち上がって礼をとるコーン。

椅子があり、目の前に机がある場合の礼は、片膝をついてではないらしい。


もちろん涼は座ったままである。



「ん? 確か冒険者のコーンだよな。久しぶりだな。それはいいとして……なぜリョウがいる?」

「アベル、イチズクのケーキはもう売り切れましたからね! タダでケーキを食べようなんて、職権乱用ですよ」

「そんなわけないだろうが……。俺は、ワルキューレ騎士団の騎士章が出来上がったと聞いたから寄っただけだ」

涼が国王の職権乱用を指摘し、アベルが誤解を解く。


「ワルキューレ騎士団って、ミューさんたちのパーティー『ワルキューレ』を中心に作る騎士団ですよね。アベルもけっこう仕事してますね」

「お、おう……」

「陛下、あちらの部屋に用意してございます」

ゲッコーはそう言うと、アベルを案内して出て行った。



もちろん、涼はついていかない。

ワルキューレ騎士団の騎士章は、ちょっと気になるが……。


「こちら、試作二品目『焦がしプリン』です」

「なんと!」

そう、二品目が出てきたからついていかなかったのだ。

しかも出てきたのは、ただのプリンではなく焦がしプリン……。


涼は『ファイ』に来てからプリンを食べたことがないことに気付いた。


「まだまだ食べていない物がたくさんあることを、思い知りました……」

涼は悲しげなコメントを述べるが、表情はニコニコ、声の調子もウキウキ。


「リョウも、いろいろ複雑な人間なんだな……」

横で、一緒に焦がしプリンを食べ始めたコーンはそう呟いた。



ちなみに、焦がしプリンが、驚くほど美味しかったのは言うまでもない。


実はこの冒険者コーンは、「水属性の魔法使い」の終わりの方まで、ちょこちょこと出てきます。

いえ、正確に書くと、出てくるように成りあがりました……。

時々あります、書いていると、当初の予定以上に活躍するキャラ……。

もしかすると、その筆頭……いや、筆頭はやはり、ヒュー・マクグラスですかね。


まあ、コーンは、この先も何度も出てきますので、忘れられないようにSSで取り上げました。


それと、言うまでもなく涼の弟子たちも。


え? ウィリー殿下ですか? それは秘密です。

実は担当編集者さんたちも知らない、まだ筆者だけが知っている、秘密です。フフフ……。

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『水属性の魔法使い』第三部 第3巻表紙  2025年7月15日(火)発売! html>
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